都心マンションの2割が法人所有という現実 短期転売が生む住宅価格高騰と見えない隣人の問題

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東京都心のマンション市場で、住宅の役割が大きく変わり始めています。本来、マンションは人が生活するための住まいですが、近年は法人による取得や短期転売が増加し、金融商品としての性格を強めています。

2026年10月12日付の日本経済新聞によると、東京都心6区のマンション約7万3,000戸を分析した結果、法人所有の割合は16%に達しました。千代田区では22%、港区では20%を占めています。

さらに、タワーマンション最上階の高額物件では、法人が関与した売買の約4割が購入後3年以内に売却されていました。

こうした動きは住宅価格の高騰だけでなく、マンション管理や地域社会にも影響を及ぼしています。

今回は、法人によるマンション所有が拡大する背景、短期転売と税制の関係、住宅市場への影響、今後の政策課題について考えます。

都心マンションで進む法人所有の拡大

不動産調査会社TRUSTARTが取得した不動産登記情報を基に、日本経済新聞が東京都心6区のマンション所有者を分析したところ、法人所有の割合は16%でした。

区別に見ると、千代田区が22%、港区が20%、中央区が16%となっています。

東京都23区全体では10%であり、都心部ほど法人所有の割合が高いことが分かります。

大阪市でも同様の傾向が確認されています。

大阪市都心3区の約1万1,000戸では、法人所有の割合が16%でした。北区と中央区では、それぞれ17%に達しています。

法人によるマンション所有そのものが問題というわけではありません。

企業が役員住宅や従業員住宅として利用する場合もあれば、賃貸住宅として市場に供給する場合もあります。

しかし、居住や賃貸を目的とせず、値上がり益を得るために短期間で売買する法人が増えれば、住宅市場の価格形成に大きな影響を与えます。

特に都心部では、住宅を必要とする個人と投資収益を追求する法人が、同じ物件を巡って競争する構図が生まれています。

タワーマンション最上階では法人所有が約3割

法人所有の存在感が特に大きいのが、タワーマンションの最上階です。

日本経済新聞が東京都心6区と大阪市都心3区にある20階以上のタワーマンション303棟を調査したところ、最上階の計1,867戸のうち515戸が法人所有でした。

割合は28%に達しています。

渋谷区では44%、文京区では38%と、さらに高い割合になっています。

タワーマンションの最上階は、眺望や希少性などから高額で取引されやすい特徴があります。

また、同じ建物の一般的な住戸と比較して物件ごとの個別性が強く、富裕層向けの投資対象になりやすい面があります。

法人にとっては、価格上昇による売却益を期待できる資産です。

一方、実際に居住する個人にとっては、購入価格の上昇が大きな負担となります。

住宅の希少性が居住価値だけでなく、投資対象としての価値を高める要因にもなっているのです。

法人の短期転売は個人の約4倍

今回の調査で特に注目されるのが、法人と個人の売却までの期間の違いです。

タワーマンション最上階について、法人が関与した延べ981件の売買のうち、購入後3年以内に売却されたものは360件でした。

割合は37%です。

これに対して、個人による延べ2,109件の売買では、3年以内の売却は194件で、割合は9%でした。

法人の短期売却割合は、個人の約4.1倍です。

さらに、法人が関与した売買では、購入後1年以内の売却が216件、半年以内の売却が125件ありました。

こうした数字から、法人の一部がマンションを長期保有する資産ではなく、短期間で売却益を得るための商品として扱っていることがうかがえます。

ただし、法人所有のすべてが投機目的というわけではありません。

事業上の必要性による売却や資産の組み替えも含まれるため、短期売却という事実だけで投機的取引と断定することはできません。

重要なのは、短期転売が住宅価格の形成にどの程度影響しているかを検証することです。

個人と法人では不動産売却の税制が異なる

法人による短期転売が行われやすい背景の一つとして、税制の違いが挙げられます。

個人が土地や建物を売却した場合、譲渡所得に対する税率は所有期間によって異なります。

所有期間が5年以下の短期譲渡所得では、所得税と住民税などを合わせた税率は39.63%です。

一方、所有期間が5年を超える長期譲渡所得では20.315%となります。

なお、所有期間は売却した年の1月1日時点で判定されます。

例えば、個人がマンションを売却して3,000万円の課税譲渡所得を得た場合、特例を適用しない単純計算では、短期譲渡所得の税額は約1,189万円になります。

長期譲渡所得であれば約609万円です。

その差は約580万円になります。

この税率差は、個人が短期間で不動産を売却することに対する一定の抑制要因となっています。

一方、法人の場合は、原則として不動産の所有期間によって法人税率が変わる仕組みではありません。

不動産の売却損益は、他の事業損益などと合わせて法人所得を計算することになります。

法人の実際の税負担は、資本金、所得水準、所在地、他の損益などによって異なります。

