SNSカスハラとは何か 店舗でのクレームがネット上まで続く時代編

経営

カスタマーハラスメントは、店舗やコールセンターの中だけで起きる問題ではなくなっています。

店舗で接客に不満を持った顧客が、従業員の名前をSNSで検索する。

従業員の個人アカウントを見つけてメッセージを送る。

接客中に撮影した写真や動画を投稿する。

口コミサイトに従業員の実名を書き込む。

こうした形で、勤務時間中に始まった顧客とのトラブルが、勤務時間外やインターネット上まで続く可能性があります。

SNSでは投稿が短時間で拡散されることもあります。一度公開された情報が別の利用者によって転載されれば、元の投稿を削除しても完全に回収することが難しくなる場合があります。

2026年10月1日から企業にカスハラ対策が義務付けられるなか、企業には店舗や電話だけでなく、SNS上で従業員が攻撃されるケースについても考えておくことが求められます。

SNSカスハラとは何か

SNSカスハラという言葉に独立した法律上の定義があるわけではありません。

一般には、顧客などがSNSや口コミサイトなどを利用して、従業員や企業に対して社会通念上許容される範囲を超えた言動を行うケースを考えることができます。

厚生労働省のカスハラ防止指針でも、カスハラとなり得る言動は対面だけに限られていません。

電話やインターネットなどを通じて行われる言動も対象になり得ます。

したがって、

店内では何も起きていないから会社とは関係ない

SNS上の問題だから従業員個人で対応すればよい

とは限りません。

顧客との関係をきっかけとして従業員の就業環境が害されているのであれば、会社として対応を検討する必要があります。

店舗でのクレームがSNSへ移る

典型的なのは、店舗で発生したクレームがSNSへ移るケースです。

たとえば顧客が商品の返品を求めたものの、店舗側が規定上対応できないと説明したとします。

顧客が納得せず、従業員の名札を確認します。

その後、

店員の名前

店舗名

会社名

などをSNSへ投稿します。

さらに、

この店員にひどい対応をされた

などと書き込み、従業員の写真や動画まで掲載するケースも考えられます。

この段階になると、最初は一対一だった顧客との問題が、不特定多数の人が閲覧できる問題へ変わります。

従業員の実名が個人特定の手掛かりになる

SNSカスハラでは、従業員の実名が大きな意味を持つことがあります。

名札やレシートなどから名前を知り、その名前をSNSで検索することで個人アカウントを見つけられる可能性があるからです。

特に珍しい名字や氏名の場合には、勤務先などの情報と組み合わせることで本人を特定しやすくなることがあります。

個人アカウントから、

顔写真

学校

家族

交友関係

生活圏

などの情報へたどり着かれる可能性もあります。

そのため、カスハラ対策では名札だけでなく、顧客にどのような従業員情報を提供しているのかを確認することも重要になります。

従業員への直接メッセージが問題になる

SNSで個人アカウントを特定した後、顧客が従業員へ直接メッセージを送る場合があります。

一度だけ問い合わせる程度ではなく、

何度もメッセージを送る

返信を要求する

勤務時間外にも連絡する

謝罪を求め続ける

別のSNSアカウントからも連絡する

といった行為に発展する可能性があります。

従業員からすれば、勤務を終えて自宅へ帰っても顧客対応が続いている状態になります。

会社の店舗や電話であれば上司に交代できますが、個人のSNSに直接連絡されると会社から見えにくくなることも問題です。

従業員の写真や動画が投稿される場合もある

スマートフォンの普及によって、顧客が接客中の従業員を簡単に撮影できるようになりました。

顧客が、

証拠として撮影している

SNSに投稿する

会社の対応を世間に知らせる

などと言いながら撮影するケースも考えられます。

さらに、その写真や動画がSNSへ投稿されれば、従業員本人が予想していない範囲まで拡散する可能性があります。

企業としては、

店舗内での撮影をどのように扱うのか

従業員が無断撮影された場合に誰へ報告するのか

投稿された場合にどの部署が対応するのか

といったルールをあらかじめ検討しておく必要があります。

口コミサイトへの書き込みはすべてカスハラなのか

ここで注意しなければならないのが、企業にとって不都合な口コミをすべてカスハラと考えてはいけないということです。

顧客には、商品やサービスについて意見や感想を述べる自由があります。

実際に受けたサービスについて、

説明が分かりにくかった

待ち時間が長かった

接客に不満を感じた

といった感想を書くことまで、直ちにカスハラになるわけではありません。

企業にとって厳しい内容であっても、正当な批判である場合があります。

カスハラ対策は企業への批判を封じ込めるための制度ではありません。

問題になるのは、正当な意見表明の範囲を超えて、従業員個人への攻撃などに発展するケースです。

個人情報の拡散は深刻な問題になり得る

SNS上で特に深刻なのが、従業員の個人情報が拡散されるケースです。

たとえば、

実名

顔写真

個人のSNSアカウント

勤務時間

家族に関する情報

などが投稿される場合です。

第三者がその情報を転載すれば、最初に投稿した顧客だけの問題ではなくなります。

さらに、別の利用者から従業員へメッセージが届いたり、勤務先へ大量の電話がかかってきたりする可能性もあります。

