相続争いは生前に防げる 遺言書と生前贈与の正しい活用法

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人生100年時代の終活では、自分自身の老後生活を守ることに加え、亡くなった後に家族が困らないように準備しておくことも重要です。

その代表的なものが相続対策です。

相続というと、資産家だけの問題だと考える人もいるかもしれません。

しかし、実際には財産がそれほど多くなくても、相続人の間で意見が対立することがあります。

特に、自宅などの不動産が財産の中心になっている場合や、特定の子どもが親の介護を担っていた場合には、遺産分割を巡る話し合いが難しくなることがあります。

また、相続税を減らすために生前贈与を進めた結果、家族間の不公平感が強まることも考えられます。

相続対策で重要なのは、単に税負担を減らすことではありません。

本人の意思を尊重しながら、家族が納得しやすい財産承継の仕組みを整えることです。

今回は、遺言書と生前贈与の基本的な仕組みを整理し、相続争いを防ぐための実務上の注意点について解説します。

相続争いは財産の多い家庭だけの問題ではない

相続争いが起こる原因は、財産の金額だけではありません。

むしろ、財産の種類や家族関係、相続人それぞれの生活状況が大きく影響します。

例えば、父親が亡くなり、相続人が母親と子ども2人だった場合を考えてみましょう。

遺産は自宅3,000万円と預貯金1,000万円の合計4,000万円です。

相続人が母親と子ども2人であれば、法定相続分は母親が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1になります。

