人生100年時代の終活では、葬儀や相続の準備だけでなく、生きている間のお金の管理が重要になります。
長寿化によって老後の生活期間が延びる一方、医療費や介護費用、住まいの維持費など、将来必要になる支出を正確に予測することは容易ではありません。
また、預貯金や生命保険、有価証券などの財産を保有していても、家族がその存在を知らなければ、本人が認知症になった場合や亡くなった場合に、必要な手続きが難しくなる可能性があります。
特に近年は、インターネット銀行やネット証券など、紙の通帳や証書が存在しない金融資産も増えています。
本人だけが管理している金融資産は、家族にとって把握しにくい財産になりがちです。
終活におけるお金の整理は、単に財産を誰に残すかを考えることではありません。
自分自身の生活を最後まで支え、必要なときに家族が適切に対応できる状態を整えることが目的です。
今回は、預貯金、生命保険、年金、有価証券、不動産などを総点検する方法と、老後資金や相続に関する実務上の注意点について解説します。
終活のお金は残す前に使うことを考える
終活で財産整理を始めると、相続税対策や子どもへの財産承継に関心が向きがちです。
しかし、最初に考えるべきなのは、自分自身の老後生活を支えるために必要な資金です。
例えば、65歳から95歳までの30年間について、毎月の生活費が年金収入を5万円上回ると仮定します。
不足額は、5万円に12か月と30年間を掛けた1,800万円になります。
さらに、医療費や介護費用、住宅修繕費などの臨時支出が発生する可能性があります。
物価上昇によって生活費が増えることも考えられます。
一方で、年金額の改定や資産運用による収益などによって、収支が変化する場合もあります。
重要なのは、平均的な老後資金の目安をそのまま自分に当てはめないことです。
持ち家か賃貸住宅か、配偶者がいるか、何歳まで働くか、どのような生活を希望するかによって、必要な資金は大きく異なります。
相続税を減らすために生前贈与を進めた結果、本人の介護費用が不足するようでは本末転倒です。
終活では、まず自分自身の生活を守る資金を確保し、そのうえで財産承継を検討する順番が重要になります。
預貯金は金融機関ごとに一覧を作成する
財産整理の第一歩は、預貯金の確認です。
銀行や信用金庫、信用組合、ゆうちょ銀行など、利用している金融機関を一覧にまとめます。
確認したいのは、金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号、主な利用目的などです。
例えば、年金の受取口座、公共料金の引落口座、生活費の管理口座、緊急時の予備資金口座などに分けて整理すると、家族にも分かりやすくなります。
特に注意したいのが、長期間利用していない口座です。
転勤や引っ越しなどをきっかけに開設した口座が、そのまま残っている場合があります。
一定の条件を満たす長期間取引のない預金は、休眠預金等として扱われることがあります。
休眠預金等になっても所定の手続きによって払戻しを受けられますが、家族が口座の存在を知らなければ、手続きが難しくなる可能性があります。
また、預貯金口座が多すぎると、本人自身の管理負担も増えます。
利用目的が重複している口座については、必要に応じて整理することも考えられます。
ただし、口座を集約する際には、預金保険制度の保護範囲にも注意が必要です。
一般預金等は、原則として1金融機関につき預金者1人当たり元本1,000万円までとその利息等が保護されます。
決済用預金は、所定の要件を満たせば全額保護されます。
資金の安全性と管理のしやすさの両方を考慮することが重要です。
ネット銀行とネット証券の見落としに注意
近年の終活で特に重要になっているのが、デジタル金融資産の管理です。
インターネット銀行やネット証券では、紙の通帳や取引報告書が発行されない場合があります。
本人はスマートフォンやパソコンで簡単に確認できても、家族は口座の存在を把握できない可能性があります。
例えば、本人が複数のネット証券で株式や投資信託を保有していた場合を考えてみましょう。
家族が証券会社名を知らなければ、相続手続きを進める際に、保有資産の調査から始める必要があります。
そこで、金融機関名や口座の種類、問い合わせ先などを一覧にまとめておくことが有効です。
ただし、ログインIDやパスワードを誰でも見られる場所に記載することは避けるべきです。
不正アクセスや情報漏えいの危険があるためです。
