人口減少でも行政需要は減らない 観光地が直面するインフラ維持の難題

税理士
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人口が減れば、自治体が提供する行政サービスの量も減り、行政コストも小さくなる。

一見すると当然のように思えます。

しかし、実際の地方財政はそれほど単純ではありません。

道路や上下水道、消防、ごみ処理などのインフラには、利用者が減っても簡単には削減できない固定的な費用があります。

さらに観光地では、住民人口が減少しても観光客が増えれば、行政サービスへの需要そのものが減らない可能性があります。

人口約1万人に対して年間2,000万人以上の観光客が訪れる神奈川県箱根町は、その問題を象徴する自治体です。

人口減少時代の地方財政では、何人が住んでいるかだけではなく、地域のインフラを何人が利用しているかを見る必要があります。

人口が半分になっても道路を半分にはできない

人口減少による地方財政の難しさを考えるとき、まず理解したいのがインフラの特徴です。

例えば人口が10万人から5万人に減ったとしても、道路を単純に半分にすることはできません。

住民が暮らしている地域には道路が必要です。

橋やトンネルも維持しなければなりません。

上下水道も同様です。

利用者が減ったからといって、水道管や下水管を簡単に撤去することはできません。

消防署や救急体制についても、一定の地域をカバーするためには最低限の人員や設備が必要です。

人口が減少しても、行政コストが同じ割合で減るわけではありません。

利用者が減るほど1人当たり負担が重くなる

むしろ人口減少によって問題になるのは、インフラを支える人が少なくなることです。

例えば年間10億円必要なインフラを10万人で支えていた地域があるとします。

人口が5万人になっても維持費が10億円のままであれば、単純計算では1人当たりの負担は2倍になります。

実際には国や自治体のさまざまな財源があるため、それほど単純ではありません。

しかし基本的な構造は同じです。

利用者や納税者が減っても、固定的な維持費が残れば1人当たりの負担は重くなります。

人口減少時代の地方財政では、税収減少とインフラ維持費の双方を考える必要があります。

観光地では住民が減っても利用者は減らない

箱根町のような観光地では、さらに複雑になります。

人口は約1万人ですが、年間2,000万人以上の観光客が訪れます。

道路を利用するのは町民だけではありません。

上下水道を使うのも町民だけではありません。

ごみを出すのも、消防や救急サービスを必要とする可能性があるのも町民だけではありません。

住民人口が減少しても観光客が維持されれば、インフラへの需要はそれほど減らない可能性があります。

逆に観光客が増えれば、住民人口が減っているのに行政需要は増えるという現象も起こり得ます。

ごみ処理費7.7億円が示す行政需要

箱根町の2024年度のごみ処理費は年間7.7億円です。

人口約1万人の自治体でありながら、人口5万から6万人規模の自治体と同程度とされています。

この数字は、人口と行政需要が必ずしも一致しないことを分かりやすく示しています。

観光客が宿泊し、飲食し、買い物をすれば、ごみが発生します。

宿泊施設や飲食店から出るごみも増えます。

人口だけを基準にごみ処理体制を縮小すれば、観光地として必要な処理能力を維持できなくなります。

行政サービスの規模を決めるのは、住民人口だけではないのです。

山間部ではインフラを集約しにくい

箱根町には、もう一つ難しい事情があります。

山間部に温泉地や別荘地、宿泊施設などが点在しています。

人口減少への対応策として、居住地域や行政サービスを一定の地域に集約する考え方があります。

しかし観光地では、観光資源そのものを移動させることはできません。

温泉地を行政の都合で一つの場所に集めることはできません。

各地域に宿泊施設や観光施設が存在する以上、そこにつながる道路などのインフラも維持する必要があります。

人口が減っても行政サービスの提供範囲を簡単には縮小できないのです。

消防や救急には最低限必要な規模がある

消防や救急も人口に比例して縮小できるものではありません。

火災や事故、急病がいつ発生するかは分かりません。

