金価格20倍の歴史から見えるもの なぜ危機のたびに金は買われるのか

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金の価格が大きく上昇しています。

この四半世紀でみると、金価格は約20倍になりました。特に最近2年間の上昇は著しく、1トロイオンス4,000ドルを超える水準にまで達しています。

しかし、金価格の歴史を振り返ると、単純に「金の人気が高まった」と考えるだけでは十分ではありません。

金が大きく買われる局面の背後には、戦争、インフレ、金融危機、通貨不安などがありました。

つまり金価格の歴史は、世界の人々が感じてきた「不安の歴史」でもあるのです。

1971年が金の歴史を大きく変えた

現在の金市場を理解するうえで重要なのが1971年です。

当時、米ドルは金と結びついていました。1トロイオンス35ドルという交換比率が定められ、各国は保有するドルを米国に持ち込めば金と交換できる仕組みでした。

ところが米国の国際収支が悪化し、国外に大量のドルが流出します。

米国が保有する金だけでは、各国から持ち込まれるドルを金に交換し続けることが難しくなりました。

そこで1971年8月15日、ニクソン大統領はドルと金の交換停止を発表します。

いわゆるニクソン・ショックです。

これによって金は固定価格から解放され、市場で価格が決まる商品へ変わりました。

同時に主要国の通貨も固定相場制から変動相場制へ移行していきます。

現在の金市場と外国為替市場につながる大きな転換点でした。

インフレが金を安全資産にした

1970年代に入ると、金価格を押し上げる新しい要因が登場します。

インフレです。

1973年の中東危機を契機として原油価格が急騰し、世界的な物価上昇が起こりました。

インフレになると、同じ1万円で買える商品の量が減ります。

つまり、お金の実質的な価値が低下します。

これに対して金は、誰かが自由に発行量を増やすことができません。

紙幣の価値が低下するなら、実物資産である金を持っておこう。

こうした考え方が広がりました。

現在でも「インフレヘッジとしての金」が語られますが、その原型は1970年代に形成されたと考えることができます。

1980年には875ドルまで急騰した

1979年にはイラン革命が発生し、旧ソ連によるアフガニスタン侵攻も起こりました。

地政学的な緊張が急激に高まります。

ここで「有事の金」という考え方が強く意識されるようになります。

1980年1月には投機資金も流入し、金価格は一時1トロイオンス875ドルまで急騰しました。

わずか1分間で100ドル上昇するほどの激しい値動きもあったといいます。

興味深いのは、この高値がその後およそ四半世紀にわたって更新されなかったことです。

金は危機が起きれば必ず長期間上昇するわけではありません。

危機への警戒が薄れれば資金は株式などに戻ります。

1980年代後半になると米ソ関係が改善し、金相場は長い停滞期に入りました。

日本では金を巡る事件も起きた

金価格が注目されれば、それを利用した犯罪も発生します。

代表例が1980年代半ばの豊田商事事件です。

高齢者などに金の購入契約を結ばせながら、実際の金ではなく証明書だけを渡し、多額の資金を集めました。

金塊を狙った強盗や密輸、窃盗なども繰り返されてきました。

金には高い価値があり、持ち運ぶことができます。

これは資産としての魅力である一方、犯罪の対象になりやすいという側面もあります。

金投資では価格変動だけでなく、保管や取引業者の信用も重要だということです。

湾岸戦争でも個人投資家が金へ向かった

1991年1月、湾岸戦争が始まりました。

米軍によるイラク空爆を受け、日本でも個人投資家による金買いが一気に増えました。

東京市場では金先物が急騰し、地金商が店頭価格の発表を遅らせるほどだったといいます。

ここでも「戦争が起きたら金」という行動が確認できます。

ただし、この上昇も長続きしませんでした。

金価格はその後も停滞し、低迷した状態で20世紀を終えます。

金の歴史を見ると、地政学リスクの発生と長期的な価格上昇は必ずしも同じではないことが分かります。

金ETFの登場が市場を変えた

21世紀に入ると、金市場に大きな構造変化が起こります。

金ETFの登場です。

それまで金へ投資するには、金地金や金貨を購入する方法が中心でした。

現物を購入すれば保管も必要になります。

ところがETFなら、株式と同じように証券市場で売買できます。

金への投資のハードルが一気に下がりました。

2003年にはオーストラリアで金ETFが上場します。

その後、米国の年金など機関投資家が利用するようになり、個人投資家にも広がりました。