家族には口座の存在と必要な情報の保管場所を伝え、実際の手続きは金融機関の定める方法に従うことが重要です。
本人が亡くなった後に、家族が本人のログイン情報を使って自由に取引してよいわけではありません。
デジタル金融資産についても、通常の金融資産と同様に適切な相続手続きが必要になります。
生命保険は契約内容を総点検する
生命保険は、終活において重要な役割を果たす金融商品です。
死亡保障だけでなく、医療保障、介護保障、個人年金など、契約内容によって目的が異なります。
まず確認したいのは、契約している保険会社、保険種類、保険金額、保険料、保険期間、保険金受取人などです。
特に注意したいのが、保険金受取人の確認です。
例えば、結婚前に加入した生命保険について、受取人を親のままにしている場合があります。
また、離婚や再婚、家族の死亡などによって、契約当初の受取人指定が現在の希望と一致しなくなっている可能性もあります。
受取人の変更には、契約内容や保険会社の手続きに従う必要があります。
また、死亡保険金は、契約者、保険料負担者、被保険者、受取人の関係によって、相続税、所得税、贈与税のいずれかの課税対象になる場合があります。
例えば、被相続人が保険料を負担し、その人の死亡によって相続人が受け取る死亡保険金は、相続税の課税対象となることがあります。
この場合、相続人が取得した死亡保険金については、一定の要件のもとで500万円に法定相続人の数を掛けた金額まで非課税となる制度があります。
ただし、すべての死亡保険金にこの非課税枠が適用されるわけではありません。
終活では、保障内容だけでなく、受取人と税務上の取扱いまで確認しておくことが重要です。
年金は夫婦単位で確認する
老後資金の中心となるのが公的年金です。
終活では、本人の年金額だけでなく、配偶者の年金も含めた世帯全体の収入を確認する必要があります。
例えば、夫婦2人で生活している場合、夫婦それぞれが年金を受給している間と、どちらか一方が亡くなった後では、世帯の収入構造が変化します。
遺族年金を受給できる場合もありますが、亡くなった人の年金額がそのまま配偶者に引き継がれるわけではありません。
遺族年金の受給要件や金額は、加入していた年金制度、保険料納付状況、遺族の年齢などによって異なります。
また、年齢差のある夫婦では、加給年金額や振替加算などの制度について確認が必要になる場合があります。
年金制度は改正が行われることもあるため、将来の受給見込みを定期的に確認することが大切です。
具体的には、ねんきん定期便やねんきんネットなどを活用して、年金記録や受給見込額を確認できます。
また、繰上げ受給や繰下げ受給を検討する際には、税金や社会保険料、配偶者の年金との関係なども考慮する必要があります。
単純に受給総額の損得だけで判断するのではなく、老後の生活設計全体の中で考えることが重要です。
有価証券は運用方針も見直す
株式や投資信託、債券などを保有している場合には、資産の一覧を作成するだけでなく、運用方針についても確認する必要があります。
特に高齢期には、資産を増やすことと、必要なときに使える状態を維持することのバランスが重要になります。
例えば、金融資産の大部分を価格変動の大きい株式で保有している場合、介護施設への入居費用が必要になった時期に株価が下落している可能性があります。
そのような状況で資産を売却すると、想定していた金額を確保できない場合があります。
そこで、近い将来に使う予定の資金については、流動性や安全性を重視して管理することが考えられます。
一方、長期間使う予定のない資金については、物価上昇への備えとして運用を続ける選択肢もあります。
また、NISA口座を利用している場合には、相続時の取扱いにも注意が必要です。
NISA口座の非課税の取扱いは、口座名義人が亡くなった後もそのまま相続人に引き継がれるわけではありません。
相続人は金融機関で必要な手続きを行い、取得した有価証券を所定の口座で管理することになります。
終活では、資産運用を続けるかどうかだけでなく、将来家族が管理しやすい状態にしておくことも考える必要があります。
不動産と借入金も忘れずに整理する
終活では、金融資産だけでなく、不動産や借入金についても確認することが重要です。
自宅や賃貸不動産、土地などを保有している場合には、所在地、登記名義、利用状況、固定資産税などを整理しておきます。
特に注意したいのが、共有名義の不動産です。
