地震や豪雨などによって土地や建物が大きな被害を受けた場合、一定の要件を満たせば固定資産の評価損を損金に算入できることがあります。
そこで重要になるのが時価です。
例えば帳簿価額1億円の土地について、災害後の時価が6,000万円まで下落したのであれば、一定の要件のもとで帳簿価額との差額について評価損を検討することになります。
しかし、そもそも法人税でいう時価とは何でしょうか。
固定資産税評価額や相続税路線価をそのまま使えばよいのでしょうか。
災害による評価損では、被害の存在だけでなく、災害後の固定資産の価値をどのように把握するかが重要になります。
法人税の時価には考え方が示されている
法人税基本通達では、固定資産について評価損を計上する場合の時価について考え方が示されています。
その固定資産が使用収益されるものとして、その時において譲渡される場合に通常付される価額です。
簡単にいえば、災害後の状態にあるその資産を通常の取引で売却するとしたら、どの程度の価格になるのかという考え方です。
会社が希望する売却価格ではありません。
帳簿に記録されている金額でもありません。
客観的な経済価値を把握する必要があります。
帳簿価額と時価はまったく別のもの
帳簿価額と時価は区別して考える必要があります。
例えば20年前に5,000万円で取得した土地があるとします。
その後、周辺地域の地価が上昇し、災害直前には1億円程度の価値になっていたかもしれません。
反対に、人口減少などによって3,000万円程度まで価値が下がっていることもあります。
帳簿価額は会計帳簿に記録されている金額です。
時価は現在の市場における価値です。
災害による評価損を考える場合には、この2つを混同しないことが重要です。
災害後の状態を前提に評価する
災害による評価損で重要なのは、災害後の資産の状態です。
例えば地震によって土地に大きな地割れが発生したとします。
災害前には工場用地として問題なく使用できましたが、災害後は地盤改良をしなければ安全に使用できなくなりました。
この場合、災害前の正常な土地としての価格をそのまま時価にすることはできません。
地割れや地盤沈下などの被害が存在する状態で売却するとすれば、どの程度の価値になるのかを考える必要があります。
被害の程度が時価に反映されるわけです。
土地では周辺の取引事例が参考になる
土地の時価を考える代表的な方法の一つが、周辺の実際の取引価格を参考にする方法です。
同じ地域で、面積、用途、立地条件などが似ている土地がどの程度の価格で売買されているかを確認します。
ただし、災害後の土地では単純な比較が難しくなります。
隣接する土地でも、片方はほとんど被害がなく、もう片方は液状化によって大きな地盤沈下が発生していることがあります。
通常時以上に個々の土地の状態を確認する必要があります。
大規模災害後は取引事例が少なくなることもある
大規模な災害の直後には、不動産取引そのものが止まることがあります。
買い手も売り手も今後の状況を見極めようとするためです。
そのため、災害後の取引事例を十分に集められないことがあります。
また、被災地域全体の価格が短期間で大きく変化している場合には、災害前の取引事例をそのまま利用することも難しくなります。
評価損を計上する場合には、限られた情報の中で客観的な時価を把握しなければならないことがあります。
不動産鑑定を利用することも考えられる
土地や建物の価値が大きく下落し、多額の評価損を計上する場合には、不動産鑑定など専門家による評価を利用することも考えられます。
例えば帳簿価額10億円の土地について数億円の評価損を計上するのであれば、時価の根拠は税務上も非常に重要になります。
なぜその金額になったのかを客観的に説明できる資料が必要です。
被害の程度、土地の利用可能性、復旧に必要な工事、周辺の不動産市場などを総合的に評価する必要があります。
固定資産税評価額と時価は同じではない
土地には固定資産税評価額があります。
そのため、災害後の時価も固定資産税評価額を使えばよいと考えるかもしれません。
しかし、固定資産税評価額と法人税における評価損の時価は同じ概念ではありません。
固定資産税評価額は、固定資産税を計算するための評価額です。
法人税の評価損で問題になるのは、その固定資産をその時点で譲渡するとした場合に通常付される価額です。
固定資産税評価額が参考資料になる場合はあっても、それだけで時価が決まるわけではありません。
相続税路線価とも区別する
土地については相続税路線価もあります。
路線価は相続税や贈与税の土地評価で利用されるものです。
これも法人税における固定資産の時価と同じものではありません。
特に災害によって個別の土地に地割れや地盤沈下などが発生した場合には、地域全体を基準として設定されている評価額だけでは、その土地固有の被害を十分に反映できないことがあります。
評価制度ごとに目的が異なることを理解しておく必要があります。
建物では被害の程度や利用可能性を見る
建物についても基本的な考え方は同じです。
例えば地震によって建物の一部が損傷したとしても、修理すれば従来と同じように利用できる場合があります。
一方、構造部分に重大な損傷が生じ、安全上の問題から使用できなくなるケースもあります。
同じ築年数、同じ取得価額の建物でも、被害の程度によって災害後の価値は大きく変わります。
建物の時価を考える場合には、損傷状況、残存する利用可能性、復旧の可能性などを確認する必要があります。
修理費と時価下落額は同じとは限らない
ここでも注意したいのが、修理費と時価下落額の違いです。
例えば災害によって建物の修理に3,000万円必要になったからといって、建物の時価が3,000万円下落したとは限りません。
修理費は、資産を復旧するために必要となる支出です。
時価下落額は、市場でその資産を取引した場合の価値の低下です。
両者には関連がありますが、同じ金額になるとは限りません。
災害による復旧費用の税務処理と固定資産の評価損は分けて考える必要があります。
評価した時点も重要になる
時価には、いつの時点で評価したのかという問題もあります。
災害直後と復旧工事後では、土地や建物の状態が異なります。
周辺地域の復旧が進めば、不動産市場の評価も変わる可能性があります。
評価損を計上する事業年度との関係を踏まえ、その時点における資産の状態と価値を確認する必要があります。
後になって取得した情報だけで当時の価値を判断するのではなく、その時点の状況を示す資料を残しておくことが重要です。
結論
法人税で固定資産の評価損を計上する場合の時価は、その固定資産が使用収益されるものとして、その時点で譲渡される場合に通常付される価額とされています。
災害による評価損では、災害後の損傷した状態を反映した時価を把握する必要があります。
帳簿価額、固定資産税評価額、相続税路線価と法人税上の時価は、それぞれ意味が異なります。
土地では周辺の取引事例、被害状況、利用可能性などを確認し、必要に応じて不動産鑑定などを利用することも考えられます。
また、復旧工事にかかった金額と時価の下落額も同じとは限りません。
災害時の評価損で重要なのは、単に資産が壊れたことを示すだけではなく、その被害によって資産の経済的価値がいくらになったのかを客観的に説明できるようにすることです。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 特集 災害発生 そのとき法人税務はどうなる? 災害に伴う支援と損失処理
法人税法 第33条
法人税法施行令 第68条
法人税基本通達 9-1-3