正社員には家族手当が支給されているのに、契約社員やパート社員には支給されない。
このような会社は珍しくありません。
家族手当は長年、正社員向けの福利厚生的な賃金として設けられてきたケースが多いためです。
しかし、同一労働同一賃金では、
非正規社員だから家族手当は支給しない
というだけでは、待遇差を十分に説明できない場合があります。
特に重要になるのが、その非正規社員について長期間の継続勤務が見込まれているかどうかです。
有期雇用社員であっても契約更新を繰り返し、長く働くことが予定されているのであれば、正社員だけに家族手当を支給する合理性が問題になることがあります。
2026年の同一労働同一賃金ガイドライン改正では、家族手当が新たに具体的な待遇として追加されています。
家族手当とは何か
家族手当とは、配偶者や子どもなどの扶養家族がいる従業員に対して、会社が給与に上乗せして支給する手当です。
扶養手当と呼ばれることもあります。
基本給とは異なり、通常は担当している仕事の難しさや成果そのものに対して支給されるものではありません。
同じ仕事をしている社員でも、扶養家族がいる人には支給され、いない人には支給されないという制度が一般的です。
つまり家族手当では、
どのような仕事をしているか
よりも、
扶養家族がいるか
という事情が支給条件になっていることがあります。
ここが、正社員と非正規社員の待遇差を考えるうえで重要になります。
家族手当の目的とは何か
家族手当の目的は会社の制度によって異なります。
一般的には、扶養家族を持つ従業員の生活費負担を軽減するという性質が考えられます。
さらに、従業員の生活を安定させることで、会社に長く勤務してもらうという目的を持つ場合もあります。
この後者の目的が、継続雇用確保目的です。
会社としては、経験を積んだ従業員が長く勤務してくれれば、新しい人材を採用して一から教育する負担を減らすことができます。
そこで家族を持つ従業員の生活を支え、長期間勤務してもらうために家族手当を設けるという考え方です。
問題は、この目的が正社員だけに当てはまるとは限らないことです。
扶養家族がいることは雇用形態と関係ない
正社員にも扶養家族がいる人がいます。
契約社員やパート社員にも扶養家族がいる人がいます。
家族を扶養することによる生活上の負担は、雇用形態によってなくなるものではありません。
そのため家族手当の目的が純粋な生活費補助であれば、
正社員には生活費の負担があるが、非正規社員にはない
という説明はできません。
もちろん、だからといってすべての会社が非正規社員にも家族手当を支給しなければならないという意味ではありません。
重要なのは、その会社の家族手当が何を目的としているかです。
同一労働同一賃金では、手当の名称だけでなく、待遇の性質と目的を確認して判断します。
継続勤務との関係
家族手当の待遇差で特に重要になるのが、継続勤務です。
有期雇用社員と聞くと、
一定期間だけ働く社員
という印象があります。
しかし実際には、1年契約を何度も更新して長期間働いている人もいます。
形式的には有期雇用でも、実態として相応に長期間の勤務が見込まれている場合があるわけです。
家族手当に、
従業員の生活を支援し、長く働いてもらう
という目的があるのであれば、同じように長期勤務が見込まれる有期雇用社員についてもその目的は当てはまります。
そのため、
有期雇用だから家族手当を支給しない
という形式だけで待遇差を説明することが難しくなる場合があります。
日本郵便事件では何が問題になったのか
家族手当と同一労働同一賃金を考えるうえで重要なのが、日本郵便事件です。
参考資料では、正社員と非正規社員の待遇差に関する最高裁判例を踏まえ、家族手当についての考え方が取り上げられています。
ポイントとなるのが、相応に継続的な勤務が見込まれているかどうかです。
家族手当が、扶養親族がいる従業員の生活を支援し、その継続的な雇用を確保する目的を持つのであれば、その目的は長期勤務が見込まれる非正規社員にも当てはまり得ます。
参考資料でも、契約更新を繰り返すなど相応に継続的な勤務が見込まれる非正規社員については、家族手当などを正社員と同様に扱う考え方が示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
つまり、
正社員か有期雇用社員か
という形式だけでなく、
実際にどの程度継続して働くことが見込まれているのか
を見る必要があるわけです。
仕事内容が違っても問題になる理由
ここで疑問が生じます。
正社員と非正規社員の仕事内容が違えば、家族手当にも差をつけてよいのではないかという疑問です。
たとえば正社員は管理業務を担当し、全国転勤もあります。
一方、契約社員は定型業務だけを担当し、勤務地も限定されているとします。
両者の働き方には明らかな違いがあります。
基本給や役職手当であれば、その違いが待遇差の重要な理由になるでしょう。
しかし家族手当は、仕事の難易度や責任に対して支給されるとは限りません。
扶養家族を持つことによる生活負担を軽減し、継続勤務を促すことが目的なら、仕事内容の違いだけで待遇差を説明できるとは限らないのです。
仕事側と待遇側を分けて考える