したがって、法人が必ず個人より税制上有利になるわけではありませんが、短期保有を理由とする個人のような税率区分がないことは重要な違いです。

なお、法人については、土地の短期所有に係る譲渡益重課制度などが法令上存在するものの、適用停止措置が続いている点にも留意が必要です。

今後、法人の短期転売に対する課税のあり方が政策論点となる可能性があります。

転売を重ねることで住宅価格が押し上げられる

マンション価格の高騰には、建築資材価格や人件費の上昇、用地取得費の増加、都心部への住宅需要の集中など、複数の要因があります。

その中で、短期転売も価格上昇を増幅させる要因になり得ます。

例えば、ある法人が3億円でマンションを購入し、3億6,000万円で別の法人に転売したとします。

次の法人がさらに4億円で売却すれば、最初の購入価格から1億円上昇したことになります。

もちろん、実際の利益を計算する際には仲介手数料、登記費用、税金、借入金利などを差し引く必要があります。

それでも、転売のたびに利益を上乗せする取引が繰り返されれば、最終的な購入者が負担する価格は高くなります。

記事では、港区のタワーマンション最上階を3億円で取得した不動産会社が、10日後に数千万円を上乗せして転売した事例が紹介されています。

また、晴海フラッグでは、新規分譲時に複数の住戸を購入し、半年から1年程度で平均4,000万〜5,000万円を上乗せして売却した法人の事例もあります。

こうした取引が広がると、住宅の価格が居住者の所得や生活上の必要性から離れていく可能性があります。

ただし、個別の転売事例だけで市場全体の価格上昇幅を説明することはできません。

実需による価格上昇と、投資的な取引による価格上昇を区別して分析する必要があります。

見えない隣人がマンション管理に与える影響

法人所有の増加は、価格だけの問題ではありません。

マンション管理にも影響を与える可能性があります。

区分所有マンションでは、所有者が管理組合の構成員となり、管理費や修繕積立金の負担、総会での意思決定などに関わります。

ところが、所有者が実際に住んでいない場合、建物の管理状況や居住者の生活上の問題を把握しにくくなることがあります。

例えば、大規模修繕工事の実施について、長期居住を予定する所有者と短期転売を予定する所有者では、費用負担に対する考え方が異なる可能性があります。

長期居住者にとっては、建物の安全性や快適性を維持することが重要です。

一方、短期転売を予定する所有者は、売却までの支出を抑えたいと考える場合があります。

もちろん、投資目的の所有者であっても資産価値を維持するために適切な管理を重視することはあります。

問題は、所有目的の違いによって管理組合内の利害調整が難しくなることです。

また、法人所有の住戸が空室のまま維持される場合、居住者同士の交流や地域活動への参加にも影響が生じます。

マンションは単なる資産の集合体ではなく、生活共同体としての側面を持っています。

その意味で、所有者と居住者の分離が進むことは、今後のマンション管理における重要な課題です。

法人所有の増加と固定資産税の関係

税務の観点からは、マンションを法人が所有していること自体で、通常の固定資産税率が高くなるわけではありません。

固定資産税は、原則として毎年1月1日時点の所有者に課税されます。

法人所有でも個人所有でも、基本的な課税の仕組みは共通しています。

住宅用地については、一定の要件を満たす場合、小規模住宅用地の固定資産税課税標準を6分の1とする特例などがあります。

この特例は、所有者が法人か個人かという区分だけで決まるものではありません。

ただし、実際の土地利用や建物の用途によって適用関係が変わる場合があります。

ここで考えるべきなのは、居住目的で所有する住宅と、値上がり益を目的として空室のまま保有する住宅について、税負担のあり方を同一にしてよいのかという問題です。

住宅不足が深刻な地域では、住宅が使用されないまま保有されることによる社会的な影響も考慮する必要があります。

もっとも、空室には転勤、相続、売却準備、改修工事などさまざまな理由があります。

一律に空室への課税を強化すれば、正当な事情を持つ所有者に過度な負担を与える可能性もあります。

税制を見直す場合には、空室の理由や保有期間、地域の住宅事情などを踏まえた制度設計が求められます。

カナダの空室税が示す住宅政策の方向性

海外では、住宅の投資商品化に対応するため、空室に対する課税を導入する都市があります。

代表例がカナダのバンクーバー市です。

同市では2017年に空室税を導入しました。

税率は当初、不動産の課税評価額の1%でしたが、その後引き上げられ、2021年以降は3%となりました。

記事によると、2024年の空室率は0.5%となり、2017年と比較してほぼ半減しました。

また、空室税による税収のうち累計1億9,430万カナダドルが、手ごろな価格の住宅整備などの支援策に充てられました。

この制度の特徴は、単に税収を増やすことではありません。

住宅を実際の居住に利用するよう促す点にあります。

例えば、課税評価額が3億円の住宅に3%の空室税が課されると仮定すれば、年間900万円の負担になります。

こうした税負担は、住宅を空室のまま保有するか、賃貸などに活用するかという所有者の判断に影響を与えます。

ただし、バンクーバーの空室率低下がすべて空室税によるものと断定することはできません。

