70代の働き方と年金の最適解 在職老齢年金と繰下げ受給をどう考えるか

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人生100年時代を迎え、70代まで働き続ける人が増えています。

かつては60歳で定年退職し、65歳から公的年金を受給するという人生設計が一般的でした。しかし、現在では65歳以降も働き続ける人が珍しくなくなり、70歳を過ぎても仕事を続けるという選択肢が広がっています。

2026年10月11日付の日本経済新聞では、作家の林真理子氏が70代の働き方について語り、経済的に余裕があっても仕事や社会活動を続けることの重要性を指摘しています。

一方、70代まで働く場合には、給与収入だけでなく、公的年金との関係を理解しておく必要があります。

特に重要なのが、在職老齢年金制度と年金の繰下げ受給です。

2026年4月から在職老齢年金の支給停止調整額が月額65万円に引き上げられ、働きながら年金を受給しやすい環境が整いつつあります。

また、公的年金の受給開始を70歳や75歳まで繰り下げることで、年金額を増やすこともできます。

ただし、繰下げ受給がすべての人に有利とは限りません。配偶者の年齢や加給年金、税金、社会保険料などによって、最適な受給方法は異なります。

今回は、70代まで働く場合の年金制度を整理し、給与と年金をどのように組み合わせればよいのかを考えてみます。

2026年4月から在職老齢年金の基準額が65万円に引き上げ

在職老齢年金とは、働きながら老齢厚生年金を受給する人について、賃金と年金の合計額が一定の基準を超えた場合に、老齢厚生年金の一部または全部を支給停止する制度です。

2026年3月までは、支給停止調整額が月額51万円でした。

これが2026年4月から月額65万円に引き上げられました。

この改正によって、一定以上の給与収入がある高齢者でも、従来より年金の支給停止を受けにくくなりました。

在職老齢年金の計算では、基本月額と総報酬月額相当額を使用します。

基本月額とは、加給年金額を除いた老齢厚生年金の報酬比例部分などを12で割った金額です。

総報酬月額相当額とは、毎月の標準報酬月額に、直近1年間の標準賞与額の合計を12で割った金額を加えたものです。

この2つの合計が65万円以下であれば、在職老齢年金による支給停止はありません。

65万円を超える場合には、原則として超過額の2分の1に相当する金額が老齢厚生年金から支給停止されます。

なお、老齢基礎年金は在職老齢年金による支給停止の対象にはなりません。

この違いを理解しておくことが重要です。

年金月額15万円なら給与はいくらまで受け取れるのか

具体的な事例で考えてみましょう。

老齢厚生年金の基本月額が15万円の人を想定します。

この場合、総報酬月額相当額が50万円であれば、合計65万円となります。

したがって、在職老齢年金による支給停止はありません。

一方、総報酬月額相当額が60万円の場合には、合計75万円となります。

基準額65万円を10万円超えるため、その2分の1に当たる月額5万円が支給停止されます。

この場合、老齢厚生年金の支給額は月額10万円になります。

さらに、総報酬月額相当額が70万円の場合には、基本月額15万円との合計が85万円になります。

基準額を20万円超えるため、月額10万円が支給停止されます。

結果として、老齢厚生年金の支給額は月額5万円になります。

このように、給与収入が増えると老齢厚生年金の一部が支給停止される場合があります。

ただし、年金が支給停止されたとしても、給与収入の増加額がそのまま失われるわけではありません。

原則として基準額を超えた部分の2分の1が支給停止される仕組みであるため、給与が増えれば、税金や社会保険料を考慮する前の総収入は通常増加します。

年金が減額されることだけを理由に、働く時間を減らすことが必ずしも合理的とは限りません。

重要なのは、給与と年金を合計した収入から、税金や社会保険料を差し引いた手取り額で判断することです。

70歳以降も在職老齢年金の対象になる場合がある

70歳以降の働き方については、厚生年金の加入制度との関係を理解する必要があります。

厚生年金保険は、原則として70歳になると被保険者資格を喪失します。

そのため、通常は70歳以降に働いても、新たな厚生年金保険料を納めることはありません。

また、70歳以降の勤務期間は、原則として老齢厚生年金額の増加にもつながりません。

しかし、70歳以降は在職老齢年金の対象にならないというわけではありません。

厚生年金の適用事業所で働き、一定の要件を満たす70歳以上被用者については、在職老齢年金による支給調整が行われます。

例えば、70歳以降も会社の役員や従業員として高額な報酬を受け取る場合には、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される可能性があります。

