日本の働く女性の間で、運動習慣を維持することが難しくなっています。
スポーツ庁が2026年10月11日に公表した2025年度の体力・運動能力調査によると、35歳から39歳の女性のスポーツクラブ加入率は、2001年度の30.3%から2025年度には10.1%へと低下しました。
約25年間で3分の1になった計算です。
45歳から49歳の女性でも、32.2%から15.5%へと大幅に減少しています。
一方、60代から70代の女性では体力が向上しており、働く世代と高齢世代の間で対照的な傾向が見られます。
この背景には、共働き世帯の増加、仕事と家事の両立、育児や介護の負担、スマートフォンの普及による余暇時間の変化など、さまざまな要因が考えられます。
運動不足は、単なる体力低下の問題ではありません。
長期的には生活習慣病のリスクや健康寿命、就労継続、老後の生活設計にも影響する可能性があります。
今回は、働く女性の運動不足が進む背景を整理するとともに、企業の健康経営、家庭内の役割分担、社会保障、人生100年時代の健康投資という観点から考えてみます。
働く世代の女性でスポーツクラブ離れが進んでいる
スポーツ庁の調査では、成人男女のスポーツクラブ加入率が長期的に低下していることが明らかになりました。
特に女性の30代から40代で減少幅が大きくなっています。
35歳から39歳の女性は、2001年度の30.3%から2025年度の10.1%へと20.2ポイント低下しました。
45歳から49歳の女性も、32.2%から15.5%へと16.7ポイント減少しています。
この結果は、働く世代の女性がスポーツクラブを利用しにくくなっている可能性を示しています。
ただし、スポーツクラブの加入率低下が、そのまま運動量の減少を意味するわけではありません。
自宅での筋力トレーニングやウォーキングなど、クラブに所属しない運動もあります。
また、低価格ジムやオンラインフィットネスなど、運動する方法も多様化しています。
そのため、運動不足の実態を把握するには、スポーツクラブ加入率だけでなく、運動頻度や日常生活での身体活動量も確認する必要があります。
それでも、働く世代の女性でクラブ加入率が大幅に低下していることは、健康政策を考えるうえで重要な変化といえるでしょう。
共働き世帯の増加が運動時間の確保を難しくする
働く女性の運動不足を考える際に重要なのが、仕事と家庭生活の両立です。
共働き世帯が増える中、夫婦ともに仕事を持つことが一般的になっています。
しかし、共働きであっても、家事や育児の負担が必ずしも均等に分担されているわけではありません。
仕事を終えて帰宅した後、夕食の準備、洗濯、掃除、子どもの世話などを担う人も少なくありません。
こうした生活では、スポーツクラブへ通う時間を確保することが難しくなります。
例えば、仕事が午後6時に終わったとしても、帰宅後に家事や育児が待っていれば、運動を優先することは容易ではありません。
スポーツクラブへの移動、着替え、運動、入浴などを含めると、1回の利用に相応の時間が必要です。
また、子どもが小さい家庭では、運動するために家を空けること自体が難しい場合もあります。
つまり、運動習慣の形成には、本人の健康意識だけでなく、自由に使える時間がどれだけあるかという問題が関係しています。
働く女性の運動不足を改善するためには、個人の努力を求めるだけでなく、家庭内の役割分担や働き方を見直すことも重要です。
家事や育児による身体活動だけでは十分とは限らない
家事や育児で毎日忙しく動いている人は、運動不足ではないと考えることもあるでしょう。
確かに、掃除、洗濯、買い物、子どもの世話などは身体活動に含まれます。
しかし、家事や育児による身体活動だけで、筋力や持久力を十分に維持できるとは限りません。
例えば、立ったまま調理をすることと、一定の強度で歩くことでは、身体への負荷が異なります。
また、家事で身体を動かしていても、筋力トレーニングに相当する負荷が十分にかかっているとは限りません。
世界保健機関は成人に対し、週150分から300分の中強度の有酸素性身体活動、またはそれに相当する活動を推奨しています。
さらに、週2日以上の筋力強化活動も推奨しています。
ただし、推奨される身体活動には、スポーツだけでなく、仕事、家事、移動などで行う活動も含まれます。
重要なのは、活動の種類だけでなく、強度や時間、頻度を含めて考えることです。
家事や育児で忙しい人ほど、まとまった運動時間を確保することが難しいため、日常生活の中で短時間の運動を組み合わせる工夫が必要になります。
40代女性の体力低下が示す将来の健康リスク
今回の調査では、スポーツクラブ加入率だけでなく、働く世代の体力低下も確認されました。
2001年度の体力合計点を100%とした場合、2025年度の30代女性は96.3%、40代女性は93.6%となっています。
特に40代女性では6.4%の低下となりました。