金額に換算すると、母親が2,000万円、子どもがそれぞれ1,000万円です。

ただし、法定相続分は必ずその割合で分割しなければならないという意味ではありません。

相続人全員の合意によって、異なる分け方をすることもできます。

問題は、財産の大部分が自宅であることです。

母親が引き続き自宅に住みたいと考えている場合、自宅を売却して現金で分けることは現実的ではないかもしれません。

一方、子どもがそれぞれ法定相続分に相当する財産を希望すれば、話し合いが難しくなる可能性があります。

このように、財産総額が比較的小さくても、遺産の分け方によって争いが生じることがあります。

相続対策では、財産の金額だけでなく、実際に分割できるかどうかを確認することが重要です。

遺言書は本人の意思を伝える重要な手段

相続争いを防ぐ方法の一つが、遺言書の作成です。

遺言書を作成しておけば、本人が亡くなった後の財産承継について、自分の意思を明確に示すことができます。

例えば、配偶者が引き続き生活できるように自宅を配偶者に相続させ、預貯金を子どもに分けるといった内容を定めることが考えられます。

また、事業を営んでいる場合には、事業用資産や自社株式を後継者に承継させることも重要な課題になります。

ただし、遺言書には法律上の方式が定められています。

単に紙に希望を書いておけば、必ず法的な効力が認められるわけではありません。

また、遺言書を作成しても、相続人の遺留分などに関する問題が生じる場合があります。

遺言書は相続争いを防ぐための有効な手段ですが、家族関係や財産の内容を踏まえて作成することが大切です。

自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

一般的に利用される遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

自筆証書遺言は、遺言者が原則として全文、日付、氏名を自書し、押印して作成する方式です。

財産目録については、一定の要件を満たせばパソコンなどで作成することもできます。

自分で作成できるため、比較的費用を抑えられることが特徴です。

一方で、法律上の方式を満たしていなければ、遺言が無効になる可能性があります。

また、自宅で保管している場合には、紛失や改ざん、発見されないといった問題も考えられます。

こうした問題への対応として、法務局による自筆証書遺言書保管制度があります。

この制度を利用すると、法務局で遺言書を保管してもらうことができます。

保管された遺言書については、相続開始後の家庭裁判所による検認が不要になるなどの利点があります。

ただし、法務局が遺言内容の法的な有効性を全面的に保証する制度ではありません。

一方、公正証書遺言は、公証人が法律上の手続きに従って作成する方式です。

原則として証人2人以上の立会いが必要になります。

公証人が関与するため、方式の不備による無効のリスクを抑えやすいことが特徴です。

ただし、作成には所定の費用がかかります。

財産の内容が複雑な場合や、相続人の間で意見が対立する可能性がある場合には、公正証書遺言を検討する意義が大きいといえるでしょう。

遺留分を無視した遺言には注意が必要

遺言書を作成する際には、遺留分について理解しておく必要があります。

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障される最低限の遺産取得に関する権利です。

兄弟姉妹以外の相続人に認められています。

例えば、相続人が配偶者と子ども2人の場合、原則として相続財産全体の2分の1が遺留分の対象となる割合です。

これを法定相続分に応じて配分すると、配偶者の遺留分は相続財産全体の4分の1、子どもはそれぞれ8分の1になります。

仮に、父親が長男にすべての財産を相続させるという遺言書を作成した場合、配偶者や次男の遺留分が問題になる可能性があります。

遺留分を侵害する遺言が当然に無効になるわけではありません。

遺留分を侵害された相続人は、一定の要件のもとで遺留分侵害額請求を行うことができます。

この請求は原則として金銭の支払いを求めるものです。

そのため、不動産や自社株式を特定の相続人に集中させる場合には、遺留分に対応する資金を確保しておくことも重要になります。

遺言書を作成する際には、財産を誰に承継させたいかという希望だけでなく、他の相続人の権利にも配慮する必要があります。

生前贈与は相続対策の有効な選択肢

生前贈与は、本人が生きている間に財産を家族などへ移転する方法です。

例えば、子どもの住宅取得資金や教育資金を援助するために、預貯金を贈与することが考えられます。

また、将来の相続を見据えて、計画的に財産を移転する場合もあります。

贈与税には、暦年課税と相続時精算課税という仕組みがあります。

暦年課税では、原則として1年間に贈与を受けた財産の合計額から110万円の基礎控除額を差し引いて贈与税を計算します。

ただし、110万円以下の贈与であれば、相続税との関係でも必ず課税対象から除外されるという意味ではありません。

相続開始前の一定期間内に行われた贈与については、相続税の課税価格に加算される場合があります。

また、贈与は財産を渡す人と受け取る人の合意によって成立する契約です。

親が子ども名義の預金口座に資金を移しただけでは、当然に贈与が成立したことになるわけではありません。

実際の管理状況などによっては、名義預金として相続財産に含まれる可能性があります。

生前贈与を行う場合には、贈与の意思、財産の移転、受贈者による管理などを明確にしておくことが重要です。

生前贈与の相続税加算期間は7年間へ

近年の税制改正では、生前贈与と相続税の関係が見直されています。

暦年課税による生前贈与について、相続税の課税価格に加算される期間は、従来の相続開始前3年間から7年間へ段階的に延長されています。

この見直しは、2024年1月1日以後の贈与から適用されます。

ただし、相続開始前7年間の贈与がすべて直ちに加算対象になるわけではありません。

経過措置が設けられているため、相続開始時期によって対象期間が異なります。

また、相続開始前3年以内の贈与を除く延長された4年間の贈与については、合計100万円まで加算対象から控除される仕組みがあります。

例えば、2024年以降に贈与を始めた場合でも、相続開始時期によって加算対象となる贈与の範囲は異なります。

そのため、生前贈与を検討する際には、単に毎年110万円ずつ贈与すればよいと考えるのではなく、相続税の加算制度まで確認する必要があります。

また、財産を早い段階で移転することには、税務面以外の効果もあります。

子どもが住宅購入や教育費などで資金を必要としている時期に援助できることは、生前贈与の意義の一つです。

相続税の節税だけでなく、家族の生活設計に役立つ財産移転を考えることが重要です。

相続時精算課税制度の活用にも注意

相続時精算課税制度も、生前贈与を考える際の選択肢になります。

原則として、一定の年齢要件を満たす父母や祖父母から、18歳以上の子や孫などへの贈与について選択できる制度です。

2024年以降の贈与については、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が設けられています。

この基礎控除の範囲内の贈与については、原則として贈与税が課されず、相続税の課税価格にも加算されません。

また、基礎控除後の贈与については、累計2,500万円までの特別控除を利用できる仕組みがあります。

ただし、特別控除を利用した贈与財産については、原則として贈与者の相続時に相続税の課税価格へ加算されます。

相続時精算課税制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与について、原則として暦年課税に戻ることはできません。

