租税特別措置の見直しに企業はどう備えるべきか 設備投資と研究開発と賃上げ税制の点検と経営判断

税理士
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租税特別措置の見直しが進む中、企業には税制優遇が将来も継続することを前提としない経営判断が求められています。

2026年10月12日付の税のしるべに掲載された片山さつき財務大臣と稲垣光隆大蔵財務協会理事長の特別対談では、租税特別措置の政策効果を検証し、必要性が乏しい制度について見直しを進める方向性が示されました。

特に注目されるのは、従来のように制度の存続を前提とするのではなく、政策効果が十分に確認できるかどうかを重視する姿勢です。

企業にとって租税特別措置は、設備投資や研究開発、賃上げなどを支援する重要な制度です。

しかし、制度の縮小や廃止によって、税負担や資金繰りが変化する可能性があります。

今回は、租税特別措置の見直しに備えて企業が確認すべき事項を整理し、経理部門と経営者がどのように対応すべきかを考えます。

まず自社が利用している租税特別措置を把握する

企業が最初に取り組むべきことは、自社がどのような租税特別措置を利用しているかを把握することです。

法人税申告書には、税額控除や特別償却などの適用に関係する別表が添付されます。

これらの資料を確認することで、過去に利用した税制優遇の内容を把握できます。

例えば、研究開発税制、賃上げ促進税制、中小企業向け設備投資税制などが考えられます。

また、税額控除だけでなく、特別償却や準備金制度などについても確認する必要があります。

重要なのは、制度の名称を把握するだけでなく、実際にどの程度の税負担軽減を受けているかを確認することです。

例えば、過去3年間に毎年500万円の税額控除を受けている企業であれば、制度変更が将来の税負担に影響する可能性があります。

一方、制度の適用を受けていても、税額控除限度額などの関係で、実際の控除額が少ない場合もあります。

そのため、申告書上の適用状況と実際の税負担軽減額を区別して把握することが重要です。

設備投資税制の見直しに備える

設備投資税制は、企業の生産性向上や競争力強化を支援するための重要な政策手段です。

一定の要件を満たす設備について、特別償却や税額控除を認める制度があります。

例えば、製造業が新たな生産設備を導入する場合、設備投資税制を利用できれば、初年度の税負担や資金繰りに影響します。

ただし、税額控除と特別償却では、その効果が異なります。

税額控除は、一定の金額を法人税額から直接控除する仕組みです。

一方、特別償却は、通常より早い時期に減価償却費を計上することによって、課税所得を減少させる仕組みです。

特別償却は、原則として減価償却費を計上する時期を前倒しするものであり、設備の取得価額を超えて償却できるわけではありません。

そのため、税額控除と特別償却では、税負担軽減の時期や効果を区別して評価する必要があります。

今後、設備投資税制が縮小された場合には、投資計画の採算性が変化する可能性があります。

企業は、税制優遇が利用できる場合と利用できない場合の双方について、投資収益率や資金繰りを試算しておくことが望まれます。

設備投資の判断を税制優遇に依存しすぎない

設備投資を行う際には、税制優遇の有無だけで判断しないことが重要です。

例えば、取得価額1億円の設備について、仮に10%の税額控除が認められるとします。

適用要件や控除限度額を満たせば、最大1,000万円の税額控除を受けられる計算になります。

しかし、税額控除があるからといって、その設備投資が必ずしも合理的であるとは限りません。

設備の導入によって生産性が向上するのか、売上高や利益が増加するのか、維持管理費がどの程度発生するのかを検討する必要があります。

また、設備投資には減価償却費だけでなく、修繕費、保守費用、人件費などの支出が伴う場合があります。

税制優遇による負担軽減額が大きくても、設備の稼働率が低ければ、投資全体の採算性が悪化する可能性があります。

したがって、設備投資の判断では、税制優遇を考慮する前の投資収益率を確認することが基本になります。

そのうえで、税制優遇によって投資回収期間や資金繰りがどの程度改善するかを評価することが重要です。

研究開発税制の適用状況を点検する

研究開発税制は、企業の技術革新や競争力向上を支援する制度です。

一定の試験研究費について、法人税額から一定額を控除する仕組みが設けられています。

研究開発投資は、成果が得られるまでに長い時間を要する場合があります。

また、多額の研究開発費を支出しても、必ずしも事業化に成功するとは限りません。

こうした不確実性を伴う投資を税制面から支援することには、政策的な意義があります。

