正社員の待遇を下げて格差をなくしてもよいのか 非正規社員の待遇改善が原則とされる理由編

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正社員と非正規社員の間に不合理な待遇差があることが分かった場合、会社はその差を解消する必要があります。

そこで考えられる方法は、大きく二つあります。

非正規社員の待遇を引き上げる方法。

そして、正社員の待遇を引き下げる方法です。

たとえば正社員には月2万円の手当を支給し、契約社員には支給していなかったとします。

この待遇差をなくすだけなら、

契約社員にも月2万円を支給する

という方法だけでなく、

正社員への月2万円の支給をやめる

という方法でも、形式上は差がなくなります。

では、会社は正社員の待遇を引き下げることで同一労働同一賃金に対応してもよいのでしょうか。

2026年改正のガイドラインでは、この問題について、正社員の待遇を引き下げることによって待遇差を解消することは基本的に望ましい対応ではなく、非正規社員の待遇を改善する方向が示されています。

ただし、正社員の待遇引下げが法律上絶対に禁止されているという意味でもありません。

ここでは、ガイドライン上の望ましい対応と、労働条件を変更する場合の法律上の問題を分けて考える必要があります。

待遇差を解消する二つの方法

正社員と非正規社員に待遇差がある場合、その差をなくす方法を数字で考えてみます。

正社員の手当が月2万円。

非正規社員の手当が0円。

この場合、2万円の待遇差があります。

非正規社員の手当を2万円にすれば、

正社員2万円

非正規社員2万円

となり、待遇差はなくなります。

一方、正社員の手当を廃止すれば、

正社員0円

非正規社員0円

となり、やはり待遇差はなくなります。

数学的にはどちらも同じです。

しかし同一労働同一賃金の制度趣旨から見ると、この二つの方法は同じように評価されるわけではありません。

非正規社員の待遇改善が基本になる

同一労働同一賃金は、正社員と非正規社員との間にある不合理な待遇差を解消するための仕組みです。

そのためガイドラインでは、待遇差を解消する際に、正社員の待遇を引き下げることで対応することは基本的に望ましくないという考え方が示されています。

参考資料でも、正社員と非正規社員との待遇差を解消するに当たり、通常の労働者の待遇を引き下げることは基本的に望ましい対応ではなく、非正規社員の待遇改善によって対応する方向が説明されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…

つまり、

高いほうを低いほうに合わせる

のではなく、

低いほうを改善する

という方向です。

なぜ正社員の待遇引下げが望ましくないのか

正社員の待遇を下げれば、確かに正社員と非正規社員との差そのものはなくなるかもしれません。

しかし、それでは非正規社員の待遇は何も改善されません。

たとえば正社員だけが利用できた制度について、

非正規社員にも利用を認める

のではなく、

正社員も利用できなくする

という対応を続ければ、形式上の待遇差は減っても、従業員全体の待遇水準は下がっていきます。

同一労働同一賃金への対応を、

社員全体の待遇を下げるための仕組み

として使うことは、制度が目指す方向とは異なります。

そのため、まず考えるべきなのは非正規社員側の待遇改善です。

正社員の待遇を絶対に下げられないわけではない

ここで注意したいのは、

ガイドライン上、基本的に望ましくない

ということと、

法律上、絶対に禁止されている

ということは違うという点です。

参考資料でも、この違いが重要なポイントとして説明されています。

裁判例などを踏まえると、正社員の待遇を引き下げることによる格差是正が法律上あらゆる場合に禁止されているわけではありません。

ただし、会社が自由に正社員の労働条件を引き下げられるという意味でもありません。

別の法律上の問題が生じるからです。

それが就業規則の不利益変更です。

就業規則の不利益変更とは何か

会社の賃金や手当、休暇などの労働条件は、就業規則で定められていることがあります。

会社がその就業規則を変更し、従業員にとって労働条件を不利にすることを不利益変更といいます。

たとえば、

これまで月2万円だった手当を廃止する

退職金制度を不利な内容に変更する

休暇の日数を減らす

といった変更です。

正社員の待遇を下げて非正規社員との格差をなくそうとすると、この不利益変更の問題が生じる可能性があります。

会社が、

同一労働同一賃金に対応するためだから

と言えば、自由に労働条件を下げられるわけではありません。

不利益変更には別のルールがある

就業規則によって労働条件を不利益に変更する場合には、その変更が法律上認められるかを別途検討する必要があります。

参考資料では、ガイドラインが正社員の待遇引下げによる解消を基本的に望ましくないとしている一方、裁判例では、就業規則の不利益変更に関する要件を満たす場合などには、正社員側の待遇を変更することが直ちに否定されるわけではないという趣旨が説明されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…

ここで重要なのは、

同一労働同一賃金の問題

と、

労働条件の不利益変更の問題

を混同しないことです。

待遇差を解消する必要があることと、そのために正社員の労働条件を自由に下げられることは別問題なのです。

ガイドラインと裁判所の判断は同じとは限らない

前の記事で取り上げたように、同一労働同一賃金ガイドラインは法律そのものではありません。

ガイドラインでは、

このような対応が望ましい

という方向性が示されることがあります。

しかし裁判所では、実際に行われた労働条件の変更について、法律に基づいて判断します。

参考資料でも、ガイドライン上の望ましい対応と、裁判所による法律上の評価が必ずしも同じではないことが指摘されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…

