日本では金利のある世界が戻り、不動産投資を取り巻く環境も変わり始めています。
一般的には、金利が上昇すると不動産投資には逆風になります。借入金利が上昇するだけでなく、国債などの金融商品から得られる利回りも高くなるためです。
それでも海外の大手投資ファンドによる日本の不動産投資は続いています。
なぜ金利が上昇しているにもかかわらず、海外投資家は日本のマンションを買うのでしょうか。
その理由を理解する重要な考え方が「イールドギャップ」です。
イールドギャップとは何か
イールドギャップとは、投資対象から得られる利回りと、比較対象となる金利との差をいいます。
不動産投資では一般に、
不動産の期待利回り
と
国債利回りなどの金利
との差を見る考え方として使われます。
例えば不動産から4%の利回りが期待でき、国債利回りが1%だったとします。
単純化すると、
4%から1%を差し引いた3%
がイールドギャップです。
不動産には空室や価格下落などのリスクがあります。
したがって安全性の高い国債よりも高い収益が期待できなければ、わざわざ不動産へ投資する魅力は小さくなります。
その追加的な収益余地を見る一つの尺度がイールドギャップなのです。
国債金利との比較が重要になる理由
例えば100億円を運用する投資家がいるとします。
国債へ投資すれば比較的安定した利息を得られます。
一方、不動産を購入すると、
空室
修繕
災害
賃料下落
不動産価格下落
売却できないリスク
などを負うことになります。
それにもかかわらず国債と同じ程度の利回りしか得られないのであれば、不動産へ投資する意味は小さくなります。
そのため投資家は、不動産から得られる収益が安全資産の利回りをどの程度上回っているかを確認します。
この差が十分に大きければ、不動産投資のリスクを取る意味があると判断しやすくなります。
金利が上がるとイールドギャップは縮小する
不動産利回りが4%で国債利回りが1%なら、イールドギャップは3%です。
ところが国債利回りが2%へ上昇したとします。
不動産利回りが4%のままであれば、イールドギャップは2%まで縮小します。
さらに国債利回りが3%になれば、差は1%しかありません。
投資家から見ると、
リスクを取らず国債で3%
リスクを取って不動産で4%
という選択になります。
これでは不動産の魅力が相対的に低下します。
そのため金利上昇は基本的に不動産価格にとってマイナス要因となります。
金利上昇で不動産価格が下がる仕組み
前回取り上げたキャップレートとも密接に関係します。
例えば年間1億円のNOIを生み出すマンションがあり、キャップレートが4%だったとします。
単純計算すると物件価格は25億円です。
ところが金利が上昇し、投資家が5%のキャップレートを求めるようになったとします。
年間NOIが1億円のままなら、
1億円を5%で割る
ため、物件価格は20億円になります。
収益力が変わっていなくても、投資家が要求する利回りが上昇しただけで、理論上の価格は25億円から20億円へ低下します。
これが金利上昇が不動産価格を押し下げる基本的な仕組みです。
借入金利の上昇も不動産投資には逆風になる
大規模な不動産投資では、投資家が全額を自己資金で購入するとは限りません。
銀行などから借り入れた資金を組み合わせることがあります。
例えば100億円の不動産を購入するとき、
自己資金40億円
借入金60億円
という形で資金を用意するとします。
借入金利が1%なら、単純化すると年間利息は6000万円です。
ところが金利が2%になれば1億2000万円になります。
金利が3%なら1億8000万円です。
同じ不動産を保有していても、金利上昇によって投資家に残る利益が減っていきます。
したがって金利上昇局面では、投資ファンドが不動産に提示できる価格も下がりやすくなります。
それでも海外ファンドが日本を買う理由
では、なぜ海外ファンドによる日本の不動産投資が続いているのでしょうか。
重要なのは、投資家が日本国内だけで投資先を比較しているわけではないことです。
世界規模のファンドは、
米国
欧州
アジア
日本
など複数の市場を比較します。
その際に見るのは単純な利回りだけではありません。
賃料の上昇余地
空室率
人口や世帯構造
物件価格
資金調達環境
為替
政治や法制度の安定性
将来の売却可能性
などを総合的に判断します。
日本の金利が上昇していても、世界の主要国と比較すれば資金調達環境が相対的に有利であれば、日本不動産への投資余地が残ります。
