日本企業の事業ポートフォリオ改革を考えるうえで、避けて通れないテーマの1つが親子上場です。
親会社と子会社がともに株式市場へ上場する親子上場には、子会社が独自に資金調達できるなどのメリットがあります。
一方で、親会社と子会社の一般株主との間に利益相反が生じる可能性も指摘されてきました。
近年は企業統治や資本効率を重視する流れから、親子上場を見直す企業も増えています。
そこへ新たな材料として登場する可能性があるのが、2027年度税制改正に向けて経済産業省が要望している「事業ポートフォリオ転換・強化促進税制」です。
制度の具体的な適用範囲は今後の議論次第ですが、連結子会社などにも活用できる仕組みになれば、企業グループの再編を後押しする可能性があります。
親子上場とは何か
親子上場とは、親会社と、その親会社が一定の株式を保有する子会社の双方が上場している状態です。
親会社にとっては、子会社株式の一部を市場へ売却することで資金を調達できるメリットがあります。
子会社にとっても、上場会社として独自に資金調達したり、株式を利用したM&Aを行ったりできる利点があります。
そのため、日本では長く親子上場が企業グループ戦略の1つとして利用されてきました。
しかし、企業統治の観点から見ると難しい問題もあります。
親会社と少数株主の利益は一致するとは限らない
最大の問題は、親会社と子会社の少数株主との利益相反です。
親会社はグループ全体の利益を考えて経営判断を行います。
一方、上場子会社の取締役には、その子会社自身の企業価値を高めることが求められます。
例えば、親会社と子会社の間で取引を行う場合を考えてみます。
親会社に有利な条件で取引すれば、親会社にはメリットがあります。
しかし、その条件が子会社に不利であれば、子会社の少数株主が不利益を受ける可能性があります。
グループ全体として合理的な判断と、上場子会社の株主にとって合理的な判断が一致するとは限らないのです。
これが親子上場に内在する難しさです。
親子上場には3つの選択肢がある
親子上場を見直す場合、大きく分けると3つの方向が考えられます。
1つ目は、そのまま親子上場を維持する方法です。
2つ目は、親会社が子会社株式を追加取得し、完全子会社化する方法です。
3つ目は、親会社が保有する子会社株式を売却するなどして資本関係を解消する方法です。
完全子会社化すれば、親会社と子会社の少数株主との利益相反問題は基本的に解消されます。
一方、子会社が親会社の中核事業ではない場合には、売却して独立させたり、別の企業グループへ移したりする方が合理的なこともあります。
ここでも重要になるのがベストオーナーの考え方です。
子会社だから持ち続ける必要はない
企業グループの中には、歴史的な経緯によって子会社になった企業も少なくありません。
事業上の関係が深かった。
過去に救済目的で出資した。
共同事業から子会社化した。
さまざまな事情があります。
しかし、現在の事業戦略から見て、その子会社を保有する意味が薄れている場合もあります。
それでも、
「昔からグループ会社だから」
という理由だけで保有を続ければ、資本が固定されます。
これからは親会社自身が、
なぜこの子会社を保有しているのか。
自社が親会社であることで、子会社の企業価値を高められているのか。
その資本を別の成長事業へ振り向けた方がよいのではないか。
と問い直す必要があります。
子会社売却では大きな売却益が出ることがある
そこで問題になるのが税金です。
親会社が長期間保有してきた子会社の株式は、税務上の帳簿価額が低い場合があります。
その子会社が長年成長し、企業価値が大きく高まっていれば、売却したときに多額の売却益が発生する可能性があります。
例えば、税務上の帳簿価額が100億円の子会社株式を500億円で売却すれば、単純化すると400億円の売却益が生じます。
売却そのものに経済合理性があっても、多額の税負担が発生するのであれば、
「今は売らない方がよい」
という判断につながることがあります。
税負担が資本関係を固定してしまうわけです。
新税制がグループ再編を動かす可能性
事業ポートフォリオ転換・強化促進税制が注目される理由の1つがここにあります。
今回の記事では、投資銀行幹部から、連結子会社などにも活用できれば親子上場問題の解消に使える可能性があるとの期待が示されています。
仮に一定の要件のもとで子会社などの売却益への課税を繰り延べ、その資金を新たな買収などへ振り向けられるのであれば、企業の選択肢は広がります。
非中核子会社を売却する。
そこで得た資金を成長分野へ投入する。
企業グループ全体の事業構成を変える。
こうした動きが進みやすくなる可能性があります。
完全子会社化と売却を比較する時代になる
親子上場の見直しというと、親会社による完全子会社化が注目されがちです。
しかし、すべての上場子会社を完全子会社化することが正解とは限りません。
中核事業であり、親会社との相乗効果が大きいのであれば、完全子会社化には合理性があります。
一方、親会社との事業上の関係が薄く、他社の傘下に入った方が成長できるのであれば、売却という選択肢もあります。
つまり、
完全子会社化するのか。
保有を続けるのか。
売却するのか。
この3つを比較する必要があります。
親子上場問題は単なる企業統治の問題ではなく、事業ポートフォリオの問題でもあるのです。
税務部門にもグループ全体を見る視点が必要になる
こうした企業グループ再編では、税務部門の役割も重要になります。
子会社株式を売却した場合の税負担はいくらか。
完全子会社化した場合はどうなるのか。
組織再編税制を利用できるのか。
新しい事業ポートフォリオ転換・強化促進税制の対象になるのか。
売却後の資金をどのような投資へ振り向けるのか。
個別の税務処理だけではなく、グループ全体の資本配置まで見ながら検討する必要があります。
特に大型の子会社再編では税額も大きくなります。
税務上の検討を後回しにすれば、経営上望ましい再編方法を選択できなくなる可能性があります。
税制だけで親子上場は解消しない
もちろん、新税制ができれば親子上場が一気に解消されるわけではありません。
子会社には従業員がいます。
取引先があります。
独自の企業文化があります。
少数株主もいます。
さらに、売却価格や買い手、事業上の相乗効果など、多くの要素を考えなければなりません。
税制はあくまで判断材料の1つです。
しかし、経済合理性のある再編を税負担が妨げているのであれば、その障害を小さくする意味はあります。
重要なのは、税制によって再編させることではありません。
経営上合理的な再編を税制が邪魔しないことです。
結論
親子上場の問題を考えるとき、「親子上場は良いのか悪いのか」という二者択一で考える必要はないと思います。
重要なのは、その資本関係に経済合理性があるかどうかです。
親会社が子会社の成長に貢献できるのであれば、グループとして保有する意味があります。
一方、別の企業が保有した方が事業を成長させられるのであれば、売却することも選択肢になります。
これから企業に問われるのは、
「なぜこの会社を子会社として持っているのか」
という非常にシンプルな質問です。
その答えが「昔からそうだから」だけでは、資本効率を重視する時代には通用しにくくなります。
新しい事業ポートフォリオ転換・強化促進税制が連結子会社などにも使いやすい制度になれば、企業が長年固定してきた資本関係を見直すきっかけになる可能性があります。
親子上場の解消とは、単に上場会社の数を減らすことではありません。
どの企業がその事業の価値を最も高められるのかを問い直すことです。
新税制が企業グループの形まで変えるのか。
今後の具体的な制度設計に注目したいと思います。
参考
日本経済新聞 2026年10月6日朝刊 新税制は企業を目覚めさせるか 事業再編の起爆剤に