決算が近づき、予想以上に利益が出そうだと分かったとき、「何か設備を買って節税できないか」と考える会社は少なくありません。
特に少額減価償却資産の特例や中小企業経営強化税制などを利用すれば、通常の減価償却より早く費用化できる場合があります。
そのため、設備投資は決算対策として注目されやすい分野です。
しかし、今回の資料を通して見えてくるのは、減価償却による節税を決算直前だけで考えることの危うさです。
少額減価償却資産の特例には年間合計300万円という限度があります。
決算直前に購入しても、年度内に事業の用に供していなければ費用化できません。
中小企業経営強化税制を利用する場合には、設備投資のかなり前から手続きを進める必要があります。
設備投資は、本来、会社の事業に必要だから行うものです。
税金を減らすために設備を買うのではなく、必要な設備投資について税制をどのように活用するか。
この順番で考えることが重要です。
決算直前に利益が分かってからでは遅い
設備投資による節税を考えるとき、最も避けたいのが決算直前になって慌てて動くことです。
例えば、決算まであと数日という時点で利益が大きく出ることが分かり、パソコンや備品をまとめて購入したとします。
注文した。
代金も支払った。
だから今年度の経費になる。
そう考えたくなります。
しかし、資料で説明されているとおり、減価償却では単に購入しただけでは十分ではありません。
その年度中に「事業の用に供している」ことが重要になります。
支払った日より事業供用が重要になる
決算対策では、支払日を意識しがちです。
しかし、固定資産の減価償却を考える場合には、支払ったかどうかだけで判断することはできません。
例えば、決算前に設備代金を全額支払っていても、設備がまだ納品されていなければ事業で使用できません。
納品されていても、箱に入ったままで使用を開始していなければ、事業の用に供したとはいえない場合があります。
反対に、設備が納品され、年度内に事業で使用を開始していれば、代金の支払いが翌年度になる場合でも、その年度の減価償却の対象となり得ます。
決算直前に設備を購入する場合ほど、「いつ支払ったか」ではなく「いつ使い始めたか」を確認する必要があります。
少額減価償却資産にも年間限度がある
2026年度税制改正では、少額減価償却資産の特例について重要な変更が行われています。
資料によると、2026年3月31日までに事業の用に供した資産については取得価額30万円未満が対象でしたが、2026年4月1日以後に事業の用に供する資産については40万円未満に拡大されました。
物価上昇、特にパソコンなどの価格上昇を踏まえた見直しです。
一見すると、これまでより使いやすい制度になったように見えます。
しかし、注意したいのが年間の合計限度額です。
こちらは300万円のままです。
40万円未満になっても年間400万円ではない
取得価額の基準が30万円未満から40万円未満へ引き上げられたことで、「年間の限度額も増えた」と誤解しないよう注意が必要です。
資料では、従来の30万円未満という基準で29万円の備品を購入する場合、年間300万円の範囲ではおおむね10個まで利用できたのに対し、39万円の備品なら7個程度になることが示されています。
1つの資産について利用できる金額の範囲は広がりました。
しかし、年間合計300万円という枠は変わっていません。
高額な少額資産を多数購入すれば、それだけ早く年間限度額に到達します。
だからこそ、決算直前だけでなく年間を通して利用状況を管理する必要があります。
少額資産は3つの制度を使い分ける
資料では、少額の資産について複数の処理方法が整理されています。
10万円未満であれば消耗品として全額を費用処理する方法があります。
20万円未満であれば一括償却資産として3年間で均等に損金算入する方法があります。
そして一定の中小法人では、40万円未満の資産について少額減価償却資産の特例を利用し、取得年度に全額を損金算入できる場合があります。
単純に「最も早く経費になる制度を選べばよい」とは限りません。
少額減価償却資産の特例には年間300万円の限度があります。
また、資料では少額減価償却資産の特例を利用した資産は償却資産税の対象となる一方、一括償却資産は対象にならないことも指摘されています。
法人税だけではなく、ほかの負担も含めて考える必要があります。
大きな設備投資ほど早く動く必要がある
さらに重要なのが、40万円以上の本格的な設備投資です。
資料では、中小企業経営強化税制を利用することで、一定の要件を満たした設備について即時償却または税額控除を選択できることが説明されています。
例えば、取得価額1,000万円、耐用年数15年の設備について、通常の初年度減価償却費は66万6,666円です。
一方、資料の即時償却の例では999万9,999円となっています。
初年度の損金額には非常に大きな違いがあります。
しかし、この制度は決算直前に設備を購入し、その場で選択すれば使えるというものではありません。
中小企業経営強化税制には事前準備がある
資料では、中小企業経営強化税制について複数の類型が紹介されています。
そのなかで筆者が勧めているのが、対象業種や設備の範囲が広いB類型の収益力強化設備です。
B類型では、設備投資計画について経済産業局へ確認申請を行う必要があります。
資料によれば、この確認申請から確認を受けるまでには、おおむね2カ月程度かかります。
さらに、その後、事業分野を所管する行政機関へ経営力向上計画を提出し、認定を受けます。
こちらも提出から認定まで、おおむね1カ月程度とされています。
