PwC、デロイト、EY、KPMGというビッグ4は、監査だけを行っているわけではありません。
世界的なネットワークを通じて、税務、M&A、IT、リスク管理、経営に関する助言など幅広いサービスを提供しています。
そこで問題になるのが、監査とコンサルティングの関係です。
企業に助言した会計事務所のグループが、同じ企業の財務諸表を監査してよいのでしょうか。
自分たちが関与した仕組みを自分たちでチェックすることになれば、本当に厳しい監査ができるのかという疑問が生じます。
監査とコンサルティングの問題は、ビッグ4のビジネスモデルと監査人の独立性を考えるうえで避けて通れないテーマです。
監査とコンサルティングは目的が違う
まず、監査とコンサルティングでは役割が大きく異なります。
監査では、企業が作成した財務諸表について、重要な点において適正に表示されているかを独立した立場から検討します。
企業の希望どおりの結論を出す仕事ではありません。
必要であれば企業の会計処理に異議を唱えます。
一方、コンサルティングでは基本的に企業の課題解決を支援します。
業務を効率化したい。
新しいシステムを導入したい。
企業買収を検討したい。
経営管理を改善したい。
こうした企業の目的を実現するために助言します。
つまり監査はチェックする仕事であり、コンサルティングは企業を支援する仕事です。
この2つを同じ企業に提供すると、役割の衝突が起きる可能性があります。
自分で作ったものを自分で監査する問題
最も分かりやすい問題が、自分たちの仕事を自分たちで評価する状況です。
例えば監査先企業の会計に重要な影響を与える仕組みの構築に、監査を行う側のグループが深く関与したとします。
その後、その仕組みから生み出された財務情報を監査することになれば、自分たちが関与した仕事を自分たちでチェックする構造になりかねません。
もし問題を発見すれば、過去に行った助言や業務にも問題があったことを認めることになるかもしれません。
これでは客観的な判断が難しくなる可能性があります。
監査人の独立性では、こうした自己レビューの問題が重要になります。
企業の立場を代弁することにも注意が必要
コンサルティングやアドバイザリー業務では、企業の立場に立って仕事をする場面があります。
企業の取引を支援したり、交渉に関与したりする場合です。
一方、監査人は企業の代理人ではありません。
企業から独立して財務諸表を監査する立場です。
企業の利益を実現するために行動する立場と、その企業を独立してチェックする立場を同時に担えば、役割が衝突する可能性があります。
そのため監査先企業に対して提供できるサービスには、独立性の観点から制約が必要になります。
報酬が増えるほど経済的な関係も大きくなる
前回取り上げた大口顧客への経済的依存とも関係します。
監査法人が企業から受け取るのが監査報酬だけであれば、経済的な関係は監査契約を中心としたものです。
しかし同じグループがコンサルティングなどでも大きな報酬を受け取れば、その企業グループ全体から得られる収益はさらに大きくなります。
監査で企業と厳しく対立した結果、コンサルティングの仕事まで失う可能性があるとすれば、経済的な圧力は一段と大きくなります。
重要なのは、実際に判断が曲げられたかどうかだけではありません。
外部の投資家から、
これほど大きな取引関係があって本当に独立した監査ができるのか、
と疑われること自体が監査への信用に影響します。
監査とコンサルには相乗効果もある
一方で、監査とコンサルティングを扱う専門家集団にメリットがないわけではありません。
現在の企業活動は非常に複雑です。
IT。
サイバーセキュリティ。
企業価値評価。
金融商品。
M&A。
税務。
大企業を監査するには、会計士だけでは対応できない問題が増えています。
大手会計事務所のグループが多様な専門家を抱えていれば、監査でもその専門知識を活用できる場合があります。
したがって、
監査法人は監査だけを行えばよい、
と単純に考えることも難しいのです。
問題は専門知識を持っていることではなく、監査先企業との関係によって独立性が損なわれないようにすることです。
エンロン事件で問題意識が強まった
監査とコンサルティングの関係を語るとき、エンロン事件は重要な出来事です。
