高齢の単身世帯が増えるなか、老後のお金や住まいと並んで重要になっているのが「身元保証」の問題です。
入院するとき、介護施設に入居するとき、あるいは亡くなった後の手続きをするとき、これまでは家族や親族が担うことが一般的でした。しかし、子どもがいない人だけでなく、親族がいても遠方に住んでいたり、関係が疎遠だったりして頼みにくい人も増えています。
こうした需要を背景に、民間の高齢者終身サポート事業が広がっています。一方で、契約内容や料金体系が複雑で、解約や預託金を巡るトラブルも増えています。
単身シニアにとって身元保証は、老後の安心を左右する重要なインフラになりつつあります。
身元保証は単なる保証人ではない
高齢者向けの身元保証サービスという名称から、入院や施設入居の際に保証人になってもらうだけのサービスを想像する人もいるでしょう。
実際には、提供されるサービスは大きく3つに分けられます。
1つ目が身元保証です。入院や介護施設への入居などの場面で必要となる手続きを支援します。
2つ目が日常生活支援です。通院への付き添い、病院への同行、買い物など、高齢になるほど難しくなる日常生活を支えます。
3つ目が死後事務です。葬儀や納骨、住居の明け渡し、電気やガスなどの契約停止、家財の処分といった手続きを本人に代わって行います。
つまり、身元保証サービスは単なる保証人代行ではありません。
元気な時期から亡くなった後までを支える、いわば人生の最終段階を包括的に支援するサービスへと広がっています。
身元保証を必要とする人は単身者だけではない
重要なのは、身元保証を必要とするのが必ずしも身寄りのない人だけではないことです。
親族がいても遠方に住んでいるケースがあります。兄弟姉妹も高齢になり、保証人を頼みにくくなることもあります。
子どもがいても仕事や家庭があります。長期間にわたり病院への付き添いや各種手続きを依頼することに抵抗を感じる人もいるでしょう。
家族がいるかどうかではなく、実際に頼れる人がいるかどうかが問題になっているのです。
その意味では、身元保証は単身高齢者だけの問題ではありません。
高齢社会全体の問題として考える必要があります。
病院や介護施設の現場では身元保証を求めるケースが多い
厚生労働省は、身元保証人がいないことだけを理由として、高齢者の入院や介護施設への入所を拒否しないよう通知しています。
しかし、現場の実態には隔たりがあります。
総務省が2022年に公表した調査では、回答した1,198カ所の病院や施設の9割以上が身元保証を求めていました。
病院や介護施設側にも事情があります。
緊急時に誰へ連絡するのか、医療や介護について誰と相談するのか、入院費や施設利用料が支払われなかった場合にどうするのか、死亡した場合に遺体や荷物を誰が引き取るのかといった問題があります。
制度上は保証人がいなくても利用できるはずでも、現場では家族が担ってきた役割を誰かに求めざるを得ないという構造があります。
民間サービスの拡大とともにトラブルも増えている
需要の増加に伴って、多くの民間事業者が高齢者終身サポート事業に参入しています。
しかし、この市場は長い間、統一的なルールが十分に整備されていませんでした。
国民生活センターによると、高齢者終身サポート事業に関する相談は2025年度に406件となり、10年間で約3倍に増えています。
相談内容では、事業者の信用力に対する不安や、契約したものの解約できないといった問題が目立ちます。
高齢者終身サポートは、契約してから実際にサービスを利用するまで何年も経過する可能性があります。
その間に事業者が経営難に陥ったり、廃業したりする可能性も考えなければなりません。
価格だけで事業者を選ぶことが難しい理由です。
特に注意したい預託金
契約するときに確認しておきたい重要な項目が預託金です。
将来必要になる葬儀費用や死後事務費用などを、あらかじめ事業者に預ける仕組みを採用している場合があります。
問題は、そのお金がどのように管理されているかです。
事業者自身の運転資金などと明確に分けて管理されているのか、第三者による管理の仕組みがあるのかを確認する必要があります。
さらに、途中で契約を解除した場合に、預けたお金がどの程度返還されるのかも重要です。
契約時に支払った金額が、そのまま全額戻ってくるとは限りません。
契約書の中でも、預託金の管理方法と解約時の返還条件は特に慎重に確認したいところです。
国もルール整備に動き始めた
こうした問題を受け、国は2024年に高齢者等終身サポート事業者ガイドラインを策定しました。
利用者向けのチェックリストも設け、契約内容や支払い能力を確認し、不安がある場合には消費生活センターなどへ相談するよう呼びかけています。
さらに制度面で大きな動きがありました。
2026年の特別国会で改正社会福祉法が成立し、頼れる身寄りのない高齢者の日常生活支援や円滑な入院手続きの支援について、一定の要件を満たす事業が第2種社会福祉事業に位置づけられました。
対象となる事業者には届け出が必要となり、行政による指導や監督の対象になります。
これまで民間サービスに依存する部分が大きかった分野に、公的な監督の仕組みが入り始めたことになります。
自治体による支援という選択肢もある
民間事業者と契約する前に、自治体の支援制度を確認することも大切です。
東京都練馬区では2026年4月、身近に頼れる親族がいない高齢者などを対象として、見守りや死後手続き、入院時の支援などを行う事業を始めました。
所得や資産など一定の条件はありますが、民間サービスより低い負担で利用できる場合があります。
地域包括支援センターや社会福祉協議会でも相談できます。
最初から民間事業者を探すのではなく、まず自治体に相談して利用できる公的支援を確認し、そのうえで不足する部分を民間サービスで補うという考え方もあります。
身元保証は元気なうちに考える
身元保証で難しいのは、本当に必要になってから考え始めると選択肢が狭くなることです。
入院や介護が必要になってから、短期間で契約内容を比較するのは簡単ではありません。
判断能力が低下すれば、自分自身で契約すること自体が難しくなる可能性もあります。
だからこそ、元気なうちに準備しておく意味があります。
誰に緊急連絡を頼むのか、入院時の手続きを誰に依頼するのか、財産管理をどうするのか、認知症になった場合にどうするのか、亡くなった後の葬儀や納骨、住居の整理を誰に任せるのかを整理しておくことが重要です。
身元保証だけでなく、任意後見契約、財産管理委任契約、死後事務委任契約、遺言なども含めて考える必要があります。
結論
単身高齢者の増加によって、これまで家族が担ってきた役割を社会の仕組みとしてどう支えるのかが問われています。
身元保証サービスは、その解決策の1つです。しかし、長期間にわたる契約であり、事業者の信用力、預託金の管理、解約条件、死後事務の範囲など確認すべき点は少なくありません。
大切なのは、単に保証人を探すことではありません。
自分が判断できなくなったとき、入院したとき、介護が必要になったとき、そして亡くなった後まで、誰に何を託すのかを設計しておくことです。
人生100年時代には、お金を準備するだけでは老後準備は完成しません。
家族に代わって自分を支えてくれる仕組みを準備することも、これからの終活の重要なテーマになっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月3日朝刊 単身シニア、難しい身元保証 入院や介護に民間サービス
日本経済新聞 2026年10月3日朝刊 施設の9割が要請