共有者が亡くなったり、認知症などによって判断能力が低下したりすると、売却や管理について複雑な問題が生じる可能性があります。
また、住宅ローンや事業資金の借入金などが残っている場合には、借入先、残高、返済条件、保証人の有無などを確認します。
相続では、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借入金などの債務も問題になります。
相続人は、原則として相続の開始を知った時から3か月以内に、相続放棄や限定承認などを検討する必要があります。
ただし、期間の起算点や伸長などには個別の事情が関係します。
借入金の存在が家族に伝わっていなければ、相続開始後に思わぬ問題が生じる可能性があります。
終活では、資産と負債の両方を整理することが欠かせません。
財産一覧表を作成する実務上のポイント
財産整理を進める際には、一覧表を作成すると管理しやすくなります。
例えば、預貯金、有価証券、生命保険、不動産、借入金、その他の財産という区分で整理する方法があります。
各項目について、金融機関や契約先、財産の内容、関係書類の保管場所などを記録します。
金額についても、確認した時点の残高や評価額を記載しておくと、財産全体を把握しやすくなります。
ただし、金融資産の残高や不動産の評価額は時間とともに変化します。
そのため、一覧表には作成日や確認日を記載しておくことが重要です。
また、財産一覧表は相続税の申告書や遺産分割協議書に代わるものではありません。
あくまで、本人と家族が財産の状況を把握するための資料です。
さらに、個人情報や金融資産に関する重要な情報が含まれるため、保管方法にも配慮する必要があります。
家族が必要なときに確認できることと、第三者に情報が漏れないことの両立が大切です。
家族との情報共有は段階的に進める
財産整理を行った後は、家族との情報共有について考える必要があります。
ただし、すべての財産情報を直ちに家族全員に開示する必要があるわけではありません。
財産の内容や家族関係によっては、情報の共有方法を慎重に検討した方がよい場合もあります。
例えば、まず配偶者に金融機関や保険会社の一覧を伝え、必要な書類の保管場所を共有する方法があります。
そのうえで、将来の財産管理を任せたい人と、必要な範囲で情報を共有することが考えられます。
また、認知症などによる判断能力の低下に備える場合には、任意後見制度や家族信託などの利用を検討することもあります。
ただし、家族に財産情報を伝えたことだけで、本人の財産を管理する法的権限が発生するわけではありません。
必要な権限については、制度や契約に基づいて適切に準備する必要があります。
終活における情報共有は、家族に財産を自由に使わせるためのものではありません。
本人の意思と財産を守りながら、必要な手続きを円滑に進めるためのものです。
結論
人生100年時代の終活では、預貯金、生命保険、年金、有価証券、不動産、借入金などを総合的に整理することが重要です。
特に、長寿化によって老後の生活期間が延びる中では、相続対策よりも先に、自分自身の生活を支える資金を確保する必要があります。
また、金融資産のデジタル化が進み、家族が把握しにくい財産も増えています。
本人が認知症などによって判断能力を失った場合や亡くなった場合に備え、財産の存在と必要な情報の保管場所を整理しておくことが大切です。
生命保険では受取人や税務上の取扱いを確認し、年金では夫婦単位の収入見通しを考える必要があります。
有価証券については、運用収益だけでなく、必要なときに資金を確保できるかという視点も欠かせません。
そして、財産一覧表を作成した後は、家族と適切な範囲で情報を共有することが重要になります。
終活におけるお金の整理は、財産を減らさないためだけの活動ではありません。
自分自身が安心して生活し、必要な医療や介護を受け、家族に過度な負担を残さないための準備です。
財産を誰に残すかを考える前に、まず自分が最後まで安心して使える状態にしておくことが、人生100年時代の終活における基本といえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月16日 終活ゲームで身近に かるたなど開発、家族と話すきっかけに
金融庁 NISA制度に関する説明資料
預金保険機構 預金保険制度の概要
日本年金機構 ねんきんネットの利用案内
国税庁 相続税の課税対象となる死亡保険金
国税庁 相続税の申告と納税に関する案内