【土地評価の落とし穴シリーズ・第2回】「利用価値が著しく低下している宅地」評価減の誤解

税理士
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相続税の土地評価では、特定の条件を満たす場合に評価額を減額できる取扱いがあります。その代表的なものが「利用価値が著しく低下している宅地」の評価減です。

ところが、この評価減をめぐる誤解は多く、「臭いが気になる」「日当たりが悪い」など、感覚的な事情だけで適用できると考えているケースも見受けられます。評価減は税額に大きく影響するため、誤った適用は加算税のリスクにつながり、安易な主張は非常に危険です。

本記事では、「利用価値が著しく低下している宅地」の本質と、実務でどこまで認められるのかを一般の方向けに分かりやすく解説します。

1. この評価減の趣旨

国税庁のタックスアンサー No.4617 では、次のような宅地について評価額を減額できると示されています。

● 利用状況が周囲の宅地と比べて著しく悪い場合

・地盤に激しい凹凸がある
・道路より極端に高い/低い位置にある
・著しい騒音・振動がある
・日照阻害、臭気などが継続的に発生している
など、一般的な宅地では見られない不利な条件を想定しています。

ポイントは、
「周囲の宅地と比較して、明確に土地価値に影響する事情があるか」
という点です。


2. よくある誤解:「気になるレベル」では認められない

実務では、「評価減が認められそうだ」と思いがちな環境がいくつかあります。しかし、以下の事情だけでは評価減は難しいのが現実です。

❌ ごみ集積所が近い

→ 住宅街では一般的。個別の土地だけが不利とは言えない。

❌ 電柱・電線が気になる

→ 一般的な宅地では通常存在する設備であり、特別の不利益とは評価されにくい。

❌ 日常的に車の通行が多い

→ 都市部では通常の状況。騒音のレベルが基準を超えるなど具体性が必要。

❌ 景観が良くない

→ 主観的な判断に左右されるため、取引価格への影響が証明しにくい。

つまり、
「なんとなく不利そう」「気になる」というレベルでは評価減にならない
ということです。


3. 評価減が“認められる可能性がある”ケース

実務で評価減が認められる可能性があるのは、以下のように“客観的な不利”が存在し、実際に取引価額に影響すると考えられる場合です。

■① 日照阻害が法令基準を超えている場合

建築基準法の「日影規制」を大幅に超えるケースでは、取引価額に影響しやすくなります。

■② 激しい振動・騒音が継続している場合

・幹線道路の高架下
・鉄道の至近距離
・工場の騒音
など、一般的な宅地と比べて明確な差がある場合は検討されます。

■③ 悪臭などが継続し、住環境に重大な影響がある場合

一時的・軽度ではなく、売買価額に影響するレベルであることが必要です。

■④ 地盤の大きな凹凸・高低差

造成工事なしでは通常の住宅建築ができないような状況は評価減の代表例です。


4. なぜ厳しいのか?実務の視点

この評価減が慎重に扱われる理由は次のとおりです。

● ① 評価減が大きいと税額に大きく影響する

誤った適用は大きな減税になり、税務署側も否認に敏感になります。

● ② 主観的な要素を排除する必要がある

「不快」「気になる」だけでは公平性を欠くため、客観的基準が求められます。

● ③ 周囲の宅地との比較が必須

同じ地域の一般的な宅地でも同じ状況が見られる場合、特別な不利益とは言えません。

このため、
取引価額にどれだけ影響するかを客観的に示す証拠が重要
となります。


5. 評価減を主張する際に必要な資料

評価減を検討する場合は、次のような資料があると説得力が増します。

  • 不動産会社の意見書(周辺との比較を含む)
  • 売買事例の価格データ
  • 振動・騒音・臭気などの測定データ
  • 現地写真・動画
  • 建築専門家が作成した造成費の見積もり

これらがあることで、
「主観ではなく客観的に不利な土地である」
ことを説明できます。

終わり

結論

「利用価値が著しく低下している宅地」の評価減は、見た目の印象や主観的な不快感だけでは認められません。
あくまでも、
・周囲の宅地と比べて明らかに不利な状況がある
・その不利が取引価額に具体的な影響を与える
場合に限られます。

評価減の主張は税務署のチェックが厳しく、裏付け資料も必要となるため、安易な適用はリスクがあります。疑問がある場合は、専門家の意見や売買事例を確認しながら慎重に検討することが重要です。

出典

・国税庁「タックスアンサー No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価」
・財産評価基本通達


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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