日本版DOGEは税制改革の転換点となるのか 国民から寄せられた3万7,000件の意見と行政改革

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日本の税制改革が、新たな段階に入ろうとしています。

2026年10月12日付の税のしるべに掲載された片山さつき財務大臣と稲垣光隆大蔵財務協会理事長の特別対談では、日本版DOGEと呼ばれる租税特別措置や補助金の見直しについて、注目すべき発言がありました。

片山財務大臣によると、政府が国民から意見を募集したところ、3万7,000件もの意見が寄せられました。

しかも、単純な減税要求だけではなく、個別の租税特別措置の必要性を問う専門的な意見が数多く含まれていたといいます。

一方、各省庁が自ら廃止を提案した租税特別措置は、わずか3件にとどまったと説明されています。

この対照的な数字は、日本の行政改革が抱える構造的な問題を浮き彫りにしています。

今回は、日本版DOGEの目的と課題を整理し、租税特別措置や補助金の見直しが、今後の税制改革と企業経営にどのような影響を与えるのかを考えます。

日本版DOGEとは何か

DOGEとは、米国で政府の効率化を掲げた取組みに用いられた名称です。

政府支出の削減や行政組織の効率化などを目指す考え方として注目されました。

日本版DOGEは、こうした行政改革の考え方を参考に、租税特別措置や補助金などの必要性を見直そうとする取組みです。

今回の対談では、租税特別措置・補助金見直し担当室の設置についても言及されています。

重要なのは、単純に税制優遇や補助金を減らすことだけが目的ではないという点です。

本来の目的は、限られた財政資源をより効果的に活用することにあります。

例えば、長年継続している補助金であっても、政策目的が既に達成されている場合には、制度を見直す余地があります。

また、租税特別措置についても、制度を利用する企業がほとんど存在しない場合や、十分な政策効果が確認できない場合には、存続の必要性を検討することになります。

一方、企業の研究開発や設備投資を促進するなど、明確な政策効果が認められる制度については、維持する合理性があります。

したがって、日本版DOGEの成否は、削減した金額の大きさだけでなく、政策効果をどこまで客観的に検証できるかにかかっています。

国民から寄せられた3万7,000件の意見

今回の対談で特に注目されるのが、国民から寄せられた3万7,000件の意見です。

片山財務大臣は、消費税の廃止などを求める意見が多く寄せられるのではないかと予想していたものの、実際には専門的な意見が多かったと説明しています。

例えば、利用実績がないにもかかわらず存続している租税特別措置について、廃止を検討すべきだという意見が寄せられたとしています。

これは、国民の関心が税負担の軽減だけでなく、税金の使い方や税制優遇の公平性にも向けられていることを示しています。

ただし、寄せられた意見の件数だけで、国民全体の意向を判断することはできません。

意見募集に参加した人々の関心や専門知識には偏りがある可能性があります。

また、専門的な意見であっても、その内容が必ずしも正しいとは限りません。

重要なのは、寄せられた意見を政策評価の材料として活用し、客観的なデータと照らし合わせて検証することです。

国民からの提案を行政改革につなげるには、意見の募集だけでなく、その後の検討過程を透明化することが求められます。

なぜ省庁は制度の廃止を提案しにくいのか

片山財務大臣によると、各省庁が自ら廃止を提案した租税特別措置は3件にとどまりました。

しかも、その対象は利用実績がゼロ、あるいは税収減少額が非常に少ないものなどだったと説明されています。

この数字は、既存制度を見直すことの難しさを示しています。

租税特別措置や補助金には、それぞれ政策目的があります。

例えば、設備投資を促進する制度であれば、産業振興を担当する省庁にとって重要な政策手段になります。

また、制度を利用する企業や業界団体にとっては、税負担の軽減や資金調達の支援につながります。

そのため、制度を廃止しようとすると、政策目的の継続性や関係者への影響が問題になります。

さらに、制度を廃止することが、過去の政策判断を否定するように受け止められる場合もあります。

こうした事情から、各省庁が自ら制度の廃止を積極的に提案することは容易ではありません。

ただし、省庁からの廃止提案が少ないことだけで、すべての制度が不必要に存続していると判断することも適切ではありません。

制度ごとの政策効果や利用実績を検証したうえで、存続の必要性を判断することが重要です。

