ふるさと納税の経費上限40%時代へ 自治体の財政収支はどう変わるのか

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ふるさと納税制度が大きな転換期を迎えています。

総務省は、自治体が寄付を集めるために支出する募集経費の上限について、従来の寄付額の50%から段階的に引き下げ、2029年にかけて40%とする方針です。

2026年10月には上限が47.5%に引き下げられました。

これまで自治体は、魅力的な返礼品を用意し、仲介サイトを活用して全国から寄付を集めてきました。

しかし、募集経費の規制が厳しくなることで、従来と同じ方法では寄付額を維持することが難しくなる可能性があります。

特に問題となっているのが、仲介サイトへの手数料負担です。

2025年度の仲介サイト手数料率は11.5%であり、自治体の募集経費の相当部分を占めています。

手数料が下がらないまま経費上限だけが引き下げられれば、自治体は返礼品の調達費用や配送費用などを削減せざるを得ません。

今回は、ふるさと納税の募集経費上限が40%となった場合に、自治体の財政収支がどのように変化するのかを、具体的な数値を用いて解説します。

ふるさと納税の募集経費とは何か

ふるさと納税は、個人が選んだ自治体に寄付を行い、一定の条件を満たすことで所得税や個人住民税の控除を受けられる制度です。

自治体にとっては、地域外から財源を獲得できる重要な仕組みとなっています。

しかし、寄付額の全額が自治体の財源として残るわけではありません。

寄付を集めるためには、さまざまな経費が発生します。

代表的なものは、返礼品の調達費用、配送費用、仲介サイト手数料、広告宣伝費、寄付受付や証明書発行などの事務費用です。

これらの経費を合計したものが、募集経費として規制の対象になります。

例えば、1億円の寄付を集めた自治体が、募集経費として5,000万円を支出した場合、差し引き5,000万円が残ります。

募集経費率は50%です。

これに対し、募集経費が4,000万円であれば、6,000万円が残り、募集経費率は40%となります。

同じ寄付額であっても、募集経費率が10ポイント違えば、自治体に残る金額は大きく変わります。

募集経費の上限は50%から40%へ

総務省は、ふるさと納税制度における過度な寄付獲得競争を抑制するため、募集経費の上限を段階的に引き下げる方針です。

従来の上限は寄付額の50%でした。

2026年10月から47.5%となり、2029年にかけて40%まで引き下げる方針が示されています。

この変更によって、自治体が同じ寄付額を集めた場合に、募集経費として支出できる金額が減少します。

ただし、注意したいのは、募集経費の上限が下がることと、実際の募集経費が自動的に下がることは別だという点です。

制度上の上限が40%になっても、返礼品の調達価格や配送費用、仲介サイト手数料が変わらなければ、自治体は従来の事業運営を継続できない可能性があります。

つまり、経費規制の強化は、自治体に対して寄付募集の仕組みそのものの見直しを求めるものといえます。

寄付額1億円の場合の財政収支

まず、年間1億円の寄付を集める自治体を想定します。

従来の募集経費率が50%だった場合、募集経費は5,000万円、自治体に残る金額は5,000万円です。

これに対し、募集経費率を47.5%に抑えれば、募集経費は4,750万円となり、自治体に残る金額は5,250万円になります。

さらに、募集経費率を40%に抑えれば、募集経費は4,000万円となり、自治体に残る金額は6,000万円です。

従来と比較すると、自治体に残る金額は1,000万円増加します。

ただし、これは寄付額が1億円で維持され、募集経費を実際に削減できた場合の試算です。

経費削減によって返礼品の魅力が低下し、寄付額が減少すれば、自治体に残る金額が必ずしも増えるとは限りません。