企業は、

ガイドラインでは望ましくない

という問題と、

法律上認められない

という問題を区別して理解する必要があります。

まず待遇差が本当に不合理なのかを確認する

そもそも、正社員と非正規社員に待遇差があるからといって、すべての差をなくす必要があるわけではありません。

同一労働同一賃金が禁止しているのは、不合理な待遇差です。

正社員と非正規社員の仕事内容や責任、配置変更の範囲などに違いがあり、その違いと待遇の性質や目的との関係から合理的に説明できる待遇差もあります。

したがって企業は、

待遇差を発見した

すぐに正社員の待遇を下げる

という対応をするべきではありません。

まず、その待遇差が不合理なのかを確認します。

参考資料でも、正社員と非正規社員の待遇差を洗い出した後、改正ガイドラインや裁判例を踏まえて不合理性を検討するという手順が示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…

不合理なら待遇差を解消する

検討した結果、待遇差の不合理性を解消できない場合には、待遇差そのものを解消することが必要になります。

参考資料でも、不合理性を払拭できない待遇差については、その差を解消することが実務対応として示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…

そのとき基本となるのが、非正規社員の待遇を改善する方法です。

たとえば、

非正規社員にも手当を支給する

利用できなかった福利厚生施設を利用できるようにする

一定の休暇を認める

といった方法が考えられます。

これなら待遇差を解消すると同時に、非正規社員の待遇改善にもつながります。

正社員の待遇引下げは別の問題を生む

正社員の待遇を引き下げる方法には、もう一つ注意点があります。

同一労働同一賃金の問題を解決するために、別の労務問題を発生させる可能性があることです。

たとえば長年支給してきた手当を突然廃止すれば、正社員にとって実質的な賃下げになります。

社員の納得を得られない可能性もあります。

そのため、単に、

格差をなくせばよい

という視点だけで制度を変更することは危険です。

賃金制度全体への影響を確認する必要があります。

賃金制度全体を見直す方法もある

待遇差の問題が複数の手当や制度に及んでいる場合には、一つ一つの待遇を修正するだけでは十分でない場合があります。

その場合には、人材活用や賃金制度そのものを見直すことも考えられます。

参考資料でも、2026年改正を契機として、職群、責任、職務や配置変更の範囲などを含め、自社の人材活用や賃金制度全体を再検討することが挙げられています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…

たとえば正社員と非正規社員が実際にはほぼ同じ仕事をしているのに、昔からの雇用区分だけを理由に待遇が大きく違っているのであれば、個々の手当だけを修正するよりも雇用区分や賃金制度を見直したほうがよい場合があります。

長期勤務者なら正社員転換も考えられる

さらに、長期間勤務している非正規社員については、正社員への転換も選択肢になります。

参考資料でも、長期間雇用され、正社員と同じような業務を担当している非正規社員について、正社員への転換を検討することが対応策として挙げられています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…

正社員と同じ仕事を長期間担当しているにもかかわらず、雇用区分だけが違うため多数の待遇差が生じているのであれば、一つ一つの待遇差を修正し続けるより、雇用区分そのものを見直す方法もあります。

同一労働同一賃金への対応は、単なる手当の調整だけではないのです。

2026年改正を待遇引下げの理由にしない

企業が特に注意したいのは、

2026年に同一労働同一賃金のガイドラインが改正されたので、正社員の待遇を下げます

という単純な対応です。

ガイドラインが示している基本的な方向は、非正規社員の待遇改善です。

正社員の待遇を下げれば形式的に差がなくなるからといって、それが当然に望ましい対応になるわけではありません。

また、正社員の労働条件を変更するのであれば、不利益変更など別の法的問題も検討する必要があります。

企業に求められるのは、

最も安く待遇差をなくす方法

を探すことではありません。

なぜ待遇差が生じているのかを確認し、人事制度全体として適切な解決方法を考えることなのです。

結論

正社員と非正規社員との不合理な待遇差をなくす方法には、非正規社員の待遇を引き上げる方法と、正社員の待遇を引き下げる方法があります。

しかし、2026年改正のガイドラインが基本的に想定しているのは、非正規社員の待遇を改善する方向です。

正社員の待遇を引き下げて差をなくすことは、基本的に望ましい対応とはされていません。

一方で、

正社員の待遇引下げは法律上絶対にできない

という意味でもありません。

実際に正社員の労働条件を引き下げるのであれば、就業規則の不利益変更など、別の法律上のルールを検討する必要があります。

したがって企業が行うべきなのは、

待遇差があるから高いほうを下げる

という機械的な対応ではありません。

まず待遇差が本当に不合理なのかを確認する。

不合理であれば、その差を解消する。

そして原則として非正規社員の待遇改善を中心に考えながら、必要であれば人材活用や賃金制度全体まで見直す。

同一労働同一賃金は、社員全体の待遇を低い水準へそろえるための制度ではありません。

待遇差がなぜ存在するのかを問い直し、不合理な差があるなら、より適切な人事制度へ修正していくための仕組みなのです。

参考

企業実務 2026年9月号 同一労働同一賃金改正対応の総点検

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