企業の保険は誰が決めるべきなのか 総務任せから経営レベルのリスク管理へ変わる理由編

経営

企業では火災保険、自動車保険、賠償責任保険、サイバー保険など、さまざまな保険に加入しています。

こうした保険契約を総務部門や企業内代理店が管理している会社は少なくありません。

契約更新の時期になれば見積もりを取り、前年の契約を確認して更新する。

保険を事務手続きとして考えれば、この方法でも運用できます。

しかし、企業にとって保険は単なる事務ではありません。

巨大地震で工場が停止した場合に、どこまで損失を自社で負担するのか。

サイバー攻撃で事業が停止した場合に、どこまで保険で備えるのか。

こうした判断は企業の財務や事業継続に直接関係します。

企業の保険は、総務部門だけで決めるものから、経営レベルで考えるリスク管理へ変わりつつあります。

保険はリスクを移転する仕組み

企業活動にはさまざまなリスクがあります。

工場が火災で焼失する可能性があります。

地震や豪雨によって設備が被害を受けることもあります。

製品事故によって損害賠償を求められる可能性もあります。

サイバー攻撃によってシステムが停止することも考えられます。

企業がこうした損失をすべて自社で負担すると、重大な事故が発生したときに財務へ大きな影響が及びます。

そこで一定の保険料を支払い、大きな損失が発生した場合の負担を保険会社へ移します。

保険は企業のリスクを外部へ移転する手段の一つです。

すべてのリスクを保険にする必要はない

企業が抱えるリスクをすべて保険へ移転すればよいわけではありません。

例えば、毎年一定の頻度で発生する小さな損失まで保険で補償しようとすれば、その分だけ保険料が高くなる可能性があります。

企業に十分な財務力があれば、小さな損失については自社で負担する方法があります。

一方、発生頻度は低くても、一度起きれば企業経営に重大な影響を与える損失があります。

大規模な工場火災や巨大地震などが代表例です。

こうしたリスクについては保険による備えが重要になります。

どこまで自社で負担し、どこから保険へ移転するのかを決めることがリスク管理になります。

免責金額も経営判断になる

保険契約には免責金額が設定される場合があります。

例えば、事故による損失のうち最初の1,000万円までは企業が負担し、それを超える部分を保険で補償するという考え方です。

免責金額を大きくすれば、企業が負担するリスクは増えます。

その代わり、保険料を抑えられる可能性があります。

反対に免責金額を小さくすれば、企業自身の負担は減りますが、保険料が高くなる可能性があります。

どちらが正しいというものではありません。

企業の現預金、利益水準、財務体質などによって適切な水準は変わります。

そのため、免責金額の設定も総務部門だけではなく財務面を含めた経営判断になります。

保険金額をいくらにするのか

企業向け保険では、保険金の支払限度額をどの程度にするのかも重要です。

補償額を大きくすれば、巨大事故への備えは厚くなります。

一方で保険料も高くなる可能性があります。

例えば、賠償責任事故が発生した場合に最大でどの程度の損害が発生する可能性があるのかを考える必要があります。

サイバー攻撃でシステムが停止した場合には、復旧費用だけでなく、事業停止による利益の減少なども考えなければなりません。

必要な保険金額を決めるには、企業自身が最大損失を想定する必要があります。

総務部門だけでは判断しにくい

保険契約を総務部門が管理すること自体に問題があるわけではありません。

契約書の管理や更新手続きなどでは、総務部門が重要な役割を担います。

しかし、企業全体のリスクを把握するには総務部門だけでは情報が足りない場合があります。

工場のリスクは製造部門が詳しく知っています。

サイバーリスクは情報システム部門が把握しています。

財務的にどこまで損失を負担できるのかは財務部門が判断します。

法律上の賠償責任については法務部門の知識が必要になります。

企業全体のリスクを管理するためには、複数の部門を横断して考える必要があります。

企業内代理店は専門家として支援する

企業内代理店にも重要な役割があります。

各部門からリスク情報を集めます。

その情報をもとに必要な補償を整理します。

複数の保険会社から見積もりを取り、保険料や契約条件を比較します。

企業側に選択肢を示します。

ただし、企業内代理店がすべてを決めるわけではありません。

どの程度のリスクを自社で負担するのかという最終判断は企業側にあります。

企業内代理店は、経営判断に必要な情報を提供する専門組織として位置付けることが重要です。

経営者が見るべきなのは保険料だけではない

経営者が保険について確認するとき、年間の保険料だけを見ると判断を誤る可能性があります。

保険料が前年より10%上昇した場合を考えてみます。

単純に考えればコスト増です。

しかし、補償範囲が大幅に拡大しているのであれば、必ずしも不合理とはいえません。

反対に保険料が20%下がっていても、重要な補償が削られていれば企業のリスクは高まっている可能性があります。

経営者が見るべきなのは、保険料と補償内容の両方です。

さらに、保険に入らず企業自身が負担するリスクも確認する必要があります。

保険に入れないリスクもある

企業が抱えるリスクのすべてを保険で解決できるわけではありません。

事故によって企業の信用が低下するリスクがあります。

顧客が離れる可能性もあります。

サプライチェーンが長期間停止すれば、取引関係そのものを失うこともあります。

保険金を受け取ることができても、失った顧客や市場シェアまで元に戻るとは限りません。

そのため企業には、保険だけでなく事故を防止する対策や事業継続計画も必要になります。

保険はリスク管理の一部であり、すべてではありません。

経営会議で考えるテーマになる

企業の保険を経営レベルで考えるのであれば、経営会議などで確認する仕組みも考えられます。

企業が抱える重大リスクは何か。

最大でどの程度の損失が発生する可能性があるのか。

そのうちどこまでを企業自身で負担するのか。

どこから保険を利用するのか。

年間の保険料はいくらなのか。

重大事故が発生した場合でも事業を継続できるのか。

こうした情報を定期的に確認することで、保険契約を経営戦略の一部として管理できます。

結論

企業の保険契約では、総務部門や企業内代理店が重要な役割を担っています。

しかし、どのリスクを保険へ移転し、どのリスクを自社で負担するのかという判断まで任せることはできません。

それは企業の財務や事業継続に関わる経営判断だからです。

総務部門は契約を管理する。

事業部門は現場のリスクを把握する。

財務部門は企業が負担できる損失額を考える。

企業内代理店は保険の専門家として選択肢を提示する。

そして経営者が企業全体のリスクを踏まえて最終的に判断する。

企業内代理店改革をきっかけに、企業の保険は総務部門が毎年更新する契約から、経営レベルで考えるリスク管理へ変わっていくことになりそうです。

参考

日本経済新聞 2026年9月29日朝刊 企業内代理店の自立促す 保険販売、金融庁が特例廃止へ カルテルの土壌にメス

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