キャッシュレス決済で黒字倒産は起きるのか 売上があるのに現金がなくなる仕組み編

経営

会社が倒産すると聞くと、売上が減って赤字が続き、お金がなくなった会社を想像するかもしれません。

しかし、会社は利益が出ていても倒産することがあります。

いわゆる黒字倒産です。

特にキャッシュレス決済が普及すると、商品やサービスを販売した時点と、実際に売上代金が入金される時点に時間差が生じます。

帳簿上では売上や利益が計上されていても、銀行口座にはまだお金が入っていないという状態が起こるのです。

今回の参考記事では、決済サービス会社の破産によって、サービスを利用していた加盟店の中に最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出たとされています。

キャッシュレス時代には、利益だけでなく現金の動きを管理することが、これまで以上に重要になります。

黒字倒産とは何か

黒字倒産とは、一般的には利益が出ているにもかかわらず、必要な支払いに充てる現金を確保できなくなり、事業を継続できなくなる状態をいいます。

会社経営では、利益が出ていることと、現金を持っていることは同じではありません。

たとえば100万円の商品やサービスを販売したとします。

そのためにかかった費用が80万円なら、単純化すれば20万円の利益が出ています。

ところが100万円の売上代金をまだ回収していなければ、手元に100万円があるわけではありません。

その間に仕入代金や給与などの支払日が来れば、別の現金を用意する必要があります。

つまり会社が存続するためには、利益だけでなく支払日に必要な現金を持っていることが重要なのです。

利益と現金は違う

黒字倒産を理解するためには、利益と現金を分けて考える必要があります。

利益は、一定期間の売上から費用を差し引いて計算します。

一方、現金は実際に会社へ入ってきたお金と、会社から出ていったお金によって増減します。

この二つは必ずしも同じタイミングでは動きません。

飲食店で考えてみます。

顧客に料理を提供すれば、その日の売上になります。

しかし、その顧客がクレジットカードで支払った場合、店舗がその場で現金を受け取るわけではありません。

一方、料理を作るための食材はすでに仕入れています。

従業員への給与や店舗の家賃なども支払わなければなりません。

このため売上や利益が増えていても、それ以上に現金の回収が遅れれば、資金繰りが苦しくなることがあります。

カード売上には入金待ちの期間がある

現金商売であれば、商品やサービスを販売したときに代金も受け取ります。

そのため売上と現金の動きは比較的分かりやすくなります。

ところがクレジットカード決済では違います。

顧客がカードで支払った時点では店舗に売上が発生しますが、売上代金は決済に関係する事業者を経由して後から店舗へ入金されます。

つまり店舗には入金待ちの売上が存在します。

この時間差があるため、キャッシュレス決済の割合が高くなるほど、売上高と手元の現金残高を別々に管理する必要があります。

今回の参考記事で取り上げられた全東信は、飲食店を中心とするクレジットカード加盟店に対して、カード会社に先行して売上代金を入金するサービスを提供していました。

このようなサービスが利用される背景にも、カード売上が発生してから実際に資金を利用できるまでの時間差があります。

売上が増えても資金繰りが楽になるとは限らない

売上が増えれば会社の経営状態はよくなるように思えます。

しかし、売上が増えるほど資金繰りが苦しくなる場合もあります。

たとえば飲食店の売上が月500万円から1000万円に増えたとします。

売上が増えれば、通常は食材の仕入れも増えます。

従業員を増やしたり、勤務時間を増やしたりすることで人件費が増えることもあります。

ところが増加した売上の多くがキャッシュレス決済で、売上代金の入金が後になると、先に支払わなければならない費用だけが増えることがあります。

売上が増えているのに手元資金が減っていくという現象が起こり得るわけです。

そのため会社経営では、売上を増やすことと同時に、その売上代金をいつ回収できるのかを見る必要があります。

入金停止が資金ショートにつながる

通常の入金サイクルを前提に資金繰りを組んでいても、その入金が突然止まれば状況は一変します。

今回の参考記事では、全東信の破産によって、サービスを利用していた加盟店の中に最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出たとされています。

