運動する人としない人の二極化が進む日本社会 健康格差はなぜ拡大するのか

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日本社会では、運動する人としない人の二極化が進んでいます。

スポーツ庁が2026年10月11日に公表した2025年度の体力・運動能力調査によると、成人男女のスポーツクラブ加入率は、約25年間で大幅に低下しました。

特に35歳から39歳の女性では、2001年度の30.3%から2025年度には10.1%となり、約3分の1に減少しています。

一方、スポーツ施設の数は増加しています。全国の官民スポーツ施設は2021年度から2024年度にかけて約6,400施設増え、大手フィットネスジム15社の店舗数も10年間で2.3倍になりました。

施設が増えているにもかかわらず、スポーツクラブへの加入率が低下しているのです。

この背景には、運動習慣の二極化という問題があります。

健康意識が高く、積極的に運動する人がいる一方で、仕事や家事に追われ、運動する時間を確保できない人も少なくありません。

さらに、所得、労働時間、生活環境などの違いが、運動習慣に影響している可能性があります。

今回は、運動習慣の二極化が進む背景を整理するとともに、健康格差と経済格差の関係、企業や行政に求められる対応、人生100年時代における健康投資の重要性について考えてみます。

スポーツ施設が増えても運動する人が増えるとは限らない

近年、フィットネス市場では低価格の小規模ジムや24時間営業の施設が増えています。

従来の総合型スポーツクラブと比較して、利用料金が安く、好きな時間にトレーニングできる施設も多くなりました。

利用者にとって選択肢が広がっていることは間違いありません。

しかし、施設の増加が国民全体の運動習慣の改善につながっているとは限りません。

スポーツ庁の2025年度調査では、20代以上のすべての世代で、男女とも2001年度と比較してスポーツクラブ加入率が低下していました。

特に働く世代の女性では、その傾向が顕著です。

スポーツ庁の担当者は、トレーニングする人としない人の二極化が進んでいると指摘しています。

つまり、運動する人にとっては施設やサービスの選択肢が増えている一方、運動しない人にとっては、施設が増えても利用するきっかけになっていない可能性があります。

ただし、スポーツクラブに加入していなくても、ウォーキングや自宅での筋力トレーニングなどを継続している人はいます。

そのため、加入率の低下だけで国民全体の運動量が減少していると判断することはできません。

重要なのは、運動する機会を持てる人と持てない人の間に、どのような違いが生じているのかという点です。

運動習慣の格差を生む所得と時間の問題

運動習慣の形成には、本人の健康意識だけでなく、経済的な余裕や自由に使える時間も関係します。

例えば、スポーツクラブを利用する場合、月会費に加えて、施設までの移動時間や交通費などが必要になることがあります。

家計に余裕がある世帯では、運動を生活の一部として取り入れやすい一方、生活費や教育費の負担が大きい世帯では、スポーツクラブへの支出を優先しにくい場合があります。

また、長時間労働や不規則な勤務形態も運動習慣の形成を難しくします。

仕事を終えて帰宅した後に、家事や育児、家族の介護などを担っている人にとって、まとまった運動時間を確保することは容易ではありません。

特に30代から40代は、仕事と家庭の両方で負担が大きくなりやすい時期です。

今回の調査で働く世代の女性のスポーツクラブ加入率が大幅に低下していたことも、こうした生活環境との関連が考えられます。

もっとも、今回の調査結果だけで所得格差が運動習慣の格差を直接引き起こしていると断定することはできません。

それでも、健康づくりを個人の努力だけに任せるのではなく、誰もが運動しやすい環境を整える必要があります。

スマートフォンの普及が余暇時間を変えた

運動習慣の二極化を考えるうえで、スマートフォンの普及も見逃せません。

現在は、スマートフォンがあれば、動画視聴、SNS、ゲーム、ニュースなど、さまざまな娯楽を手軽に楽しめます。

仕事や家事で疲れた後、外出して運動するよりも、自宅でスマートフォンを見ることを選ぶ人もいるでしょう。

放送大学の関根紀子教授は、スマートフォンや動画視聴サービスの充実によって、画面を見る時間が長くなっていることがスポーツクラブ離れの一因となっている可能性を指摘しています。