例えば、募集経費率を40%に引き下げた結果、寄付額が8,000万円に減少したとします。

この場合、募集経費は3,200万円、自治体に残る金額は4,800万円です。

従来の寄付額1億円、募集経費率50%の場合に残る5,000万円を下回ります。

経費率を下げても、寄付額の減少が大きければ、自治体財政にとってマイナスになる可能性があるのです。

寄付額10億円の場合の財政収支

次に、年間10億円の寄付を集める自治体を想定します。

募集経費率50%の場合、募集経費は5億円、自治体に残る金額は5億円です。

募集経費率47.5%の場合、募集経費は4億7,500万円、自治体に残る金額は5億2,500万円となります。

募集経費率40%の場合、募集経費は4億円、自治体に残る金額は6億円です。

従来と比較すると、自治体に残る金額は1億円増加します。

地方自治体にとって、1億円は決して小さな金額ではありません。

子育て支援、学校施設の改修、高齢者福祉、防災設備の整備など、さまざまな行政サービスに活用できます。

一方、寄付額が10億円から8億円に減少した場合、募集経費率40%で自治体に残る金額は4億8,000万円となります。

従来の5億円を下回ることになります。

寄付額の減少をどこまで抑えられるかが、自治体財政の重要な課題となります。

寄付額100億円の場合の財政収支

年間100億円の寄付を集める自治体では、経費率の変化が財政収支に与える影響はさらに大きくなります。

募集経費率50%の場合、募集経費は50億円、自治体に残る金額は50億円です。

募集経費率47.5%の場合、募集経費は47億5,000万円、自治体に残る金額は52億5,000万円となります。

募集経費率40%の場合、募集経費は40億円、自治体に残る金額は60億円です。

従来と比較すると、自治体に残る金額は10億円増加します。

10億円の財源が増えれば、公共施設の整備や地域産業の振興など、中長期的な政策にも活用しやすくなります。

ただし、100億円規模の寄付を集める自治体ほど、返礼品の供給体制や仲介サイトによる集客に大きく依存している場合があります。

経費削減によって寄付獲得力が低下すれば、財政への影響も大きくなります。

仲介サイト手数料11.5%が大きな負担に

自治体が募集経費を削減するうえで、大きな課題となるのが仲介サイト手数料です。

2025年度の仲介サイト手数料率は11.5%でした。

この割合を寄付額に単純に当てはめると、寄付額1億円の場合は1,150万円、10億円の場合は1億1,500万円、100億円の場合は11億5,000万円となります。

募集経費の上限が40%となった場合、手数料だけで経費枠の28.75%を占める計算です。

さらに、返礼品の調達費用が寄付額の30%であれば、仲介サイト手数料と合わせて41.5%となります。

これでは、配送費用や事務費用を加える前に経費上限を超えてしまいます。

したがって、募集経費率40%を実現するためには、返礼品の調達費用や仲介サイト手数料を含めた総合的な見直しが必要になります。

もっとも、11.5%は全国の実績に基づく平均的な手数料率であり、すべての自治体が同じ料率を負担しているわけではありません。

契約内容やサービスによって手数料率は異なるため、自治体ごとの実態を把握することが重要です。

手数料を引き下げた場合の削減効果

仲介サイト手数料を11.5%から8%に引き下げた場合を考えてみます。

寄付額1億円であれば、手数料は1,150万円から800万円となり、350万円の削減です。

寄付額10億円であれば3,500万円、100億円であれば3億5,000万円の削減となります。

さらに、手数料率を5%に引き下げることができれば、11.5%の場合と比較して、寄付額1億円で650万円、10億円で6,500万円、100億円で6億5,000万円の削減効果が生まれます。

