国際送金を24時間365日、速く安くするために世界でさまざまな取り組みが進んでいます。
その中で注目されているのが、Swiftによるトークン化預金の接続基盤とプロジェクトアゴラです。
どちらもブロックチェーンなどの技術を活用し、国境を越えたお金の移動を効率化しようとしています。
そのため、同じような取り組みに見えるかもしれません。
しかし、大きな違いがあります。
ポイントは、銀行間の最終決済まで新しいデジタル基盤に組み込むのか、それとも既存の銀行システムを利用するのかという点です。
Swiftの方式とは何か
Swiftは世界1万1000以上の金融機関が参加する銀行間の通信インフラです。
これまで世界の銀行が国際送金などの情報を安全に交換するための重要な役割を担ってきました。
そのSwiftが開発しているのがSwift Digital Ledgerです。
各銀行が発行するトークン化預金を接続し、異なる銀行の間でもデジタル化された預金を移転できるようにすることを目指しています。
これによって、銀行をまたぐ国際送金を24時間365日、ほぼ即時に処理できる可能性があります。
Swiftは既存システムを生かす
Swiftの仕組みを理解するうえで重要なのが、現在の金融インフラをすべて置き換えようとしているわけではないことです。
トークン化預金の移転には新しいデジタル基盤を利用します。
一方で、銀行同士の最終的な資金決済には既存の銀行システムを利用する考え方です。
つまり、これまで築いてきた金融インフラを残しながら、その一部にブロックチェーンやトークン化預金を組み込みます。
既存システムと新しい技術を組み合わせる方式と考えると分かりやすいでしょう。
プロジェクトアゴラの方式とは何か
プロジェクトアゴラは、さらに金融システムの奥までデジタル化しようとする取り組みです。
民間銀行が発行する預金トークンだけではなく、銀行が中央銀行に持つ当座預金についてもトークン化して連携させることを目指します。
つまり、利用者のお金だけではなく、銀行同士の決済に使う中央銀行マネーまで共通のデジタル基盤に組み込みます。
ここがSwiftの方式との大きな違いです。
最終決済とは何か
この違いを理解するためには、最終決済について知っておく必要があります。
例えば、A銀行の顧客がB銀行の顧客へ100万円を送ったとします。
A銀行の顧客の預金残高を100万円減らし、B銀行の顧客の預金残高を100万円増やします。
しかし、これだけでは銀行間のお金のやり取りは終わっていません。
A銀行からB銀行へも100万円分の価値を移す必要があります。
国内であれば、銀行が中央銀行に持つ当座預金などを通じて銀行間の決済を完了させます。
この銀行同士の最終的な資金の受け渡しが最終決済です。
アゴラは最終決済までデジタル化する
プロジェクトアゴラでは、この最終決済に利用する中央銀行マネーまでトークン化して共通基盤に組み込むことを目指しています。
例えば、A銀行の預金トークンからB銀行の預金トークンへ価値を移すのと同時に、A銀行とB銀行の間でも中銀当座預金トークンを動かす仕組みが考えられます。
利用者間の支払いと銀行間の決済を連動させるわけです。
これが実現すれば、現在は複数のシステムに分かれている処理を、より一体的に実行できる可能性があります。
Swiftは現実的な移行を重視する
Swiftの方式には、既存の金融システムを活用できるという利点があります。
世界には非常に多くの銀行があります。
すべての銀行や中央銀行が一斉に新しいブロックチェーン基盤へ移行するのは簡単ではありません。
長年使われてきた決済システムには、金融規制や本人確認、マネーロンダリング対策などさまざまな仕組みが組み込まれています。
既存システムを利用しながらトークン化預金の部分から新しい技術を導入できれば、金融システム全体を一度に作り直す必要はありません。
段階的にデジタル化を進めやすいという特徴があります。
アゴラはより大きな改革を目指す
一方、プロジェクトアゴラは銀行間決済まで含めた仕組みの再設計を目指しています。
その分、実現すれば国際決済の効率を大きく改善できる可能性があります。
顧客の支払いと銀行間決済、さらに外国為替取引などを共通基盤上で連携できれば、現在必要になっている多くの照合や中間処理を減らせる可能性があります。
ただし、中央銀行マネーまで扱うため、制度設計や金融システムの安全性について慎重な検討が必要になります。
技術だけでなく、各国の金融制度をどのようにつなぐかという問題もあります。
どちらが優れているという話ではない
Swiftとプロジェクトアゴラを比較すると、どちらが将来の国際送金を制するのかと考えたくなります。
しかし、必ずしも競争関係だけで考える必要はありません。
Swiftは既存の銀行ネットワークを生かしながらトークン化預金を接続する方向です。
プロジェクトアゴラは、中央銀行マネーまで含めて国際決済の構造をより根本から変える方向です。
目指す範囲が違います。
将来的には、こうした複数の仕組みが相互に接続される可能性もあります。
金融のデジタル化では、1つのシステムだけですべてを処理するより、異なる仕組みを安全につなげることが重要になるからです。
結論
Swiftとプロジェクトアゴラは、どちらもトークン化技術を活用して国際送金や国際決済を効率化しようとしています。
しかし、大きな違いは銀行間の最終決済をどのように扱うかです。
Swiftは異なる銀行のトークン化預金を新しいデジタル基盤で接続しながら、最終決済には既存の銀行システムを利用します。
これに対してプロジェクトアゴラは、民間銀行の預金トークンだけでなく、中銀当座預金トークンまで共通基盤上で連携させ、銀行間の最終決済までデジタル化することを目指しています。
つまり、Swiftは既存の金融インフラを生かしながら進化させる方法、アゴラは金融インフラのより深い部分まで作り直す方法と考えることができます。
国際送金の未来を考えるときには、送金が速くなるかだけではなく、その裏側にある銀行間の最終決済をどこまで変えるのかを見ることが重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 トークン化預金、国際送金即時に