一方、個人事業主として事業所得を得る場合には、その事業所得自体は在職老齢年金の計算対象にはなりません。

ただし、法人の役員として報酬を受け取る場合などには、厚生年金の適用関係によって取り扱いが異なります。

したがって、70歳以降の働き方を考える際には、給与所得か事業所得かという税法上の区分だけでなく、厚生年金制度上の適用関係を確認する必要があります。

年金の繰下げ受給で受給額は最大84%増える

公的年金の受給開始年齢は、原則として65歳です。

しかし、希望すれば受給開始を66歳以降に繰り下げることができます。

現在の制度では、原則として75歳まで繰り下げることが可能です。

繰下げによる増額率は、1か月当たり0.7%です。

例えば、70歳まで繰り下げた場合には、65歳から60か月繰り下げることになるため、増額率は42%になります。

75歳まで繰り下げた場合には、120か月の繰下げとなり、増額率は84%になります。

仮に65歳時点の年金額が年間240万円で、全額が繰下げ増額の対象になるとします。

70歳まで繰り下げた場合には、年間約341万円になります。

75歳まで繰り下げた場合には、年間約442万円になります。

年金額が大きく増えるため、長生きした場合には有利になる可能性があります。

ただし、繰下げ期間中は年金を受け取れません。

そのため、単純に増額率だけを見て判断することは適切ではありません。

また、老齢基礎年金と老齢厚生年金は、それぞれ別々に繰り下げることができます。

この仕組みを活用することで、受給方法の選択肢が広がります。

70歳繰下げの損益分岐点は何歳になるのか

年金の繰下げ受給を考える際には、累計受給額の損益分岐点を確認することが重要です。

例えば、65歳から年間240万円の年金を受給できる人を考えます。

65歳から受給すれば、70歳までの5年間で1,200万円を受け取ることになります。

一方、70歳まで繰り下げた場合には、この1,200万円を受け取らない代わりに、70歳以降の年金額が42%増加します。

年間240万円の42%は100万8,000円です。

つまり、70歳以降は毎年約101万円多く受給できます。

65歳から70歳までに受け取らなかった1,200万円を、年間約101万円の増額によって回収するには、約11.9年かかります。

したがって、税金や社会保険料、運用収益などを考慮しない単純計算では、損益分岐点は81歳11か月ごろになります。

82歳を超えて長生きすれば、70歳繰下げの累計受給額が65歳受給を上回る計算です。

ただし、実際の損益分岐点は、税負担や社会保険料、在職老齢年金による支給停止、加給年金などによって変わります。

また、繰下げ期間中に受け取らなかった年金を運用した場合には、その運用収益も比較対象になります。

したがって、単純な損益分岐点だけでなく、世帯全体の資金計画を踏まえて判断することが重要です。

年下の配偶者がいる場合は加給年金に注意する

年金の繰下げ受給を考える際に、特に注意したいのが加給年金です。

加給年金とは、厚生年金の被保険者期間が原則20年以上ある人が、一定の要件を満たす65歳未満の配偶者などを扶養している場合に、老齢厚生年金に加算される制度です。

例えば、夫が65歳になった時点で妻が50歳の場合を考えます。

夫が加給年金の受給要件を満たしていれば、妻が65歳になるまでの間、加給年金を受け取れる可能性があります。

しかし、夫が老齢厚生年金を繰り下げる場合、繰下げ待機期間中は加給年金を受け取ることができません。

また、加給年金は繰下げによる増額の対象にはなりません。

そのため、年下の配偶者がいる人にとって、老齢厚生年金の繰下げは不利になる場合があります。

例えば、加給年金の年額を約42万円と仮定すると、5年間受給できなかった場合の合計額は約210万円になります。

実際の加給年金額は生年月日や年度改定、配偶者の年金受給権などによって異なります。

また、配偶者自身が一定の老齢厚生年金や障害年金の受給権を持つ場合には、加給年金が支給停止されることがあります。

したがって、配偶者の年齢差が大きい場合には、加給年金を含めた比較が欠かせません。

老齢基礎年金と老齢厚生年金を分けて受給する方法

公的年金の繰下げ受給では、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に選択できる点が重要です。

例えば、65歳から老齢厚生年金を受給し、老齢基礎年金だけを70歳まで繰り下げる方法があります。

この場合、老齢厚生年金を65歳から受給することで、要件を満たせば加給年金も受け取れます。

一方、老齢基礎年金は70歳まで繰り下げることで、42%増額された年金を受給できます。

仮に65歳時点の老齢基礎年金が年間80万円、老齢厚生年金が年間160万円とします。

老齢基礎年金を70歳まで繰り下げた場合には、年間約114万円になります。

老齢厚生年金160万円と合わせると、70歳以降の年金額は年間約274万円になります。

両方を65歳から受給した場合の年間240万円と比べて、約34万円増加する計算です。

この方法であれば、老齢厚生年金の受給を開始しながら、老齢基礎年金の増額を目指すことができます。

ただし、老齢厚生年金については、在職老齢年金による支給停止が生じる場合があります。

また、老齢基礎年金の繰下げ期間中は、その年金を受け取れないため、生活資金を別途確保する必要があります。

年金の繰下げは、全部を一括して考えるのではなく、老齢基礎年金と老齢厚生年金を分けて検討することが重要です。

高収入で働き続ける人は繰下げ受給に注意する

65歳以降も高収入で働く場合には、老齢厚生年金の繰下げ受給について注意が必要です。

在職老齢年金によって支給停止となる老齢厚生年金の部分は、繰下げ増額の対象にならないためです。