一方、60代女性は118.2%、70代女性は114.7%と改善しています。
この結果は、働く世代と高齢世代で体力の変化が異なっていることを示しています。
ただし、体力合計点の変化は、それぞれの年度に調査された同年代の集団を比較したものです。
同じ人を25年間追跡した結果ではないため、個人の加齢による体力変化と同一視することはできません。
それでも、働く世代の体力低下は、将来の健康状態を考えるうえで見逃せない問題です。
特に40代から50代は、生活習慣病のリスクや身体機能の変化に注意が必要になる時期です。
この段階で運動習慣を確保できるかどうかは、その後の健康維持にも関係します。
高齢期になってから健康づくりを始めることにも意味はありますが、働く世代から継続的に身体を動かすことが望まれます。
女性の健康にはライフステージに応じた対応が必要
女性の健康を考える場合、年齢やライフステージによって身体の状態が変化することにも注意が必要です。
妊娠や出産、更年期など、女性には健康管理上の課題が生じる時期があります。
例えば、出産後は育児によって睡眠時間が不規則になり、運動時間を確保しにくくなることがあります。
また、40代から50代にかけては、更年期に伴う心身の変化によって、疲労感や睡眠の問題などが生じる場合があります。
こうした時期に、若い頃と同じ運動量を維持しようとしても、負担が大きくなることがあります。
そのため、女性の運動習慣づくりでは、年齢や健康状態に応じた柔軟な対応が重要です。
例えば、育児中で外出が難しい場合には、自宅で短時間の運動を行う方法があります。
更年期の不調がある場合には、体調に合わせてウォーキングや軽い筋力トレーニングを取り入れることも考えられます。
ただし、妊娠中や産後、持病がある場合などは、医療専門職の助言を受けながら適切な運動を選ぶ必要があります。
運動習慣の定着には、一律の目標を求めるのではなく、それぞれの生活環境や健康状態に合わせた方法を選ぶことが大切です。
スマートフォンの普及が女性の余暇時間にも影響する
働く女性の運動習慣を考えるうえで、スマートフォンの普及も重要な要素です。
仕事や家事を終えた後、スマートフォンで動画を見たり、SNSを利用したりする時間が増えている可能性があります。
スマートフォンは、短時間でも手軽に楽しめる娯楽です。
一方、スポーツクラブへ通う場合には、移動や着替えなどの準備が必要になります。
そのため、疲れているときほど、身体を動かすよりもスマートフォンを利用する方が選ばれやすいことが考えられます。
放送大学の関根紀子教授も、スマートフォンや動画視聴サービスの普及によってスクリーンタイムが長くなっていることが、スポーツクラブ離れの一因となっている可能性を指摘しています。
ただし、スマートフォンの利用時間と運動不足との因果関係については、慎重に考える必要があります。
スマートフォンは、健康管理や運動習慣づくりにも活用できます。
例えば、歩数計アプリを利用して毎日の歩数を確認したり、運動動画を見ながら自宅でトレーニングしたりする方法があります。
重要なのは、デジタル機器を利用しないことではなく、身体活動とのバランスを保つことです。
企業の健康経営は女性の運動習慣を支えられるか
働く女性の運動不足を改善するためには、企業による支援も重要です。
スポーツ庁は2027年度から、従業員の運動習慣づくりに取り組む企業への支援を強化する方針です。
都道府県を通じて補助金を出すことなどが検討されています。
企業が取り組む健康経営では、従業員の健康維持を福利厚生の一環として考えるだけでなく、生産性や人材定着との関係も重視します。
例えば、勤務時間中に短時間のストレッチを取り入れる方法があります。
昼休みにウォーキングを推奨したり、社内で運動イベントを開催したりすることも考えられます。
しかし、働く女性の運動習慣を改善するためには、運動プログラムの提供だけでは不十分な場合があります。
長時間労働が続いていたり、育児や介護との両立が難しかったりすれば、運動する余裕は生まれません。
そのため、健康経営と働き方改革を一体的に進めることが重要です。
具体的には、柔軟な勤務時間制度、在宅勤務の活用、休暇取得の促進などが考えられます。
また、男性の育児休業取得や家庭内での家事分担を後押しすることも、女性が自分の健康管理に使える時間を確保するうえで重要です。
企業の健康経営は、運動を推奨するだけでなく、従業員が健康づくりに取り組める時間と環境を整えることが求められます。
運動不足は将来の就労継続にも影響する
人生100年時代では、60歳以降も働き続ける人が増えています。
女性についても、定年後の再雇用や継続雇用、パートタイム勤務など、さまざまな働き方が考えられます。
長く働くためには、専門知識や経験だけでなく、健康状態を維持することが重要です。
例えば、立ち仕事や身体を動かす仕事では、筋力や持久力の維持が必要になります。
