株高の韓国は日本市場を追い越すのか ― ハードロー改革と日本型ガバナンスの限界

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韓国株市場が世界の投資家から再評価されています。
かつては「コリアディスカウント」と呼ばれ、財閥支配や少数株主軽視が問題視されてきた韓国市場ですが、2024年末以降の株価上昇率は日本や米国を大きく上回る局面が続いています。

背景には、AI・半導体ブームだけではなく、韓国政府による強力なガバナンス改革があります。

しかも、その改革の特徴は、日本のような「要請型」ではなく、法律によって企業行動を変えようとする「ハードロー型」である点です。

日本は長年、コーポレートガバナンス・コードや東証の要請を通じて企業改革を進めてきました。しかし近年、その限界も指摘され始めています。

今回は、韓国市場改革の中身を整理しながら、日本型ガバナンス改革との違い、そして今後の日本企業への影響を考えていきます。

韓国株高の背景にある「制度改革」

韓国株市場の上昇要因として、まず挙げられるのが半導体関連企業の回復です。

サムスン電子を中心にAI関連需要が拡大し、業績期待が高まりました。さらにPERなどの株価指標でみても韓国株は割安感が強く、海外投資家の資金流入が加速しています。

しかし、今回の韓国市場の特徴は、単なる景気循環ではありません。

海外投資家が注目しているのは、韓国政府による一連の制度改革です。

特に象徴的なのが、取締役に対して「株主利益への責任」を法律上明文化した点です。

日本では、取締役は「会社」に対して忠実義務を負うと整理されるのが一般的です。一方、韓国では株主利益を明確に意識した制度へと踏み込みました。

さらに韓国では、

  • 累積投票制度
  • 金庫株の強制消却
  • 親子上場規制
  • 価値向上策の強制開示
  • M&Aルール整備

など、少数株主保護や資本効率改善を促す制度改正が相次いでいます。

重要なのは、これらが「お願い」ではなく「法制度」であることです。

日本型ガバナンス改革の特徴

日本でも2010年代以降、大規模なガバナンス改革が進みました。

安倍政権下では、

  • コーポレートガバナンス・コード
  • スチュワードシップ・コード
  • ROE重視経営
  • 社外取締役導入
  • 東証によるPBR1倍割れ改善要請

などが導入されました。

実際、日本企業の配当や自社株買いは増加し、資本効率改善も一定の成果を上げています。

しかし、日本の改革には大きな特徴があります。

それは「ソフトロー中心」であることです。

つまり、

  • 東証の要請
  • コードによる原則提示
  • 投資家との対話促進

など、企業側の自主的対応に委ねる構造が中心でした。

これは日本企業の文化や合意形成を重視した結果でもあります。

ただ、その一方で、

  • 改革スピードが遅い
  • 形式対応に流れやすい
  • 本質的な行動変化につながりにくい

という課題も残りました。

「株主のために働くのではない」という日本企業

今回の記事で印象的なのは、

「株主のために働いているわけではない」

と発言する日本企業の取締役が今も少なくない、という指摘です。

日本では、この発言は必ずしも異端ではありません。

なぜなら、日本企業では長年、

  • 従業員
  • 取引先
  • メインバンク
  • 地域社会

など、多様なステークホルダーを重視する経営が行われてきたからです。

これは日本型経営の強みでもありました。

短期利益だけを追わず、

  • 雇用維持
  • 長期投資
  • 技術蓄積

を支えてきた側面もあります。

しかし資本市場の視点からみれば、

「株主価値を十分に意識していない」

とも映ります。

海外投資家が日本株に慎重になる背景には、この価値観の違いもあります。

韓国型改革は本当に成功するのか

もっとも、韓国型改革にもリスクがあります。

株主利益を強く意識しすぎれば、

  • 短期利益偏重
  • 過度な自社株買い
  • 長期投資抑制
  • 雇用圧力

などにつながる可能性もあります。

また、アクティビストの影響力が急速に高まれば、経営の安定性が損なわれる懸念もあります。

つまり、

「株主重視=常に正しい」

とは限りません。

実際、米国でも近年は「株主至上主義」の見直し議論が進んでいます。

その意味では、日本型経営にも依然として価値はあります。

問題は、「何を守り、何を変えるのか」という整理が十分できていないことです。

日本市場は次の段階へ進めるのか

日本市場は長年、

  • 持ち合い解消
  • ROE改善
  • PBR改革
  • 独立社外取締役導入

などを進めてきました。

しかし、ここから先は「形式」ではなく「本質」の改革が問われます。

例えば、

  • 取締役は誰に責任を負うのか
  • 親子上場をどう考えるのか
  • 少数株主保護をどう強化するのか
  • 資本効率と長期投資をどう両立するのか

といった問題です。

これは単なる株価対策ではありません。

日本企業の存在意義そのものに関わる議論です。

韓国市場の急改革は、日本市場に対して、

「本当にその改革速度で間に合うのか」

という強い問いを投げかけています。

結論

韓国株市場の上昇は、単なる半導体ブームだけではありません。

法律主導によるガバナンス改革が、海外投資家から「市場が変わる」という期待を集めています。

一方、日本はソフトロー中心の改革を続けてきました。

その結果、

  • 穏やかな改革
  • 合意形成重視
  • 長期安定性

というメリットを持ちながらも、変化の遅さという課題も抱えています。

今後、日本市場がさらに国際競争力を高めるには、

  • 日本型経営の強み
  • 株主価値重視
  • 長期成長投資

をどう統合するかが重要になります。

韓国の改革は、日本市場にとって「競争相手」であると同時に、「未来の鏡」でもあるのかもしれません。

参考

・日本経済新聞 2026年5月20日朝刊「株高の韓国、日米を圧倒 ガバナンス改革、法律主導で」
・日本経済新聞 2026年5月20日朝刊「韓流アクティビスト、日本企業に照準」
・金融庁「コーポレートガバナンス・コード」
・東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」

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