一方、租税特別措置の見直しでは、研究開発税制についても政策効果を検証することが重要になります。

例えば、税制優遇が存在することによって、企業の研究開発投資がどの程度増加したかという点です。

企業としては、研究開発税制の適用要件を満たしているかだけでなく、研究開発費の管理体制を整備する必要があります。

特に、試験研究費に該当する費用と通常の製造費用や販売費用を適切に区分することが重要です。

また、研究開発活動の内容、費用の発生状況、関連資料などを保存し、税務調査にも対応できる体制を整える必要があります。

研究開発費の管理が重要になる理由

研究開発税制の適用では、費用の名称だけで判断することはできません。

例えば、企業が新製品の開発に取り組んでいる場合でも、すべての支出が当然に試験研究費に該当するわけではありません。

研究開発活動の内容や費用の性質に応じて、税法上の要件を確認する必要があります。

また、研究開発費には、人件費、材料費、外注費など、複数の費用が含まれる場合があります。

特に人件費については、研究開発業務への従事状況などを適切に把握することが重要です。

例えば、研究開発部門の従業員が通常の製造業務も担当している場合には、業務内容や従事実態に応じた確認が必要になります。

このような管理体制は、税額控除の適用だけでなく、研究開発投資の採算性を評価するうえでも役立ちます。

研究開発費を適切に管理することで、どの研究テーマにどの程度の資金を投入し、どのような成果が得られているかを把握しやすくなります。

租税特別措置の見直しを契機として、研究開発費の管理精度を高めることは、企業経営にとっても重要な意味があります。

賃上げ促進税制の見直しに備える

賃上げ促進税制は、企業の賃上げを税制面から支援する制度です。

一定の要件を満たす賃上げを行った企業について、法人税額などから一定額を控除する仕組みが設けられています。

近年、人手不足や物価上昇を背景として、企業には継続的な賃上げが求められています。

しかし、賃上げは企業にとって継続的な人件費負担の増加につながります。

例えば、従業員100人の企業が、1人当たり年間20万円の賃上げを実施した場合、単純計算では年間2,000万円の給与負担増加となります。

さらに、社会保険料の事業主負担なども増加する可能性があります。

一方、賃上げ促進税制による税額控除は、制度の適用要件や控除限度額によって決まります。

したがって、税額控除を受けられるからといって、賃上げに伴う人件費増加をすべて補えるわけではありません。

企業は、税制優遇の有無にかかわらず、継続的な賃上げを実施できる収益力を確保する必要があります。

賃上げと生産性向上を一体で考える

賃上げ促進税制の見直しを考える際には、賃上げと生産性向上の関係が重要になります。

企業が継続的に賃上げを実施するためには、人件費の増加を吸収できる付加価値を生み出す必要があります。

例えば、設備投資によって生産効率を高めたり、デジタル化によって事務作業を削減したりすることが考えられます。

また、商品やサービスの付加価値を高め、適正な価格転嫁を進めることも重要です。

税制優遇は、こうした企業努力を後押しする手段です。

しかし、税額控除だけで企業の賃上げを持続可能にすることは困難です。

特に中小企業では、人件費の増加が資金繰りに与える影響を慎重に検討する必要があります。

賃上げ計画を策定する際には、売上高、粗利益、人件費、営業利益、営業キャッシュフローなどを総合的に確認することが望まれます。

租税特別措置の見直しを機に、税制優遇に依存しない賃上げの仕組みを構築することが重要です。

税制優遇が廃止された場合の影響を試算する

企業が実務的に取り組むべきことの一つが、税制優遇の廃止や縮小を想定した試算です。

例えば、ある企業の年間税引前利益が5,000万円で、税額控除前の法人税等を1,500万円と仮定します。

この企業が年間300万円の税額控除を受けている場合、税額控除後の税負担は1,200万円となります。

仮に税額控除が利用できなくなれば、他の条件が同じである限り、税負担は1,500万円になります。

つまり、年間300万円の資金流出増加が生じる計算です。

もちろん、実際の法人税等の計算では、税額控除の種類や適用限度額、地方税への影響などを確認する必要があります。

また、制度が縮小される場合には、控除率や控除限度額の変更によって影響額が異なります。

そのため、制度の廃止だけでなく、控除率の引下げや適用要件の厳格化なども想定して試算することが重要です。

こうした試算を行うことで、税制改正が企業の利益計画や資金繰りに与える影響を早期に把握できます。

税制改正と中期経営計画を連動させる

租税特別措置の見直しは、単年度の税務申告だけでなく、中期経営計画にも影響します。

