地震や豪雨などの災害によって会社が所有する土地や建物が被害を受けた場合、固定資産の評価損を計上できることがあります。
ただし、災害が発生したという事実だけで評価損が認められるわけではありません。
法人税では、災害による著しい損傷など一定の事実が生じ、さらにその事実によって固定資産の価額が帳簿価額を下回ったことが必要になります。
つまり重要なのは、災害と資産価値の下落との因果関係です。
被災したかどうかだけではなく、なぜその資産の価値が下がったのかまで確認する必要があります。
固定資産の評価損は原則として認められない
法人税では、固定資産について評価換えを行い、帳簿価額を減額しても、その減額部分は原則として損金の額に算入できません。
例えば帳簿価額1億円の土地について、現在の時価が8,000万円だからという理由だけで2,000万円の評価損を自由に計上することはできません。
土地や建物の価格は常に変動しています。
企業が任意の時点で含み損を損金にできれば、利益が多い年度に評価損を計上するなど、課税所得を調整できることになります。
そのため、法人税では固定資産の評価損を例外的な場合に限定しています。
災害による著しい損傷は例外の一つ
評価損が認められる可能性がある事実の一つが、災害による著しい損傷です。
例えば地震によって工場用地に大きな地割れが生じたり、液状化によって地盤が沈下したりした場合です。
豪雨によって崖崩れや土砂流入が発生するケースもあります。
こうした災害によって固定資産が著しく損傷し、その結果として時価が帳簿価額を下回れば、一定の要件のもとで評価損を損金算入できる可能性があります。
ここで重要なのが、その結果としてという部分です。
災害と価格下落を一本の線で結べるか
例えば帳簿価額1億円の土地があるとします。
地震によって液状化が発生し、災害後の時価が6,000万円になりました。
地震前には1億円程度の価値があり、液状化によって地盤改良が必要になったことなどから市場価値が4,000万円低下したのであれば、災害と価格下落との関係は比較的説明しやすいでしょう。
一方、災害前からその地域の土地価格が大きく下落し、すでに時価が6,000万円程度だった場合は事情が違います。
地震が起きたとしても、4,000万円の含み損が地震によって生じたとはいえません。
災害があったという事実と価格が下がっているという事実が同時に存在するだけでは不十分です。
両者の間に因果関係が必要になります。
一般的な地価下落は災害による評価損ではない
土地価格はさまざまな理由で下落します。
人口減少、地域経済の低迷、周辺の商業施設の撤退、不動産市況の悪化などです。
こうした一般的な市場要因によって土地価格が下落した部分について、災害による評価損として処理することはできません。
災害後に土地の時価が帳簿価額を下回っていたとしても、価格下落の原因を分けて考える必要があります。
災害前から存在していた含み損と、災害によって新たに発生した価値低下を混同しないことが重要です。
過去の裁決でも因果関係が問題になっている
この考え方は、災害だけに限られるものではありません。
法人税では、固定資産が1年以上にわたり遊休状態にある場合なども、一定の要件のもとで評価損を検討できます。
しかし、過去の裁決では、土地が1年以上遊休状態にあったという事実が認められたにもかかわらず、評価損が認められなかった事例があります。
土地の価額が帳簿価額を下回った原因が、遊休状態にあったことではなく、一般的な土地相場の下落だったためです。
評価損の対象となる事実が存在するだけでは足りず、その事実によって価額が下落したことが必要だという考え方が分かります。
災害前後の状態を比較することが重要になる
災害による評価損を検討するときには、災害後だけを見るのではなく、災害前との比較が重要です。
災害前にはどのような状態だったのか。
災害前の時価はどの程度だったのか。
災害によって何が変わったのか。
その変化によって利用価値や市場価値がどの程度低下したのか。
こうした流れを整理すると、災害と価格下落との因果関係を確認しやすくなります。
帳簿価額と時価だけを比べても十分ではない
例えば土地の帳簿価額が1億円、災害後の時価が7,000万円だったとします。
単純に差額を計算すれば3,000万円です。
しかし、この3,000万円がそのまま災害による評価損になるとは限りません。
災害直前の時価が8,000万円だったのであれば、すでに1,000万円の含み損が存在していたことになります。
さらに、災害後の価格下落のすべてが災害によるものなのか、それとも市場全体の価格変動も含まれているのかを確認する必要があります。
単純な帳簿価額と時価の差額だけでは、因果関係までは分からないわけです。
被害写真は因果関係を説明する重要な資料になる
災害直後の記録は非常に重要です。
地割れや液状化、地盤沈下、崖崩れ、土砂流入などが発生した場合には、可能な範囲で写真や動画を残します。
地盤調査を行ったのであれば、その調査結果も保存します。
自治体などが公表した被害情報、復旧工事の見積書や請求書なども重要です。
こうした資料によって、災害前には存在しなかった損傷が災害によって発生したことを説明しやすくなります。
時価についても客観的な根拠が必要になる
評価損を計上するためには、損傷の存在だけでなく、資産価値がどの程度低下したのかを把握する必要があります。
法人税基本通達では、評価損を計上する場合の固定資産の時価について、その資産が使用収益されるものとして、その時点で譲渡される場合に通常付される価額としています。
土地の場合には、周辺の取引事例などを確認する方法があります。
ただし、大規模災害後には取引事例が少なくなることもあります。
被害の程度が土地ごとに大きく異なる場合には、必要に応じて不動産鑑定などを利用することも考えられます。
税務で問われるのは損失の原因
災害後には企業に多額の損失が発生することがあります。
しかし、税務上重要なのは損失があるという結果だけではありません。
なぜその損失が発生したのかという原因です。
災害による損失なのか、通常の市場変動による含み損なのか、それ以前から存在していた問題なのかを整理する必要があります。
災害税務では、被害額を集計するだけでなく、損失が生じた原因を説明できるようにすることが重要になります。
結論
災害によって固定資産が被害を受けても、それだけで評価損を計上できるわけではありません。
法人税では、災害による著しい損傷など一定の事実があり、その事実によって固定資産の価額が帳簿価額を下回ったことが必要です。
つまり、評価損の中心となるのは災害と資産価値下落との因果関係です。
災害前から存在していた含み損や、一般的な土地相場の下落による価値低下まで災害による評価損として扱うことはできません。
そのため、災害前後の資産の状態、時価、被害内容を比較し、なぜ価値が下落したのかを客観的に説明できるようにすることが重要です。
災害時の評価損では、被災したという事実だけを見るのではなく、その災害が資産価値に何をもたらしたのかまで確認する必要があります。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 特集 災害発生 そのとき法人税務はどうなる? 災害に伴う支援と損失処理
法人税法 第33条
法人税法施行令 第68条
法人税基本通達 9-1-3
国税不服審判所 2003年1月28日裁決