そのため、制度の選択は慎重に行う必要があります。

また、将来値上がりが見込まれる財産を贈与する場合には、相続時の評価との関係で有利になる可能性がありますが、財産の種類や将来の価格変動によって結果は異なります。

相続時精算課税制度が、すべての人にとって有利になるわけではありません。

家族構成、財産の内容、将来の相続税負担などを踏まえて判断することが重要です。

不動産の相続では分割方法を考える

相続争いを防ぐためには、不動産の承継方法についても事前に検討する必要があります。

例えば、自宅を子ども2人の共有名義で相続させる方法があります。

一見すると公平な分割方法に思えるかもしれません。

しかし、共有不動産は将来の管理や処分について問題が生じる可能性があります。

例えば、長男は自宅を売却したいと考えている一方、次男は賃貸住宅として活用したいと考えている場合です。

共有不動産の売却には、原則として共有者全員の同意が必要になります。

さらに、共有者の一人が亡くなると、その持分が次の世代に相続され、権利関係が複雑になる可能性があります。

こうした問題を避けるためには、不動産を特定の相続人に承継させ、他の相続人には預貯金などを分ける方法が考えられます。

また、不動産を取得する相続人が、他の相続人に代償金を支払う代償分割という方法もあります。

ただし、代償分割を行う場合には、代償金を支払う資金を確保する必要があります。

生命保険などを活用して資金を準備する方法も考えられますが、契約内容や税務上の取扱いには注意が必要です。

不動産の相続対策では、公平性だけでなく、将来の管理や処分のしやすさまで考えることが重要です。

家族との対話が相続争いを防ぐ

遺言書や生前贈与などの制度を利用しても、家族間の対立を完全に防げるわけではありません。

例えば、長男が長年親の介護を担っていた場合、長男はその負担を相続に反映してほしいと考えるかもしれません。

一方、次男は法定相続分に従って平等に分けるべきだと考える可能性があります。

このような場合、単に財産を均等に分ければ、全員が納得するとは限りません。

重要なのは、本人がなぜそのような財産の分け方を希望するのかを、可能な範囲で家族に伝えておくことです。

例えば、遺言書に付言事項を設け、財産承継に関する思いや家族への感謝を記載する方法があります。

付言事項は、原則として財産処分などの法的効力を直接生じさせるものではありません。

しかし、遺言者の考えを家族に伝える役割が期待できます。

また、相続について家族で話し合う際には、本人の意思を尊重することが重要です。

子どもが親に財産の分け方を強く求めたり、特定の相続人が他の家族を排除して手続きを進めたりすることは、かえって争いの原因になりかねません。

終活としての相続対策は、家族のためであると同時に、本人の意思を守るためのものでもあります。

相続税対策よりも本人の生活保障を優先する

相続対策では、相続税の節税に関心が集まりやすくなります。

しかし、人生100年時代には、本人が長期間生活する可能性を十分に考慮する必要があります。

例えば、70歳の時点で多額の財産を子どもに贈与した場合、その後30年間にわたって生活費や介護費用が必要になる可能性があります。

また、配偶者が長生きする場合には、配偶者の生活資金も確保しなければなりません。

相続税を減らすために財産を移転した結果、本人や配偶者の生活資金が不足するようでは適切な対策とはいえません。

さらに、贈与した財産は、原則として受贈者の財産になります。

後から必要になったからといって、当然に返してもらえるわけではありません。

そのため、生前贈与を進める際には、本人と配偶者の生活費、医療費、介護費用などを見積もり、必要な資金を十分に確保することが重要です。

相続税対策は、本人の生活保障を確保した後に検討するべき課題です。

結論

相続争いを防ぐためには、遺言書や生前贈与などの制度を正しく理解し、早い段階から準備することが重要です。

相続争いは、財産の多い家庭だけで起こるものではありません。

自宅などの不動産が財産の中心になっている場合や、家族間で介護負担などに差がある場合には、比較的少額の財産でも意見が対立する可能性があります。

遺言書は本人の意思を明確にする有効な手段ですが、遺留分などの問題にも配慮する必要があります。

また、生前贈与には暦年課税と相続時精算課税という仕組みがあり、それぞれ税務上の特徴が異なります。

特に近年は、生前贈与の相続税加算期間の延長や相続時精算課税制度の見直しが行われており、従来の知識だけで判断することは適切ではありません。

そして、何より重要なのは、相続税の節税だけを目的にしないことです。

本人と配偶者の老後資金を確保し、家族が納得しやすい財産承継の方法を考える必要があります。

終活としての相続対策は、財産を残すためだけの活動ではありません。

本人の意思を尊重し、家族が将来も良好な関係を維持できるようにするための準備です。

遺言書や生前贈与は、その目的を実現するための手段として活用することが大切なのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月16日 終活ゲームで身近に かるたなど開発、家族と話すきっかけに

法務省 自筆証書遺言書保管制度の概要

法務省 民法における相続制度の概要

国税庁 相続税の申告と納税

国税庁 暦年課税による贈与財産の相続税への加算

国税庁 相続時精算課税制度の概要

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