観光地では、多数の宿泊客が滞在するホテルや旅館などで災害が発生する可能性も考える必要があります。

そのため一定の消防力や救急体制を常に維持しなければなりません。

利用実績が少ない時間帯があるからといって、消防署や救急車をなくすことはできません。

箱根町では地理的条件もあり、消防費が同規模の自治体より大きくなっています。

安全を守る行政サービスには、人口とは別に必要最低限の規模があります。

老朽化というもう一つの問題

人口減少と同時に進むのが、インフラの老朽化です。

高度経済成長期などに整備された道路、橋、上下水道、公共施設は、時間の経過とともに更新時期を迎えます。

人口が増えていた時代に造ったインフラを、人口が減少する時代に更新しなければならないという問題です。

しかも建設時とは異なり、将来の利用者や納税者は少なくなります。

維持するのか。

更新するのか。

統廃合するのか。

自治体は難しい判断を迫られます。

観光地の場合は、住民利用が少なくても観光客が利用するインフラを残さなければならないこともあります。

観光客は税収源であると同時にインフラ利用者

もちろん観光客は自治体に負担だけをもたらす存在ではありません。

宿泊や飲食、買い物によって地域経済を支えています。

宿泊施設や観光施設からは固定資産税などの税収も得られます。

雇用も生まれます。

問題は、観光によって生まれる経済効果と、自治体が直接負担する行政コストが必ずしも一致しないことです。

観光客が地域で使った1万円が、そのまま自治体の税収になるわけではありません。

一方、道路や消防、ごみ処理などの費用は自治体が負担します。

この差をどう埋めるのかが観光自治体の重要な課題になります。

宿泊税はインフラ維持財源にもなる

箱根町が導入を目指している宿泊税は、この問題への一つの対応策です。

宿泊客から1人1泊350円を徴収し、年間約14億円の税収を見込んでいます。

しかも観光振興だけに使途を限定する目的税ではなく、法定外普通税として導入する計画です。

そのため、消防や救急、道路、ごみ処理など幅広い行政需要に対応できます。

住民人口が減少しても、観光客による行政需要が残るのであれば、観光客にもインフラ維持費の一部を負担してもらう。

人口減少と交流人口増加が同時に進む地域では、こうした財源確保の考え方が重要になってきます。

人口ではなく実際の利用量を見る時代へ

これからの自治体経営では、人口だけを見て行政サービスの規模を判断することが難しくなるでしょう。

必要なのは、実際に地域がどのように利用されているかを見ることです。

年間の観光客数はどの程度か。

宿泊者数はどの程度か。

道路の交通量はどれくらいか。

ごみはどれだけ発生しているか。

消防や救急の需要はどう変化しているか。

上下水道はどの程度利用されているか。

こうしたデータを基に、必要なインフラの規模と財源を考える必要があります。

定住人口だけではなく交流人口を含めた地域利用の実態が、自治体経営の重要な指標になっていくでしょう。

結論

人口減少が進めば行政コストも自然に減っていくという考え方は、必ずしも正しくありません。

道路や上下水道、消防などには、人口が減っても維持しなければならない固定的なコストがあります。

さらに観光地では、住民人口が減っても観光客が地域インフラを利用します。

人口約1万人に年間2,000万人以上の観光客が訪れる箱根町は、その問題を象徴しています。

人口が減っているのに行政需要は減らない。

税収を支える住民は減っているのに、インフラは維持しなければならない。

これが人口減少時代の観光自治体が直面する難題です。

だからこそ、これからの地方財政では住民人口だけでなく、地域を実際に利用する人まで含めて考える必要があります。

箱根町の宿泊税は単なる観光客への課税ではありません。

人口減少時代に地域インフラを誰が支えるのかという、日本の多くの自治体がこれから直面する問題への一つの試みといえるでしょう。

参考

日本経済新聞 2026年10月7日朝刊 箱根町、苦しい台所事情が迫る宿泊「普通税」 全国初で2割増収

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