銀行から会社がお金を借りるとき、土地や建物を担保に入れることがあります。
会社が返済できなくなった場合に備えて、銀行が不動産から貸したお金を回収できるようにするためです。
これが不動産担保融資です。
銀行にとっては貸し倒れのリスクを抑えられる一方、企業側から見ると、土地や建物を多く持つ会社ほど融資を受けやすくなる面があります。
その結果、優れた技術やブランドを持っていても、不動産をあまり持たない会社は資金調達で不利になることがあります。
2026年5月に始まった企業価値担保権は、こうした従来型の融資とは異なり、会社の事業全体の価値を見る仕組みです。
不動産担保融資とは何か
不動産担保融資とは、土地や建物などの不動産に担保を設定して金融機関からお金を借りる仕組みです。
例えば会社が銀行から5000万円を借りるとします。
会社が所有する土地に十分な担保価値があれば、銀行はその土地に担保権を設定して融資することがあります。
会社が予定通り返済している間は、通常、その土地を会社が利用し続けます。
問題になるのは返済できなくなった場合です。
一定の手続きを経て担保不動産から債権を回収することが可能になります。
銀行にとっては、会社の返済能力だけに頼る場合と比べて貸し倒れによる損失を抑えやすくなります。
銀行が担保を取る理由
銀行は預金者などから集めた資金を企業へ貸し出しています。
そのため、貸したお金をできるだけ確実に回収する必要があります。
もちろん銀行は融資前に企業の決算書を確認します。
売上はいくらあるのか。
利益はいくら出ているのか。
借入金はいくらあるのか。
返済できるだけのキャッシュフローがあるのか。
こうしたことを調べます。
しかし、将来を完全に予測することはできません。
景気が悪化するかもしれません。
主要取引先を失うかもしれません。
原材料価格が急騰するかもしれません。
そこで万一返済できなくなった場合に備え、担保を取ることがあります。
担保は銀行にとって融資回収の安全網になるわけです。
なぜ不動産が担保として使われるのか
担保にできるものは不動産だけではありません。
それでも土地や建物は代表的な担保として長く利用されてきました。
理由の一つは、価値を比較的把握しやすいことです。
土地であれば所在地や面積、周辺の取引事例などから一定の評価ができます。
もう一つは、土地が簡単になくならないことです。
商品在庫は販売すればなくなります。
設備は時間の経過とともに老朽化します。
土地は物理的になくなるものではありません。
さらに登記制度によって、誰が所有し、どのような担保権が設定されているのかを確認できます。
こうした特徴から、不動産は銀行融資と相性のよい担保として利用されてきました。
担保価値は時価と同じではない
例えば1億円で購入した土地を持っているからといって、銀行が必ず1億円の担保価値を認めるわけではありません。
不動産価格は変動します。
実際に売却するときには時間がかかることもあります。
希望する価格で買い手が見つからない可能性もあります。
そのため金融機関は、不動産の市場価値や換金可能性などを踏まえて担保価値を判断します。
会社が考えている不動産の価値と、銀行が融資判断で考える担保価値が一致するとは限りません。
土地を持つ会社が有利になりやすい
不動産担保を重視すると、土地や建物を多く持っている会社が融資を受けやすくなる傾向があります。
例えばA社とB社があります。
A社は土地を2億円分持っています。
一方のB社は賃貸オフィスで事業を行っており、担保にできる不動産をほとんど持っていません。
現在の利益や将来性が同程度でも、銀行から見ればA社には担保による回収手段があります。
そのため融資しやすくなる場合があります。
逆にB社は事業そのものに魅力があっても、担保不足によって融資条件が厳しくなることがあります。
これが不動産担保に依存した融資の問題の一つです。
成長企業ほど不動産を持っていない場合がある
現在の企業では、必ずしも土地や工場を持つことが競争力につながるわけではありません。
例えばIT企業なら、主な経営資源はソフトウエアやエンジニアかもしれません。
