同一労働同一賃金という言葉を聞くと、正社員とパート社員や有期雇用社員が同じ会社で働いているなら、給与や手当もすべて同じにしなければならないと考えるかもしれません。
しかし、同一労働同一賃金は、正社員と非正規社員の待遇を完全に同じにする制度ではありません。
重要なのは、待遇に違いがあることそのものではなく、その違いに合理的な理由があるかどうかです。
職務内容や責任、配置変更の範囲などが違えば、待遇が違うことが認められる場合があります。一方で、仕事に違いがあったとしても、その待遇の目的によっては正社員だけを優遇することが不合理と判断される場合もあります。
2026年の同一労働同一賃金ガイドライン改正では、これまでの裁判例を踏まえ、賞与や退職手当だけでなく、家族手当、住宅手当、病気休職、夏季冬季休暇などについても考え方が追加、充実されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
では、不合理な待遇差とは何なのでしょうか。
不合理な待遇差とは何か
正社員と非正規社員の待遇が違っているからといって、その待遇差が直ちに違法になるわけではありません。
問題になるのは、その待遇差が不合理なものかどうかです。
判断するときには、主に業務の内容、業務に伴う責任の程度、職務内容や配置変更の範囲、その他の事情などが考慮されます。
たとえば、正社員は全国転勤があり、管理職への登用も予定されている一方、パート社員は勤務地や職務が限定されているとします。
この場合、両者の働き方や会社から期待される役割には違いがあります。
その違いを反映して、一定の待遇差が生じること自体はあり得ます。
ただし、
正社員だから高くする
非正規社員だから支給しない
という雇用区分だけで待遇差を説明できるわけではありません。
なぜその待遇が存在するのか、その目的と働き方の違いが対応しているかまで確認する必要があります。
均等待遇とは何か
同一労働同一賃金を理解するときに重要になるのが、均等待遇と均衡待遇という二つの考え方です。
均等待遇とは、正社員と非正規社員の間で、職務内容や職務内容と配置変更の範囲などに違いがない場合には、待遇について差別的な取扱いをしてはいけないという考え方です。
簡単にいえば、
働き方も責任も人材活用の範囲も同じなら、雇用形態だけを理由に待遇を変えてはいけない
ということです。
たとえば正社員と有期雇用社員が同じ仕事を行い、責任も同程度で、将来の配置転換の範囲まで同じであるとします。
そのような場合に、
正社員には支給するが、有期雇用社員には支給しない
という待遇を設ければ、その理由が厳しく問われることになります。
均衡待遇とは何か
一方、均衡待遇は、正社員と非正規社員の仕事や責任などに違いがある場合に使われる考え方です。
働き方に違いがある以上、待遇まで完全に同じにする必要はありません。
ただし、その違いに応じたバランスの取れた待遇にする必要があります。
たとえば正社員が管理業務まで担当し、パート社員が定型業務だけを担当している場合には、基本給に一定の差が生じることには理由があります。
しかし、仕事の違いが小さいにもかかわらず、給与が極端に違うのであれば、その待遇差が合理的なのか改めて検討する必要があります。
つまり均衡待遇では、
待遇差があるか
ではなく、
働き方の違いと待遇差の大きさが釣り合っているか
を見ることになります。
待遇は一項目ずつ判断する
同一労働同一賃金で特に重要なのが、待遇差をまとめて判断しないことです。
正社員の年収が500万円で非正規社員の年収が300万円だから、200万円の差全体について合理性を判断するというものではありません。
基本給、賞与、退職金、住宅手当、家族手当、通勤手当、休暇、福利厚生など、それぞれについて判断します。
資料でも、待遇差の不合理性は基本的に待遇ごとに個別に判断することが原則とされています。もっとも、ある賃金項目の有無や内容が他の賃金項目との関係で決められている場合には、それらも考慮されます。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
たとえば、正社員の基本給が高いことに合理的な理由があるとしても、それだけで住宅手当や家族手当まで正社員だけに支給してよいことにはなりません。
それぞれの待遇について、
何のための待遇なのか
誰を対象にする制度なのか
正社員と非正規社員で扱いを変える理由があるのか
を確認する必要があります。
仕事が違っても問題になる待遇がある
ここが同一労働同一賃金で誤解されやすいところです。
正社員と非正規社員の仕事内容が違えば、すべての待遇差が認められるわけではありません。
待遇の中には、仕事との結び付きが強いものと弱いものがあります。
基本給や役職手当などは、職務内容や責任との関係が比較的強い待遇です。
そのため仕事や責任が大きく違えば、待遇差を説明しやすくなります。
一方、福利厚生や休暇、家族手当などについては、仕事内容とは直接関係しない場合があります。
資料でも、正社員と非正規社員で業務内容や責任に違いがあったとしても、福利厚生的な待遇については、それだけですべての待遇差が問題ないとはいえないことが指摘されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