例えば、3年間で総額10億円の設備投資を予定している企業があるとします。

その投資計画に税額控除や特別償却の適用を織り込んでいる場合、制度変更によって投資後の資金繰りが変化する可能性があります。

また、研究開発投資や賃上げについても、複数年度にわたる計画が一般的です。

そのため、中期経営計画では、税制優遇が継続する場合と縮小される場合の双方について検討することが望まれます。

具体的には、税引後利益、営業キャッシュフロー、設備投資額、借入金返済額などを比較します。

特に重要なのは、税制優遇がなくなった場合でも、必要な資金を確保できるかという点です。

金融機関からの借入れを利用する企業では、税負担の増加が返済余力に与える影響も確認する必要があります。

税制改正への対応を経理部門だけの問題とせず、経営計画全体の中で検討することが重要です。

経理部門と事業部門の連携が不可欠になる

租税特別措置を適切に利用するためには、経理部門と事業部門の連携が必要です。

例えば、設備投資税制では、設備の種類、取得価額、取得時期、事業供用日などが重要になります。

これらの情報は、経理部門だけでなく、設備投資を担当する事業部門や購買部門が管理している場合があります。

また、研究開発税制では、研究開発活動の内容や費用の発生状況について、技術部門との連携が必要です。

賃上げ促進税制では、人事部門や給与計算部門との情報共有が重要になります。

制度の適用要件を確認する段階になってから資料を収集するのでは、必要な情報が不足する可能性があります。

そのため、設備投資や研究開発、賃上げの計画段階から、経理部門が関与する体制を整えることが望まれます。

例えば、一定額以上の設備投資を行う場合には、投資稟議の段階で税制優遇の適用可能性を確認する仕組みが考えられます。

ただし、税制優遇の適用可能性だけで投資判断を左右しないことも重要です。

経理部門には、税務上のメリットと事業上の合理性を区別して説明する役割が求められます。

税理士に求められる事前対応

租税特別措置の見直しが進む中、税理士には申告時の確認だけでなく、事前の対応が求められます。

例えば、顧問先が設備投資を予定している場合には、適用可能な税制優遇とその要件を確認することが重要です。

また、制度の適用期限が近い場合には、改正動向を踏まえて投資計画への影響を整理する必要があります。

ただし、税制優遇を受けるためだけに設備投資を前倒しすることには慎重であるべきです。

事業上の必要性や資金繰りを十分に確認したうえで判断する必要があります。

研究開発税制については、試験研究費の範囲や証拠資料の整備について、早期に確認することが重要です。

賃上げ促進税制についても、給与計算や人事制度との関係を確認する必要があります。

今後の税務専門家には、制度を適用できるかどうかだけでなく、制度変更が企業経営に与える影響を説明する役割が求められます。

また、制度改正が決定していない段階では、見直しの可能性と確定した改正内容を明確に区別することが重要です。

不確実な情報に基づいて企業が過度な対応を行わないよう、正確な情報提供が必要になります。

結論

租税特別措置の見直しは、企業の税負担だけでなく、設備投資、研究開発、賃上げなどの経営判断にも影響する可能性があります。

片山財務大臣は、租税特別措置について、政策効果が十分に確認できるかどうかを重視する姿勢を示しています。

今後は、制度の存続を前提とせず、必要性や政策効果に応じて見直しを進める方向性が強まる可能性があります。

企業としては、まず自社が利用している租税特別措置を把握し、制度変更による税負担や資金繰りへの影響を試算することが重要です。

また、設備投資や研究開発、賃上げについては、税制優遇が利用できない場合でも、経済合理性があるかどうかを確認する必要があります。

税制優遇は企業活動を支援する重要な制度ですが、経営判断そのものを代替するものではありません。

今後の企業経営では、税制優遇を最大限活用することに加えて、制度変更に左右されにくい収益構造を構築することが重要になります。

経理部門や税理士には、税制改正の情報を把握するだけでなく、経営者が適切な判断を行えるよう、税負担、投資収益率、資金繰りへの影響を整理する役割が求められます。

租税特別措置の見直しを単なる税負担増加のリスクとして捉えるのではなく、企業の投資判断や経営管理の在り方を見直す機会として活用することが望まれます。

参考

税のしるべ 2026年10月12日 大蔵財務協会創立90周年記念・片山財務大臣と稲垣理事長の特別対談、飲食料品の消費税率引下げや租特の見直しなどを語る

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