さらにカード決済が利用できなくなることで客離れを招き、資金繰りに支障を来す事業者が多数出てくる可能性も指摘されています。

ここで重要なのは、加盟店の商品やサービスが売れなかったわけではないということです。

顧客はすでにカードで支払っています。

店舗も商品やサービスを提供しています。

それでも予定していた現金が入ってこなければ、仕入先への支払いや給与、家賃などに充てる資金が不足する可能性があります。

支払日に必要なお金を用意できなくなる状態が資金ショートです。

1カ月分の入金停止が大きな問題になる理由

仮に月商1000万円の飲食店について考えてみます。

そのうち800万円がキャッシュレス決済だったとします。

通常であれば、この800万円が予定された入金サイクルに従って入ってくることを前提に、店舗は資金繰りを考えます。

ところが何らかの事情によって、この入金が予定通り行われなかったとします。

店舗には売上が1000万円あります。

帳簿上で利益が出ている可能性もあります。

しかし、銀行口座へ入る予定だった800万円が入らなければ、仕入代金や給与、家賃などを支払えなくなる可能性があります。

小規模事業者の場合、何カ月分もの支払いに対応できる現預金を常に持っているとは限りません。

わずかな入金の遅れが資金繰りを大きく悪化させることがあります。

自社が黒字でも取引先の問題で資金繰りは悪化する

黒字倒産について考えるときには、自社の業績だけを見ていてはいけません。

自社の売上や利益が順調でも、売上代金の回収に関係する取引先に問題が発生すれば、資金繰りが悪化する可能性があります。

キャッシュレス決済では、カード会社や決済代行会社など複数の事業者が決済に関係する場合があります。

今回の参考記事では、全東信は競争激化による手数料率の引下げなどから収益率が低下しました。

さらに新型コロナウイルス感染症の影響などによって大幅な赤字が続き、その後は信用問題から資金調達にも支障を来し、2026年7月に自己破産に追い込まれました。

そして、その影響がサービスを利用していた加盟店の資金繰りにも波及したのです。

キャッシュレス化によって、自社の資金繰りが決済事業者の信用力にも左右される場合があることを示す事例といえます。

黒字倒産を防ぐには現金を見る

会社経営では、損益計算書の売上や利益を見ることは重要です。

しかし、それだけでは会社が安全かどうかは分かりません。

銀行口座にいくら現金があるのか。

今後いくら入金されるのか。

その入金はいつなのか。

その前にいくら支払わなければならないのか。

こうした現金の流れを確認する必要があります。

特にキャッシュレス決済の割合が高い店舗では、売上高が増えていることだけで安心するのではなく、未入金となっている売上代金と入金予定日を把握することが重要です。

利益は会社の収益力を見る重要な数字ですが、支払日に使えるのは利益という数字ではなく現金だからです。

結論

キャッシュレス決済でも黒字倒産につながる資金繰り問題は起こり得ます。

その理由は、売上や利益が発生するタイミングと、実際に現金を受け取るタイミングが異なるからです。

現金決済なら売上と代金回収は基本的に同時ですが、カード決済では売上代金が後から入金されます。

その間にも仕入代金、人件費、家賃などの支払いは発生します。

さらに決済事業者の破産などによって予定していた入金が止まれば、売上や利益が十分にあっても支払日に必要な現金を用意できなくなる可能性があります。

会社を存続させるために必要なのは、利益を出すことだけではありません。

必要な日に必要な現金を確保することです。

キャッシュレス化が進むほど、売上高や利益だけでなく、売上代金がいつ現金になるのかという資金繰りを見ることが重要になります。

参考

企業実務 2026年9月 キャッシュレス時代の盲点 懸念される小規模飲食店の連鎖倒産

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