金が一部の富裕層だけの資産から、多くの投資家が保有できる金融商品へ変化したのです。

現在ではETFを通じた資金の流出入が金価格を左右する重要な要因になっています。

リーマン・ショックで安全資産としての評価が高まった

2008年のリーマン・ショックは、金の性格を改めて世界に印象づけました。

金融危機が発生した直後は、金も売られました。

投資家が現金を確保するため、株式だけでなく金などの資産も売却したからです。

しかし、その後の回復は早いものでした。

金価格は約4カ月で危機前の水準を回復しました。

一方、株式市場が本格的に回復するまでには数年を要しました。

金融システムそのものへの信用が揺らいだとき、特定の企業や政府の信用に依存しない金が評価されたのです。

コロナ禍以降は危機が重なっている

近年の金価格上昇には、これまでとは異なる特徴があります。

危機が単発ではなく、重なっていることです。

2020年には新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界的な金融緩和が実施されました。

2022年にはロシアによるウクライナ侵略が始まりました。

さらに中東でも軍事的緊張が高まっています。

そこへインフレや財政不安、通貨価値への懸念も加わっています。

金価格を押し上げているのは、単なる戦争への不安だけではありません。

金融政策、財政、インフレ、地政学リスクなど複数の不確実性が同時に存在しています。

この点が過去の金相場との大きな違いです。

円建て金価格では為替も重要になる

日本の投資家が金を見る場合、もう1つ忘れてはいけないものがあります。

為替です。

国際的な金価格は基本的にドル建てで取引されています。

日本国内の金価格は、おおむねドル建て金価格とドル円相場の双方から影響を受けます。

ドル建ての金価格が変わらなくても、円安になれば円換算した金価格は上昇します。

反対に、ドル建て金価格が上昇しても円高が進めば、国内価格の上昇が抑えられる可能性があります。

日本人にとって金は、金そのものへの投資であると同時に、円以外の価値を持つ資産を保有するという意味も持っています。

金には利息も配当もない

金価格が上昇していると、金は万能の資産のように見えることがあります。

しかし、当然ながら弱点もあります。

金そのものから利息は生まれません。

株式のような配当もありません。

企業であれば利益を上げて成長できますが、金そのものが利益を生み出すわけでもありません。

そのため金利が高くなり、預金や債券から十分な利回りを得られる環境では、金の相対的な魅力が低下することがあります。

また、安全資産と呼ばれていても価格が下落しないわけではありません。

1980年につけた高値を更新するまで約四半世紀かかった歴史は、そのことをよく示しています。

金価格は世界の不安を映す鏡でもある

1971年のニクソン・ショック、1970年代のインフレ、イラン革命、アフガニスタン侵攻、湾岸戦争、ITバブル崩壊、米同時テロ、リーマン・ショック、コロナ禍、ウクライナ侵略、中東情勢。

金価格の歴史をたどると、世界経済の危機の歴史と重なります。

人々が通貨や金融システム、国際秩序に安心しているとき、金への関心は低下しやすくなります。

反対に、それらへの信頼が揺らぐと金が注目されます。

だからこそ金価格を見るときは、単に「いくらまで上がるのか」を考えるだけでは十分ではありません。

なぜ今、世界中の人々が金を持ちたがっているのか。

その背景を見る必要があります。

結論

金はこの四半世紀で約20倍になり、現在では1トロイオンス4,000ドルを超える水準まで上昇しています。

しかし、金価格の長い歴史を見ると一直線に上昇してきたわけではありません。

危機の発生によって急騰し、その後長期間停滞した時代もありました。

一方で、現在はETFの普及によって金への投資が容易になり、個人投資家だけでなく機関投資家も参加する巨大な市場へ変化しています。

そして何より重要なのは、金が単なる貴金属ではないことです。

金は通貨への信頼、インフレへの警戒、金融システムへの不安、地政学リスクなどを映す資産です。

金価格の上昇は、金そのものの価値が上がっているだけではなく、私たちが普段使っている通貨や金融システムへの信頼が相対的に変化していることを示しているのかもしれません。

金価格を見ることは、世界がどれだけ不安を抱えているのかを見ることでもあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月2日 朝刊「物価の記憶(4)危機が刻んだ金の足跡 長引く不安『安全資産』求めて」

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