たとえば、食堂や休憩室を利用できるかどうかは、仕事の責任が重いか軽いかとはあまり関係ありません。
同じ職場で働いているにもかかわらず、正社員だけ休憩室を利用できるという制度には、合理的な説明が難しい場合があります。
家族手当や休暇では雇用の継続性が重要になる
家族手当や病気休職、休暇などについては、長期間働くことが見込まれているかどうかも重要になります。
有期雇用であっても契約更新を何度も繰り返し、実質的に長期間勤務している社員は少なくありません。
そのような社員について、
非正規社員だから
という理由だけで家族手当や休暇制度から除外すると、その待遇差が不合理と判断される可能性があります。
2026年改正のガイドラインでも、契約更新を繰り返すなど相応に継続的な勤務が見込まれる非正規社員について、家族手当や病気休職などを正社員と同様に扱う考え方が示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
つまり、契約書上は有期雇用であっても、実際の働き方や雇用の継続性まで見なければならないということです。
同じ名称の手当でも結論が変わる
さらに難しいのは、同じ名前の手当であっても、会社によって結論が変わる可能性があることです。
代表的なのが住宅手当です。
ある会社では、転居を伴う配置転換がある正社員の住宅負担を補助するために住宅手当を支給しているかもしれません。
その場合、転勤のない非正規社員に住宅手当を支給しないことには一定の理由があります。
一方、別の会社では住宅手当が単純に従業員の生活費を補助する目的で支給されているかもしれません。
この場合、非正規社員も同じように住宅費を負担しているのであれば、正社員だけに支給する合理性は弱くなります。
つまり、
住宅手当だからこうなる
という一律の答えはありません。
その会社において住宅手当が何のために支給されているのかによって判断が変わります。
待遇の名前ではなく目的を見る
同一労働同一賃金を考えるうえでは、待遇の名称だけを見るのでは不十分です。
賞与という名前でも、会社によって目的は違います。
毎月の労働に対する賃金の後払いとしての性質が強い場合もあれば、会社業績への貢献に対する報奨としての性質が強い場合もあります。
退職金についても、賃金の後払い、功労報償、長期勤務へのインセンティブなど、複数の性質があります。
そのため裁判でも、
これは賞与だから
これは退職金だから
と名称だけで判断するのではなく、その会社で実際にどのような目的で制度が設けられているのかが確認されます。
待遇差の判断では、仕事側の事情だけではなく、待遇そのものの性質と目的も合わせて見る必要があります。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
会社には待遇差を説明できることが求められる
企業にとって重要なのは、待遇差をなくすことだけではありません。
なぜその差があるのかを説明できる状態にしておくことです。
たとえば、
昔から正社員だけに払っている
正社員のほうが重要だから
正社員は長く働くから
といった抽象的な説明だけでは十分とは限りません。
それぞれの待遇について目的を明確にし、職務内容や責任、配置転換の範囲、雇用の継続性などと対応しているかを確認する必要があります。
2026年改正を踏まえた企業の実務対応としても、正社員と非正規社員の待遇差を確認し、その不合理性を検証するとともに、待遇差の内容や理由を説明できる資料を作成することが重要とされています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
同一労働同一賃金への対応とは、単純に給与表を比較する作業ではありません。
それぞれの待遇について、会社が何のために設けている制度なのかを言葉にできるようにする作業でもあるのです。
結論
同一労働同一賃金では、正社員と非正規社員の待遇が違うこと自体が禁止されているわけではありません。
仕事の内容、責任の程度、配置変更の範囲などに違いがあれば、その違いに応じた待遇差が認められる場合があります。
これが均衡待遇という考え方です。
一方、働き方や責任、人材活用の範囲まで同じであれば、雇用形態だけを理由に差別的な待遇を設けることは認められません。
これが均等待遇という考え方です。
さらに重要なのは、待遇差は基本給から手当、休暇、福利厚生まで一項目ずつ判断するという点です。
仕事が違っていても、家族手当や休暇、福利厚生のように仕事内容との関係が弱い待遇では、正社員だけを優遇する合理性が認められない場合があります。
したがって企業に求められるのは、正社員と非正規社員の待遇をすべて同じにすることではありません。
それぞれの待遇について、
なぜこの制度があるのか
なぜ待遇に差があるのか
を客観的に説明できるようにしておくことです。
同一労働同一賃金で問われているのは、待遇差の有無だけではなく、その待遇差に合理的な理由があるかどうかなのです。
参考
企業実務 2026年9月号 同一労働同一賃金改正対応の総点検