企業が赤字決算になると、「繰越欠損金」という言葉を耳にする機会が増えます。また、決算書には「繰延税金資産」が計上されることもあり、この二つがどのように関係しているのか疑問に感じる経営者も少なくありません。
実は、繰越欠損金と繰延税金資産は密接な関係があります。
今回は、その仕組みを法人税実務の視点から分かりやすく解説します。
繰越欠損金とは何か
繰越欠損金とは、法人税法上の赤字(欠損金)を将来の黒字と相殺できる制度です。
例えば、今年1,000万円の赤字が発生し、翌年に800万円の利益が出た場合、一定の要件のもとで赤字と利益を相殺できます。
その結果、翌年の課税所得はゼロとなり、法人税の負担を軽減できます。
この制度は、企業の事業活動を長期的な視点で支える重要な仕組みとなっています。
繰延税金資産は節税効果を資産として表す
繰越欠損金があるからといって、決算書に自動的に資産が計上されるわけではありません。
将来、その欠損金を利用して法人税を減らせる可能性が高いと判断された場合に、その節税効果を「繰延税金資産」として計上します。
つまり、
繰越欠損金は税法上の制度
繰延税金資産は会計上の表示
という違いがあります。
税法と会計が、それぞれ異なる目的で同じ情報を取り扱っているのです。
将来利益が見込めることが前提となる
繰延税金資産を計上するためには、将来利益が発生する見込みが必要です。
利益がなければ、繰越欠損金を利用する機会がありません。
そのため、
・利益計画
・受注状況
・市場環境
・過去の利益実績
などを総合的に判断し、回収可能性を検討します。
将来の利益が期待できない場合には、繰越欠損金が残っていても繰延税金資産として認識できないことがあります。
赤字企業でも計上できる場合がある
「赤字だから繰延税金資産は計上できない」と考えられがちですが、必ずしもそうではありません。
例えば、
・一時的な設備投資による赤字
・大型案件終了後に黒字転換が見込まれる場合
・十分な受注残高がある場合
など、将来利益を合理的に説明できれば、繰延税金資産を計上できるケースがあります。
逆に、長期間赤字が続き、利益改善の見込みが乏しい場合には、計上が難しくなります。
重要なのは「現在」ではなく、「将来の利益を合理的に見込めるかどうか」です。
経営計画の信頼性が問われる
繰延税金資産の計上では、利益計画の内容も重要になります。
単に「来年は黒字になります」と説明するだけでは十分ではありません。
売上計画や利益率、設備投資、人件費など、具体的な裏付けが求められます。
そのため、税効果会計は会計処理であると同時に、経営計画の妥当性を確認する制度でもあります。
経営者にとっては、自社の将来を客観的に見直す良い機会にもなるでしょう。
税理士は会計と税務をつなぐ存在である
繰越欠損金は税法上の制度であり、繰延税金資産は会計上の考え方です。
経営者にとって、この違いを理解することは容易ではありません。
だからこそ税理士には、制度を説明するだけでなく、
「将来利益が出れば、その赤字には価値が生まれる可能性があります」
という経営的な視点で伝えることが求められます。
また、利益計画の策定や資金繰りの見直しまで支援することで、税務と経営を結び付ける真のパートナーとしての役割を果たすことができます。
結論
繰越欠損金と繰延税金資産は、税法と会計の両面から企業の将来を考える重要な制度です。
繰越欠損金は将来の税負担を軽減する権利であり、その効果を決算書へ反映したものが繰延税金資産です。
しかし、その価値は将来利益を生み出せるかどうかによって決まります。
税理士は制度の説明だけでなく、経営計画や利益戦略まで含めて助言することで、企業の持続的な成長を支える存在として、より大きな価値を提供できるでしょう。
参考
企業実務 2026年7月号
会計上と税務上の資産・負債の額に差異があるときは?