企業不祥事で本当に見るべきは「誰が辞めたか」ではない

会計
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企業で重大な不祥事が起きると、経営トップの進退が注目されます。

社長が辞任した。

会長が退任した。

担当役員が処分された。

経営陣が刷新された。

こうしたニュースは分かりやすいため、大きく報道されます。

ニデックでも会計問題を巡って経営体制が大きく変わりました。創業者の永守重信氏は2025年末に代表取締役を辞任し、2026年9月29日には岸田光哉前社長が辞任しました。

しかし企業不祥事を見るとき、本当に重要なのは「誰が辞めたか」だけではありません。

その人物がいなくなった後、問題を生み出した組織の仕組みが変わったのかを見る必要があります。

トップ辞任は分かりやすい責任の取り方

企業不祥事では、経営トップが辞任することがあります。

経営責任を明確にする。

社会に対して謝罪する。

組織を刷新する。

新しい経営体制で再出発する。

こうした意味があります。

重大な問題が発生したにもかかわらず誰も責任を取らなければ、企業統治そのものへの疑問が強まることもあります。

したがってトップの進退は重要です。

ただし、辞任したという事実だけで企業の問題が解決するわけではありません。

人を替えても仕組みが同じなら問題は残る

例えば社長が業績目標を強く求め、その結果として現場が不適切な会計処理を行った会社を考えます。

不祥事発覚後、社長が辞任しました。

しかし翌年度も同じような無理な業績目標が設定される。

部下が上司へ悪い情報を報告しにくい。

内部監査部門の権限が弱い。

取締役会も経営陣の説明を追認するだけ。

これでは社長の名前が変わっただけです。

問題を生み出した構造は残っています。

企業統治で重要なのは人事だけではなく、組織がどのように意思決定し、チェックする仕組みになっているかです。

不祥事では「なぜ止められなかったか」を考える

企業不祥事が発生したときには、「誰がやったのか」という問いが最初に出てきます。

もちろん責任者を特定することは必要です。

しかし再発防止のためには、もう1つ重要な問いがあります。

なぜ組織は止められなかったのか。

上司は気付かなかったのか。

内部監査は確認できなかったのか。

経理部門は疑問を持たなかったのか。

監査役や監査委員は把握できなかったのか。

取締役会へ情報は上がっていたのか。

内部通報制度は機能していたのか。

不祥事を個人の問題だけにすると、この問いが抜け落ちる可能性があります。

財務報告は1人では作れない

上場企業の決算は、多数の人と組織によって作られています。

営業部門が取引情報を入力する。

子会社が決算数字を報告する。

経理部門が集計する。

財務部門が資金情報を管理する。

経営企画部門が事業計画を作成する。

経営者が重要な会計上の見積もりを判断する。

内部監査部門が業務を確認する。

監査法人が外部から監査する。

これだけ多くの段階があるため、重大な問題が長期間見逃されていた場合には、複数のチェック機能がなぜ働かなかったのかを検証する必要があります。

ニデックでは虚偽説明の問題が重要

ニデックについてPwCジャパン監査法人が指摘した内容は重要です。

会計監査人に虚偽の説明をした役職員の一部が、会社やグループ会社の財務報告プロセスで責任ある立場を担当していたとしています。

もし財務報告に責任を持つ立場の人から提供される情報について信頼性に疑問が生じれば、特定の会計処理だけの問題では済まない可能性があります。

その人物が関与したほかの情報は正しかったのか。

同じような問題が別の部署にはないのか。

上司や周囲は把握していなかったのか。

内部統制はなぜ防げなかったのか。

こうした問題まで確認する必要があります。

辞任だけでは監査証拠は増えない

監査という視点から考えると、この問題はさらに分かりやすくなります。

問題のある役員が辞任したとしても、それだけで監査法人が必要としている監査証拠がそろうわけではありません。

過去の取引資料。

契約書。

会計記録。

事業計画。

子会社からの報告。

関係者への調査。

こうした証拠を集める必要があります。

さらに、これまで会社から提供された情報が正しかったのかを再確認しなければならない場合もあります。

人事を変更することと、財務情報への信頼を回復することは別の作業なのです。

新しい社長が何を変えるかを見る

トップ交代後に重要なのは、新社長の名前ではありません。

何を変えるのかです。

取締役会の構成を変えるのか。

社外取締役の監督機能を強化するのか。

内部監査部門を経営陣から独立させるのか。

経理部門の人員や権限を強化するのか。

子会社管理を見直すのか。

内部通報制度を改善するのか。

監査法人への情報提供体制を見直すのか。

具体的な制度変更を見る必要があります。

さらに重要なのは制度が動いているか

制度を作るだけでも十分ではありません。

例えば内部通報制度を強化すると発表したとします。

重要なのは、その制度が実際に使えるかです。

通報した社員が不利益を受けないか。

通報内容が経営トップから独立した部署へ届くか。

重大案件が取締役会へ報告されるか。

調査結果が放置されないか。

改善策が実施されるか。