コンサルティング会社なら人材やノウハウが重要です。
飲食や小売でも、店舗物件を購入せず賃借して事業を展開する会社があります。
ブランドや技術、顧客基盤に大きな価値があっても、担保にできる不動産をほとんど持っていない会社は珍しくありません。
こうした会社を不動産の有無だけで判断すると、本来成長できる企業に必要な資金が届かない可能性があります。
不動産価格が融資に影響することもある
不動産担保に依存すると、企業の事業とは別に不動産価格の変動が融資へ影響することがあります。
土地価格が上昇すれば担保余力が増え、企業が追加融資を受けやすくなる場合があります。
反対に土地価格が大きく下落すると、担保価値も低下します。
会社の事業そのものが大きく変わっていなくても、金融機関から見た融資リスクが変化する可能性があります。
本来、企業が借入金を返済する原資は事業から生み出されるキャッシュフローです。
不動産担保だけに依存すると、企業の事業価値と融資額との間にずれが生じることがあります。
不動産担保そのものが悪いわけではない
ここで重要なのは、不動産担保融資そのものが問題なのではないということです。
例えば不動産会社やホテル、工場などでは、土地や建物が事業そのものの重要な資産です。
こうした企業が不動産を担保として資金調達することには合理性があります。
担保があることで銀行のリスクが低下し、企業が有利な条件で融資を受けられる場合もあります。
問題になるのは、不動産担保だけを過度に重視すると、会社が将来稼ぐ力を十分に評価できなくなることです。
不動産を見ることと事業を見ることは、どちらか一方を選ぶものではありません。
企業価値担保権との違い
2026年5月に始まった企業価値担保権では、個別の不動産だけではなく、会社の事業全体の価値を踏まえて融資を行います。
例えば、
将来キャッシュフロー
技術
ノウハウ
ブランド
顧客基盤
事業計画
などが重要になります。
会社が現在持っている土地の価値だけではなく、これから事業によってどれだけお金を生み出せるのかを見るわけです。
参考記事で紹介された運送業のシードも、担保となる不動産が少ない会社でした。
それでも企業価値担保権を活用することで、りそな銀行から2億円を借り入れています。
従来型の不動産担保だけでは評価しにくかった企業にも、資金調達の選択肢が広がる可能性があります。
銀行には別の能力が必要になる
不動産担保融資では、不動産を適切に評価する能力が重要です。
一方、企業価値を見て融資する場合には別の能力も必要になります。
会社の商品に競争力があるのか。
技術は他社より優れているのか。
顧客基盤は安定しているのか。
市場は今後成長するのか。
経営者の事業計画は実現可能なのか。
こうしたことを判断する必要があります。
不動産という目に見える担保から、企業が将来生み出す価値を見る方向へ融資を広げるほど、銀行の目利き力が重要になります。
結論
不動産担保融資とは、会社が所有する土地や建物などに担保を設定して金融機関からお金を借りる仕組みです。
金融機関にとっては、企業が返済できなくなった場合の回収手段を確保できるため、貸し倒れリスクを抑える役割があります。
一方、不動産担保を重視しすぎると、土地や建物を多く持つ会社が資金調達で有利になり、優れた技術やブランドを持っていても不動産を持たない会社が十分な融資を受けにくくなる場合があります。
2026年5月に始まった企業価値担保権では、将来キャッシュフロー、技術、ブランド、顧客基盤などを含めた事業全体の価値を見ることが重要になります。
これは不動産担保を不要なものにするという意味ではありません。
不動産という現在の資産だけを見る融資に加えて、会社がこれから生み出す価値を見る融資の選択肢を増やすことに意味があります。
土地をどれだけ持っているかだけではなく、会社が将来どれだけ稼げるのか。
銀行融資の物差しが、資産から事業そのものへ広がり始めているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 小さくても勝てる 企業価値担保に借り入れ 資産に頼らずブランド評価