例えば、65歳から70歳まで高額な給与収入があり、老齢厚生年金の全額が在職老齢年金によって支給停止される場合を考えます。

この場合、老齢厚生年金を70歳まで繰り下げても、支給停止相当部分については繰下げによる増額が生じません。

したがって、単純に5年間繰り下げれば老齢厚生年金が42%増えるとは限らないのです。

一方、老齢基礎年金は在職老齢年金の支給停止対象ではありません。

そのため、高収入で働く人にとっては、老齢基礎年金の繰下げを優先して検討する方法も考えられます。

ただし、実際の増額率や受給額は、年金記録や報酬額によって異なります。

年金事務所などで見込額を確認し、複数の受給方法を比較することが重要です。

年金額が増えると税金や社会保険料も増える

年金の繰下げ受給では、額面の年金額だけでなく、手取り額を確認する必要があります。

公的年金は、原則として雑所得として所得税や住民税の課税対象になります。

ただし、公的年金等控除や基礎控除などがあるため、受給額の全額に税金がかかるわけではありません。

年金の繰下げによって受給額が増えると、課税所得が増加する可能性があります。

また、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料などにも影響する場合があります。

例えば、年金額が年間240万円から341万円に増えたとしても、差額の101万円がそのまま手取り収入の増加になるわけではありません。

所得税や住民税、社会保険料の負担が増えれば、実際の手取り増加額は小さくなります。

さらに、所得水準によっては、医療費や介護サービスの自己負担割合に影響する可能性もあります。

そのため、繰下げ受給を検討する際には、年金の額面だけでなく、税金や社会保険料を差し引いた可処分所得を比較することが重要です。

特に夫婦世帯では、本人だけでなく配偶者の年金や所得も含めて考える必要があります。

65歳から70歳までの働き方が年金戦略を左右する

70代の年金戦略を考えるうえで、65歳から70歳までの5年間は重要な期間です。

この期間にどの程度の給与収入を得るかによって、年金の受給方法が変わる可能性があります。

例えば、65歳以降も十分な給与収入があり、生活費を給与だけで賄える場合には、老齢基礎年金の繰下げを検討する余地があります。

一方、給与収入が少なく、生活費を補う必要がある場合には、65歳から年金を受給する方が適しているかもしれません。

また、70歳以降に個人事業を始める場合には、事業所得と年金収入を組み合わせる方法も考えられます。

この場合、事業所得そのものは在職老齢年金の計算対象にはなりませんが、所得税や住民税、社会保険料への影響は生じます。

さらに、配偶者の年齢や年金受給開始時期も重要です。

例えば、夫婦の年齢差が15歳ある場合には、加給年金の受給可能期間が長くなる可能性があります。

そのため、老齢厚生年金を65歳から受給し、老齢基礎年金だけを繰り下げる方法が有力な選択肢になることもあります。

ただし、実際には在職老齢年金による支給停止や配偶者の受給権なども考慮する必要があります。

年金戦略は、本人の年齢だけでなく、世帯全体の状況によって判断することが重要なのです。

結論

人生100年時代において、70代まで働くことは老後資金を確保するための重要な選択肢です。

しかし、働き続ける場合には、給与収入だけでなく、公的年金制度との関係を理解する必要があります。

2026年4月から在職老齢年金の支給停止調整額が月額65万円に引き上げられたことで、従来よりも働きながら年金を受給しやすくなりました。

一方、給与収入が高い場合には、引き続き老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される可能性があります。

また、年金の繰下げ受給によって受給額を増やすこともできますが、必ずしもすべての人に有利とは限りません。

特に、年下の配偶者がいる場合には、加給年金への影響を慎重に検討する必要があります。

さらに、高収入で働く人については、在職老齢年金による支給停止部分が繰下げ増額の対象にならないことにも注意が必要です。

そのため、65歳から老齢厚生年金を受給し、老齢基礎年金だけを繰り下げる方法も含めて比較することが重要になります。

年金の最適な受給方法は、本人の給与収入、健康状態、配偶者の年齢、金融資産、生活費などによって異なります。

単純に年金額を最大化することが、必ずしも世帯全体の利益を最大化するとは限りません。

重要なのは、給与と年金を合わせた手取り収入を確保しながら、金融資産の取り崩しを適切に管理することです。

また、70代まで働く場合でも、現役時代と同じ働き方を続ける必要はありません。

65歳から70歳までは比較的多く働き、70歳以降は仕事量を減らすという方法もあります。

年金を生活の基盤としながら、仕事による収入を上乗せすることで、経済的な安心と自由な時間を両立することが可能になります。

人生100年時代の年金戦略では、何歳から年金を受け取るかという問題だけでなく、何歳まで、どのように働くかという視点が欠かせません。

70代の働き方と年金の最適解は、年金額の多さだけで決まるものではありません。

夫婦の生活、健康、仕事、生きがいを含めて、自分に合った組み合わせを選ぶことこそが、豊かな老後を実現するための重要な鍵になるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月11日付 「70代こそ働くのをやめるな 作家・林真理子氏『卒婚も選択肢に』」

日本年金機構 在職老齢年金の計算方法

日本年金機構 年金の繰下げ受給

日本年金機構 加給年金額と振替加算

厚生労働省 2026年度年金制度に関する資料

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