同族会社では、家族同士の信頼関係を前提として会社が経営されていることがあります。
創業者が元気なうちは、それでも大きな問題は起こらないかもしれません。
しかし、世代交代によって株主が増えてくると、家族だから話し合えば分かるという方法だけでは対応できなくなる可能性があります。
そこで使われる方法の一つが株主間契約です。
ファミリーガバナンスでは、家族としてのルールを決めるだけでなく、株主としての権利に関わる重要な事項について、契約によってルールを定めるという考え方があります。
株主間契約とは何か
株主間契約とは、会社の株主同士で一定の事項について合意する契約です。
同族会社であれば、ファミリーメンバーである株主同士が契約を結ぶことが考えられます。
ファミリービジネスでは、誰が株式を保有するのかという問題が会社経営に大きな影響を与えます。
相続によって株式が分散したり、経営に関与しない一族が株式を持ったりすれば、株主間の利害が異なってくることもあります。
そこで、将来起こりそうな問題について、株主同士であらかじめ約束を決めておくわけです。
ファミリー憲章とは何が違うのか
ファミリーガバナンスでは、ファミリー憲章という方法もあります。
ファミリー憲章には、一族が大切にする理念や価値観、会社への関与方針、意思決定の方法などを記載することができます。
資料では、こうしたファミリー憲章などをソフトなルールと位置づけています。
一方、株主間契約や信託契約などは、法的拘束力を持つハードなルールとして位置づけられています。
すべてのルールを契約にする必要はありません。
一族の理念や考え方についてはファミリー憲章に定め、株式など重要な権利に関係する事項については株主間契約などを利用するという使い分けが考えられます。
なぜ家族間でも契約が必要なのか
家族同士で契約を結ぶことに抵抗を感じる人もいるでしょう。
親子や兄弟姉妹なのだから、契約書などなくても話し合えばよいと思うかもしれません。
しかし、会社が何世代も続けば状況は変わります。
兄弟姉妹からいとこへ、さらにその次の世代へと株式が承継されれば、株主同士の関係は次第に遠くなります。
会社で働く株主と、会社で働かない株主が生まれることもあります。
その段階になってから株式の扱いを話し合おうとしても、それぞれの利害が異なり、簡単には合意できない可能性があります。
家族だから契約が不要なのではなく、家族関係と株主としての関係を分けて整理するために契約を利用するという考え方です。
株式の換金ルールにも利用できる
株主間契約が関係する具体的な場面の一つが、ファミリー株主の株式換金です。
資料では、経営に関与していないファミリー株主が亡くなった場合、その株式を経営に関与する役員や従業員が買い取ることを、ファミリー憲章や株主間契約などに規定しておく方法が示されています。
こうした仕組みを設ければ、相続のたびに株式が多くのファミリーメンバーへ分散していくことを抑えることができます。
誰が株式を買い取るのか。
どのような場合に買い取るのか。
どのような対価で買い取るのか。
こうした事項を事前に整理しておくことが重要になります。
契約を結べばすべて解決するわけではない
株主間契約には重要な注意点があります。
資料では、株主間契約は契約を締結した当事者間でのみ拘束力を持つとされています。
つまり、一族全員に当然に効力が及ぶわけではありません。
株主間契約を結んでいない人まで、その契約によって自動的に拘束できるわけではないということです。
世代交代によって新しい株主が増えることを考えると、誰を契約の当事者にするのかという問題も重要になります。
議決権行使にも限界がある
もう一つ重要なのが、株主総会での議決権行使です。
例えば株主間契約で、ある議案について一定の方法で議決権を行使することを約束していたとします。
ところが、その株主が契約に反する形で議決権を行使する可能性もあります。
資料では、株主間契約に反する議決権行使が行われても、その議決権行使が当然に無効になるわけではないという問題が指摘されています。
契約を結んでいるから会社法上の行為まで自動的にコントロールできるとは限らないのです。
この点は、株主間契約を利用するときの重要な限界になります。
信託が利用されることもある
こうした株主間契約の限界もあることから、資料では、ファミリービジネスの実務では信託が利用されることも多いとされています。
株主間契約と信託は同じものではありません。
どちらを利用するのが適切なのかは、何を実現したいのかによって変わります。
一族としての基本的な理念を共有したいのか。
株式の移動についてルールを設けたいのか。
議決権を含めた株式の管理を安定させたいのか。
目的によって必要な仕組みを選ぶことが重要になります。
すべてを法的ルールにする必要はない
ファミリーガバナンスでは、何でも契約書に書けばよいというものではありません。
資料では、ファミリー内で決める事項の重要性などに応じて、ファミリー憲章、株主間契約などから適切なものを選択することが望ましいとされています。
理念や価値観まで細かな契約にしてしまえば、一族としての柔軟な話し合いが難しくなる可能性もあります。
一方、株式の移転など重要な権利に関する事項を口約束だけにしておけば、将来の紛争につながる可能性があります。
柔らかいルールと法的なルールを使い分けることが重要なのです。
暗黙のルールにも注意する
長く続く同族会社では、契約書やファミリー憲章がなくても、昔からの慣習によって会社が運営されていることがあります。
長男が会社を継ぐ。
株式は一族外へ出さない。
会社で働かない一族は経営に口を出さない。
こうした暗黙のルールによって、長年問題なく経営されてきた会社もあるでしょう。
しかし、資料では、明文化されていないファミリー内のルールが会社法などと整合していない場合、将来の紛争の種になる可能性があることも指摘されています。
これまで問題が起きなかったことと、将来も問題が起きないことは同じではありません。
結論
株主間契約は、同族会社の株主同士が株式などに関する重要な約束をあらかじめ定めておくための方法です。
家族としての理念や価値観についてはファミリー憲章を利用し、株式など法律上の権利に関係する重要な事項については株主間契約を利用するという考え方があります。
ただし、株主間契約にも限界があります。
契約の拘束力は基本的に契約当事者間に限られ、契約に反した議決権行使が当然に無効になるわけでもありません。
そのため、目的によっては信託など別の仕組みを検討することも必要になります。
重要なのは、家族だから約束はいらないと考えないことです。
一族の関係が良好なうちに、何を話し合いによるルールにし、何を法的なルールにするのかを整理しておく。
それが、世代交代によって株主が増えても会社を安定して経営していくためのファミリーガバナンスにつながるのです。
参考
企業実務 2026年9月 ファミリーガバナンスガイダンスが実務に与える影響