スマートフォン自体が悪いわけではありません。

健康管理アプリや運動動画など、運動習慣の形成に役立つ機能もあります。

問題は、長時間座ったまま過ごす生活が定着し、身体を動かす機会が減少することです。

特にデスクワーク中心の人は、勤務中も余暇時間も座っている時間が長くなりがちです。

運動習慣を改善するためには、スポーツクラブへ通うことだけでなく、日常生活の中で座っている時間を減らす工夫も重要になります。

運動不足が将来の健康格差につながる可能性

運動習慣の違いは、長期的には健康状態の違いにつながる可能性があります。

身体活動が不足すると、生活習慣病や筋力低下などのリスクが高まります。

また、年齢を重ねるにつれて筋力やバランス能力が低下すれば、転倒や日常生活の機能低下にもつながりかねません。

一方、適切な運動を継続することは、心肺機能や筋力の維持、生活習慣病の予防などに役立ちます。

今回のスポーツ庁の調査では、60代から70代の男女で体力が向上していることも明らかになりました。

2001年度の体力合計点を100%とすると、2025年度の60代男性は114.1%、女性は118.2%となっています。

70代でも男性109.8%、女性114.7%と改善しています。

これに対して、30代女性は96.3%、40代女性は93.6%、40代男性は98.8%と、働く世代では低下が確認されました。

もちろん、これらの数値は世代全体の平均的な変化を示すものであり、個人の運動習慣による影響だけを表したものではありません。

しかし、現役世代の体力低下が長期的に続けば、将来の高齢期における健康状態にも影響する可能性があります。

健康格差の拡大を防ぐためには、高齢期だけでなく、働く世代からの対策が重要です。

健康格差が経済格差を拡大させる可能性

健康と経済状況は、互いに影響し合う関係にあります。

例えば、健康状態が悪化して働くことが難しくなれば、収入が減少する可能性があります。

また、医療費の負担が増加すれば、家計の可処分所得にも影響します。

一方、経済的な余裕が乏しい場合、健康づくりに使える時間や費用が制約されることがあります。

このように、経済的な制約が健康状態に影響し、健康状態の悪化がさらに経済的な制約を強めるという悪循環が生じる可能性があります。

特に人生100年時代では、60歳以降も働き続ける人が増えています。

健康状態を維持できるかどうかは、就労期間や老後の収入にも関係します。

例えば、65歳以降も働くことを希望していても、健康上の理由で退職せざるを得なくなれば、予定していた勤労収入を得られなくなる可能性があります。

その結果、老後資金の取り崩しが早まることも考えられます。

つまり、健康は生活の質を左右するだけでなく、長期的な家計管理にも関係する重要な要素です。

ただし、健康状態には遺伝的要因や疾病、労働環境など多くの要素が影響します。

運動習慣だけで健康格差や経済格差を説明することはできません。

それでも、運動しやすい環境を整備することは、健康格差の縮小に向けた重要な取り組みの一つといえるでしょう。

企業の健康経営が運動格差を縮小する

働く世代の運動不足を改善するためには、企業の役割も重要になります。

スポーツ庁は2027年度から、従業員の運動習慣づくりに取り組む企業に対し、都道府県を通じて補助金を出すなどの支援を強化する方針です。

企業が従業員の健康維持を支援することは、福利厚生の充実だけでなく、生産性向上や人材定着にもつながる可能性があります。

例えば、長時間座り続けることを避けるため、勤務中に短時間のストレッチを取り入れる方法があります。

また、昼休みにウォーキングを推奨したり、社内で歩数を競うイベントを開催したりすることも考えられます。

在宅勤務が多い企業では、オンラインの運動プログラムを導入する方法もあります。

ただし、健康経営を進める際には注意点もあります。

運動を強制したり、運動習慣の有無を人事評価に結びつけたりすることは適切ではありません。

健康状態や障害の有無、家庭環境などによって、参加できる運動には違いがあります。

従業員が自分の状況に応じて参加できる仕組みを整えることが重要です。

健康経営の目的は、運動能力の高い従業員を増やすことではなく、誰もが健康を維持しながら働ける環境をつくることにあります。

地域社会の運動環境にも格差がある

運動習慣の格差を考える場合、居住地域による違いも重要です。

都市部では、徒歩や公共交通機関を利用する機会が多く、通勤や買い物の際に自然と歩く時間が生まれやすい傾向があります。

一方、自動車への依存度が高い地域では、移動の多くを車で済ませるため、日常生活で歩く機会が少なくなる場合があります。