租税特別措置が存続しやすい構造

租税特別措置には、一度創設されると継続しやすいという構造的な問題があります。

制度を創設する際には、政策目的や期待される効果が説明されます。

しかし、制度の導入後に、その効果が十分に検証されないまま延長される場合には、政策の必要性が不明確になります。

例えば、特定の設備投資を促進するために税額控除制度を創設したとします。

制度導入から数年が経過し、企業の設備投資が増加した場合でも、その増加が税制優遇によるものなのか、景気回復や技術革新によるものなのかを区別する必要があります。

税制優遇がなくても実施された投資に対して税額控除を認めているだけであれば、追加的な政策効果は限定的です。

一方、税制優遇によって新たな投資が実現したのであれば、制度を維持する合理性があります。

したがって、制度の利用実績だけでなく、制度が存在しなかった場合との比較が重要になります。

このような政策効果の検証を継続的に行うことが、租税特別措置の適正化につながります。

補助金と租税特別措置を一体で見直す意義

日本版DOGEでは、補助金と租税特別措置を一体として見直すことにも意味があります。

補助金は、政府が予算を通じて企業や個人などに資金を交付する制度です。

一方、租税特別措置は、税額控除や特別償却などを通じて税負担を軽減する制度です。

両者は仕組みが異なりますが、政策目的を実現するために公的な財政資源を活用するという点では共通しています。

例えば、企業の設備投資を促進するため、設備投資補助金と税額控除制度が設けられている場合があります。

同じ政策目的に対して複数の支援制度が存在する場合には、それぞれの役割を整理する必要があります。

ただし、補助金と税額控除には異なる特徴があります。

補助金は、採択要件や交付時期によって資金繰りに影響します。

一方、税額控除は、原則として納付すべき税額との関係で効果が決まります。

赤字企業では税額控除を十分に活用できない場合があるため、補助金の方が有効な支援手段となることもあります。

したがって、単純に補助金と税額控除を統合すればよいというわけではありません。

政策目的、対象企業、支援効果、行政コストなどを比較し、適切な制度を選択することが重要です。

政策効果をどのように検証するのか

租税特別措置や補助金の見直しでは、政策効果を客観的に評価する仕組みが必要です。

例えば、設備投資税制については、制度を利用した企業の設備投資額を把握することが考えられます。

しかし、制度利用企業の投資額が増加したという事実だけでは、税制優遇の効果を十分に説明できません。

景気の変動や企業業績の改善など、他の要因によって投資が増加した可能性があるためです。

そのため、制度を利用した企業と利用していない企業の比較など、複数の方法によって政策効果を検証する必要があります。

研究開発税制であれば、研究開発費の増加だけでなく、技術革新や生産性向上への影響も重要です。

賃上げ促進税制であれば、税制優遇がなかった場合と比較して、賃金がどの程度増加したかが論点になります。

また、政策効果を評価する際には、税収減少額や補助金支出額に対して、どの程度の成果が得られたかという費用対効果の視点も必要です。

政策目的が達成されていない制度については、廃止だけでなく、対象範囲や適用要件を変更することも選択肢になります。

企業経営に与える影響

日本版DOGEによる見直しが進めば、企業経営にも影響が及ぶ可能性があります。

特に、租税特別措置や補助金を前提として設備投資や研究開発を行っている企業では、制度変更への対応が重要になります。

例えば、設備投資に対する税額控除を利用している企業があるとします。

制度の適用期限が終了し、延長されなければ、同じ設備投資を行っても税負担軽減を受けられなくなる可能性があります。

また、補助金が縮小されれば、設備投資に必要な自己資金や借入金が増加する場合があります。

こうした制度変更は、企業の資金繰りや投資収益率に影響します。

そのため、企業は税制優遇や補助金が将来も継続することを当然視せず、制度変更を想定した経営計画を策定する必要があります。

特に重要なのは、税制優遇が利用できない場合でも、その投資が経済合理性を持つかどうかを確認することです。

税制優遇や補助金は、企業経営を支援する手段であって、投資そのものの採算性を保証するものではありません。

中小企業への影響をどう考えるか

租税特別措置や補助金の見直しでは、中小企業への影響にも注意が必要です。

大企業では、専門部署が税制改正や補助金制度の動向を把握し、経営計画に反映することができます。

