顧客から強い苦情を受けたとき、担当者が最初に口にしやすい言葉が「申し訳ございません」です。
怒っている顧客を落ち着かせたい。
これ以上問題を大きくしたくない。
早くその場を収めたい。
こうした気持ちから、とにかく謝罪を繰り返してしまうことがあります。
しかし、カスハラ対応では、何について謝っているのかを意識することが重要です。
参考資料では謝罪を、顧客の感情に寄り添う共感表明謝罪と、企業側の責任を認める責任承認謝罪に分けています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
同じ「申し訳ございません」という言葉でも、その意味は大きく違うのです。
共感表明としての謝罪とは何か
顧客対応では、事実関係が分からない段階でも謝罪が必要になることがあります。
たとえば顧客から、
「商品が届かなくて困っている」
「何度も電話したのにつながらなかった」
「説明が分かりにくくて不安になった」
と言われたとします。
この段階では、なぜ商品が届いていないのか、会社側に責任があるのかは分かりません。
それでも、
「ご不便をおかけして申し訳ございません」
「ご心配をおかけして申し訳ございません」
と伝えることはできます。
これは会社側の法的な責任を認めることを目的とした謝罪ではありません。
顧客が困ったり、不安になったり、不快な思いをしたりしていることについて、その感情を受け止めるための謝罪です。
参考資料では、こうした謝罪を共感表明謝罪として整理し、ご不安、ご不便、ご心配、ご迷惑をかけたことへの謝罪を例示しています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
カスハラの初動対応では、このような感情への寄り添いが重要になります。
責任を認める謝罪とは何か
これに対して、会社側の責任が確認された後に行うのが責任承認謝罪です。
たとえば会社側の手続きミスによって顧客に商品が届かなかったことが確認されたとします。
この場合には、
何が原因だったのか。
会社側にどのような問題があったのか。
今後どのように対応するのか。
を説明したうえで、会社側の責任について謝罪することになります。
参考資料では責任承認謝罪について、企業側の責任を認める謝罪として整理し、会社側の原因を示した謝罪や、再発防止策を講じて対応するといった例を示しています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
つまり、
気持ちへの謝罪
と
責任についての謝罪
は分けて考える必要があります。
ここを区別しないと、まだ原因が分からない段階で会社側が全面的に責任を認めたように受け取られる可能性があります。
事実確認前に非を認めない
カスハラの初動対応では、まず顧客の話を聞き、その後に事実関係を確認します。
重要なのは、
顧客が強く怒っていること
と
会社側に責任があること
を同じものとして考えないことです。
顧客が非常に怒っていたとしても、調べてみれば会社側には問題がなかったという場合があります。
反対に、顧客が冷静に話していても、会社側に重大なミスがある場合もあります。
感情の強さと責任の大きさは必ずしも一致しません。
参考資料でも、責任が曖昧なまま過度に謝罪を繰り返すと、顧客から非を認めたと受け取られ、要求が強まる場合があると説明されています。そのため、顧客へのお詫びは行いつつ、事実確認前に責任を認める発言は避けることが示されています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
まず感情には寄り添う。
そして事実は別に確認する。
この二つを分けることが大切です。
謝罪と要求を受け入れることも違う
もう一つ混同しやすいのが、
謝罪すること
と
顧客の要求を受け入れること
です。
たとえば顧客がサービスについて不快な思いをしたのであれば、その気持ちについて謝罪することはできます。
しかし、その顧客が、
「迷惑をかけたのだから利用料金を半年間無料にしろ」
と要求したとします。
不快な思いをさせたことへの謝罪と、半年間無料にするという要求を受け入れるかどうかは別問題です。
会社として謝罪すべきことは謝罪する。
そのうえで、顧客の要求については妥当性を判断する。
この切り分けが必要です。
参考資料のカスハラNG対応一覧でも、必要以上に謝罪し続けると「押せば通る」と誤認される場合があるため、謝罪と要求受諾を分けて対応することが望ましいとされています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
