オンライン診療というと、自宅からスマートフォンやパソコンを使って医師の診察を受ける方法が一般的です。
しかし、オンライン診療を受ける場所は自宅だけではありません。
2026年4月から、駅や公民館などにオンライン診療を受けるための施設を設ける新しい仕組みが始まりました。
オンライン診療受診施設です。
これまで医療は、基本的に患者が病院や診療所まで移動して受けるものでした。
オンライン診療受診施設が広がれば、駅や地域の公共施設など、普段の生活圏に近い場所から医師の診察を受けられるようになります。
人口減少や医師不足が進む日本では、病院を増やすだけではなく、医療につながる場所を増やすという考え方が重要になってきています。
オンライン診療受診施設とは何か
オンライン診療受診施設とは、患者がオンライン診療を受けるために利用する場所です。
患者はその施設を訪れ、通信機器を通じて別の場所にいる医師の診察を受けます。
最大の特徴は、診察する医師がその場所に常駐している必要がないことです。
従来の診療所であれば、基本的には医師がその場所で患者を診察します。
オンライン診療受診施設では、
患者がいる場所
医師がいる場所
を分離できます。
例えば患者は駅に設置された個室に入り、離れた医療機関にいる医師からオンラインで診察を受けることができます。
医療を受けるために患者が医師のところまで移動するのではなく、通信回線を通じて医師の診療を患者の生活圏へ届ける発想です。
なぜ新しい制度が必要になったのか
オンライン診療自体は以前から行われていました。
それなら、なぜオンライン診療受診施設という新しい仕組みが必要になったのでしょうか。
理由の一つが、医療を提供する場所に関する規制です。
従来は、オンライン診療を受けるための施設であっても、一定の場合には診療所として開設する必要がありました。
診療所は誰でも自由に開設できる施設ではありません。
医師や医療法人など、法律上認められた主体を中心に開設する仕組みになっています。
そのため、駅、公民館、商業施設などにオンライン診療専用の場所を設けようとしても、制度上のハードルがありました。
オンライン診療の技術があっても、患者が利用する場所を柔軟に増やしにくかったのです。
2026年4月に何が変わったのか
2026年4月から、オンライン診療を受けるための施設について新しい制度が始まりました。
一定の要件を満たすオンライン診療受診施設であれば、従来のように通常の診療所として開設することなく、オンライン診療を受ける場所として設置できるようになりました。
これによって、オンライン診療の受診場所を地域のさまざまな場所へ広げやすくなります。
例えば、
駅
公民館
地域の公共施設
商業施設
などです。
オンライン診療を提供する医療機関と、患者がオンライン診療を受ける施設を分けて考えられるようになったことが重要です。
医師や医療機関そのものを増やさなくても、患者が医療につながる入口を増やせる可能性があります。
診療所とは何が違うのか
診療所とオンライン診療受診施設は似ているように見えますが、役割が異なります。
一般的な診療所では、医師がその場所で患者を診察します。
診察だけでなく、必要に応じて検査や処置なども行います。
オンライン診療受診施設の中心的な役割は、患者が離れた場所にいる医師のオンライン診療を受けるための環境を提供することです。
つまり、オンライン診療受診施設そのものが独立して診断や治療を行うというより、患者と医療機関をつなぐ場所になります。
ここを混同しないことが重要です。
駅にオンライン診療受診施設が設置されたからといって、その駅に通常の診療所が開設されたことと同じではありません。
医療サービスを提供する主体と、患者が診療を受ける場所を分離する仕組みなのです。
なぜ駅にオンライン診療施設をつくるのか
駅はオンライン診療受診施設と相性のよい場所です。
多くの人が日常的に利用するからです。
従来であれば、仕事中に体調が悪くなった場合、勤務先から病院へ移動し、受付をして診察を待つ必要がありました。
オンライン診療受診施設が通勤経路の駅にあれば、帰宅途中などに診察を受けられる可能性があります。
JR東日本は2026年5月、駅構内などに設置された個室ブースからオンライン診療を受けられるサービスを首都圏19駅で始めました。
医師の予約は不要で、土日や祝日にも利用できます。
今後は仙台エリアへの展開も予定されており、駅ビルやショッピングセンターなどにも広げ、2031年までに全国500カ所以上への設置を目指しています。
駅が単なる交通拠点ではなく、医療につながる場所にもなるわけです。
公民館が医療の入口になる意味
オンライン診療受診施設は都市部だけに意味がある制度ではありません。
むしろ大きな効果が期待されるのが地方です。
人口減少地域では、病院や診療所が近くにないことがあります。