一方、中小企業では、経営者や少人数の管理部門が制度変更に対応しなければならない場合があります。

また、中小企業にとっては、数百万円の税額控除や補助金であっても、資金繰りに大きな影響を与えることがあります。

例えば、設備投資額3,000万円の中小企業が、一定の補助金を見込んで投資計画を策定している場合です。

補助金が利用できなくなれば、自己資金や借入金の必要額が増加します。

その結果、投資計画の変更や延期が必要になる可能性があります。

したがって、制度を見直す際には、政策効果だけでなく、企業規模による影響の違いも考慮する必要があります。

また、制度変更の周知期間や経過措置を適切に設けることも重要です。

税理士に求められる役割

租税特別措置や補助金の見直しが進む場合、税理士には従来以上に制度変更への対応力が求められます。

まず、顧問先が利用している租税特別措置を把握し、適用期限や要件を確認する必要があります。

また、制度が廃止または縮小された場合に、法人税負担や資金繰りがどの程度変化するかを試算することも重要です。

例えば、毎年300万円の税額控除を受けている企業では、制度変更によって年間の税負担が増加する可能性があります。

その場合、設備投資計画や資金繰り計画への影響を早期に検討することが望まれます。

さらに、税制優遇と補助金の双方を利用している企業では、それぞれの適用要件や併用制限などを確認する必要があります。

ただし、税理士の業務範囲と補助金申請に関する業務範囲は必ずしも一致しません。

必要に応じて、行政書士や中小企業診断士など、他の専門家との連携も重要になります。

今後の税務専門家には、税額計算だけでなく、税制改正が企業経営に与える影響を整理し、経営者の判断を支援する役割が求められます。

日本版DOGEが成功するための条件

日本版DOGEを実効性のある行政改革につなげるためには、いくつかの条件があります。

第一に、租税特別措置や補助金の政策目的を明確にすることです。

第二に、制度の利用実績や政策効果を客観的に検証することです。

第三に、制度の存続や廃止を判断した理由を国民に説明することです。

第四に、制度変更によって生じる企業や地域経済への影響を考慮することです。

特に重要なのは、削減額だけを改革の成果としないことです。

例えば、年間100億円の補助金を廃止しても、その結果として企業の設備投資や雇用が大幅に減少すれば、社会全体にとって望ましい改革とは限りません。

一方、政策効果が乏しい制度を廃止し、より効果的な政策に財源を振り向けることができれば、行政改革の意義は大きくなります。

また、制度を見直した後も、経済や企業行動への影響を継続的に検証する必要があります。

行政改革は、一度制度を廃止すれば終わりというものではありません。

政策の立案、実施、評価、見直しを継続する仕組みを構築することが重要です。

結論

日本版DOGEは、租税特別措置や補助金の必要性を改めて問い直す取組みです。

今回の片山財務大臣と稲垣理事長の対談では、国民から3万7,000件の意見が寄せられた一方、各省庁が自ら廃止を提案した租税特別措置は3件にとどまったことが明らかにされました。

この数字は、既存制度の見直しが容易ではないことを示しています。

しかし、財政資源が限られる中で、政策効果が十分に確認できない制度を漫然と継続することは適切ではありません。

今後は、租税特別措置や補助金について、政策目的、利用実績、費用対効果を客観的に検証することが重要になります。

また、制度の廃止や縮小によって企業経営に影響が及ぶ場合には、適切な周知や経過措置も必要です。

企業としては、税制優遇や補助金が将来も継続することを前提とせず、制度変更に対応できる経営体制を整える必要があります。

税理士や経理部門にも、税制改正の内容を把握するだけでなく、制度変更が企業の投資判断や資金繰りに与える影響を分析する役割が求められます。

日本版DOGEが税制改革の転換点となるかどうかは、削減額の大きさではなく、政策効果に基づいて制度を見直す仕組みを定着させられるかにかかっています。

税制優遇や補助金を存続させること自体を目的とするのではなく、限られた財源をどのように活用すれば社会全体の利益につながるのかという視点が、今後ますます重要になると考えられます。

参考

税のしるべ 2026年10月12日 大蔵財務協会創立90周年記念・片山財務大臣と稲垣理事長の特別対談、飲食料品の消費税率引下げや租特の見直しなどを語る

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