もちろん、これらは寄付額が変わらず、手数料率の引き下げがそのまま経費削減につながると仮定した試算です。

実際には、手数料が低いプランでは広告宣伝や寄付受付に関するサービスが限定される場合があります。

自治体が独自に広告宣伝や寄付者対応を行えば、別の経費が発生する可能性もあります。

したがって、手数料率だけでなく、自治体が負担する経費全体を比較する必要があります。

寄付額が何%減少すると財政収支が悪化するのか

ここで、募集経費率50%から40%への引き下げについて、財政収支の損益分岐点を考えてみます。

従来、寄付額1億円、募集経費率50%であれば、自治体に残る金額は5,000万円です。

募集経費率40%では、寄付額の60%が残ります。

したがって、従来と同じ5,000万円を確保するために必要な寄付額は、5,000万円を60%で割った約8,333万円です。

つまり、寄付額が約16.7%減少しても、募集経費率を40%に抑えることができれば、従来とほぼ同じ金額を確保できます。

一方、寄付額の減少率が16.7%を超えると、自治体に残る金額は従来を下回ります。

この16.7%という数値は、自治体が経費削減と寄付獲得のバランスを考えるうえで、一つの目安になります。

ただし、実際の財政収支には、寄付金の使途、事業の固定費、返礼品の供給契約なども影響します。

単純な経費率の比較だけではなく、寄付額の変化と費用構造を組み合わせて分析することが必要です。

自治体には管理会計の視点が必要になる

今後のふるさと納税運営では、自治体にも企業経営に近い管理会計の視点が求められます。

従来は、寄付額がどれだけ増えたかという実績が重視されがちでした。

しかし、募集経費の規制が強化されるなかでは、寄付額の大きさだけでなく、実際に自治体に残る金額を重視する必要があります。

例えば、寄付額が10億円で募集経費率50%の場合、自治体に残る金額は5億円です。

一方、寄付額が9億円でも募集経費率40%であれば、自治体に残る金額は5億4,000万円となります。

寄付額は1億円少なくても、自治体に残る金額は4,000万円多くなります。

このように、寄付額の最大化と自治体に残る財源の最大化は、必ずしも一致しません。

自治体は、返礼品ごとの収支、仲介サイトごとの費用対効果、寄付者の継続率、事務処理費用などを分析する必要があります。

また、募集経費には寄付額に応じて増減する変動費だけでなく、システム利用料や人件費など、寄付額が減少してもすぐには削減できない費用が含まれる場合があります。

そのため、寄付額が減少すると、経費率がかえって上昇する可能性もあります。

こうした固定費と変動費の区分を明確にすることが、効率的な制度運営につながります。

返礼品の見直しが地域経済に与える影響

募集経費の削減は、自治体の財政収支だけでなく、地域経済にも影響を及ぼします。

返礼品の多くは、地域の農産物、水産物、加工食品、工芸品などです。

自治体が返礼品の調達価格を引き下げれば、地元事業者の売上高や利益が減少する可能性があります。

また、配送費用を削減するために返礼品の重量や数量を減らせば、寄付者にとっての魅力が低下することも考えられます。

一方、返礼品の生産工程や物流体制を見直すことで、品質を維持しながら経費を削減できる可能性もあります。

例えば、複数の返礼品事業者が配送業務を共同化したり、地域内で梱包資材を共同調達したりする方法です。

自治体が地元企業と協力して生産性を高めることができれば、募集経費の削減と地域産業の振興を両立できる可能性があります。

重要なのは、返礼品事業者に一方的な値下げを求めるのではなく、地域全体で効率化を進めることです。

寄付額よりも地域に残る価値が重要になる

ふるさと納税制度の目的は、単に自治体の寄付額を増やすことではありません。

寄付金を地域の行政サービスや地域産業の振興に活用し、地域の活力を高めることにあります。

例えば、同じ1億円の寄付でも、募集経費が5,000万円の場合と4,000万円の場合では、行政サービスに活用できる金額が1,000万円異なります。

一方、募集経費の中には、地元事業者への返礼品調達費用も含まれています。

このため、募集経費を単純にすべて無駄な支出と考えることは適切ではありません。

返礼品の調達によって地元企業の売上高が増加し、雇用や設備投資につながる場合もあるためです。

自治体財政に残る金額と、地域経済にもたらされる効果の両方を評価する必要があります。

今後は、寄付額、募集経費率、自治体に残る金額に加えて、地元企業への経済波及効果や寄付金を活用した事業成果を確認することが重要になります。

結論

ふるさと納税の募集経費上限が40%となることで、自治体の財政運営は大きな転換を迫られます。

寄付額1億円の場合、募集経費率50%から40%への引き下げが実現すれば、自治体に残る金額は5,000万円から6,000万円に増加します。

寄付額10億円では1億円、100億円では10億円の増加となります。

ただし、これは寄付額を維持しながら募集経費を削減できた場合の試算です。

返礼品の魅力が低下し、寄付額が大きく減少すれば、自治体に残る財源が減る可能性もあります。

特に、仲介サイト手数料が11.5%という水準にあるなかで、募集経費率40%を実現することは容易ではありません。

自治体には、仲介サイトとの契約条件の見直し、返礼品の調達や配送の効率化、寄付者との継続的な関係構築などが求められます。

また、寄付額の増減だけでなく、実際に自治体に残る金額や地域経済への波及効果を評価する管理会計の視点が重要になります。

これからのふるさと納税では、どれだけ多くの寄付を集めたかではなく、集めた寄付をどれだけ地域の価値に変えることができたかが問われる時代になると考えられます。

参考

日本経済新聞 2026年10月10日付 ふるさと納税サイト手数料下げ、市区の9割が不満 日経調査

総務省 2026年9月15日 総務大臣閣議後記者会見の概要

SOMPOインスティチュート・プラス 2026年9月30日 ポータルサイトの手数料率引き下げには事業者間競争が重要に

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