謝ったから要求を受け入れなければならないという関係ではないのです。
なぜ謝罪を繰り返してしまうのか
現場の担当者が必要以上に謝罪してしまうのには理由があります。
多くの場合、
顧客を怒らせたくない
早く話を終わらせたい
クレームを大きくしたくない
上司に迷惑をかけたくない
という心理が働きます。
その場を収めるためには、謝り続けることが一番安全なように感じることがあります。
しかし、これが逆効果になる場合があります。
何度要求しても謝罪してもらえる。
強く言えばさらに対応してもらえる。
担当者に言い続ければ要求が通るかもしれない。
このように受け取られると、要求が次第に大きくなる可能性があります。
参考資料でも、早く収めたい、顧客を怒らせたくない、クレームを大きくしたくないという思いから、無意識のうちに状況を悪化させる対応を取ることがあると指摘しています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
謝罪は多ければ多いほどよいわけではありません。
過剰な要求には線を引く
顧客の気持ちに寄り添った後でも、過剰な要求が続く場合があります。
たとえば参考資料では、ホテルの常連客が規定外のサービスを繰り返し要求するケースが紹介されています。
一度例外対応を経験すると期待が高まりやすいため、会社としてのルールを伝え、例外対応を安易に行わないことが対応ポイントとされています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
これは謝罪についても同じです。
顧客の不満については受け止める。
必要な謝罪も行う。
しかし、会社としてできないことについては、
「これ以上の対応はいたしかねます」
と線を引かなければならない場面があります。
毅然とした対応とは、最初から冷たい態度を取ることではありません。
必要な説明や謝罪をしたうえで、対応できる範囲を明確にすることです。
担当者によって謝罪の範囲を変えない
カスハラ対応を難しくする原因の一つが、担当者によって対応が違うことです。
ある担当者は謝罪だけをする。
別の担当者は特別なサービスを認める。
さらに別の担当者は要求を全面的に拒否する。
このような状態になると、顧客から、
「前の担当者はやってくれた」
「人によって言うことが違う」
と言われる原因になります。
参考資料でも、毎回対応が変わることは顧客の不満を招くため、組織として対応方針を統一することが望ましいとされています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
そのため会社は、
どこまでは担当者が謝罪できるのか。
どの段階から責任者へ引き継ぐのか。
返金や金銭補償は誰が判断するのか。
といった対応範囲を決めておく必要があります。
個々の担当者の判断だけに任せないことが重要なのです。
謝罪しないことがカスハラ対策ではない
カスハラ対策が強化されると、
顧客には簡単に謝らないほうがよい
と考えてしまう可能性があります。
しかし、それも極端です。
企業側に問題があれば、当然、適切に謝罪する必要があります。
会社側の説明不足によって顧客が不安になっているのであれば、その感情に配慮することも重要です。
カスハラ対策とは、顧客への謝罪をやめることではありません。
何について謝罪しているのかを明確にすることです。
感情への配慮なのか。
会社側の責任を認める謝罪なのか。
そして顧客の要求を受け入れるのか。
この三つを分けて考えることで、正当なクレームには誠実に対応しながら、過剰な要求には組織として線を引けるようになります。
結論
カスハラ対応で謝罪しすぎてはいけない理由は、謝罪そのものが悪いからではありません。
問題なのは、何について謝罪しているのか分からないまま、責任が曖昧な状態で謝罪を繰り返すことです。
顧客が不安や不快な思いをしているのであれば、その感情について謝罪することはできます。
一方で、会社側の責任を認める謝罪は、事実関係を確認したうえで行う必要があります。
さらに、謝罪することと顧客の要求を受け入れることも別です。
気持ちには寄り添う。
事実を確認する。
責任があれば適切に謝罪する。
対応できない要求には線を引く。
この区別ができれば、謝罪は顧客に押し切られるための言葉ではなく、正当なクレームには誠実に対応しながら従業員を守るための重要なコミュニケーションになります。
カスハラ対応で必要なのは、謝らないことではなく、何について、どこまで謝るのかを会社として整理しておくことなのです。
参考
企業実務 2026年8月25日 その場で迷わない 現場で使う カスハラ対応マニュアル