店頭や電話で顧客から強い口調で苦情を言われると、対応する従業員は「これはカスハラではないか」と感じることがあります。
しかし、顧客が怒っていることだけを理由にカスタマーハラスメントと判断することはできません。
企業の商品やサービスに問題があれば、顧客が不満を伝えたり改善を求めたりすること自体は正当な行為だからです。
一方で、要求内容に理由があったとしても、暴言や脅迫、人格否定、長時間の拘束など、要求する方法が社会通念上許容できないものであれば、カスハラになる可能性があります。
参考資料でも、カスハラを判断するときには、要求内容に妥当性があるか、要求の手段や態様が社会通念上相当か、従業員の就業環境が害されていないかという視点で考えることが示されています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
では、通常のクレームとカスハラはどこで分かれるのでしょうか。
正当なクレームとは何か
クレームという言葉には悪い印象がありますが、クレームそのものが問題行為というわけではありません。
購入した商品が壊れていた。
注文した商品と違うものが届いた。
店員の説明が間違っていた。
サービスを申し込んだのに約束どおり提供されなかった。
こうした場合に、顧客が企業へ説明や改善を求めることは当然です。
むしろ企業にとってクレームは、商品やサービスの問題を知るきっかけにもなります。
参考資料でも、顧客からの苦情や要望への対応は、顧客満足度や商品、サービスの向上のために欠かせないものと整理されています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
そのため、顧客が少し強い口調になったというだけで、直ちにカスハラとして対応を打ち切るべきではありません。
まず確認すべきなのは、顧客が何に不満を持ち、何を求めているのかです。
企業側に原因があるのであれば、事実を確認したうえで説明や謝罪、交換、返金など必要な対応を検討することになります。
要求内容に妥当性があるかを見る
カスハラを判断するときの最初のポイントが、要求内容そのものに妥当性があるかどうかです。
たとえば企業側にミスがあり、そのミスを直してほしいと求めるのであれば、要求には一定の妥当性があります。
一方で、企業側に落ち度がないにもかかわらず高額な金銭を要求したり、商品やサービスと関係のない要求をしたりする場合には、要求自体に妥当性がない可能性があります。
参考資料では、企業の商品やサービスに瑕疵や過失が認められない場合や、要求内容が商品やサービスと関係していない場合などが、要求内容の妥当性を欠く例として挙げられています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
たとえば飲食店で料理の提供が遅れた場合に、提供が遅れた理由について説明を求めることは通常のクレームでしょう。
しかし、そのことを理由として店員個人に高額な金銭を要求するとなれば話は変わってきます。
つまり、
何を要求しているのか
という内容を見る必要があります。
ただし、要求内容に妥当性があるからといって、必ず通常のクレームになるわけではありません。
もう一つ重要なのが要求方法です。
要求方法が社会通念上相当かを見る
顧客の要求自体が正当でも、それを実現するための方法が許容できない場合があります。
たとえば商品の不具合について交換を求めること自体には合理性があるとします。
しかし、その要求を通すために、
店員を長時間拘束する。
大声で怒鳴り続ける。
人格を否定する。
土下座を要求する。
机を叩いて威圧する。
従業員個人をインターネットで晒すと脅す。
といった行為を行えば、要求方法そのものが問題になります。
参考資料でも、暴行や傷害、脅迫、侮辱、名誉毀損、継続的で執拗な言動、居座り、従業員個人への攻撃などが、社会通念上不相当となる可能性の高い言動として整理されています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
ここがクレームとカスハラを考えるうえで非常に重要なポイントです。
企業にミスがあったことと、顧客が何をしても許されることは別問題だからです。
たとえば会社側に明らかなミスがあったとしても、その担当者の人格を否定してよい理由にはなりません。
会社にはミスについて説明し、必要な対応を取る責任があります。
しかし同時に、従業員を過剰な攻撃から守る責任もあります。
強い口調だけでは判断できない
現場では、顧客が声を荒らげた瞬間にカスハラだと感じることもあるでしょう。