住宅市場の変化や他の政策の影響も考慮する必要があります。

日本で同様の制度を導入する場合にも、海外制度の成果と課題を慎重に検証する必要があります。

不動産業者の倒産増加が示す市場の転換点

これまでのマンション市場では、価格上昇を前提とした短期転売が利益を生みやすい環境にありました。

しかし、今後も同じ状況が続くとは限りません。

建築資材や人件費の上昇に加え、金利上昇によって不動産取得に必要な資金調達コストも高まっています。

例えば、3億円の物件を全額借入金で取得した場合、借入金利が年1%上昇すれば、単純計算で年間300万円の利息負担増加につながります。

短期転売を目的とする法人にとって、保有期間が長引くほど資金調達コストが利益を圧迫します。

さらに、購入希望者が減少すれば、想定価格で売却できないリスクも高まります。

帝国データバンクの調査によると、2025年の不動産業の倒産件数は315件となり、過去10年で最多でした。

不動産代理・仲介業は133件、建物売買業は62件に達しています。

これらの倒産がすべてマンション転売に起因するわけではありませんが、不動産業界を取り巻く経営環境が厳しくなっていることを示しています。

価格上昇だけを前提とする事業モデルは、金利や需要の変化に弱いという特徴があります。

今後は、物件の実質的な価値を見極める能力が、これまで以上に重要になるでしょう。

2027年度税制改正で投機的取引への対応が焦点に

国土交通省は2027年度税制改正要望において、投機的取引を抑制するための方策について検討する方針を示しています。

背景には、都心部を中心としたマンション価格の高騰があります。

今後の検討課題としては、法人による短期転売への課税、空室住宅に対する税負担、投資目的の不動産取得に対する融資管理などが考えられます。

ただし、これらは検討し得る政策手段であり、具体的な制度改正が決定したわけではありません。

税制を強化すれば、短期転売の採算性を低下させる効果が期待できます。

一方、過度な規制は正常な不動産取引を妨げ、住宅供給や中古住宅市場の流動性を低下させるおそれもあります。

特に、中古マンションを取得してリノベーションを行い、付加価値を高めて販売する事業まで一律に抑制することは適切ではありません。

重要なのは、住宅の流通や有効活用を促進しながら、過度な投機的取引を抑える制度設計です。

そのためには、保有期間だけでなく、取得目的、実際の利用状況、改修による付加価値の有無などを総合的に考慮する必要があります。

また、法人所有の実態を継続的に把握し、住宅市場の透明性を高めることも重要です。

住宅を金融商品として扱うことの限界

不動産は、資産形成の対象として重要な役割を持っています。

賃貸住宅への投資は住宅供給を支えますし、既存住宅の再生事業は住宅ストックの有効活用につながります。

したがって、不動産投資そのものを否定する必要はありません。

しかし、住宅には株式や債券とは異なる特徴があります。

それは、人々が生活するために欠かせない社会的な基盤であるということです。

住宅価格が投資資金の流入によって過度に押し上げられれば、実際に住むことを希望する人々が購入できなくなる可能性があります。

また、空室の増加や所有者の頻繁な交代は、マンション管理や地域社会にも影響します。

住宅の資産価値を高めることと、住宅を生活の場として維持することは、本来、対立するものではありません。

適切な管理や修繕によって住環境が改善されれば、資産価値の維持にもつながります。

今後の住宅政策では、投資収益だけでなく、居住の安定性や地域社会への影響も重視する必要があります。

結論

東京都心のマンションでは法人所有が拡大し、タワーマンション最上階では約3割が法人所有となっています。

さらに、法人が関与した売買の37%が購入後3年以内に売却されており、個人の9%と比較して短期売却の割合が著しく高いことが明らかになりました。

こうした動きは、住宅の金融商品化が進んでいることを示しています。

ただし、法人所有や短期売却のすべてが問題というわけではありません。

重要なのは、投資目的の取引が住宅価格や居住環境にどのような影響を与えているかという点です。

税務面では、個人と法人の不動産譲渡に対する課税方式の違いがあり、今後の税制改正における重要な論点となります。

また、空室住宅への課税や投資目的の融資に対する監督など、税制以外の政策との組み合わせも検討する必要があります。

2027年度税制改正では、投機的な不動産取引への対応が注目されます。

これからのマンション市場に求められるのは、単なる価格上昇ではなく、住宅としての利用価値と資産価値が両立する仕組みです。

住宅は投資対象であると同時に、人々の暮らしを支える社会基盤でもあります。

見えない隣人の増加という現象は、日本の住宅政策が金融商品としての不動産と生活の場としての住宅を、どのように調和させるべきかという根本的な課題を突きつけているのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月12日付朝刊 「見えない隣人」都心2割が法人所有 短期売買で価格高騰 マンション不都合な真実

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