医療機関まで自動車で数十分かかる地域も珍しくありません。
特に高齢者にとって長距離の移動は大きな負担になります。
一方、地域には公民館など住民が利用しやすい公共施設が存在する場合があります。
こうした場所にオンライン診療を受けられる環境を整えれば、新しい病院を建設しなくても医療へのアクセスを改善できる可能性があります。
病院を患者の近くにつくるのではなく、病院につながる通信拠点を患者の近くにつくるわけです。
自宅で受診すればよいとは限らない
オンライン診療なら自宅で受ければよいのではないかと思うかもしれません。
しかし、すべての人が自宅で問題なくオンライン診療を利用できるわけではありません。
スマートフォンやパソコンの操作が苦手な人もいます。
自宅の通信環境が十分でない場合もあります。
家族と同居していて、病気について話すためのプライバシーを確保しにくいケースも考えられます。
オンライン診療受診施設なら、診療に適した通信環境やプライバシーを確保した空間を用意できます。
オンライン診療を利用するためのデジタル環境を社会側で用意するという意味もあるのです。
医療アクセスという考え方が変わる
これまで医療へのアクセスを改善するというと、
病院をつくる
診療所をつくる
医師を配置する
という方法が中心でした。
しかし、人口が減少する地域で同じ方法を続けることには限界があります。
患者数が少ない地域に病院や診療所を新設しても、医師や看護師を確保できるとは限りません。
経営を維持できない可能性もあります。
オンライン診療受診施設では発想が異なります。
医療機関そのものを増やすのではなく、医療機関につながる場所を増やします。
一人の医師がオンラインを通じて複数地域の患者を診察できれば、限られた医療資源を広い地域で共有できます。
人口減少時代に適した医療インフラの考え方といえるでしょう。
D to P with Nとの組み合わせも考えられる
オンライン診療受診施設には、患者だけが利用する形だけでなく、医療従事者が患者を支援する形もあります。
そこで重要になるのが、D to P with Nです。
Dは医師、Pは患者、Nは看護師を意味します。
患者のそばに看護師がいれば、医師はオンラインで診察しながら、看護師に必要な診療補助を指示できます。
単なるオンライン診療用の個室よりも、提供できる医療の範囲が広がる可能性があります。
将来的には、
無人に近いオンライン診療ブース
看護師などが支援するオンライン診療拠点
通常の診療所
病院
といった形で、患者の状態に応じて複数の医療拠点を使い分ける仕組みが広がる可能性があります。
どこでも診療できるわけではない
制度が変わったからといって、好きな場所にパソコンを置けばオンライン診療受診施設になるわけではありません。
医療では患者の生命や身体に関する重要な情報を扱います。
診療中の会話を他人に聞かれない環境や、患者の個人情報を適切に管理する仕組みが必要です。
通信環境の安定性も重要です。
また、オンライン診療では対応できない症状が見つかった場合に、どのように対面診療へつなげるのかも重要になります。
オンライン診療受診施設は、医療機関から完全に独立した場所ではありません。
安全に診療を受けられる環境と、必要になった場合に対面医療へつなぐ仕組みを含めて考える必要があります。
結論
オンライン診療受診施設とは、患者が離れた場所にいる医師からオンライン診療を受けるための施設です。
2026年4月から制度が変わり、駅や公民館などにもオンライン診療を受けるための場所を設けやすくなりました。
従来の診療所との大きな違いは、診察する医師がその場所にいる必要がないことです。
患者のいる場所と医師のいる場所を切り離せます。
この仕組みが広がれば、医療機関そのものを新設しなくても、地域住民が医療につながる入口を増やすことができます。
都市部では駅や商業施設などで仕事や買い物の途中に受診できる可能性があります。
地方では公民館などを活用することで、医療機関まで長距離を移動しなければならない住民の負担を減らせる可能性があります。
これまでの地域医療では、患者のいる場所に医師や病院を配置することが基本でした。
オンライン診療受診施設では、医師を移動させるのではなく、医師の診療能力を通信回線によって地域へ届けます。
駅や公民館が医療への入口になるという変化は、オンライン診療の利便性を高めるだけではありません。
人口減少と医師不足が進む日本で、医療へのアクセスそのものをつくり直す取り組みといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 進化するオンライン診療 看護師立ち会い、検査や処置
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 駅で受診可能に