しかし、強い口調であるという一つの要素だけでは判断できません。
参考資料では、顧客の怒りの背景には不安、焦り、落胆、悲しみなどの一次感情が存在する場合があると説明されています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
たとえば、
説明をきちんとしてもらえなかった。
自分だけ不利益を受けたのではないか。
予定に間に合わなくなってしまう。
といった不安が強くなり、その結果として怒りが表面に出ている場合があります。
こうした場合には、状況を説明したり事実関係を確認したりすることで、話し合いができる状態に戻る可能性があります。
一方で、説明をしても要求を繰り返し、相手を威圧して自分の思いどおりに動かそうとする場合には、カスハラへ発展している可能性が高くなります。
重要なのは、声の大きさではなく、要求の目的や内容、実際の言動を総合的に見ることです。
従業員の就業環境への影響を見る
もう一つ重要なのが、従業員の就業環境への影響です。
顧客の言動によって従業員が強い精神的苦痛を受け、本来の仕事を続けることが難しくなっているのであれば、会社として対応する必要があります。
たとえば一人の顧客に長時間対応し続ければ、担当者の精神的負担が大きくなるだけではありません。
その間、本来対応すべき他の顧客へのサービスにも影響します。
さらに暴言や人格否定が繰り返されれば、従業員が出勤すること自体に不安を感じるようになる可能性もあります。
参考資料では、カスハラ対応が長期化すると、従業員のメンタル不調や離職、職場環境の悪化につながるケースがあるとしています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
つまり、カスハラは単なる顧客と担当者の問題ではありません。
従業員が安全に働ける環境を会社が確保するという問題でもあるのです。
正当な要求でもカスハラになる場合がある
ここで注意したいのが、
要求に理由があるならカスハラではない
というわけではないことです。
たとえば企業側のミスによって顧客に損害が生じたとします。
顧客が説明や補償を求めること自体は正当です。
しかし、その要求を通すために担当者を何時間も拘束したり、人格を否定したり、土下座を要求したりするのであれば、要求方法については別に判断する必要があります。
参考資料でも、要求内容が正当であったとしても、従業員の就業環境が害された場合にはカスハラに該当する可能性があると説明されています。 f7677165-0d9c-4e1d-aaeb-4363016…
逆に、顧客の要求に企業側が応じられないからといって、すぐにカスハラになるわけでもありません。
顧客が落ち着いて説明を求めているのであれば、通常のクレームとして丁寧に対応する必要があります。
企業側に都合の悪い要求をカスハラと呼ぶ制度ではないのです。
現場だけで判断しないことが大切
クレームとカスハラの境界線には、どうしてもグレーゾーンがあります。
同じ言葉であっても、言われた状況や回数、時間、態様によって受け止め方は変わります。
そのため、
担当者がカスハラだと思ったからカスハラ
管理職が大丈夫だと思ったから対応を続ける
という仕組みでは、判断にばらつきが生まれます。
会社として、
要求内容に妥当性があるか。
要求方法は社会通念上相当か。
従業員の就業環境が害されているか。
という共通した判断基準を持つことが重要です。
正当なクレームには誠実に対応する。
一方で、暴言や威圧などが続けば、担当者一人に対応させず組織対応へ切り替える。
この両方を実現することがカスハラ対策になります。
結論
カスハラと通常のクレームの最大の違いは、顧客が怒っているかどうかではありません。
要求内容に妥当性があるのか、要求方法が社会通念上相当なのか、そして従業員の就業環境が害されているのかを総合的に判断する必要があります。
商品やサービスに問題があれば、顧客が厳しい意見を伝えることはあります。
企業はその声を単純にカスハラとして排除するのではなく、まず事実を確認しなければなりません。
一方で、企業側に一定の責任があったとしても、暴言や脅迫、人格否定、長時間拘束まで受け入れる必要はありません。
顧客の正当な権利を尊重することと、従業員を守ることは両立できます。
そのために必要なのが、怒っているかどうかではなく、要求内容、要求方法、就業環境への影響という共通の基準で判断する仕組みなのです。
参考
企業実務 2026年8月25日 その場で迷わない 現場で使う カスハラ対応マニュアル