エンロンの監査を担当していたアーサー・アンダーセンは、監査以外のサービスも提供していました。
事件を通じて、監査法人が監査先企業から多額の非監査報酬を受け取ることと、監査人の独立性との関係に厳しい目が向けられるようになりました。
その後、米国では監査制度改革が進み、上場企業の監査人が提供できる非監査業務についても規制が強化されました。
エンロン事件は、監査とコンサルティングをどのように分けるべきかという世界的な議論を強めたのです。
同じブランドでも組織を分ければ十分なのか
ビッグ4では、監査とコンサルティングなどの業務を組織的に分けて運営することがあります。
担当者も違います。
情報管理も分けます。
独立性を確認する仕組みも設けます。
しかし、同じブランドや国際ネットワークの下で活動している以上、
どこまで本当に独立しているのか、
という問題は残ります。
ここでも中国恒大問題と共通する論点が見えてきます。
法律上は別法人であっても、世界では同じブランドとして認識されています。
別組織だから責任も利益相反も完全に切り離せるのか。
逆に、一体として扱うべきなのか。
ビッグ4の国際ネットワークは、この難しい問題を抱えています。
監査先に何でも提供できるわけではない
監査法人やそのネットワークが多様なサービスを持っているからといって、監査先企業にすべてのサービスを自由に提供できるわけではありません。
独立性に問題を生じさせる業務については制限が必要です。
重要なのは、そのサービスが監査人の判断にどのような影響を与える可能性があるかです。
自分たちの仕事を自分たちで評価することにならないか。
企業の経営判断を担う立場にならないか。
企業の利益を代弁する立場にならないか。
経済的な依存が大きくなり過ぎないか。
こうした観点から判断する必要があります。
コンサル収益を優先すれば監査の意味がなくなる
大手会計事務所にとってコンサルティングなどの事業は重要です。
しかし監査先企業との関係では、監査人としての独立性を優先しなければなりません。
監査で厳しい指摘をするとコンサル契約を失う。
だから監査判断を緩める。
もしこのようなことが起きれば、監査制度への信用は成り立ちません。
監査法人に求められるのは、目の前の顧客から得られる収益ではなく、監査という制度への長期的な信用を守ることです。
恒大問題から見える国際ネットワークの難しさ
中国恒大問題では、PwCの中国本土や香港のメンバー事務所だけでなく、国際ネットワークを束ねる中核組織の責任まで争点になっています。
ここから分かるのは、ビッグ4の問題を1つの法人だけで考えることが難しくなっていることです。
世界共通のブランド。
世界的な品質管理。
国をまたぐ顧客。
監査以外の多様な専門サービス。
こうしたものが国際ネットワークの強みです。
しかしネットワークが密接になればなるほど、あるメンバー事務所の問題や利益相反をどこまでネットワーク全体で管理すべきなのかという問題も大きくなります。
世界共通ブランドのメリットを享受するのであれば、そのブランド全体の独立性と監査品質をどのように守るのかが問われます。
結論
監査とコンサルティングを同じ会計事務所グループが行うことには、メリットとリスクがあります。
多様な専門家を抱えることで、複雑化する企業活動に対応できることは大きな強みです。
一方、監査先企業にコンサルティングなどを提供すると、自分たちの仕事を自分たちで監査する問題や、企業との経済的な関係が大きくなり過ぎる問題が生じる可能性があります。
重要なのは、監査とコンサルティングが同じグループに存在することだけで判断するのではなく、監査人の独立性が実質的に守られているかを見ることです。
監査は企業のためだけに行う仕事ではありません。
投資家や債権者を含め、資本市場の信用を支える仕事です。
コンサルティングで企業を支援する立場と、監査で企業を厳しくチェックする立場。
この2つの役割をどこまで両立できるのかは、ビッグ4のビジネスモデルそのものに関わる問題なのです。
次回は、粉飾決算が起きたとき、経営者と監査法人のどちらが責任を負うのか、財務諸表を作る責任と監査する責任の違いを取り上げます。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日朝刊 恒大不正、逃げられぬPwC