ふるさと納税制度を巡り、自治体が仲介サイト運営事業者に支払う手数料の妥当性が大きな問題となっています。
総務省の調査によると、2025年度の仲介サイト手数料率は11.5%でした。寄付額の1割以上が仲介サイト運営事業者に支払われている計算です。
日本経済新聞が2026年9月に実施した調査では、全国595市区の回答のうち、92%が事業者による手数料引き下げの対応について期待に沿うものではなかったと評価しました。
さらに、69%の自治体が国に対して手数料の上限設定などの規制を求めています。
一方、仲介サイトは寄付者の獲得や決済、返礼品の紹介など重要な役割を果たしており、手数料を引き下げれば自治体の利益が必ず増えるとは限りません。
特に、2026年10月からふるさと納税の募集経費上限が47.5%に引き下げられ、2029年にかけて40%まで引き下げられる方針であることから、手数料の適正水準を検討する重要性が高まっています。
今回は、仲介サイト手数料11.5%という水準について、自治体財政、民間事業者の収益構造、費用対効果、制度改革の観点から考えます。
仲介サイト手数料11.5%の意味
ふるさと納税は、寄付者が自分の選んだ自治体に寄付を行い、一定の条件を満たすことで所得税や個人住民税の控除を受けられる制度です。
寄付者の多くは、ふるさと納税の仲介サイトを利用しています。
仲介サイトには、自治体や返礼品の検索、寄付手続き、決済、寄付履歴の管理などの機能があります。
自治体は、こうしたサービスを利用する対価として、仲介サイト運営事業者に手数料を支払います。
2025年度の手数料率11.5%を寄付額に当てはめると、1万円の寄付に対して1,150円、10万円の寄付に対して1万1,500円、100万円の寄付に対して11万5,000円となります。
自治体が年間10億円の寄付を集めた場合、手数料は1億1,500万円に相当します。
ただし、11.5%は全国の実績に基づく数値であり、個々の自治体がすべて同じ料率で契約しているわけではありません。
また、基本手数料だけでなく、追加サービスや決済などに関連する費用が契約によって異なるため、単純な料率比較には注意が必要です。
重要なのは、自治体が実際に負担している総額と、提供されるサービスの内容を把握することです。
手数料は何に使われているのか
仲介サイト運営事業者は、寄付を仲介するだけで収益を得ているわけではありません。
サイトの開発や維持管理、情報セキュリティー対策、寄付者への問い合わせ対応、広告宣伝、決済関連業務など、さまざまな費用を負担しています。
特に、ふるさと納税では年末に寄付が集中する傾向があります。
短期間に大量のアクセスや決済処理が発生しても、安定してサービスを提供できるシステムが必要です。
また、多数の自治体や返礼品事業者の情報を管理するため、商品情報の更新、在庫管理、配送関連情報の連携などにも費用が発生します。
大手仲介サイトは、テレビ広告やインターネット広告などを通じて利用者を獲得しています。
こうした広告宣伝費も、事業運営上の重要な支出です。
したがって、手数料11.5%の全額が運営事業者の利益になるわけではありません。
一方、自治体が支払う手数料のうち、実際にどれだけがシステム運営費、広告宣伝費、人件費、利益に充てられているのかは、外部から十分に把握できない場合があります。
手数料の妥当性を判断するためには、サービス内容と費用構造の透明性を高める必要があります。
手数料11.5%は高いのか
手数料の適正水準を考える際には、単に数字の大小だけで判断することはできません。
例えば、一般的な電子商取引では、販売プラットフォームの利用料、決済手数料、広告費用、物流関連費用などが発生します。
ただし、ふるさと納税は通常の商品販売とは異なります。
寄付者は自治体に寄付を行い、その対価として商品を購入しているわけではありません。
返礼品は寄付に対する謝礼として提供されるものです。
また、ふるさと納税では、寄付者の税負担が一定の範囲で軽減されるため、一般的な商品購入とは異なる経済的な動機が働きます。
そのため、民間の電子商取引サイトの手数料率と単純に比較して、11.5%が高いか安いかを結論づけることは適切ではありません。
重要なのは、仲介サイトを利用することで自治体がどれだけ追加的な寄付を獲得できているかという点です。
手数料率が高くても、それを上回る寄付獲得効果があれば、自治体にとって合理的な選択となる可能性があります。
反対に、手数料率が低くても、寄付がほとんど集まらなければ、十分な効果を得られない場合があります。
手数料率を10%に引き下げた場合
ここからは、具体的な数値を用いて手数料の引き下げ効果を考えます。
まず、手数料率を11.5%から10%に引き下げた場合です。
