同一労働同一賃金への対応は、すでに終わった話だと思っている企業も少なくないかもしれません。
2018年に同一労働同一賃金ガイドラインが策定され、その後、大企業、中小企業へと順次制度が適用されてきました。そのため、一度は正社員とパート社員や有期雇用社員の待遇差を確認した企業も多いでしょう。
ところが2026年10月から、同一労働同一賃金に関連する制度が改正されます。
今回の改正では、雇い入れ時の労働条件明示事項が追加されるほか、同一労働同一賃金ガイドラインや雇用管理指針も改正されます。すでに対応した企業であっても、改めて待遇差や説明資料などを点検する必要があります。
では、2026年10月から何が変わるのでしょうか。
労働条件通知書に新しい説明が加わる
今回の改正でまず重要なのが、パート社員や有期雇用社員を雇い入れるときの労働条件明示です。
これまでも、パート社員や有期雇用社員は、正社員との待遇差について会社に説明を求めることができました。
しかし、制度として説明を求めることができても、労働者自身がその権利を知らなければ利用されません。
そこで2026年10月からは、労働条件を明示するときに、正社員との待遇差の内容や理由について説明を求めることができる旨を明示することになります。
厚生労働省が示す労働条件通知書の様式例にも、この内容が追加されています。
つまり企業側から見ると、単に制度が存在しているだけではなく、従業員にその制度を知らせる段階へ進むわけです。
この変更によって、今後は非正規社員から待遇差について説明を求められる機会が増える可能性があります。
ガイドラインに新しい待遇が追加される
もう一つ大きな変更が、同一労働同一賃金ガイドラインの改正です。
今回の改正では、これまでの裁判例などを踏まえ、対象となる待遇について記載の追加や充実が行われています。
たとえば、退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇、褒賞などです。
福利厚生施設や病気休職、休暇についても記載が充実しています。
ここで重要なのは、正社員と非正規社員で待遇が違えば、すべて違法になるわけではないということです。
待遇差が合理的か不合理かは、その待遇ごとに判断されます。
基本給、賞与、退職金、住宅手当、家族手当、休暇など、それぞれについて会社がなぜその待遇を設けているのかを確認する必要があります。
同じ仕事かどうかだけでは判断できない
同一労働同一賃金という言葉から、
同じ仕事なら同じ給料にしなければならない
と理解されることがあります。
しかし、実際の判断はそれほど単純ではありません。
待遇差の合理性を判断するときには、業務の内容だけではなく、責任の程度、職務内容や配置変更の範囲などが考慮されます。
さらに、その待遇そのものの性質や目的も重要です。
つまり、
仕事側の事情
と
待遇側の事情
の双方から判断する必要があります。資料でも、待遇差の不合理性は待遇ごとに個別に判断しつつ、仕事側と待遇側の事情を総合的に考慮する考え方が示されています。
たとえば住宅手当であれば、単に正社員と非正規社員の仕事が違うというだけでは十分ではありません。
住宅手当を何のために支給しているのかという制度の目的まで確認する必要があります。
正社員を確保するためという説明だけでは足りない
企業側が待遇差を説明するときによく使われる考え方の一つが、正社員人材確保目的です。
正社員には長期的に会社で働いてもらい、重要な仕事を担ってもらう必要があるため、賞与や退職金などを手厚くしているという考え方です。
裁判でも、このような目的が考慮される場合があります。
しかし、
正社員を確保するためです
と会社が説明すれば、それだけで待遇差が合理的になるわけではありません。
改正ガイドラインでも、正社員人材確保目的があるというだけで待遇差が当然に合理的になるものではなく、客観的かつ具体的な実態に照らして判断する考え方が示されています。
実際に正社員の責任が重いのか、配置転換の範囲が広いのか、採用や育成方法が違うのかなど、企業の人事制度の実態が問われます。
待遇差は一項目ずつ確認する
企業が今回の改正に対応するときの出発点は、正社員と非正規社員の待遇を一覧にすることです。
基本給だけを比較すればよいわけではありません。
賞与、退職金、通勤手当、住宅手当、家族手当、各種休暇、福利厚生など、すべての待遇について確認する必要があります。
そのうえで、
誰が対象なのか
いくら支給するのか
なぜ支給するのか
なぜ正社員と非正規社員で違うのか
を整理します。
待遇差が存在すること自体が直ちに問題なのではありません。
問題なのは、その違いについて合理的な説明ができるかどうかです。
説明できる資料を作っておく
2026年改正では、非正規社員が待遇差について説明を求めることができる旨を周知することになります。
そのため企業は、
質問されたら考える
という対応では不十分になっていくでしょう。
あらかじめ待遇差の内容と理由を整理した説明資料を作成しておくことが重要です。
資料では、改正後の実務対応として、正社員と非正規社員の待遇差を確認し、不合理性を検証したうえで、待遇差の内容や理由を説明できる資料を作成することが挙げられています。
説明資料を作る過程で、
この手当は何のためにあるのか
なぜ正社員だけに支給しているのか
という問いに答えられない制度が見つかることもあります。
それ自体が人事制度を見直すきっかけになります。
不合理な待遇差は解消する
点検した結果、待遇差を合理的に説明できない場合には、その差を解消する必要があります。
基本的には非正規社員側の待遇を改善することが考えられます。
ただし、待遇差の問題は単純に手当を追加すれば解決するとは限りません。
そもそも正社員と非正規社員をどのように活用するのか、職務や責任をどう分けるのか、配置転換の範囲をどうするのかといった人事制度そのものに原因がある場合もあります。
そのため今回の改正は、単なる労働条件通知書の修正ではありません。
人材活用の在り方や賃金制度全体を見直す機会にもなります。資料でも、待遇差の解消だけでなく、人材活用の在り方や賃金制度全体の見直しが重要だとされています。
同一労働同一賃金は説明できるかが重要になる
2026年10月の改正によって企業に求められるのは、単に正社員と非正規社員の給与を同じにすることではありません。
重要なのは、
なぜ違うのか
を説明できることです。
正社員と非正規社員で待遇が違っていても、その違いに合理的な理由があれば認められる可能性があります。
反対に、昔からそうしている、正社員だから高くしている、といった説明しかできなければ問題になる可能性があります。
今回の改正を機に、企業は給与だけでなく、賞与、退職金、手当、休暇、福利厚生まで含めて総点検する必要があります。
同一労働同一賃金への対応は、一度制度を作れば終わるものではありません。
裁判例やガイドラインの改正に合わせて、待遇の目的と人事制度の実態を定期的に確認していくことが重要なのです。
結論
2026年10月からの改正では、パート社員や有期雇用社員に対する労働条件明示が強化され、正社員との待遇差について説明を求めることができる旨を知らせることになります。
さらに同一労働同一賃金ガイドラインも改正され、退職手当、家族手当、住宅手当、休暇などについて記載が追加、充実されます。
企業にとって重要なのは、待遇差があるかどうかだけではありません。
その待遇が何のために存在し、なぜ正社員と非正規社員で違うのかを客観的に説明できる状態にしておくことです。
2026年改正は、労働条件通知書を変更するだけの改正ではありません。
自社の賃金制度や人材活用の考え方まで含めて、同一労働同一賃金への対応をもう一度総点検する機会と考える必要があります。
参考
企業実務 2026年9月号 同一労働同一賃金改正対応の総点検