家賃上昇が金利上昇を吸収することがある
さらに重要なのが家賃です。
金利が上昇しても、家賃が上昇すれば不動産から得られる収益も増えます。
例えば25億円のマンションから年間1億円のNOIを得ている場合、利回りは4%です。
その後、家賃上昇によってNOIが1億2500万円になったとします。
物件価格が25億円なら利回りは5%になります。
つまり金利が上昇しても、賃料上昇によって不動産側の利回りが高くなれば、イールドギャップの縮小をある程度吸収できます。
東京をはじめとする都市部でファンドが賃貸マンションに注目する理由の一つがここにあります。
単に現在の家賃を見るのではなく、将来どこまで賃料を引き上げられるかを見て投資しているのです。
海外投資家には円安という視点もある
海外投資家の場合、日本の投資家にはない重要な要素があります。
為替です。
例えば日本の不動産価格が円建てで変わっていなくても、円安が進めばドルなどの外貨から見た購入価格は安くなります。
海外ファンドからすると、
日本の不動産利回り
日本の金利
将来の賃料
不動産価格
為替
を組み合わせて投資判断をすることになります。
円安による割安感が大きければ、金利が多少上昇しても日本への投資意欲が維持されることがあります。
一方、将来円高になれば、外貨換算した投資収益が増える可能性もあります。
ただし逆方向に為替が動けば損失要因にもなるため、為替リスクをヘッジする場合にはそのコストも考える必要があります。
イールドギャップ縮小には限界がある
海外マネーが旺盛だからといって、不動産価格が永久に上昇するわけではありません。
特に注意すべきなのがイールドギャップの縮小です。
例えば不動産利回りが3.5%、国債利回りが1%なら差は2.5%あります。
ところが国債利回りが2%まで上昇すると差は1.5%になります。
さらに不動産価格が上昇して不動産利回りが3%まで低下すれば、差は1%です。
安全性の高い金融資産との利回り差が小さくなるほど、不動産投資の魅力は低下します。
その段階では投資家が、
もっと高い利回りが必要だ
と考える可能性があります。
するとキャップレートに上昇圧力がかかり、不動産価格には下落圧力が生じます。
不動産価格は金利だけでは決まらない
金利上昇局面では、「金利が上がればマンション価格は下がる」と考えたくなります。
しかし実際には、それほど単純ではありません。
例えば、
金利は上昇する
一方で家賃も上昇する
空室率は低い
海外資金が流入する
建築費が上昇して新規供給が増えない
という状況なら、不動産価格が高止まりすることがあります。
反対に金利上昇と同時に、
景気悪化
家賃下落
空室増加
海外投資家の撤退
が起これば、不動産価格への下落圧力は強くなります。
したがって重要なのは、金利だけを見るのではなく、不動産から得られる収益との関係を見ることです。
そのための考え方がイールドギャップなのです。
結論
イールドギャップとは、不動産から期待される利回りと国債利回りなどの金利との差を考えるものです。
不動産には空室や価格下落などのリスクがあります。
そのため投資家は、安全性の高い金融資産よりどの程度高い収益を得られるのかを確認します。
金利が上昇すればイールドギャップは縮小し、不動産投資の魅力は相対的に低下します。
さらに借入金利も上昇するため、本来であれば不動産価格には下落圧力がかかります。
それでも海外ファンドによる日本のマンション投資が続く背景には、都市部の家賃上昇、安定した賃貸需要、海外との金利環境の違い、円安による割安感などがあります。
つまり海外投資家は、日本の金利が上がったかどうかだけを見ているわけではありません。
世界の他の投資先と比べて、日本の不動産がどれだけの収益を生み、そのリスクに見合った利回りを確保できるのかを見ています。
マンション価格の先行きを考えるうえでも、これから重要になるのは「金利が上がったか」だけではありません。
不動産利回りと金利の差がどこまで残っているのか。
イールドギャップを見ることで、金利上昇局面でも海外マネーが日本の不動産へ向かう理由と、その流れが反転する境目が見えてくるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊「マンション、海外マネー増勢 カナダファンドが1000億円 資金流入で高値続く」
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊「投資ファンド 不動産や企業買収活発に」