オンライン診療というと、患者が自宅にいながらスマートフォンやパソコンを使って医師の診察を受ける方法が一般的です。
ところが、患者は病院へ行くのに、診察する医師はその病院にいないという新しい形のオンライン診療が広がり始めています。
来院型オンライン診療です。
患者は病院や診療所を訪れます。そこには看護師や医療機器があります。一方、医師は自宅や別の医療機関など離れた場所からオンラインで患者を診察します。
自宅型オンライン診療の利便性と、医療機関にある人的、設備的な支援を組み合わせた診療方法です。
地方の医師不足や夜間救急の負担が深刻になるなかで、医師が病院に常駐していなくても一定の医療を提供できる仕組みとして注目されています。
来院型オンライン診療とは何か
来院型オンライン診療とは、患者が医療機関などを訪れ、その場所から離れた場所にいる医師の診察をオンラインで受ける方法です。
通常の対面診療では、
患者が病院へ行く
医師も病院にいる
医師と患者が同じ場所で診察する
という形になります。
来院型オンライン診療では違います。
患者は病院へ行きますが、診察を担当する医師は別の場所にいます。
患者と医師を通信回線で結び、画面越しに問診などを行います。
そして患者のそばにいる看護師が必要に応じて診療を補助します。
つまり、患者と医師が同じ場所にいる必要がないことが最大の特徴です。
自宅型オンライン診療とは何が違うのか
一般的なオンライン診療では、患者が自宅から受診します。
スマートフォンやパソコンのカメラを使って医師と会話し、症状を説明します。
患者にとっては医療機関まで移動しなくてよいことが大きなメリットです。
しかし、自宅には通常、看護師はいません。
医療機器も限られています。
そのため医師が得られる情報は、画面から確認できる患者の様子や患者自身から聞き取った情報などが中心になります。
来院型オンライン診療では、患者が医療機関を訪れるため、この弱点をある程度補うことができます。
患者のそばに看護師がいれば、専門的な視点から患者の状態を確認できます。
さらに血圧計、パルスオキシメーター、電子聴診器などの医療機器を利用することもできます。
自宅型オンライン診療と対面診療の中間に位置するような診療形態と考えると分かりやすいでしょう。
病院へ行くのにオンラインにする意味
患者が病院まで行くのであれば、最初から病院にいる医師に診てもらえばよいと思うかもしれません。
しかし、地方や夜間の医療現場では、そもそも診察できる医師がその場所にいないことがあります。
病院という建物があっても、24時間すべての診療科の医師を配置できるとは限りません。
特に小児科などでは、夜間や休日の医師確保が難しい地域があります。
そこで、患者がいる病院と医師がいる場所を切り離します。
医師は自宅や別の医療機関などからオンラインで診察します。
患者のそばには看護師がいます。
これなら、診察する医師が病院へ移動しなくても診療体制をつくることができます。
病院という場所はあるが医師を常駐させることが難しいという地域にとって、来院型オンライン診療には大きな意味があります。
看護師が患者の状態を確認する
来院型オンライン診療で重要な役割を担うのが看護師です。
患者が医療機関を訪れると、看護師が症状や受診歴などを聞き取ります。
体温や血圧、脈拍、血中酸素飽和度などを測定することもできます。
こうした情報を離れた場所にいる医師へ伝えます。
医師は患者本人への問診に加えて、看護師から得た情報を使って診察します。
オンライン診療では医師が患者のそばにいないことが弱点になります。
来院型オンライン診療では、その距離を看護師が埋めるのです。
看護師が医師の代わりに診断するわけではありません。
診断や治療方針の決定は医師が行い、看護師は医師の指示などに基づいて診療を補助します。
電子聴診器で呼吸音まで医師へ届ける
来院型オンライン診療では医療機器も重要になります。
代表的なものが電子聴診器です。
通常の聴診器では、医師が患者の胸や背中に聴診器を当てて心音や呼吸音を聞きます。
オンラインでは医師が患者の体に聴診器を当てることはできません。
そこで患者のそばにいる看護師が電子聴診器を使用します。
電子聴診器で取得した音をデジタル情報として離れた場所にいる医師へ伝えれば、医師は遠隔地から患者の呼吸音などを確認できます。
血中酸素飽和度などの測定結果も組み合わせれば、画面越しの問診だけより多くの情報を得ることができます。
医師の目や耳を医療機器によって患者のいる場所まで延ばしているともいえます。
必要な処置をその場で受けられる
来院型オンライン診療には、自宅型にはないもう一つの利点があります。
診察後に必要な処置を受けられる場合があることです。
今回参考にした岩国市医療センター医師会病院では、せきや呼吸苦のある子どもについて、離れた場所にいる医師がオンラインで診察しました。
