高齢者や低所得者、子育て世帯などの中には、住宅を借りたいと思っても民間賃貸住宅への入居が難しい人がいます。一方、日本では空き家や空き室が増えています。この二つの問題を結び付け、民間賃貸住宅を活用して住まいを確保しようとするのが住宅セーフティネット制度です。その中心となるのがセーフティネット住宅です。東京都が供給拡大を進めるアフォーダブル住宅とは似ている部分もありますが、制度の目的には重要な違いがあります。
住宅セーフティネット制度とは何か
住宅セーフティネット制度は、住宅を確保することが難しい人が民間賃貸住宅へ入居しやすくするための仕組みです。
住宅市場では、住宅を借りたい人と住宅を貸したい人がいれば契約が成立するように思えます。
しかし実際にはそう単純ではありません。
高齢者の場合、孤独死などを心配されることがあります。
低所得者の場合、家賃の支払いを懸念される場合があります。
外国人の場合、言葉や生活習慣の違いを理由に入居を敬遠されることがあります。
子育て世帯では、子どもの生活音などを心配する貸主もいます。
こうした事情から、住宅を必要としているにもかかわらず入居先を見つけにくい人が存在します。
そこで民間の空き家や空き室を活用しながら、住宅確保を支援する制度が整備されています。
セーフティネット住宅とは何か
セーフティネット住宅とは、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として登録された民間賃貸住宅などです。
重要なのは、必ずしも行政が所有する住宅ではないという点です。
民間の賃貸住宅を制度の中に取り込みます。
賃貸住宅の所有者などが一定の要件を満たした住宅を登録し、住宅を借りにくい人の受け皿として活用します。
行政がすべての住宅を新築して供給するのではなく、すでに存在する民間住宅を利用することが制度の大きな特徴です。
住宅確保要配慮者とは誰なのか
住宅確保要配慮者とは、その名前のとおり住宅を確保する際に特別な配慮を必要とする人です。
代表的なのは、
低所得者
高齢者
障害者
子育て世帯
被災者
などです。
このほか、住宅の確保に配慮が必要な人が対象となる場合があります。
共通しているのは、民間賃貸市場で自力で住宅を確保することが難しくなりやすいという点です。
所得だけが問題とは限りません。
年齢や家族構成など、さまざまな事情が住宅契約の壁になることがあります。
なぜ民間住宅への入居が難しくなるのか
賃貸住宅の貸主にとって、住宅を貸すことは事業です。
家賃が滞納されれば収入が得られません。
入居者とのトラブルが発生すれば対応も必要になります。
高齢の単身者については、室内で亡くなった場合への不安を持つ貸主もいます。
そのため貸主がリスクを避けようとすると、特定の属性の人が住宅を借りにくくなる場合があります。
しかし、住宅を借りられない人が増えれば社会全体の問題になります。
そこで貸主側の不安を軽減しながら、住宅確保要配慮者が入居しやすくする仕組みが必要になります。
登録住宅という仕組み
住宅セーフティネット制度では、住宅確保要配慮者の入居を受け入れる住宅を登録する仕組みがあります。
登録された住宅について情報を公開することで、住宅を探している人が物件を見つけやすくします。
貸主側から見れば、
住宅確保要配慮者を受け入れる住宅である
ということをあらかじめ示すことができます。
借りる側にとっても、問い合わせをした後で属性を理由に断られる可能性を減らすことにつながります。
住宅そのものを増やすだけでなく、借り手と貸し手を結び付けることが制度の重要な役割です。
空き家問題と住宅困窮を結び付ける
住宅セーフティネット制度の背景には、日本特有の住宅問題があります。
一方では住宅を借りられず困っている人がいます。
その一方では空き家や空き室があります。
住宅が不足しているというより、住宅ストックと住宅を必要とする人がうまく結び付いていない場合があるのです。
そこで既存の民間住宅を住宅セーフティネットとして活用します。
必要に応じて住宅を改修し、高齢者や子育て世帯などが暮らしやすい住宅にすることも考えられます。
新築だけに頼らず、既存住宅を社会資源として利用する考え方です。
高齢者にとって重要性が高まる
今後、住宅セーフティネット制度の重要性が特に高まると考えられるのが高齢者の住まいです。
高齢化に伴い、単身高齢者や高齢者のみの世帯が増えていきます。
持ち家で暮らし続ける人もいますが、すべての高齢者が持ち家を所有しているわけではありません。
賃貸住宅で生活する高齢者も増えていきます。
ところが高齢になるほど、新しく民間賃貸住宅を借りることが難しくなる可能性があります。
そのため住宅の紹介だけではなく、
見守り
生活相談
福祉サービスとの連携
などを組み合わせた居住支援が重要になります。
住宅と福祉を別々に考えない政策が必要になります。
子育て世帯も対象になる
住宅確保要配慮者には子育て世帯も含まれます。
子育て世帯の場合、高齢者とは違った住宅問題があります。