寄付額1億円では、手数料は1,150万円から1,000万円となり、150万円削減できます。
寄付額10億円では1,500万円、100億円では1億5,000万円の削減です。
手数料率の引き下げ幅は1.5ポイントですが、寄付額が大きい自治体ほど削減効果も大きくなります。
ただし、手数料率10%がすべての自治体にとって適正であるとは限りません。
寄付額が少ない自治体では、サイト運営事業者が負担する固定的なシステム費用や事務費用を十分に回収できない可能性もあります。
一方、寄付額が多い自治体では、取扱規模の拡大による効率化が期待できます。
このため、寄付額の規模に応じて手数料率を変える方法も検討に値します。
手数料率を8%に引き下げた場合
次に、手数料率を8%に引き下げた場合を考えます。
寄付額1億円では、手数料は800万円となり、11.5%の場合と比較して350万円の削減です。
寄付額10億円では3,500万円、100億円では3億5,000万円の削減となります。
この水準まで引き下げることができれば、自治体の募集経費削減に一定の効果が期待できます。
特に、募集経費上限が40%となる場合、手数料率の引き下げは重要です。
例えば、返礼品の調達費用が寄付額の25%、仲介サイト手数料が8%であれば、合計33%です。
残り7%の範囲で配送費用、広告宣伝費、事務費用などを賄う必要があります。
実際に7%で対応できるかどうかは、返礼品の種類や配送条件、寄付受付体制などによって異なります。
したがって、手数料率8%は一つの検討材料にはなりますが、すべての自治体に適用できる最適水準とは限りません。
手数料率を5%に引き下げた場合
さらに、手数料率を5%に引き下げた場合を考えます。
寄付額1億円では、手数料は500万円となり、11.5%の場合と比較して650万円の削減です。
寄付額10億円では6,500万円、100億円では6億5,000万円の削減となります。
自治体財政への効果は大きくなります。
一方、仲介サイト運営事業者にとっては、手数料収入が大幅に減少します。
その結果、広告宣伝の縮小、問い合わせ対応の見直し、追加サービスの有料化などが行われる可能性があります。
また、収益性の低い自治体との契約を見直す事業者が出てくることも考えられます。
特に、寄付額の少ない自治体では、仲介サイトを通じた寄付獲得が難しくなる可能性があります。
このため、手数料の上限を低く設定する場合には、自治体間の公平性やサービスの継続性についても検討する必要があります。
手数料引き下げで寄付額が減少した場合
手数料率を引き下げれば、自治体に残る金額が必ず増えるのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
例えば、年間10億円の寄付を集める自治体を考えます。
仲介サイト手数料率が11.5%の場合、手数料は1億1,500万円です。
手数料以外の募集経費を寄付額の30%と仮定すると、募集経費全体は41.5%となります。
自治体に残る金額は5億8,500万円です。
ここで、手数料率を8%に引き下げたとします。
寄付額が10億円のままであれば、募集経費全体は38%となり、自治体に残る金額は6億2,000万円です。
従来と比較して3,500万円増加します。
しかし、手数料の引き下げに伴って広告宣伝などのサービスが縮小し、寄付額が9億円に減少した場合はどうでしょうか。
手数料以外の募集経費率が30%のままであれば、募集経費全体は38%です。
自治体に残る金額は5億5,800万円となります。
従来の5億8,500万円を2,700万円下回ります。
この試算から分かるのは、手数料率の引き下げだけでは自治体の財政収支を評価できないということです。
寄付額の変化と募集経費全体を合わせて検証する必要があります。
手数料規制には競争を弱めるリスクもある
自治体の69%が求める手数料の上限規制には、一定の合理性があります。
自治体が個別に大手仲介サイト運営事業者と交渉する場合、交渉力に差が生じる可能性があるためです。
特に、寄付額の少ない自治体は、大手サイトに依存せざるを得ない場合があります。
国が手数料の上限を設定すれば、自治体の負担を一定水準以下に抑えられる可能性があります。
一方、上限規制によって事業者間の価格競争が弱まる可能性もあります。
例えば、手数料率の上限を8%とした場合、多くの事業者が8%に料金を設定し、それ以下への引き下げ競争が進まなくなることも考えられます。
また、基本手数料を引き下げる代わりに、広告掲載料や追加サービス料金を引き上げる可能性もあります。
この場合、名目上の手数料率は低下しても、自治体が負担する経費総額は十分に減らないことになります。
したがって、手数料規制を導入する場合には、基本手数料だけでなく、関連する費用全体を把握する仕組みが必要です。
手数料の透明化が重要になる
