IFRS移行で決算実務はどう変わるのか 経理部門に求められる対応

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日本基準からIFRSへの移行というと、財務諸表の数字が変わることに注目が集まりがちです。

資産が減る。

負債が増える。

純資産が変わる。

のれん償却がなくなる。

こうした変化は投資家にとって重要ですが、企業内部ではさらに大きな変化が起こります。

決算実務そのものが変わるからです。

会計方針を決める。

契約書を確認する。

資産を評価する。

将来キャッシュフローを見積もる。

海外子会社から情報を集める。

会計システムを変更する。

IFRS移行は経理部門だけで完結する仕事ではありません。

企業全体から必要な情報を集め、それを財務諸表につなげる仕組みを作る必要があります。

最初に必要なのは会計基準差の洗い出し

IFRS移行で最初に重要になるのが、日本基準とIFRSの違いを整理する作業です。

企業によって重要な論点は異なります。

製造業であれば固定資産や開発費が重要になるかもしれません。

小売業であれば店舗のリースが大きな論点になる可能性があります。

M&Aを積極的に行う企業であれば、のれんや企業結合が重要です。

金融商品を多く保有する企業では、金融商品の分類や評価が重要になります。

まず自社にとってどの会計基準差が重要なのかを把握する必要があります。

移行日以前の情報も必要になる

IFRS移行では、原則として過去からIFRSを適用していたように財務諸表を組み替える考え方があります。

そのため、現在の取引だけを確認すればよいとは限りません。

過去に取得した資産。

過去に締結した契約。

過去のM&A。

過去の退職給付。

こうした情報をさかのぼって調査する必要が生じる場合があります。

古い契約書や取得時の資料を探す作業が必要になることもあります。

日頃から契約や資産に関する情報を適切に保存しているかどうかが、IFRS移行時の作業量にも影響します。

リース契約を集める

IFRS移行で実務負担が大きくなりやすい分野の1つがリースです。

企業にはさまざまな賃借契約があります。

店舗。

事務所。

倉庫。

土地。

車両。

設備。

これらの契約情報が経理部門に集中して管理されているとは限りません。

店舗契約は営業部門。

オフィスは総務部門。

倉庫は物流部門。

車両は各事業所。

このように契約情報が企業内に分散している場合があります。

IFRS対応では、こうした契約を把握し、必要な情報を集める仕組みが重要になります。

契約書の中身まで確認する

単に契約書の件数を数えるだけでは十分ではありません。

契約期間は何年か。

更新条項はあるか。

解約条件はどうなっているか。

毎月の支払額はいくらか。

変動する支払額はあるか。

契約にリースが含まれているか。

こうした情報を確認する必要があります。

経理部門が契約書を読む機会は、従来より増える可能性があります。

会計処理を決めるために、契約の法的な名称だけでなく経済的な内容を確認する必要があるからです。

減損では事業計画が重要になる

IFRSでは減損の判断も重要です。

固定資産やのれんについて減損テストを行う場合、将来キャッシュフローなどの見積もりが必要になります。

しかし、将来の売上や利益を経理部門だけで決めることはできません。

事業部門が作成する販売計画。

経営企画部門が作成する中期経営計画。

設備投資計画。

市場成長率。

こうした情報が必要になります。

つまり、減損会計は経理部門だけの仕事ではなく、経営計画そのものとつながっています。

事業計画との整合性を確認する

例えば、ある事業の減損テストでは今後5年間で大きく成長する前提を使っているとします。

一方、社内の中期経営計画ではその事業を成熟事業として位置付けていたら、説明に矛盾が生じます。

減損テストで使用する将来予測は、企業の正式な事業計画などとの整合性が重要になります。

そのため経理部門には、数字を集計するだけでなく、その前提を理解し検証する役割も求められます。

のれん管理も継続的な仕事になる

IFRSでは、のれんを毎期規則的には償却しません。

その代わり、少なくとも毎年減損テストを行う必要があります。

M&Aを積極的に行っている企業では、買収した事業ごとに継続的な管理が必要になります。

買収時に何を期待していたのか。

どの程度の成長を想定していたのか。

実績は計画を達成しているのか。

将来見通しは変わっていないのか。

買収が終わった時点で会計処理も終わるわけではありません。

その後の事業管理まで含めた仕組みが必要です。

公正価値を測る場面が増える

IFRSでは、公正価値を使う会計処理も重要になります。

市場価格がある資産なら比較的分かりやすいですが、市場価格が直接存在しない資産では評価が複雑になります。

