2027年1月から始まる「こどもNISA」の年間投資上限は60万円です。
祖父母が孫の資産形成を支援する場合、毎年60万円を贈与し、その資金をこどもNISAで積み立てる方法が考えられます。
暦年課税による贈与税には年間110万円の基礎控除があります。
そのため、他の贈与がなければ、年間60万円という金額は基礎控除の範囲内です。
そこで気になるのが、毎年同じ金額を贈与すると「定期贈与」として扱われるのではないかという問題です。
毎年60万円ずつ10年間贈与すれば合計600万円になります。
最初から600万円を贈与する約束だったのか、それとも毎年独立した60万円の贈与なのかによって、税務上の考え方が変わる可能性があります。
毎年贈与しただけで直ちに定期贈与になるわけではない
毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると、すべて定期贈与になると考える人もいます。
しかし、毎年60万円を贈与したという事実だけで、直ちに10年分をまとめた贈与になるわけではありません。
重要なのは、最初にどのような約束をしていたかです。
例えば毎年、その年ごとに祖父母が60万円を贈与することを決め、孫側がその贈与を受けるのであれば、それぞれの年の贈与として考えることになります。
一方、最初から「今後10年間、毎年60万円ずつ渡す」という権利を設定した場合には、別の問題が生じます。
贈与の回数だけではなく、契約の内容を見る必要があります。
最初から600万円を渡す約束とは何が違うのか
例えば祖父が孫に対して、2027年から10年間、毎年60万円ずつ必ず贈与すると約束したとします。
合計すると600万円です。
この場合、単に毎年その都度60万円を贈与しているのではなく、10年間にわたって毎年60万円を受け取る権利を最初に与えたと考える余地があります。
これが定期金に関する権利の贈与として問題になる場面です。
一方、2027年に60万円を贈与し、2028年になってから改めて60万円を贈与することを決めたのであれば、事情は異なります。
将来分まで最初に約束していたのか。
それとも毎年その都度贈与を決めたのか。
ここが重要な違いになります。
こどもNISAの600万円と贈与契約を混同しない
こどもNISAには、非課税保有限度額600万円があります。
年間投資上限60万円を10年間利用すれば、投資元本は600万円になります。
そのため、祖父母が「600万円まで孫に渡そう」と考えるケースもあるでしょう。
しかし、NISAの非課税保有限度額が600万円だからといって、最初から600万円を10年間に分けて贈与する契約をする必要はありません。
NISAの投資枠と贈与契約は別の問題です。
毎年の家計状況や祖父母自身の資産状況を確認しながら、その年の贈与を検討することができます。
制度の上限から逆算して将来の贈与を固定する必要はないのです。
贈与契約書を毎年作れば絶対に大丈夫というわけではない
生前贈与では、毎年贈与契約書を作成する方法がよく使われます。
いつ、誰から誰へ、いくら贈与したのかを記録として残す意味があります。
ただし、贈与契約書を毎年作成すれば、それだけで税務上の問題がすべてなくなるわけではありません。
重要なのは契約書だけではなく実態です。
最初から長期間にわたる贈与が約束されていたのか。
実際に毎年その都度贈与について意思確認が行われたのか。
資金は誰の財産として管理されているのか。
こうした事情も重要になります。
契約書は実態を説明するための資料の1つと考えるべきでしょう。
毎年の資金移動を確認できるようにする
こどもNISAへの資金提供を長期間続ける場合には、資金移動の記録を残しておくことが重要です。
例えば祖父の銀行口座から孫側の口座へ振り込めば、資金移動の記録が残ります。
現金を手渡しするよりも、後から確認しやすくなります。
また、贈与した日付、金額、贈与者、受贈者などを整理しておく方法もあります。
こどもNISAは0歳から利用できるため、10年以上にわたって贈与が続く可能性があります。
長期間になるほど、過去の資金移動について家族の記憶だけに頼ることは難しくなります。
記録を残すことは、将来の相続時にも重要になります。
110万円の基礎控除だけを見ない
毎年60万円であれば110万円以下だから問題ないと考えるのも注意が必要です。
年間110万円の基礎控除は、受贈者がその年に受けた贈与全体について考えます。
例えば祖父から60万円、祖母から60万円を受け取れば合計120万円です。
さらに父母などから別の贈与を受けている可能性もあります。
こどもNISAへの資金だけではなく、その年に孫が受けた贈与全体を確認する必要があります。
また、贈与税が生じないことと、贈与が適切に成立していることも別の問題です。
税額だけではなく、財産の所有関係を明確にしておくことが大切です。
祖父母自身の老後資金も考える
毎年60万円を長期間贈与する場合には、税金以外にも考えるべきことがあります。
祖父母自身の老後資金です。
例えば孫が複数いれば、年間60万円ずつの贈与でも合計額は大きくなります。
孫2人なら年間120万円です。
10年間続ければ合計1,200万円になります。
長生きすれば、医療、介護、住み替えなどにまとまった資金が必要になる可能性もあります。
孫のために資産を移した結果、自分たちの生活資金が不足しては本末転倒です。
贈与できる金額はNISAの上限ではなく、祖父母自身のライフプランから考える必要があります。
毎年判断することには別のメリットもある
毎年その都度贈与するかどうかを判断することには、税務以外のメリットもあります。
祖父母の資産状況は変わります。
孫の進路も変わります。
親の家計状況も変化します。
例えば祖父母に介護費用が必要になれば、その年は贈与を減らしたり、行わなかったりすることもできます。
反対に資金に余裕があれば、別の支援方法を検討することもできます。
将来の贈与を最初から固定するのではなく、家族全体の状況を確認しながら判断する方が柔軟に対応できます。
結論
こどもNISAの年間投資上限60万円に合わせて、祖父母が毎年60万円を孫へ贈与する方法は考えられます。
ただし、毎年同じ金額を贈与する場合には、最初から長期間の贈与を約束したのか、それとも毎年その都度贈与したのかを区別することが重要です。
毎年60万円を贈与したという事実だけで、直ちに10年分の定期贈与になるわけではありません。
一方、最初から10年間にわたり毎年60万円を受け取る権利を与えたのであれば、別の税務上の検討が必要になります。
こどもNISAの非課税保有限度額600万円と、祖父母から孫への贈与契約は別のものです。
600万円の枠があるからといって、最初から600万円を贈与する計画を固定する必要はありません。
毎年の家族の状況を確認し、その都度贈与を検討し、資金移動の記録を残すことが大切です。
長期の資産形成だからこそ、投資だけではなく、贈与の方法も長期的な視点で管理する必要があるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日 朝刊 「こどもNISA」を経済活性化の契機に