海外へお金を送ると、相手に届くまで数日かかることがあります。
インターネットで世界中が瞬時につながる時代なのに、なぜお金を海外へ送るだけでこれほど時間がかかるのでしょうか。
その大きな理由は、現在の国際送金では複数の銀行や決済システムを経由しながら、銀行ごとに確認や処理を進める必要があるからです。
この国際送金の仕組みを大きく変える可能性があるのが、トークン化預金です。
国際銀行間通信協会のSwiftは、三菱UFJ銀行や米シティグループなど世界17行と、トークン化預金を使った国際送金の試験運用を始めています。
実用化されれば、国際送金を24時間365日、ほぼ即時に行える時代が近づく可能性があります。
トークン化預金とは何か
トークン化預金とは、銀行に預けている預金をデジタル上のトークンとして扱えるようにしたものです。
重要なのは、単に暗号資産のような新しいデジタル通貨を発行するわけではないことです。
銀行が保有する顧客の預金口座残高そのものを、ブロックチェーンなどの分散型台帳上で移転できるようにします。
つまり、銀行預金という既存のお金の仕組みを残しながら、お金を動かす部分をデジタル化する考え方です。
各国の制度によりますが、通常の銀行預金と同じように預金保険制度の対象となるケースも多いとされています。
なぜ現在の国際送金には時間がかかるのか
国内の銀行振込と違い、国際送金では送金する銀行から受取銀行へ直接お金を移せるとは限りません。
途中で複数の銀行を経由することがあります。
銀行を経由するたびに送金情報の確認や資金決済などの手続きが必要になるため、着金まで数日かかる場合があります。
さらに、それぞれの国の銀行営業時間や休日も影響します。
土曜日や日曜日、祝日を挟むと送金処理が進まないこともあります。
国際送金では手数料も大きな問題です。
複数の銀行を経由することで費用が積み重なり、送金額に対してかなり高い手数料になるケースもあります。
Swiftがブロックチェーンを導入する理由
Swiftは世界1万1000以上の金融機関が参加する巨大な銀行間通信インフラです。
約50年にわたり国際送金を支えてきました。
そのSwiftが新たに開発したのが、Swift Digital Ledgerというトークン化預金の接続基盤です。
これまで大手銀行の一部では、自行内でトークン化預金を使って送金を即時化する取り組みが始まっていました。
しかし、自分の銀行の中だけで速くお金を動かせても、別の銀行へ送金すると従来の仕組みが必要になります。
Swiftが目指しているのは、この壁を越えることです。
異なる銀行が発行するトークン化預金を共通基盤で接続し、銀行をまたいだ送金まで即時化しようとしています。
世界17行が試験運用に参加
今回の試験運用には、米シティグループ、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン、スイスのUBS、フランスのBNPパリバなど世界の大手金融機関が参加しています。
日本からは三菱UFJ銀行が参加しています。
すでに実際の取引を想定した送金実験も進んでいます。
英国のHSBCとスタンダードチャータードがSwiftの基盤を使った取引を実施したほか、シティもUAEやシンガポールの銀行との送金に成功しています。
単なる構想ではなく、銀行をまたいだ実証段階まで進んできたことが重要です。
24時間365日送金できる意味
トークン化預金のメリットは、単に送金が速くなることだけではありません。
銀行の営業時間に縛られず、夜間や休日でもお金を移動できる可能性があります。
これは企業にとって非常に大きな意味を持ちます。
例えば、海外企業への支払いに数日かかる場合、企業は支払日に間に合うよう早めに資金を準備しなければなりません。
その間、お金は実質的に待機資金になります。
送金が即時化されれば、必要な瞬間に必要な資金を送ることができます。
企業が余分な現金を抱える必要が減れば、資金効率が改善します。
結果として、資金調達コストを抑える効果も期待できます。
ステーブルコインとは何が違うのか
ブロックチェーンを利用してお金を動かす仕組みとして、ステーブルコインも注目されています。
ステーブルコインは、米ドルなどの法定通貨と価値が連動するように設計されたデジタル資産です。
一方、トークン化預金は銀行預金そのものをデジタル化します。
ここが大きな違いです。
利用者から見れば、銀行預金の延長として使えるトークン化預金と、新しいデジタル資産として発行されるステーブルコインという違いがあります。
将来はどちらか一方だけが残るとは限りません。
銀行預金、トークン化預金、ステーブルコインなど、複数のデジタルマネーが用途によって使い分けられる可能性があります。
プロジェクトアゴラとの違い
国際送金のデジタル化では、主要国の中央銀行などが進めるプロジェクトアゴラもあります。
こちらは預金トークンと中央銀行当座預金のトークンを共通プラットフォーム上で連携させ、銀行間の最終的な決済まで新しい仕組みの中で完結させることを目指しています。
これに対してSwiftの仕組みでは、最終決済について既存の銀行システムを利用します。
すべてを一度に新しい仕組みへ置き換えるのではなく、既存の金融インフラを利用しながらトークン化預金を接続するところに特徴があります。
普及にはまだ時間がかかる
トークン化預金がすぐに世界中の国際送金を置き換えるわけではありません。
現在、開発や実証を進めているのは主に大手銀行です。
世界には多数の中小銀行があり、それらすべてがトークン化預金に対応するには時間がかかります。
各国の金融規制や預金保険制度、本人確認、マネーロンダリング対策などとの整合性も必要です。
そのためSwiftは、ブロックチェーンだけに頼るのではなく、既存の銀行手続きを改善して少額国際送金を高速化する取り組みも進めています。
新しい技術と既存の金融インフラを組み合わせながら、段階的に国際送金を変えていくことになりそうです。
結論
トークン化預金とは、銀行預金そのものをデジタル上のトークンとして扱い、ブロックチェーンなどを利用して移転できるようにする仕組みです。
Swiftは世界17行と試験運用を進め、異なる銀行のトークン化預金を接続することで、国際送金を24時間365日即時に実行できる仕組みを目指しています。
この仕組みが普及すれば、国際送金は数日待つものから、必要なときに即座に実行するものへ変わる可能性があります。
企業にとっては送金時間や手数料だけでなく、待機資金を減らして資金効率を高められる点も重要です。
約50年前につくられた国際送金のインフラに、ブロックチェーンという新しい技術が組み込まれようとしています。
トークン化預金は、暗号資産とは別のところから進む銀行預金そのもののデジタル化として考えると、その意味が分かりやすいでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 トークン化預金、国際送金即時に