また、スポーツ施設が近くにない地域では、運動するために長距離を移動する必要があります。

高齢者の場合、自動車の運転が難しくなると、スポーツ施設へのアクセス自体が課題になることもあります。

このため、地域の健康づくりでは、大規模なスポーツ施設を整備することだけが解決策ではありません。

歩道や公園の整備、地域の体操教室、公共施設を活用した運動プログラムなど、日常生活の中で身体を動かせる環境が重要です。

特に地方自治体では、人口減少や高齢化が進む中、限られた財源で効果的な健康政策を実施する必要があります。

既存の公共施設や地域団体を活用し、低コストで継続できる仕組みをつくることが求められます。

運動習慣の改善は社会保障制度にも関係する

日本では高齢化が進み、医療費や介護費の増加が大きな政策課題となっています。

運動不足による生活習慣病や身体機能の低下を予防できれば、将来の医療や介護の需要を抑えることにつながる可能性があります。

ただし、運動習慣の改善によって医療費や介護費が必ず減少するとは限りません。

健康寿命が延びることで、医療や介護を必要とする時期が後ろ倒しになる一方、長寿化によって生涯の医療費が増える場合も考えられます。

そのため、運動政策の効果は、単純な費用削減だけで評価するべきではありません。

重要なのは、国民が健康で自立した生活を送れる期間を延ばすことです。

自立した生活を長く続けられれば、本人の生活の質が向上するだけでなく、家族の介護負担の軽減にもつながる可能性があります。

また、高齢者が健康を維持できれば、就労や地域活動への参加も続けやすくなります。

運動習慣の改善は、社会保障制度の持続可能性を考えるうえでも、長期的な意義を持つ政策といえるでしょう。

人生100年時代には健康への投資が欠かせない

人生100年時代の資産形成では、金融資産の準備に注目が集まりがちです。

しかし、長い老後を充実して過ごすためには、健康状態を維持することも重要です。

金融資産が十分にあっても、健康上の理由で外出や旅行、趣味などを楽しめなくなれば、生活の選択肢は狭まります。

反対に、健康を維持できれば、働くことや社会活動への参加など、さまざまな選択肢を持ち続けることができます。

運動習慣を身につけるために、必ずしも高額なスポーツクラブへ加入する必要はありません。

毎日のウォーキング、自宅での筋力トレーニング、自転車の利用など、生活に合った方法を選ぶことが大切です。

例えば、朝と夜にそれぞれ15分程度の運動を取り入れる方法もあります。

短時間でも、無理なく継続することが重要です。

さらに、週末にスポーツクラブや地域の運動施設を利用すれば、運動量の確保に加えて、人との交流機会も生まれます。

運動を特別なイベントとして考えるのではなく、食事や睡眠と同じように日常生活の一部として位置づけることが、長期的な健康維持につながります。

結論

スポーツ庁の2025年度調査では、スポーツクラブ加入率の長期的な低下が明らかになりました。

特に働く世代の女性で低下が目立つ一方、スポーツ施設の数は増加しています。

この結果は、施設を増やすだけでは運動習慣の定着につながらないことを示唆しています。

運動する人としない人の二極化には、所得、労働時間、家庭環境、地域の生活条件など、さまざまな要因が関係している可能性があります。

また、運動習慣の違いが長期的な健康格差につながり、その健康格差が就労や家計にも影響することが考えられます。

人生100年時代において、健康は重要な生活基盤であり、将来の経済的な安定にも関係する資産です。

そのため、運動習慣の改善を個人の努力だけに任せるのではなく、企業、地域社会、行政が連携して、誰もが身体を動かしやすい環境を整備する必要があります。

大切なのは、スポーツクラブに加入しているかどうかではありません。

自分の生活環境に合った方法で、無理なく運動を継続できるかどうかです。

健康格差の拡大を防ぐためには、運動する時間や経済的な余裕がない人でも、日常生活の中で自然に身体を動かせる社会をつくることが求められます。

健康づくりを個人の責任だけで考える時代から、社会全体で支える時代への転換が必要なのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月12日朝刊 進むスポーツクラブ離れ、休みは運動よりスマホ 働く世代の女性顕著

スポーツ庁 2025年度体力・運動能力調査

スポーツ庁 2025年度スポーツの実施状況等に関する世論調査

世界保健機関 2020年 身体活動及び座位行動に関するガイドライン

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