長く続いた低金利と物価がほとんど上がらない時代から、日本の企業年金を取り巻く環境が大きく変化しています。
物価が上昇しています。
賃金も上昇しています。
金利も上昇しています。
こうした変化は、確定給付企業年金であるDBにも、企業型確定拠出年金であるDCにも影響します。
これからの老後資産形成では、企業年金だけを見るのでは十分ではありません。
公的年金、DB、DC、iDeCo、NISAなどを組み合わせ、自分の老後資産全体を考えることが重要になります。
インフレで老後に必要なお金も増える
インフレ時代に最初に考えたいのが、お金の実質的な価値です。
例えば現在100万円で購入できる商品やサービスが、将来も100万円で購入できるとは限りません。
物価が上昇すれば、同じ生活水準を維持するために必要な金額も増えます。
老後資金についても同じです。
老後に2,000万円あれば十分というように固定された金額だけで考えるのではなく、その時点の物価水準を考える必要があります。
インフレ時代には、老後資産の金額だけでなく購買力を維持できるかが重要になります。
DBにもインフレの影響が及ぶ
DBでは、制度で定められたルールによって将来の給付額を計算します。
給与と給付額が連動する制度であれば、賃上げによって将来の企業年金が増える場合があります。
キャッシュバランスプランでは、国債利回りなどの金利指標が給付額に反映される場合があります。
一方、給付額がほとんど増えない制度では、物価上昇によって年金の実質的な価値が低下する可能性があります。
インフレ時代には、DBがあるかどうかだけでなく、賃金や金利の変化が給付額へどのように反映される制度なのかを見ることが重要です。
金利上昇はDBの運用環境を変える
長期間の低金利時代には、企業年金が国内債券だけで十分な運用収益を確保することは難しい状況でした。
そのため国内外の株式や外国債券などへ資産を分散する必要性が高まりました。
しかし金利が上昇すれば、国内債券でも一定の利回りを確保しやすくなります。
為替リスクを基本的に負わず、円建ての将来給付に備えられることも国内債券の特徴です。
企業年金にとって、金利のある世界への変化は資産配分を見直す大きなきっかけになります。
金利上昇には別のリスクもある
ただし、金利が上昇すれば企業年金にとってすべてが有利になるわけではありません。
金利が上昇すると既に発行されている債券の価格は下落します。
高い利回りを期待して国債を購入した後にさらに金利が上昇すれば、保有する債券の価格が下がる可能性があります。
一方で、新たに購入する債券から得られる利回りは高くなります。
企業年金では、短期的な債券価格だけではなく、将来の年金支払いまで考えて資産を運用する必要があります。
そのためALMやデュレーション管理が重要になります。
DCではインフレへの対応を自分で考える
企業型DCでは、会社などが拠出した掛金を加入者自身が運用します。
そのためインフレへの対応も、ある程度自分で考える必要があります。
長期間ほとんど運用収益を得られない状態が続けば、資産の名目額が維持されていても実質的な購買力が低下する可能性があります。
一方、株式などの価格変動のある資産を保有すれば、資産価値が大きく上下する可能性があります。
重要なのは、インフレだから特定の商品へ集中することではありません。
運用期間や自分のリスク許容度を考えながら、長期的な資産配分を考えることです。
DCの拡充で自助努力の範囲も広がる
2026年12月には、企業型DCなどの拠出限度額が月5.5万円から月6.2万円へ引き上げられる予定です。
制度を通じて形成できる老後資産の余地が広がります。
一方、DCでは運用結果によって将来の資産額が変わります。
制度が拡充されるほど、加入者自身の運用判断も重要になります。
どの商品を選んでいるのか。
どの程度の手数料がかかっているのか。
国内外の資産へどのように分散しているのか。
企業型DCを持っている人は、残高だけでなく中身まで確認する必要があります。
公的年金を土台として考える
老後資産を考えるときに忘れてはいけないのが公的年金です。
企業年金は公的年金とは別に用意される老後所得です。
まず自分が将来どの程度の公的年金を受け取れるのかを把握し、その上に企業年金や個人の資産形成を積み上げて考えると整理しやすくなります。
公的年金があります。
DBがあります。
企業型DCがあります。
さらにiDeCoやNISAなどを利用している人もいます。
老後資産形成は一つの制度だけで完結するものではありません。
iDeCoは自分で作る年金になる
勤務先の企業年金だけでは老後資産が不足すると考える場合には、iDeCoを利用できるケースがあります。
iDeCoでは自分で掛金を拠出し、自分で運用商品を選択します。
企業型DCと同じように、長期間の積み立てと運用によって老後資産を形成します。
勤務先の制度が変わったり転職したりしても、個人を中心として老後資産を考えられる点が特徴です。
企業年金とiDeCoをどのように組み合わせるかを考えることも、老後資産形成の重要なテーマになります。
NISAは企業年金とは役割が違う
NISAも長期的な資産形成に利用できますが、企業年金やiDeCoとは性格が異なります。
企業年金やiDeCoは基本的に老後資産形成を目的とした制度です。
一方、NISAで形成した資産は老後だけでなく、さまざまな目的に利用できます。
住宅、教育、介護など、人生では老後以外にも大きな支出があります。
老後専用に準備する資産と、必要に応じて使える資産を分けて考えることも重要です。
それぞれの制度の特徴を理解して組み合わせる必要があります。
会社員も自分の企業年金を知る時代になる
企業年金の見える化が進めば、勤務先の企業年金について確認できる情報も増えていきます。
DBなら、給付設計、予定利率、積立状況、資産運用などを確認します。
DCなら、会社の掛金、商品ラインアップ、手数料、自分自身の運用状況などを確認します。
企業年金を会社任せにするのではなく、自分の報酬の一部として理解することが重要になります。
企業年金は給与明細には見えにくいものの、生涯で考えれば大きな金額になる可能性があります。
老後資産は一枚の表で考える
これからの老後資産形成では、それぞれの制度を別々に見るより、一つにまとめて考えると分かりやすくなります。
公的年金はいくら見込めるのか。
DBからいくら受け取れるのか。
企業型DCの残高はいくらあるのか。
iDeCoはいくら積み立てているのか。
NISAなどの金融資産はいくらあるのか。
さらに退職金や預貯金もあります。
これらを一つの老後資産として整理すれば、何が不足しているのかも見えやすくなります。
結論
インフレ、賃上げ、金利上昇によって、日本の企業年金を取り巻く環境は大きく変化しています。
DBでは、金利上昇によって国内債券の運用環境が改善し、予定利率や給付改善を検討する余地が広がる可能性があります。
給与連動型のDBでは、賃上げが将来の給付増加につながる場合もあります。
一方、企業型DCでは制度拡充によって老後資産を形成できる余地が広がるとともに、加入者自身の運用判断の重要性も高まります。
これからはDBかDCかという二者択一だけで老後を考える時代ではありません。
公的年金を土台として、DB、企業型DC、iDeCo、NISAなどを組み合わせ、自分の老後資産全体を把握することが重要です。
インフレ時代には、老後にいくら持っているかだけではなく、その資産でどの程度の生活を維持できるのかという実質的な価値まで考える必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月25日朝刊 インフレ下の企業年金(1)「企業、給付額増を検討」