消費税率を変えるとなぜ国税庁の仕事が増えるのか 飲食料品の税率引下げに74人必要となる理由編

政策

飲食料品に係る消費税率が引き下げられると、消費者にとっては買い物のときに支払う消費税が少なくなります。

一見すると、税率の数字を変更するだけのようにも思えます。

しかし、税率変更は税務行政に大きな事務負担を生じさせます。

国税庁は2027年度の定員要求で、飲食料品に係る消費税率の引下げへの対応として74人の時限定員を要求しています。

期間は2年間です。

なぜ税率を変更するだけで、これほどの人員が必要になるのでしょうか。

税率変更は数字を書き換えるだけではない

消費税率が変わると、事業者は新しい税率に合わせて取引を処理しなければなりません。

商品の販売時に適用する税率を変更する。

請求書や領収書の表示を変更する。

会計システムを変更する。

レジの設定を変更する。

仕入れと売上について正しい税率で経理する。

そして最終的には、新しい税率を反映して消費税の申告を行います。

消費者から見ると店頭価格の変化ですが、事業者から見ると会計、請求、申告まで広範囲に影響する制度変更なのです。

個別相談が大量に発生する

制度が変われば、当然ながら事業者から多くの質問が寄せられます。

自社の商品は引下げの対象になるのか。

いつの取引から新しい税率になるのか。

契約を以前に結んでいた場合はどうなるのか。

請求書にはどのように記載するのか。

仕入れと販売で税率が異なる場合はどう処理するのか。

こうした疑問は事業者の業種や取引方法によって異なります。

ホームページに一般的な説明を掲載するだけでは解決できないケースもあります。

そのため国税庁は個別相談窓口を設けることを想定しています。

説明会にも人が必要になる

税制改正では制度を作るだけでなく、その内容を納税者へ周知する必要があります。

特に消費税は幅広い事業者に関係する税金です。

大企業だけではありません。

中小企業や個人事業者、小売店、飲食店など、多くの事業者が対応する必要があります。

制度を正しく理解してもらわなければ、意図しない申告ミスが大量に発生する可能性があります。

そこで説明会などによる周知が重要になります。

国税庁が要求している74人の時限定員には、こうした説明会への講師派遣などに対応する人員も含まれています。

複数税率は経理を複雑にする

飲食料品だけ税率が引き下げられる場合、すべての商品やサービスが同じ税率になるわけではありません。

そのため事業者は、取引ごとにどの税率が適用されるのかを区分する必要があります。

売上だけではなく仕入れについても同様です。

複数の税率が存在すると、経理処理は一つの税率だけの場合より複雑になります。

消費税は売上にかかる税額だけで納税額を決めるわけではありません。

仕入れなどにかかった消費税を控除する仕入税額控除があるため、売上側と仕入れ側の両方を正しく処理する必要があります。

税率変更は、この計算にも影響します。

還付申告が増える可能性がある

今回の人員要求では、増加が見込まれる還付申告への対応も理由に挙げられています。

消費税では、売上にかかる消費税額より仕入れなどで控除できる消費税額の方が大きくなれば、一定の場合に還付が発生します。

飲食料品の売上に適用される税率が引き下げられる一方、事業者が購入する設備やサービスなどには別の税率が適用される場合があります。

こうした税率差などによって、事業者によっては還付申告が増える可能性があります。

還付申告が増えれば、その申告を処理する国税庁側の仕事も増えることになります。

還付には確認作業も必要になる

還付申告は提出されたら自動的にお金を返せばよいわけではありません。

正当な還付であることを確認する必要があります。

特に国税庁は消費税の不正還付への対応を重要課題としており、2027年度にはこの分野だけで185人の増員を要求しています。

つまり、税率引下げによって還付申告が増える一方で、不正還付への監視も続けなければなりません。

正当な還付は適切に処理する。

不正な還付は防ぐ。

この二つを同時に行う必要があります。

なぜ74人は2年間だけなのか

今回要求されている74人は恒久的な増員ではなく、2年間の時限定員です。

これは飲食料品に係る消費税率の引下げが臨時的な措置として予定されていることと関係します。

制度変更の直後には相談や問い合わせが集中します。

説明会も必要になります。

新しい制度に基づく申告や還付への対応も発生します。

こうした一時的に増える業務に対応するため、期間を限定して人員を増やすという考え方です。

税制改正の内容だけではなく、制度を運営するための人員まで含めて準備する必要があることが分かります。

税率を元に戻すときにも事務が発生する

臨時的な税率引下げには、もう一つ見落としやすい点があります。

期間終了後の対応です。

税率を引き下げるときにシステムや経理方法を変更するのであれば、元の税率へ戻すときにも再び対応が必要になります。

事業者への周知も必要です。

取引の時期によってどの税率を適用するのかという問題も発生します。

期間限定の減税は、開始時だけでなく終了時にも行政や事業者の事務負担を生じさせます。

税率を何ポイント下げるかという議論だけでは見えにくい部分です。

税制には行政コストがある

税制を考えるとき、私たちは税収がいくら増えるのか、減るのかという金額に注目しがちです。

しかし、制度を変更するためには行政コストも必要です。

相談窓口を設置する。

説明会を開催する。

申告書やシステムを変更する。

還付申告を処理する。

不正申告をチェックする。

税務職員を配置する。

事業者側にもレジや会計システムの変更などの負担が発生します。

税制のコストは税収だけでは測れないということです。

結論

飲食料品に係る消費税率の引下げは、消費者から見ると税率が下がるという比較的単純な制度変更に見えます。

しかし、実際の税務行政では多くの仕事が発生します。

事業者からの個別相談に対応する。

制度を周知するため説明会へ講師を派遣する。

新しい税率に基づく申告に対応する。

増加が見込まれる還付申告を処理する。

さらに不正還付にも目を配る必要があります。

そのため国税庁は2027年度に74人の時限定員を要求しています。

税制改正を考えるときには、家計の負担や税収への影響だけでなく、その制度を実際に動かすためにどれだけの行政事務が必要になるのかという視点も重要です。

税率を変えることと、その税率を全国の取引に正しく適用することは別の問題です。

74人という人員要求は、税制を変更することに伴う見えにくい行政コストを示す数字でもあります。

参考

税のしるべ 2026年9月7日 国税庁の9年度予算概算要求と定員・機構要求、租税回避対策企画官の新設を

タイトルとURLをコピーしました