身寄りのない高齢者を誰が支えるのかという問題に対し、制度面でも大きな変化が始まっています。
2026年の特別国会では改正社会福祉法が成立しました。
頼れる身寄りがない高齢者などに対する日常生活支援や、円滑な入院手続きの支援について、一定の要件を満たす事業が第2種社会福祉事業に位置づけられました。
これまで民間サービスとして発展してきた高齢者支援の一部が、社会福祉制度の枠組みに入ることになります。
単身高齢者の増加を考えれば、これは単なる事業者規制ではありません。
家族が担ってきた役割を社会としてどう支えるのかという、大きな転換の1つと考えることができます。
なぜ法律による対応が必要になったのか
これまで高齢者の入院や介護施設への入居では、家族が重要な役割を果たしてきました。
緊急連絡先になる。
入院手続きを手伝う。
病院へ必要な物を届ける。
施設との連絡を行う。
場合によっては日常生活も支援する。
こうした役割は法律で家族に一括して定められていたわけではありません。
それでも実際の社会では、家族がいることを前提として多くの仕組みが運営されてきました。
ところが単身高齢者が増え、家族を前提とした仕組みだけでは対応できなくなっています。
親族がいることと頼れることは違う
身寄りのない高齢者という言葉から、戸籍上まったく親族がいない人を想像するかもしれません。
しかし実際には、親族がいても頼れない人がいます。
兄弟姉妹も高齢になっています。
子どもが遠方や海外に住んでいることもあります。
親族と長期間交流がない場合もあります。
90歳の親を60代や70代の子どもが支えるという老老家族の問題もあります。
したがって、高齢者支援では親族が存在するかどうかだけではなく、実際に支援を担える人がいるかという視点が重要になっています。
民間サービスが家族の役割を補ってきた
こうした需要に対応してきたのが、高齢者終身サポートなどの民間サービスです。
身元保証。
病院への同行。
日常生活の支援。
緊急時の対応。
介護施設への入居支援。
死後事務。
事業者によって範囲は異なりますが、これまで家族が担ってきた役割を契約によって第三者が提供する仕組みが広がってきました。
利用者にとって選択肢が増える一方、サービス内容や料金、預託金の管理方法などが事業者ごとに異なるという問題もあります。
利用者保護をどのように確保するかが課題になっていました。
改正社会福祉法で第2種社会福祉事業に
2026年の改正社会福祉法では、頼れる身寄りがない高齢者などに対する日常生活支援や円滑な入院手続きの支援について、利用者のうち一定割合以上に無料または低額の料金で提供する事業が第2種社会福祉事業に位置づけられました。
ここで重要なのは、すべての民間身元保証サービスが一律に第2種社会福祉事業になるという意味ではないことです。
法律上定められた要件を満たす事業が対象となります。
これによって、一定の高齢者支援事業について行政が関与する制度的な枠組みが強化されることになります。
届け出が必要になる
第2種社会福祉事業に位置づけられることの大きな意味の1つが、事業者に届け出が求められることです。
これまでは利用者自身が、事業者の広告や説明、契約内容などを比較して選ぶ部分が大きくなっていました。
届け出制度が導入されれば、対象となる事業者について行政がその存在を把握できるようになります。
誰がどのような事業を行っているのかを行政が把握することは、利用者保護の基礎になります。
高齢者支援が完全に民間事業者と利用者だけの関係ではなくなっていくという点で重要です。
行政指導や監督の対象になる
さらに重要なのが、行政指導や監督です。
高齢者終身サポートは、契約者の生活だけでなく財産にも深く関係する可能性があります。
利用者が高齢になり、自分自身で事業者のサービス内容を十分に確認できなくなることも考えられます。
そのようなサービスを市場原理だけに委ねることには限界があります。
対象事業が社会福祉事業として位置づけられることで、行政による一定の監督が及ぶことになります。
