生成AIを仕事で利用するとき、個人情報をそのまま入力するのではなく、「マスキングしてから入力する」という方法があります。
たとえば、
「営業部の山田太郎さん45歳」
という情報を、
「営業部のA氏40代」
のように置き換えてから生成AIへ入力する方法です。
参考記事でも、AIに処理させたい文脈の本質に関係しない氏名や具体的な識別番号などについては、あらかじめ削除やマスキングをして入力する運用が示されています。
生成AIを安全に利用するためには、AIに必要な情報と必要ではない情報を分けることが重要です。
マスキングとは何か
マスキングとは、個人を識別するための情報などを、そのまま利用せずに削除したり別の表現へ置き換えたりする方法です。
たとえば、顧客から届いた文章が、
「山田太郎です。商品Aについて返品したいのですが、どのような手続きが必要でしょうか」
だったとします。
生成AIに依頼したい仕事が、
「問い合わせ内容を簡潔に要約してください」
というものであれば、山田太郎という氏名は要約のために必ずしも必要ではありません。
そこで、
「Aさんから商品Aの返品手続きについて問い合わせがありました」
などに置き換えてから生成AIへ入力することが考えられます。
参考記事では、不要な個人情報について、入力前にマスキングまたは代替テキストへの置き換えを行うべきだとしています。
生成AIに渡す情報そのものを減らすための実務的な方法なのです。
匿名化との違い
参考記事では、マスキングについて「匿名化または代替テキストへの置き換え」という表現も使われています。
ただし、実務で重要なのは、
「名前をA氏に変えたから、もう誰なのか絶対に分からない」
と考えないことです。
たとえば、
「東京営業部長のA氏58歳」
と置き換えたとします。
氏名はありません。
しかし、東京営業部長が会社に一人しかいなければ、社内では簡単に本人を特定できるかもしれません。
参考記事でも、マスキングを行ったとしても、入力する情報を他の情報と照合して特定の個人を識別できる場合には、依然として個人情報に該当することに注意するよう説明されています。
したがって、マスキングをしたことと、個人情報ではなくなったことを同じ意味で考えないことが重要です。
AIに必要のない情報を削る
マスキングを考えるときに大切なのが、
「AIに何をしてもらいたいのか」
という目的です。
たとえば、顧客から届いた問い合わせを、
商品の不具合
返品
配送
支払い
その他
などに分類してもらうだけなら、顧客の氏名や電話番号は必要ないでしょう。
生成AIへ、
「山田太郎 電話番号090XXXXXXXX 顧客番号12345 商品が壊れていたので交換してほしい」
とすべて入力する必要はありません。
AIに必要なのが問い合わせ内容だけなら、
「購入した商品が壊れていたため交換を希望している」
という部分だけでも分類できる可能性があります。
生成AIを利用するときには、元データをそのままコピーするのではなく、
「この情報はAIの処理に本当に必要なのか」
と考えることが重要です。
氏名だけを消せばよいわけではない
マスキングというと、まず氏名をAさんやBさんに置き換えることを考えます。
しかし、個人を識別する手掛かりになる情報は氏名だけではありません。
たとえば、
具体的な識別番号
所属部署
役職
正確な年齢
担当業務
などが残っていれば、別の情報と組み合わせることで本人を特定できる場合があります。
参考記事では、AIに処理させたい文脈の本質に関係しない情報として、氏名や具体的な識別番号などをあらかじめ削除やマスキングして入力することを示しています。
つまり、
「氏名をA氏に変えて終了」
ではありません。
AIの処理に必要のない情報がほかにも残っていないかを確認する必要があります。
具体的な情報を少し抽象化する
参考記事で紹介されている、
「営業部のA氏45歳」
を、
「営業部のA氏40代」
のようにする考え方は分かりやすい例です。
氏名をA氏へ置き換えるだけでなく、正確な年齢も年代へ変えています。
AIに正確な年齢を知らせる必要がなければ、45歳という情報をそのまま入力する必要はありません。
同じように、AIに処理させる目的によっては、
具体的な支店名を地域名にする
具体的な役職を管理職とする
顧客番号を削除する
電話番号を削除する
といった方法も考えられます。
大切なのは、AIに必要な文脈を残しながら、本人を特定するために不要な情報をできるだけ減らすことです。
マスキングしても安全とは限らない理由
ここで注意したいのが、マスキングを万能な安全対策だと考えないことです。
参考記事では、マスキングした後でも、他の情報と照合して特定の個人を識別できる場合には、依然として個人情報に該当すると説明しています。
たとえば、
「A氏 商品開発部長 58歳 2025年に大阪支店から東京本社へ異動」
という情報があったとします。
氏名そのものはA氏になっています。
しかし、社内の人事情報を確認すれば、一人の社員に簡単に絞り込めるかもしれません。
この場合、
「A氏に変えたから個人情報ではない」
と単純には考えられません。
マスキングするときには、置き換えた部分だけではなく、文章全体から本人を識別できないかを見る必要があります。
大量の情報を入れる前にマスキングする
マスキングが特に重要になるのが、顧客情報や社員情報をまとめて生成AIで処理する場面です。
参考記事では、大量の顧客情報や従業員の人事評価をそのまま入力して要約させるような運用にはリスクがあると指摘しています。
たとえば、100人分の顧客から届いた問い合わせを分析したい場合でも、100人分の氏名や電話番号までAIに渡す必要があるとは限りません。
分析したいのが、
問い合わせの種類
不満の内容
商品ごとの傾向
などであれば、それに必要な部分だけを取り出すことができます。
生成AIにデータを渡す前に、
「分析に必要な情報だけにできないか」
と考えることが重要です。
法人向けAIでもマスキングには意味がある
会社が法人向け生成AIを契約し、入力データが学習対象外となる環境を利用している場合でも、マスキングの意味がなくなるわけではありません。
参考記事では、法的に適法であることと、実務上のリスクがゼロであることは同じではないと指摘しています。
社員が誤って別のアカウントへ入力してしまう可能性もあります。
また、本来AIに必要のない個人情報まで処理させる必要はありません。
安全性の高い利用環境を整えることと、入力する情報を必要最小限にすることは別々の対策です。
法人向け生成AIを利用すること。
学習設定を確認すること。
契約内容を確認すること。
そして、不要な個人情報をマスキングすること。
こうした対策を組み合わせることが重要になります。
結論
生成AIにおけるマスキングとは、顧客や社員に関する情報をそのまま入力するのではなく、氏名や具体的な識別情報など、AIの処理に必要のない情報を削除したり別の表現へ置き換えたりする方法です。
たとえば、
「営業部の山田太郎さん45歳」
という情報について、氏名や正確な年齢が必要なければ、
「営業部のA氏40代」
のように置き換えることができます。
重要なのは、元の情報をできるだけそのままAIへ渡すことではありません。
AIに処理させたい内容の本質を残しながら、不要な情報を減らすことです。
ただし、マスキングすれば必ず個人情報ではなくなるわけではありません。
氏名をA氏へ変更しても、所属部署や役職など別の情報と照合することで本人を特定できれば、依然として個人情報に該当する場合があります。
生成AIを安全に利用するためには、
「名前を隠したか」
だけではなく、
「AIがその情報を処理するために、本当にここまで詳しい情報が必要なのか」
と考えることが重要です。
必要のない情報は、最初からAIへ渡さない。
この考え方が、生成AI時代の個人情報管理における基本的な対策の一つになります。
参考
企業実務 2026年9月号 生成AI時代の個人情報の取扱い