デスクワーク中心の仕事でも、長時間座り続けることによる身体への負担を軽減する必要があります。
また、健康状態の悪化によって働く時間を減らしたり、退職したりすることになれば、将来の収入にも影響します。
特に老後資金の準備が十分でない場合、予定していた勤労収入を得られなくなることは、家計にとって大きな問題となります。
その意味で、40代から50代の健康管理は、将来の就労可能期間を支える重要な取り組みです。
ただし、運動習慣があれば必ず長く働けるというわけではありません。
健康状態には、疾病や障害、労働環境など、さまざまな要因が関係します。
それでも、適切な運動を継続することは、将来の働き方の選択肢を広げるための一つの手段といえるでしょう。
家庭内の役割分担が健康格差の縮小につながる
働く女性の運動不足を改善するためには、家庭内の役割分担も見直す必要があります。
共働き世帯では、夫婦ともに仕事をしていても、家事や育児の負担が一方に偏る場合があります。
このような状況では、自由に使える時間にも格差が生じます。
例えば、夫婦の一方が休日にスポーツクラブへ通う時間を確保できても、もう一方が家事や育児を担っていれば、同じように運動することは難しくなります。
そのため、家庭内で健康づくりの時間を公平に確保するという視点が重要です。
夫婦で家事や育児を分担し、それぞれが運動や休養に使える時間を持つことが望まれます。
また、家族でウォーキングやサイクリングを楽しむなど、運動を家庭生活に取り入れる方法もあります。
子どもと公園で遊ぶことも、身体活動の機会になります。
ただし、家族で運動することが新たな家事負担になってしまっては本末転倒です。
大切なのは、家族全員が無理なく健康づくりに取り組める環境を整えることです。
健康格差の問題は、個人の生活習慣だけでなく、家庭内の時間配分という観点からも考える必要があります。
人生100年時代には女性の健康投資が重要になる
人生100年時代の資産形成では、金融資産の準備に注目が集まりがちです。
しかし、長い人生を充実して過ごすためには、健康という資産も欠かせません。
特に女性は男性より平均寿命が長いため、高齢期の健康状態が生活の質に大きく関係します。
長寿そのものは望ましいことですが、日常生活に制約のある期間が長くなれば、本人や家族の負担が増加する可能性があります。
そのため、健康寿命を延ばすことが重要です。
運動習慣は、筋力や持久力の維持、生活習慣病の予防などに役立ちます。
また、運動を通じて人と交流することは、社会的なつながりを維持する機会にもなります。
健康投資というと、スポーツクラブの会費や健康関連商品の購入を思い浮かべるかもしれません。
しかし、必ずしも多額の費用をかける必要はありません。
毎日のウォーキング、自宅での筋力トレーニング、階段の利用など、費用をかけずに取り組める方法もあります。
例えば、朝と夜にそれぞれ10分から15分程度の運動を取り入れることも一つの方法です。
まとまった時間を確保することが難しい人でも、短時間の身体活動を積み重ねることには意味があります。
重要なのは、無理な目標を設定することではなく、長期間継続できる方法を見つけることです。
結論
スポーツ庁の2025年度調査では、働く世代の女性でスポーツクラブ加入率が大幅に低下していることが明らかになりました。
特に35歳から39歳の女性では、2001年度の30.3%から2025年度の10.1%へと減少しています。
一方、60代から70代の女性では体力が向上しており、世代間で対照的な傾向が見られます。
働く女性の運動習慣を考える場合、仕事や家事、育児、介護などによる時間的制約を無視することはできません。
また、スマートフォンの普及による余暇時間の変化や、スポーツクラブ利用に伴う経済的負担なども関係している可能性があります。
運動不足を改善するためには、本人の健康意識を高めるだけでは不十分です。
企業による働き方改革、家庭内の役割分担、地域社会の運動環境整備など、社会全体で取り組む必要があります。
特に重要なのは、運動する時間を確保できない人に対して、さらに努力を求めるのではなく、無理なく身体を動かせる環境を整えることです。
人生100年時代において、40代から50代の健康管理は、将来の健康寿命や就労継続、老後の生活設計にも関係します。
健康は、金融資産と同じように長期的な視点で維持していくべき重要な資産です。
働く女性が仕事と家庭生活を両立しながら、自分自身の健康にも時間を使える社会を実現することが、今後の重要な課題になるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月12日朝刊 進むスポーツクラブ離れ、休みは運動よりスマホ 働く世代の女性顕著
スポーツ庁 2025年度体力・運動能力調査
スポーツ庁 2025年度スポーツの実施状況等に関する世論調査
世界保健機関 2020年 身体活動及び座位行動に関するガイドライン