規程が存在することと、その規程が機能することは違います。

これは内部統制における「整備」と「運用」の違いでもあります。

悪い情報が上に届く会社か

企業統治を見るうえで、非常に重要なのが情報の流れです。

業績が好調なときには、良い情報は自然に経営陣へ集まります。

問題は悪い情報です。

売上目標を達成できそうにない。

大型案件で損失が発生した。

子会社で不適切な会計処理の疑いがある。

買収した会社の業績が計画を大きく下回っている。

こうした情報が早い段階で経営陣や取締役会へ届く会社なのか。

それとも現場で止まってしまう会社なのか。

企業不祥事の再発防止では、この違いが非常に重要です。

過度な業績目標も検証する

会計不正の背景には、過度な業績目標が存在することがあります。

絶対に予算を達成する。

利益を前年より減らしてはいけない。

期末までに売上を作る。

こうした強い圧力が組織にかかれば、現場が数字を優先する危険性が高まります。

もちろん高い目標を掲げること自体が問題なのではありません。

重要なのは、目標達成と適切な会計処理のどちらを優先する文化なのかということです。

新しい経営陣が就任した後には、評価制度や予算管理まで変わったのかを見る必要があります。

取締役会が本当に監督できるか

社長を交代しても、取締役会が経営トップを監督できなければ問題は残ります。

取締役会では経営陣へ厳しい質問ができるのか。

社外取締役に必要な情報が提供されているのか。

重要な会計問題について議論されているのか。

監査部門から直接報告を受けられるのか。

経営トップと異なる意見を言える環境があるのか。

企業統治の再構築では、経営者を誰にするかだけでなく、経営者を誰がどのように監督するのかが重要です。

子会社管理も大きな論点になる

グローバル企業では、海外子会社を含むグループ管理も重要です。

本社に優れた内部統制制度があっても、海外子会社まで機能していなければ意味がありません。

子会社の決算数字を誰が確認するのか。

異常な取引を検知できるのか。

現地経営者への監督は十分か。

内部監査は定期的に行われているか。

本社へ悪い情報を報告できるのか。

巨大企業になるほど、経営トップ個人よりも組織的な管理能力が重要になります。

第三者委員会の提言を実行できるか

不祥事が発生すると第三者委員会などが設置され、原因分析や再発防止策が示されることがあります。

しかし調査報告書を公表することがゴールではありません。

提言された再発防止策を誰が実施するのか。

期限は設定されているのか。

実施状況を誰が確認するのか。

取締役会へ定期的に報告されるのか。

数年後にも制度が維持されているのか。

ここまで確認する必要があります。

不祥事対応は調査報告書を公表した瞬間ではなく、その後からが本番です。

人事より運用実績を見る

企業が信頼を回復するには時間が必要です。

社長交代は1日でできます。

組織改編も比較的短期間でできます。

規程も作ることができます。

しかし新しい仕組みが本当に機能することを示すには、一定期間の運用実績が必要です。

新しい内部統制の下で問題が早期に発見された。

内部通報が適切に処理された。

監査法人へ必要な情報が提出された。

取締役会で問題が議論された。

こうした実績の積み重ねが信頼回復につながります。

ニデックでも問われるのは交代後

ニデックでは経営トップの交代が進みました。

しかし投資家や取引所、監査法人にとって重要なのは、交代そのものではありません。

新体制になって財務報告プロセスがどう変わったのか。

内部管理体制が実際に機能しているのか。

監査法人へ十分な情報を提供できるようになったのか。

虚偽説明を防ぐ仕組みが整備されたのか。

取締役会の監督が強化されたのか。

こうした点が重要になります。

結論

企業不祥事が起きると、私たちは「誰が責任を取るのか」に注目しがちです。

社長辞任は重要です。

経営責任を明確にし、新しい経営体制へ移行する意味があります。

しかし企業不祥事の本当の問題は、特定の人物だけにあるとは限りません。

なぜ不適切な行為が起きたのか。

なぜ周囲は止められなかったのか。

なぜ内部監査で発見できなかったのか。

なぜ取締役会まで情報が届かなかったのか。

なぜ監査法人へ適切な情報が提供されなかったのか。

そこまで検証する必要があります。

人を替えることはできます。

しかし組織文化や内部統制を変え、それが実際に機能していることを示すには時間がかかります。

ニデックについても、本当に見るべきなのは「誰が辞めたか」だけではありません。

新しい経営体制の下で、同じ問題を起こさない仕組みが作られ、その仕組みが実際に動いているかです。

企業不祥事からの再生は、辞任会見で始まることはあっても、辞任会見で終わるものではないのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月1日 朝刊「ニデック監査、再び不表明 前期有報 上場維持厳しさ増す 最終赤字5646億円」

日本経済新聞 2026年10月1日 朝刊「ニデック統治、再構築急ぐ PwC『適切な監査証拠入手できず』 東証報告、月末に迫る」

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