営業部門で管理職を選ぶとき、営業成績のよい人が候補になることは珍しくありません。
多くの顧客を獲得している。売上目標を毎年達成している。社内でも営業力を高く評価されている。
これだけの実績があれば、管理職に昇進させるのは自然なように思えます。
しかし、営業担当者として成果を上げる能力と、管理職として組織を動かす能力は同じではありません。
参考記事でも、営業成績のよい従業員を管理職に登用したものの、部下指導や業務調整に大きな負担を感じ、本人もチームも力を発揮しにくくなるケースが紹介されています。
問題は本人の能力不足ではありません。
プレイヤーとして求められる役割と、管理職として求められる役割が違うことにあります。
営業成績がよければ管理職という発想
会社では、現在の仕事で高い成果を上げた人を昇進させることがあります。
営業担当者であれば、売上や契約件数など成果が数字で表れやすいため、特に評価しやすいでしょう。
本人にとっても、管理職への昇進は会社から高く評価された結果と受け止められます。
ところが、ここには注意点があります。
営業成績は、営業担当者という現在の職務で成果を上げたことを示しています。
管理職という別の職務で成果を上げられることまで保証しているわけではありません。
昇進によって肩書だけではなく、仕事そのものが変わるからです。
プレイヤーは自分で成果を上げる
営業担当者であるプレイヤーの中心的な役割は、自分自身が営業活動を行い、成果を上げることです。
顧客を探す。
顧客の話を聞く。
商品やサービスを提案する。
交渉する。
契約につなげる。
こうした仕事を自分で実行します。
優秀な営業担当者ほど、自分なりの成功パターンを持っていることがあります。
どの顧客を狙うのか。
どのタイミングで提案するのか。
どのように信頼関係を築くのか。
経験を積み重ねることで、自分自身の成果を高めていきます。
管理職は他の人を通じて成果を上げる
管理職になると役割が変わります。
自分一人が高い営業成績を上げればよいわけではありません。
部下を育成する。
仕事を割り振る。
進捗を確認する。
問題が起きれば調整する。
チーム全体の状況を見ながら判断する。
こうした役割が増えていきます。
参考記事では、管理職で重視したい能力や特性として、判断力、育成力、調整力が挙げられています。
つまり、自分で成果を出す能力から、周囲の人が成果を出せるようにする能力へ、求められるものが変わるのです。
自分でやったほうが速いという問題
優秀なプレイヤーが管理職になったときに起こりやすいのが、「自分でやったほうが速い」という状況です。
部下の営業活動を見ていると、
自分ならこう提案する。
自分ならもっと早く顧客へ連絡する。
自分ならこの案件を取れる。
と感じることがあります。
そこで管理職自身が仕事を引き取れば、短期的には成果が出るかもしれません。
しかし、それを続けると部下は育ちません。
管理職本人にも仕事が集中します。
プレイヤーとして優秀であるほど、自分で問題を解決できてしまうため、管理職として必要な「人に任せて育てる」という役割との間に難しさが生まれる場合があります。
部下指導には別の能力が必要になる
自分が営業できることと、営業方法を他人に教えられることも別です。
優秀な営業担当者のなかには、経験によって自然に判断している人もいます。
顧客の反応を見て提案内容を変える。
話を切り上げるタイミングを判断する。
相手に応じて説明方法を変える。
本人には当たり前にできるため、なぜそうしているのかを説明することが難しい場合があります。
しかし、部下を育成するには、自分の経験や判断を相手が理解できる形で伝える必要があります。
さらに、部下によって能力や特性も違います。
自分の成功方法をそのまま部下に当てはめればよいわけではありません。
管理職には、一人ひとりの状態を見ながら育成方法を変える力も求められます。
管理職にしないことは低い評価ではない
ここで重要なのは、管理職に向いていないことと、能力が低いことを混同しないことです。
営業担当者として非常に高い能力を持っている人が、管理職という仕事には適合しないことがあります。
それは本人の価値が低いという意味ではありません。
参考記事が示しているように、問題はプレイヤーとしての強みと管理職として求められる役割が異なることにあります。
管理職にならなくても、営業の専門性をさらに高めるという方向も考えられます。
重要なのは肩書ではなく、その人がどの役割で最も力を発揮できるかです。
いきなり管理職にしない方法もある
管理職としての適性を確認したい場合には、段階的に役割を広げる方法があります。
参考記事では、専門性は十分でも対人調整に不安がある場合、いきなり管理職に登用するのではなく、まず小規模なチームの取りまとめを任せる方法が示されています。
例えば、
後輩一人の指導を任せる。
小さなプロジェクトをまとめてもらう。
営業会議の進行を任せる。
新人教育の一部を担当してもらう。
こうした経験を通じて、本人も会社も管理職として必要な能力や特性を確認できます。
不足する部分があれば、正式な登用前に育成することもできます。
昇進ではなく役割との適合を見る
人事では、優秀な人を昇進させるという発想になりがちです。
しかし、適材適所という視点では少し考え方が違います。
まず、管理職という仕事が何を求めているのかを明確にします。
そのうえで、本人の能力、特性、意欲と照らし合わせます。
本人は管理職を希望しているのか。
部下を育てることに関心があるのか。
周囲との調整を苦にしないのか。
組織全体を見ながら判断できるのか。
こうした点を確認したうえで登用を考えることが重要です。
結論
営業成績がよい人を管理職にしてはいけないわけではありません。
問題なのは、営業成績がよいという理由だけで管理職にすることです。
プレイヤーは自分自身で成果を上げることが中心ですが、管理職には判断力、育成力、調整力など、異なる能力が求められます。
営業担当者として優秀だからといって、それらを最初から備えているとは限りません。
だからこそ、現在の成果をそのまま昇進の根拠にするのではなく、次の職務で何が求められるのかを確認する必要があります。
必要であれば、小さなチームの取りまとめなどから段階的に経験してもらう方法もあります。
優秀な人を管理職にするのではなく、管理職という役割に適した人を配置する。
そして管理職ではなく専門職として力を発揮する道も認める。
適材適所を考えるうえでは、昇進そのものよりも、その人の強みと役割が合っているかを見ることが重要なのです。
参考
企業実務 2026年9月号 中小企業の適材適所の測り方