ジャストインタイムは気候変動時代にも通用するのか 在庫を極限まで減らす経営の弱点編

経営

企業経営では、在庫はできるだけ少ない方がよいと考えられてきました。

商品や部品を大量に抱えれば、倉庫代がかかります。売れなければ値下げや廃棄が必要になる場合もあります。在庫として保有している間は資金も固定されます。

そこで広く知られるようになったのが「ジャストインタイム」という考え方です。

必要なものを、必要なときに、必要な量だけ調達し、生産することで在庫を抑えます。

非常に合理的な仕組みですが、気候変動によって物流や供給網が不安定になるなかでは、その強みが弱点になる場合があります。

ジャストインタイムとは何か

ジャストインタイムとは、生産に必要な部品や原材料を、必要な時期に必要な量だけ供給する考え方です。

大量の部品を倉庫に保管しておくのではなく、生産計画に合わせて納入してもらいます。

これによって在庫を減らすことができます。

在庫が減れば倉庫スペースを小さくでき、保管や管理に必要な費用も抑えられます。

さらに、在庫として眠っている資金も減らせます。

企業の資金効率を高めるという点では、大きなメリットがあります。

なぜ在庫を減らすことが重要なのか

在庫にはさまざまなコストがあります。

まず、商品や原材料を購入するための資金が必要です。

さらに倉庫代、保険料、管理費用なども発生します。

商品によっては時間の経過とともに価値が下がります。

食品なら賞味期限がありますし、電子部品や機械などでは技術革新によって古い製品の価値が低下する可能性があります。

在庫を減らせば、こうした負担を軽減できます。

そのため企業にとって在庫削減は、単なる整理整頓ではなく、収益性や資金効率を高める重要な経営戦略なのです。

在庫が少ないと物流停止に弱くなる

ところが、在庫には別の役割もあります。

供給が一時的に止まったときでも、生産を続けるための「時間」を確保する役割です。

例えば、ある工場が毎日部品の納入を受けているとします。

通常であれば非常に効率的です。

しかし、豪雨によって道路が寸断され、部品を運ぶトラックが数日間到着できなくなったらどうでしょうか。

工場にほとんど在庫がなければ、部品がなくなった時点で生産ラインも停止します。

一方、数日分の部品を保有していれば、その間に物流ルートを変更したり、別の仕入先から調達したりする時間を確保できます。

在庫は単なるコストではなく、非常時の時間を確保する手段でもあるのです。

気候変動で物流停止の原因が増える

企業の物流を止めるのは地震や台風だけではありません。

気候変動によって、豪雨、洪水、猛暑、干ばつなど、企業が考えなければならないリスクが広がっています。

例えば、河川輸送が重要な地域では、干ばつによって川の水位が低下すると船舶の運航が制限されることがあります。

洪水によって道路や鉄道が寸断される可能性もあります。

港湾施設が被害を受ければ、海外からの原材料や部品の輸入にも影響します。

自社の工場が被災していなくても、遠く離れた地域の気候災害によって生産が止まる可能性があるのです。

ジャストインタイムそのものが悪いわけではない

ここで注意したいのは、ジャストインタイムそのものが問題なのではないということです。

在庫を必要以上に抱えれば企業の負担は大きくなります。

大量の在庫を持つだけでは、気候リスクへの適切な対応ともいえません。

重要なのは、すべての部品や原材料を同じように扱わないことです。

簡単に代替できる部品であれば、在庫を少なくしても大きな問題にならないかもしれません。

一方、代替品がなく、1つ欠けただけで製品全体を作れなくなる重要部品については、一定の在庫を持つ意味が大きくなります。

部品ごとに供給停止リスクを考える必要があります。

重要なのは在庫量ではなく止まる場所を知ること

企業が考えるべきなのは「在庫を増やすか減らすか」という単純な二者択一ではありません。

重要なのは、どの部品がなくなると事業が止まるのかを把握することです。

例えば、1台の製品を作るために1,000種類の部品が必要だとします。

999種類がそろっていても、重要な1種類がなければ完成品を作れない場合があります。

その部品が特定の企業や地域でしか生産されていなければ、企業にとって大きなリスクになります。

その場合は在庫を多めに持つだけでなく、別の仕入先を探したり、代替部品を使える設計に変更したりすることも考えられます。

在庫管理とサプライチェーン管理を一体で考える必要があるのです。

安全在庫という考え方

そこで重要になるのが「安全在庫」です。

安全在庫とは、需要の増加や納入の遅れなど予想外の事態に備えて、通常必要な量とは別に確保しておく在庫です。

例えば、通常なら3日で部品が届くとしても、災害時には1週間以上かかる可能性があります。

その期間を乗り切るための在庫を持っておけば、生産停止のリスクを下げられます。

ただし、安全在庫を増やせば当然コストも増えます。

そのため、すべての商品や部品について大量の安全在庫を持つのではなく、事業への影響が大きいものを選んで備えることが重要です。

在庫削減から在庫最適化へ

これからの企業経営では「在庫をできるだけ減らす」という発想から「必要な場所に必要な在庫を持つ」という発想への転換が重要になります。

平常時の効率性だけを考えれば、在庫は少ないほどよいかもしれません。

しかし、事業停止による損失まで考えれば答えは変わります。

例えば、数千万円分の安全在庫を削減した結果、部品供給が止まり、工場全体が長期間停止すれば、それをはるかに上回る損失が発生する可能性があります。

在庫を持つコストと、在庫を持たないことで発生するリスクの両方を見る必要があります。

企業が目指すべきなのは在庫ゼロではなく、リスクを含めた在庫の最適化なのです。

結論

ジャストインタイムは、必要なものを必要なときに必要な量だけ供給することで、在庫を減らし、企業の資金効率を高める優れた考え方です。

その基本的な価値が気候変動によって失われるわけではありません。

しかし、豪雨、洪水、干ばつなどによって物流や供給網が止まる可能性が高まれば、在庫を極限まで減らすことにもリスクがあります。

これから重要になるのは「在庫は少ないほどよい」という考え方ではありません。

どの部品が止まれば事業が止まるのかを把握し、その重要度に応じて安全在庫や代替調達先を準備することです。

効率性を維持しながら、非常時にも耐えられる余裕をどこに残すのか。

気候安全保障の時代には、在庫削減から「在庫最適化」へと企業経営の考え方を進化させる必要があるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月25日 朝刊 「気候安全保障」時代の企業経営

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