看護師が取得した電子聴診器の呼吸音や血中酸素飽和度などの情報も使われました。
医師はぜんそくの可能性があると説明し、病院で気管支を広げる薬を吸入したうえで、翌日にかかりつけの小児科を受診するよう指示しました。
自宅からのオンライン診療であれば、診察後に必要な処置を受けるため、改めて医療機関へ行かなければならないことがあります。
来院型なら、患者はすでに医療機関にいます。
オンラインで診察した後、その場で必要な医療につなげやすいことが強みになります。
夜間救急と相性がよい理由
来院型オンライン診療が特に力を発揮しやすいのが夜間です。
夜間の救急外来では、限られた医師が多くの患者に対応しなければならないことがあります。
しかも患者の重症度はさまざまです。
一刻を争う重症患者がいる一方、翌日の通常診療まで待てる可能性のある軽症患者も訪れます。
すべての患者が大規模な救急病院へ集中すると、重症患者への対応に影響する可能性があります。
来院型オンライン診療を使って比較的軽症の患者を地域の医療機関で診察できれば、高度な救急医療を担う病院への集中を和らげることができます。
地域の医療機関が役割分担しやすくなるのです。
岩国では夜間診療の日数を増やした
岩国市医療センター医師会病院は2025年4月、来院型オンライン診療を始めました。
木曜日と日曜日の午後7時から午後9時半まで、来院した患者を看護師の立ち会いのもとで離れた場所にいる医師が診察します。
当初は4歳から15歳までの小児を対象としていましたが、2026年4月から成人にも対象を広げました。
重要なのは、オンライン診療によって診療可能な日を増やせたことです。
対面診療を行う2日にオンライン診療の2日を加え、週4日の夜間救急診療が可能になりました。
医師を毎回病院へ配置しなくても、地域住民が診療を受けられる日を増やせることになります。
オンライン診療が単なる便利なサービスではなく、医療提供体制そのものを補う手段になっている例です。
地域外の医師の力も借りられる
来院型オンライン診療には、医師の所在地に縛られにくいという特徴があります。
岩国市医療センター医師会病院のオンライン診療では、県外を含む離れた場所にいる医師も診療を担っています。
従来であれば、地域の病院で診察するためには医師自身がその病院へ行く必要がありました。
オンラインなら物理的な移動を減らせます。
地域内だけで医師を確保するのではなく、地域外にいる医師の力を借りることができます。
医師不足を人数だけで解決するのではなく、現在いる医師の診療能力を地域を越えて共有する発想です。
自宅型と来院型を使い分ける
オンライン診療は、一つの形に統一する必要はありません。
患者の状態や地域の事情によって使い分けることができます。
比較的安定した症状で、問診を中心に診察できる場合には自宅型オンライン診療が便利です。
医療機器による測定や看護師の補助があった方がよい場合には、来院型オンライン診療が選択肢になります。
さらに詳しい検査や医師自身による診察が必要なら、対面診療へ切り替えます。
自宅型オンライン診療
来院型オンライン診療
対面診療
を患者の状態に応じて組み合わせることが重要になります。
結論
来院型オンライン診療とは、患者は病院や診療所を訪れる一方、医師は離れた場所からオンラインで診察する仕組みです。
自宅型オンライン診療との大きな違いは、患者のそばに看護師や医療機器があることです。
看護師が患者の状態を確認し、血圧や血中酸素飽和度などを測定したり、電子聴診器を使ったりすることで、遠隔地にいる医師へより多くの情報を届けることができます。
医師の指示などに基づいて必要な診療補助を行えることも、自宅型にはない強みです。
特に夜間救急では、医師を毎日病院へ配置することが難しい地域があります。
来院型オンライン診療を組み合わせれば、医師が現地へ移動しなくても診療日を増やせる可能性があります。
軽症患者を地域の医療機関で診察できれば、高度な救急病院が重症患者に集中しやすくなる効果も期待できます。
患者が病院へ行くのに医師は病院にいないという診療方法は、一見すると不思議に感じるかもしれません。
しかし、人口減少と医師不足が進む地域では、医師と患者が必ず同じ場所にいなければならないという従来の前提を変えることに大きな意味があります。
来院型オンライン診療は、病院という既存の医療拠点と、看護師、医療機器、オンライン技術を組み合わせることで、限られた医師の診療能力を地域全体で活用する仕組みといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 進化するオンライン診療 看護師立ち会い、検査や処置
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 駅で受診可能に