利用者から見れば、事業者を選択するときの安心材料が増える方向といえます。
2024年のガイドラインからさらに一歩進んだ
高齢者終身サポートを巡っては、2024年に国が高齢者等終身サポート事業者ガイドラインを策定しています。
ガイドラインでは、契約内容の説明や利用者保護、預託金などの管理について、事業者が留意すべき事項が整理されました。
これは業界の健全化に向けた重要な動きでした。
一方、今回の改正社会福祉法では、一定の要件を満たす事業を社会福祉事業として位置づけ、届け出や行政監督につなげています。
ガイドラインによる適正な事業運営の促進から、法律に基づく制度的な枠組みへと一歩進んだと見ることができます。
行政監督があれば絶対安心というわけではない
ただし、法律が改正されたからといって、高齢者終身サポートを巡る問題がすべて解決するわけではありません。
まず、すべての事業者やサービスが同じ制度の対象になるわけではありません。
また、行政の監督対象であることと、その事業者が自分に最適であることは別問題です。
サービス内容。
料金体系。
預託金の管理方法。
緊急時の対応。
解約条件。
死後事務の範囲。
利用者自身が確認すべき事項は残ります。
制度は事業者選びを不要にするものではなく、利用者保護の土台を強くするものと考えたほうがよいでしょう。
公的支援と民間サービスの役割分担
今後重要になるのが、公的支援と民間サービスの役割分担です。
すべての高齢者に同じ支援が必要なわけではありません。
経済的に困窮している人には、低額または無料で利用できる支援が重要になります。
一方、一定の資産があり、より幅広い生活支援や死後事務を希望する人には、民間サービスが選択肢になります。
自治体や社会福祉協議会が基本的な相談や支援を担い、必要に応じて民間事業者や専門職につなぐ仕組みも考えられます。
1つの制度ですべてを解決するのではなく、複数の仕組みを組み合わせることが現実的です。
身元保証だけでは解決できない
今回の法改正を考えるうえで重要なのは、高齢者が抱える問題を単なる身元保証人探しにしないことです。
本当に必要なのは、入院時に誰が対応するのかということです。
日常生活を誰が支えるのか。
お金を誰が管理するのか。
判断能力が低下したらどうするのか。
亡くなった後の手続きを誰に頼むのか。
こうした問題は1人の保証人を見つけただけでは解決できません。
高齢期全体を支える仕組みとして考える必要があります。
家族依存型の社会から変わり始める
日本の高齢者支援は長い間、家族の存在を暗黙の前提としてきました。
しかし、単身世帯の増加や家族関係の変化によって、その前提が成立しにくくなっています。
身寄りのない高齢者の問題は、一部の特殊な人だけの問題ではなくなっていくでしょう。
家族が担えない部分を行政、社会福祉協議会、民間事業者、専門職などが分担して支える仕組みが必要になります。
改正社会福祉法は、その方向への制度的な変化の1つと考えることができます。
結論
2026年の改正社会福祉法によって、頼れる身寄りのない高齢者の日常生活支援や円滑な入院手続きの支援について、一定の要件を満たす事業が第2種社会福祉事業に位置づけられました。
対象となる事業者には届け出が必要となり、行政指導や監督の対象になります。
これは単なる規制強化ではありません。
家族が担ってきた高齢者支援の一部を、社会全体の仕組みとして支える方向への変化です。
一方で、行政が監督するからすべて安心というわけではありません。
利用者自身もサービス内容、料金、預託金、解約条件などを確認する必要があります。
これからの高齢社会で必要なのは、家族がいることを前提とした仕組みではありません。
家族がいてもいなくても、必要な支援につながることのできる仕組みです。
身元保証問題を入口として、日本の高齢者福祉は家族依存型から社会全体で支える仕組みへと変わり始めています。
参考
日本経済新聞 2026年10月3日朝刊 単身シニア、難しい身元保証 入院や介護に民間サービス
日本経済新聞 2026年10月3日朝刊 施設の9割が要請