インデックスファンドは「指数と同じ値動きを目指す投資信託」です。
しかし、実際の運用成績を見ると、ベンチマークとしている指数と全く同じ成績になることはほとんどありません。
「S&P500に連動するファンドなのに、指数より少し成績が悪い」「同じ指数に連動するファンドでも運用成績が異なる」と感じたことがある方もいるでしょう。
その違いを理解するために重要なのが「トラッキングエラー」という考え方です。
今回は、インデックス運用の品質を判断する上で欠かせないトラッキングエラーについて解説します。
トラッキングエラーとは
トラッキングエラーとは、投資信託やETFの運用成績が、目標としている指数(ベンチマーク)からどの程度ずれているかを示す指標です。
単に一時的な値動きの差を見るものではなく、そのずれがどの程度安定しているか、あるいは大きく変動しているかを統計的に測定したものです。
トラッキングエラーが小さいほど、指数に忠実な運用が行われていると考えられます。
逆に大きい場合は、指数との乖離が生じやすい運用になっていることを意味します。
なぜ指数と同じにならないのか
指数と全く同じ運用成績になることは現実には困難です。
その理由の一つが運用コストです。
指数そのものには信託報酬などの費用はありませんが、投資信託には運用会社へ支払う信託報酬や監査費用などがかかります。
また、指数構成銘柄の入れ替えに伴う売買コストや、市場で株式を売買する際の価格差なども運用成績へ影響します。
さらに、配当金の受け取り時期や税金の影響なども、指数とのわずかな差を生み出す要因になります。
発生する原因
トラッキングエラーが生じる主な原因には、いくつかの要素があります。
第一は、信託報酬や売買手数料などの各種コストです。
第二は、指数を構成するすべての銘柄を完全に保有できない場合です。
海外株式では銘柄数が非常に多いため、一部を抽出して運用する「サンプリング方式」が採用されることがあります。
第三は、現金保有です。
投資信託では購入や解約への対応のため、一定の現金を保有することがあります。その間は株式市場が上昇しても、その現金部分は指数と同じ値動きになりません。
このようなさまざまな要因が積み重なり、指数とのずれが生じます。
信託報酬との関係
信託報酬はトラッキングエラーへ影響を与える重要な要素ですが、それだけで決まるわけではありません。
同じ信託報酬でも、運用会社の運用技術や売買手法によって指数への追随精度は異なります。
指数構成銘柄の管理方法や売買タイミング、配当金の再投資方法などによっても結果は変わります。
そのため、運用コストが低いファンドでも、必ずしもトラッキングエラーが最も小さいとは限りません。
小さいほど良い理由
インデックスファンドの目的は、市場平均にできるだけ忠実に連動することです。
そのため、トラッキングエラーは一般的に小さいほど望ましいとされています。
指数とのずれが少なければ、投資家は期待した運用成果を得やすくなります。
逆に、トラッキングエラーが大きいファンドでは、指数が好調でも十分な成果が得られない可能性があります。
ただし、一時的な市場環境によって数値が変化することもあるため、短期間だけを見て判断するのではなく、継続的な運用実績を確認することが重要です。
トラッキングディファレンスとの違い
トラッキングエラーと混同されやすい指標に「トラッキングディファレンス」があります。
トラッキングエラーは「指数とのずれのばらつき」を表す指標です。
一方、トラッキングディファレンスは「指数との収益率の差」を示します。
どちらもインデックスファンドを評価する重要な指標ですが、意味は異なります。
両方を確認することで、より正確にファンドの運用品質を判断できます。
結論
トラッキングエラーとは、投資信託やETFが目標とする指数からどの程度ずれて運用されているかを示す重要な指標です。
運用コストや売買方法、配当金の取り扱いなど、さまざまな要因によって指数との乖離は生じます。
インデックスファンドを選ぶ際は、信託報酬だけを見るのではなく、トラッキングエラーの小ささや運用実績も確認することで、より質の高い商品を選びやすくなります。
長期投資では、このような小さな違いが将来の資産形成に少しずつ影響を与えることを理解しておくことが大切です。
参考
日本経済新聞(2026年8月1日朝刊)「インデックス投信、運用革命 誕生50年、業界塗り替える」
一般社団法人 投資信託協会「投資信託の基礎知識」
ジョン・C・ボーグル『インデックス投資は勝者のゲーム』
バートン・G・マルキール『ウォール街のランダム・ウォーカー』