将来キャッシュフロー。

割引率。

市場参加者の想定。

類似取引。

こうした情報を使って評価する場合があります。

社内だけでは評価が難しく、外部の専門家を利用するケースも考えられます。

経理部門には、評価結果を受け取るだけではなく、その前提や計算方法を理解する力も必要になります。

海外子会社への指示も変わる

グローバル企業では、海外子会社から連結決算用の財務情報を集めています。

IFRS移行によってグループ会計方針を変更すれば、海外子会社にも新しいルールを伝える必要があります。

どの会計処理を使うのか。

どの情報を報告するのか。

どの時点までに提出するのか。

重要な見積もりは何か。

グループ全体で同じルールを適用するためには、会計マニュアルや報告様式の整備も必要です。

会計システムの変更が必要になる

IFRS対応では、既存の会計システムだけでは十分でない場合があります。

特にリースなどでは、多数の契約について将来の支払額を管理し、使用権資産やリース負債を計算する必要があります。

また、日本基準とIFRSの両方の数字を一定期間管理する必要が生じる場合もあります。

そのため、システム改修や新しいシステムの導入が必要になることがあります。

会計基準変更は情報システムの問題でもあるのです。

税務との違いも管理する

IFRSへ移行しても、日本の税務ルールまでIFRSになるわけではありません。

会計上の資産価額と税務上の資産価額が異なる。

会計上の費用認識と税務上の損金算入時期が異なる。

こうした差異が生じます。

そのため、経理部門や税務部門では会計と税務の差を管理する必要があります。

繰延税金資産や繰延税金負債の計算にも関係します。

IFRS移行によって、会計と税務の差異管理がより重要になる場合があります。

開示資料も増える

IFRSでは財務諸表本体だけでなく、注記も重要です。

重要な会計方針。

経営者が行った判断。

見積もりの不確実性。

金融商品リスク。

減損。

企業結合。

こうした情報について詳細な開示が必要になる場合があります。

そのため決算作業では、数字を確定するだけでなく、その数字を説明する文章を作成する作業も重要になります。

監査法人との協議も早めに行う

IFRSでは判断が必要になる論点も多くあります。

契約がリースに該当するのか。

どの単位で減損テストを行うのか。

将来キャッシュフローの前提は妥当か。

公正価値をどう測定するのか。

こうした論点を決算直前になって初めて監査法人と協議すると、決算スケジュールに影響する可能性があります。

重要な会計論点については、早い段階から整理しておくことが重要です。

経理担当者の役割が変わる

IFRS移行によって、経理担当者に求められる能力も変化します。

伝票を処理する。

数字を集計する。

決算書を作る。

これだけでは十分ではありません。

契約内容を理解する。

事業計画を読む。

将来キャッシュフローを検証する。

評価モデルを理解する。

事業部門と議論する。

監査法人に会計判断を説明する。

数字の背景にある事業や契約まで理解する能力が重要になります。

日常業務の段階から情報を集める

IFRS対応を決算期だけの仕事にすると、経理部門の負担が集中します。

新しいリース契約を締結した。

M&Aを実施した。

事業計画を変更した。

工場の稼働率が大幅に低下した。

こうした情報を日常的に経理部門へ共有する仕組みがあれば、決算時の作業を減らすことができます。

IFRS対応では、決算作業そのものよりも日常的な情報収集の仕組みが重要になるのです。

結論

IFRS移行によって変わるのは、財務諸表の数字だけではありません。

企業の決算実務そのものが変化します。

契約情報を集める。

リースを管理する。

減損テストを行う。

将来キャッシュフローを検証する。

のれんを管理する。

公正価値を測定する。

海外子会社の会計方針を統一する。

システムを変更する。

税務との差異を管理する。

注記を作成する。

こうした業務が必要になります。

そして最も重要なのは、経理部門だけでは対応できないという点です。

事業部門、経営企画、財務、税務、総務、情報システム、海外子会社などとの連携が必要になります。

IFRS移行は会計基準を変更するプロジェクトであると同時に、企業内の情報をどのように集め、経営数字につなげるのかを見直すプロジェクトでもあります。

経理部門に求められる役割は、数字を作ることから、企業の事業活動を理解して数字の意味を説明することへと広がっていくのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月30日夕刊 IFRS移行時の注目点

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