これは同一労働同一賃金を理解するうえで非常に重要な考え方です。
待遇差を判断するときには、
正社員と非正規社員の仕事にどのような違いがあるか
という仕事側の事情だけではなく、
その待遇が何のために存在しているのか
という待遇側の事情も確認します。
参考資料でも、業務内容や責任、配置変更の範囲などと、個々の待遇の性質や目的を踏まえて判断する必要があることが説明されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
そのため、
正社員の仕事のほうが大変だから、すべての待遇を正社員だけに与える
という考え方にはなりません。
待遇ごとに理由を考える必要があります。
正社員人材確保目的との違い
家族手当では、正社員人材確保目的との違いも重要です。
賞与や退職金などについては、会社が将来の中核人材となる正社員を採用し、育成し、定着させる目的が考慮される場合があります。
正社員について広い配置転換があり、管理職への登用や長期的な育成が予定されているのであれば、その人材活用の違いが待遇差を考える事情になります。
一方、家族手当について継続雇用確保目的がある場合には、
正社員として重要な人材を確保する
ということよりも、
従業員に長く勤務してもらう
ことが問題になります。
参考資料でも、正社員人材確保目的と継続雇用確保目的は区別して整理されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
非正規社員であっても長期間勤務することが見込まれるなら、継続雇用確保という目的は当てはまり得るのです。
すべての非正規社員に支給するという意味ではない
ここで注意したいのは、
非正規社員にも必ず家族手当を支給しなければならない
という単純なルールではないことです。
たとえば非常に短期間だけ雇用する社員と、長期間の継続勤務を前提とする正社員では事情が異なる場合があります。
また、会社によって家族手当の制度設計や目的も異なります。
したがって、
家族手当だから必ず同じ
家族手当だから違っていてもよい
というどちらか一方の答えがあるわけではありません。
会社ごとに制度の性質や目的を確認し、正社員と非正規社員の実際の働き方と照らして判断する必要があります。
2026年改正で家族手当が明記された
2026年の同一労働同一賃金ガイドライン改正では、家族手当が新たな待遇項目として追加されています。
参考資料では、改正ガイドラインで記載が新設または充実された待遇として、退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇などが挙げられています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
これは企業にとって重要な変更です。
これまで、
基本給や賞与は確認したが、家族手当までは詳しく検討していない
という会社もあるかもしれません。
しかし今後は、家族手当についても正社員と非正規社員の待遇差を確認し、その理由を説明できるようにしておく必要性が一段と高まります。
家族手当の目的を企業自身が確認する
企業が最初に行うべきなのは、自社の家族手当が何のために存在しているのかを確認することです。
就業規則には、
扶養家族がいる正社員に月額いくら支給する
という支給条件だけが書かれていて、制度の目的までは明記されていないこともあります。
しかし待遇差を説明するためには、
なぜ扶養家族がいる人に支給するのか
なぜ正社員だけを対象にしているのか
なぜ長期勤務する有期雇用社員を対象外にするのか
まで整理する必要があります。
参考資料でも、2026年改正への実務対応として、それぞれの待遇について性質や目的を再検討し、曖昧な場合には目的を明確化することの重要性が指摘されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
長年続いてきた制度だからというだけでは、待遇差の理由にはならないのです。
結論
家族手当について、非正規社員にも必ず支給しなければならないという一律のルールがあるわけではありません。
重要なのは、その会社の家族手当が何を目的としているかです。
扶養家族を持つ従業員の生活を支援し、長期間働いてもらうことを目的とするのであれば、契約更新を繰り返して相応に継続的な勤務が見込まれる非正規社員についても、その目的が当てはまる可能性があります。
この場合、
正社員ではないから
というだけで家族手当を支給しないことには問題が生じることがあります。
また、正社員と非正規社員で仕事内容や責任が違っていたとしても、それだけで家族手当の待遇差まで合理的になるとは限りません。
家族手当は、仕事の難しさではなく、生活支援や継続雇用を目的としている場合があるからです。
同一労働同一賃金で重要なのは、待遇の名称でも雇用形態でもありません。
その待遇が何のために存在しているのかを確認し、その目的に照らして待遇差を説明できるかどうかです。
家族手当は、長く働く非正規社員が増えているからこそ、企業が改めて支給目的を確認する必要がある待遇なのです。
参考
企業実務 2026年9月号 同一労働同一賃金改正対応の総点検