インターネット上では一人の顧客による行為が、多数の人を巻き込む問題へ急速に拡大する可能性があります。

投稿を見つけたら記録を残す

SNS上の投稿は、投稿者自身が削除する可能性があります。

そのため問題となる投稿を確認した場合には、まず記録を残すことが重要です。

たとえば、

投稿内容

投稿日時

投稿者のアカウント

掲載された写真や動画

投稿先

などを確認します。

画面を保存するなど、後から内容を確認できる状態にしておく方法があります。

従業員本人がすべて対応するのではなく、会社の担当部署や相談窓口へ情報を共有することが重要です。

会社として削除対応を検討する

投稿内容によっては、SNSや口コミサイトの運営事業者に削除を求めることを検討する場合があります。

ただし、

会社にとって不愉快な内容だから

というだけで、すべての投稿を削除できるわけではありません。

投稿内容や権利侵害の有無などによって対応は異なります。

従業員の個人情報が掲載されている。

名誉を傷つけるような投稿が行われている。

執拗な攻撃が続いている。

こうした重大なケースでは、弁護士など専門家への相談を検討することもあります。

会社としてどの段階で専門家へ相談するのかを決めておくと、迅速に対応しやすくなります。

従業員個人に反論させないことも重要になる

SNSで自分について事実と異なる投稿をされれば、従業員本人は反論したくなるかもしれません。

しかし、個人アカウントから顧客と直接やり取りすると、問題がさらに拡大する可能性があります。

感情的な応酬になれば、やり取りの一部だけが切り取られて拡散されることも考えられます。

そのため企業として、

顧客から個人SNSへ連絡が来た場合は返信せず会社へ報告する

SNS上で問題が起きた場合には担当部署が対応する

といったルールを定めることが考えられます。

店舗でのカスハラと同じように、SNSでも個人対応から組織対応へ切り替えることが重要です。

会社の公式窓口へ誘導する

SNSカスハラを予防するためには、顧客との連絡経路を会社側で明確にすることも有効です。

問い合わせは会社の電話番号へ。

苦情はお客様相談室へ。

メールは会社のアドレスへ。

こうした公式窓口を整備します。

従業員個人の電話番号やSNSを顧客対応に利用させないことも重要です。

顧客との関係を会社のシステムの中にとどめることで、問題が従業員の私生活へ入り込むリスクを減らすことができます。

SNS時代には予防策がより重要になる

インターネット上の情報は、一度拡散すると完全に回収することが難しい場合があります。

そのためSNSカスハラでは、発生後の対応だけでなく予防策が重要です。

従業員の実名を必要以上に公開しない。

名札の表示方法を見直す。

レシートへの実名印字を確認する。

従業員個人のSNSを顧客との連絡に使わせない。

無断撮影への対応方針を決める。

SNS上の問題を報告する窓口を設ける。

こうした対策を組み合わせます。

従業員にSNSの利用そのものを禁止するのではなく、顧客から個人を特定されにくい環境を企業側で整えるという視点が重要です。

SNSカスハラは会社から見えにくい

店舗で顧客が大声を出せば、周囲の従業員も気づきます。

コールセンターであれば録音が残ることもあります。

しかし、個人のSNSへ直接メッセージが送られている場合、従業員が会社へ報告しなければ会社は問題を把握できません。

従業員本人も、

会社とは関係のない自分のSNSだから

と考えて、一人で抱え込む可能性があります。

そこで企業は、

顧客との関係から発生したSNS上の問題も相談してよい

と明確に伝えておくことが重要です。

相談できる範囲を店舗内だけに限定しないことが、SNS時代のカスハラ対策では必要になります。

結論

SNSカスハラの特徴は、顧客とのトラブルが勤務場所や勤務時間という境界を越えてしまうことです。

店舗で始まったクレームが、

従業員の実名検索

個人SNSの特定

直接メッセージ

写真や動画の投稿

口コミサイトへの書き込み

個人情報の拡散

へと発展する可能性があります。

一方で、企業に対する厳しい口コミや批判をすべてカスハラとして扱ってはいけません。

正当な意見表明と、従業員の就業環境を害するような社会通念上許容される範囲を超えた行為を区別する必要があります。

問題となる投稿を確認した場合には記録を残し、従業員個人に対応させるのではなく、会社の相談窓口や担当部署へ引き継ぐ仕組みが重要です。

2026年10月からのカスハラ対策では、会社が守るべき職場を店舗やオフィスの中だけで考えることはできなくなります。

顧客との関係をきっかけとしてSNS上まで攻撃が続くのであれば、そこにも会社として対応すべき問題が存在します。

個人対顧客の問題にしない。

SNS上でも組織として従業員を守る。

それが、インターネット時代の新しいカスハラ対策になります。

参考

日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 カスハラ対策に企業奔走

日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 官民で広がるサポート

厚生労働省 2026年2月26日 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針

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