つまり、制度を利用するためには、設備を購入するだけではなく、その前後で計画的な手続きが必要になるのです。
最低でも3カ月程度を考える
資料では、これらの手続きには最低でも3カ月程度必要になると説明されています。
さらに、申請書類を準備する期間まで考えると、決算日の4カ月以上前から動き始めることが必要とされています。
例えば、決算1カ月前に大きな利益が出ることが分かり、
1,000万円の設備を購入しよう
中小企業経営強化税制で即時償却しよう
と考えても、手続きが間に合わない可能性があります。
税制そのものを知っていても、準備する時期を知らなければ利用できないことがあるわけです。
設備投資の日程と申請日程を合わせる
設備投資では、単に「今年中に買う」という計画では不十分です。
いつ申請するのか。
いつ設備投資を行うのか。
いつ経営力向上計画を提出するのか。
いつ認定を受けるのか。
こうした日程を一体として考える必要があります。
資料では、設備投資のタイミングや経営力向上計画の提出期限、さらに設備投資を行った事業年度末までに必要な確認や認定を受けることについて注意が示されています。
設備投資の金額が大きいほど、税務上の処理まで含めたスケジュール管理が重要になります。
節税のためだけに設備を買わない
設備投資による節税で最も重要なのは、税金を減らすことだけを目的に設備を購入しないことです。
設備を購入すれば、会社から資金が出ていきます。
減価償却費を計上することで損金が増えても、設備の購入代金そのものが戻ってくるわけではありません。
即時償却ができたとしても同じです。
費用化の時期を早めることと、設備を無料で取得することは全く違います。
本来必要ではない設備を節税だけを理由に購入すれば、税負担を抑える一方で会社の手元資金を減らすことになります。
設備投資は、まず事業上必要かどうかで判断する必要があります。
必要な投資なら税制を最大限検討する
一方、もともと必要な設備投資であれば話は違います。
老朽化した機械を更新する。
生産能力を高める。
新しい事業を始めるために設備を導入する。
店舗を移転して設備を整える。
こうした投資を予定しているのであれば、どの税制が利用できるのかを早い段階で確認する意味があります。
40万円未満の資産なのか。
一括償却資産を選択できるのか。
少額減価償却資産の特例を利用するのか。
通常の減価償却になるのか。
中小企業経営強化税制を検討できるのか。
投資を決めてから税務処理を考えるのではなく、投資計画と税務を同時に考えることで選択肢が広がります。
決算直前ではなく年間計画にする
減価償却による節税を上手に利用するためには、設備投資を年間計画に組み込むことが重要です。
例えば、期首の段階で、
今年更新する設備は何か
購入予定時期はいつか
おおよその取得価額はいくらか
どの税制を利用できる可能性があるか
どのような申請が必要か
を整理しておきます。
そして期中に業績を確認しながら、必要に応じて投資時期を調整します。
こうしておけば、決算直前になって慌てて備品を買い集める必要もありません。
税制上の手続きが間に合わないという事態も防ぎやすくなります。
年末の駆け込み購入には限界がある
決算直前の設備購入がすべて悪いわけではありません。
本当に必要な備品があり、年度内に納品され、実際に事業で使用を開始できるのであれば、税制上認められる範囲で処理することができます。
しかし、
注文しただけ
代金を支払っただけ
納品されたがまだ使っていない
という状態では、期待した節税効果を得られない可能性があります。
さらに少額減価償却資産の特例には年間300万円の限度があり、大規模設備の優遇税制には事前の手続きがあります。
決算直前だけでできることには限界があるのです。
減価償却は税金だけの問題ではない
減価償却について考えるとき、節税だけに目を向けると本質を見失います。
設備投資は会社の将来の収益を生み出すために行うものです。
同時に、多額の資金を必要とします。
さらに、減価償却費は会計上の利益にも影響し、金融機関が会社の収益力を見る際にも確認される項目です。
設備を購入する。
資金が出ていく。
減価償却費を計上する。
利益が変わる。
税負担が変わる。
金融機関から見える決算内容も変わる。
これらはすべてつながっています。
だからこそ、減価償却を単なる決算直前の節税テクニックとして考えないことが重要です。
結論
減価償却による節税は、決算直前になってから考えるものではありません。
少額減価償却資産の特例を利用する場合でも、年度内に事業の用に供していることが必要であり、年間合計300万円という限度があります。
中小企業経営強化税制を利用して大きな設備を即時償却する場合には、さらに長い準備期間が必要です。
資料では、B類型について確認申請から確認までおおむね2カ月、経営力向上計画の提出から認定までおおむね1カ月とされ、書類準備まで考えると決算日の4カ月以上前から動くことが必要とされています。
そして何より重要なのは、節税のために設備を買うのではないということです。
事業に必要な設備投資がある。
その設備投資について利用できる税制を検討する。
この順番が基本です。
設備投資の予定、資金繰り、減価償却、税制上の手続きを年間計画として考えておけば、決算直前になって慌てる必要はありません。
減価償却を「決算対策」から「設備投資計画」へ。
この視点の転換こそが、減価償却制度をより有効に活用するための重要なポイントです。
参考
企業実務 2026年10月号 減価償却費と節税の疑問と誤解Q&A