手数料の適正化を進めるうえで、まず取り組むべき課題は契約条件の透明化です。
自治体によって仲介サイトとの契約内容が異なり、基本手数料や追加サービスの費用が十分に比較できなければ、合理的な事業者選択が難しくなります。
例えば、基本手数料率が8%のサイトでも、広告掲載料や追加サービス費用を含めると実質的な負担が12%になる場合があります。
一方、基本手数料率が10%でも、必要なサービスがすべて含まれていれば、総費用を抑えられる可能性があります。
このため、自治体は基本手数料率だけでなく、寄付額に対する実質的な総負担率を把握する必要があります。
また、仲介サイトごとの寄付獲得額や費用対効果を比較できるようにすることも重要です。
国が標準的な情報開示項目を定めれば、自治体は契約条件を比較しやすくなります。
こうした透明化は、事業者間の健全な競争を促すことにもつながります。
自治体には仲介サイト依存からの脱却も必要
仲介サイト手数料の問題は、自治体が寄付獲得を外部事業者に依存していることとも関係しています。
多くの自治体は、大手仲介サイトを通じて全国の寄付者に情報を発信しています。
この仕組みは効率的ですが、寄付者との接点を仲介サイトが握る構造にもなっています。
自治体が独自に寄付者との関係を構築できなければ、仲介サイトへの依存が続く可能性があります。
今後は、自治体の公式サイトや地域情報の発信を充実させ、寄付者に地域の魅力や寄付金の活用成果を伝えることが重要になります。
例えば、寄付金によって整備された学校施設や子育て支援事業などを紹介することで、返礼品以外の理由で寄付を継続してもらうことが期待できます。
また、観光や地域イベントを通じて自治体に関心を持った人が、その後も継続的に地域を応援する仕組みを整えることも考えられます。
ただし、自治体が独自に寄付受付システムを運営する場合にも、開発費用や維持管理費用が発生します。
仲介サイトを利用しないことが、必ずしも経費削減につながるわけではありません。
自治体は、外部委託と自前運営の費用対効果を比較する必要があります。
適正手数料は自治体ごとに異なる
ここまで見てきたように、仲介サイト手数料の適正水準を一律に決めることは容易ではありません。
寄付額が大きく、知名度の高い自治体では、仲介サイトによる広告宣伝がなくても一定の寄付を集められる可能性があります。
一方、知名度が低く、寄付額の少ない自治体では、仲介サイトの集客力が重要になります。
また、返礼品の種類によっても必要なサービスは異なります。
農産物や水産物などでは、季節ごとの在庫管理や配送調整が必要になる場合があります。
旅行や体験型の返礼品では、予約管理や利用者対応などの仕組みが求められます。
したがって、適正な手数料率は、自治体の寄付額、返礼品の特性、必要なサービス、仲介サイトによる寄付獲得効果などによって異なります。
重要なのは、全国一律の数字だけで判断するのではなく、自治体が合理的に契約条件を比較できる環境を整備することです。
結論
ふるさと納税の仲介サイト手数料11.5%が高すぎるかどうかは、手数料率だけでは判断できません。
仲介サイトには、寄付者の獲得、決済、返礼品の紹介、情報管理など、自治体の寄付募集を支える重要な役割があります。
一方、寄付額の1割以上が仲介サイト運営事業者に支払われる構造は、自治体財政にとって大きな負担です。
特に、募集経費上限が2029年にかけて40%まで引き下げられる方針であることから、手数料の適正化は避けて通れない課題となっています。
手数料率を11.5%から8%に引き下げれば、寄付額10億円の自治体では3,500万円、100億円の自治体では3億5,000万円の削減効果が期待できます。
しかし、手数料引き下げによって寄付額が減少すれば、自治体に残る財源がかえって減少する可能性もあります。
今後の制度改革では、手数料の上限規制だけでなく、契約条件の透明化、サービス内容の比較、事業者間の競争促進などを総合的に検討する必要があります。
また、自治体自身も仲介サイトへの依存度を見直し、寄付者との継続的な関係を構築することが重要です。
ふるさと納税の本来の目的は、仲介サイトの売上高を増やすことでも、自治体が寄付額のランキングを競うことでもありません。
寄付者の善意を地域の行政サービスや地域産業の振興に結び付けることです。
そのためには、仲介サイトに支払う手数料が、地域にとって十分な価値を生み出しているかを継続的に検証する必要があります。
手数料の適正化は、単なる経費削減ではなく、ふるさと納税制度を持続可能な仕組みに転換するための重要な課題といえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月10日付 ふるさと納税サイト手数料下げ、市区の9割が不満 日経調査