子どもがいるため一定の広さが必要になります。
学校や保育施設へのアクセスも重要です。
さらに子どもの足音や声などを理由として、入居を敬遠される場合もあります。
特にひとり親世帯などでは、所得面と住宅確保の両方で課題を抱えることがあります。
住宅セーフティネット制度は、こうした世帯が民間住宅へ入居するための支援策にもなります。
アフォーダブル住宅とは目的が違う
セーフティネット住宅とアフォーダブル住宅は混同しやすい制度です。
どちらも住宅確保を支援するという点では共通しています。
しかし政策の中心となる問題が異なります。
セーフティネット住宅で重視されるのは、
住宅を借りられるか
という問題です。
高齢や所得などを理由として民間住宅への入居が難しい人を支援します。
一方、アフォーダブル住宅で重視されるのは、
家賃を負担できるか
という問題です。
市場家賃が高いため、一定の所得があっても住宅費負担が重い世帯に対し、相場より低い家賃の住宅を供給します。
この違いを理解することが重要です。
家賃が必ず安いとは限らない
セーフティネット住宅という名前から、非常に安い家賃の住宅だと思うかもしれません。
しかし、登録された住宅すべてが自動的に低家賃になるわけではありません。
制度の基本は、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅を増やすことです。
もちろん一定の住宅について、改修や家賃負担の軽減などの支援が行われる場合があります。
それでも、
セーフティネット住宅だから家賃が安い
と単純に考えないことが重要です。
これがアフォーダブル住宅との大きな違いでもあります。
住宅だけでは解決できない問題がある
住宅確保要配慮者の中には、部屋を紹介するだけでは安定した生活につながらない人もいます。
たとえば単身高齢者であれば、緊急時の対応や見守りが必要になる場合があります。
生活に困窮している人であれば、福祉制度への接続が必要かもしれません。
外国人であれば、契約内容や生活ルールを理解するための支援が必要になる場合があります。
そこで重要になるのが居住支援です。
住宅探し、契約手続き、生活相談、見守りなどを組み合わせ、入居後まで支える仕組みが求められます。
居住支援法人との連携
住宅セーフティネット制度を支える存在の一つが居住支援法人です。
居住支援法人は、住宅確保要配慮者が民間賃貸住宅へ円滑に入居できるよう支援する法人です。
住宅情報の提供や相談、入居支援などを行います。
住宅政策と福祉政策の橋渡し役ともいえます。
住宅を貸す側には不安があり、借りる側にはさまざまな事情があります。
その間に支援主体が入ることで、双方の不安を減らし、賃貸契約につなげることが期待されます。
公営住宅を補完する仕組み
住宅確保に困っている人すべてを公営住宅だけで支援することは困難です。
公営住宅には戸数の限界があります。
新しい住宅を建設するには土地や多額の費用も必要です。
そこで既存の民間住宅を活用します。
公営住宅という公的ストックと、セーフティネット住宅という民間ストックを組み合わせることで、より多くの住宅確保要配慮者を支援できます。
公営住宅を置き換える制度ではなく、公営住宅を補完する仕組みとして考えることが重要です。
これからの住宅政策は住宅と支援をセットで考える
人口減少によって住宅が余る時代になっても、住宅問題がなくなるとは限りません。
住宅の数が足りていても、
借りられない
家賃を払えない
保証人を確保できない
高齢を理由に断られる
入居後の生活を維持できない
という問題は残ります。
つまり、住宅の量だけではなく、誰がどの住宅へアクセスできるかが重要になります。
住宅セーフティネット制度は、住宅政策が建物の供給から居住そのものの支援へ広がっていることを象徴する制度といえるでしょう。
結論
セーフティネット住宅とは、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として登録された民間賃貸住宅などです。
低所得者、高齢者、障害者、子育て世帯など、民間賃貸市場で住宅を確保することが難しくなりやすい人の受け皿として重要な役割を担っています。
ポイントは、行政が新しい住宅をすべて建設するのではなく、既存の民間住宅を住宅政策へ取り込むことです。
一方、アフォーダブル住宅とは政策目的が異なります。
セーフティネット住宅は主として住宅を借りにくいという問題に対応し、アフォーダブル住宅は市場家賃を負担しにくいという問題に対応します。
今後、高齢単身世帯の増加や住宅費負担の拡大が進めば、どちらか一つの制度だけでは十分ではありません。
公営住宅、セーフティネット住宅、居住支援、アフォーダブル住宅などを組み合わせ、住宅を必要とする人が実際に住まいへたどり着ける仕組みを整えることが、これからの住宅政策には求められます。
参考
日本経済新聞 2026年8月8日朝刊 アフォーダブル住宅 都、民間呼び込む政策次々 オフィス改修に補助金 都有地活用も検討