金を採るなら、地下の金鉱山を掘るのが最も効率的だと思うかもしれません。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
使用済みの電子機器や電子基板、さらには一般ゴミの焼却灰などに含まれる金属は、条件によっては天然の金鉱石より高い濃度で金を含むことがあります。
日本製鉄系の新日本電工が一般ゴミの焼却灰から取り出した金属には、一般的な金鉱石の含有量の10倍程度に相当する金が含まれているとされています。
それなら天然の金鉱山を開発するより、都市鉱山から金を回収した方が効率的なのでしょうか。
この問題を考えるには、金の「品位」と「回収コスト」を分けて見る必要があります。
金品位とは何か
天然鉱山の価値を判断するときに重要なのが金品位です。
金品位は、鉱石の中にどれくらいの金が含まれているかを示します。
一般的には鉱石1トン当たり何グラムの金が含まれているかという形で表します。
例えば、金品位が1トン当たり5グラムなら、1トンの鉱石の中に平均して5グラムの金が含まれているという意味です。
金は非常に価値の高い金属なので、鉱石全体から見るとわずかな量でも採算が成立する場合があります。
だからこそ、鉱石1トン当たり数グラムという世界で採算性を考えることになります。
都市鉱山では人間が金を集めている
天然鉱山と都市鉱山には大きな違いがあります。
天然鉱床では、自然の地質活動によって金が集積しています。
一方、都市鉱山では、人間が製品を作る過程で金を特定の場所に使用しています。
電子機器の接点や端子などには、必要な機能を持たせるため金が使われています。
つまり電子基板などは、自然界から見れば人間が人工的に金を集積したものとも考えられます。
一つの製品に含まれる金は少量でも、大量の製品を集めれば高濃度の資源になる可能性があります。
焼却によってさらに濃縮されることがある
一般ゴミの焼却灰も興味深い例です。
家庭ゴミには紙やプラスチックなど多くの燃える物質が含まれています。
一方、ゴミに紛れ込んだ電子機器などに含まれる金属は、同じように燃えてなくなるわけではありません。
ゴミを焼却すると燃える成分の多くが失われ、灰の量は元のゴミより少なくなります。
その結果、金属成分が相対的に濃縮されます。
さらに処理工程で有価金属を集めれば、金の濃度を高めることができます。
天然鉱石とは違う方法で高品位の資源が生まれるわけです。
品位が10倍なら利益も10倍ではない
ここで注意したいことがあります。
仮に都市鉱山の材料に天然鉱石の10倍の濃度で金が含まれていても、利益が10倍になるとは限りません。
金品位は採算性を決める要素の一つにすぎないからです。
天然鉱山では、
採掘
運搬
破砕
選鉱
製錬
などに費用がかかります。
都市鉱山では、
使用済み製品の回収
分別
運搬
解体
破砕
金属の分離
製錬
などに費用がかかります。
どちらも最終的には、金1グラムを得るためにいくら必要なのかが重要です。
都市鉱山の弱点は資源が分散していること
天然鉱山には、資源が特定の地域に集中しているという特徴があります。
鉱山を開発すれば、一定期間にわたって同じ場所から鉱石を採掘できます。
一方、都市鉱山の資源は広く分散しています。
スマートフォンは家庭にあります。
パソコンは企業にも家庭にもあります。
小型家電も全国に存在します。
一つ一つに金が含まれていても、それを回収拠点まで集めなければ資源として利用できません。
都市鉱山では「掘る費用」が少ない代わりに「集める費用」が重要になります。
これは天然鉱山との大きな違いです。
天然鉱山は大量処理に強みがある
天然鉱山では、低品位の鉱石でも大量に処理することで大規模な金生産が可能になる場合があります。
鉱山設備を一度整備すれば、長期間にわたって大量の鉱石を継続的に採掘できます。
つまり、
低品位でも大量に処理できる天然鉱山
と
高品位でも原料回収が難しい都市鉱山
という違いが生まれることがあります。
資源の価値を品位だけで判断できない理由です。
回収率も重要になる
もう一つ忘れてはいけないのが回収率です。
仮に材料の中に100グラムの金が含まれていても、処理技術によって80グラムしか回収できなければ、残りの20グラムは利用できません。
金品位が高くても回収率が低ければ、経済性は悪化します。
反対に低品位でも、高い回収率で大量処理できれば採算が成立する可能性があります。
したがって資源価値を見る場合には、
金品位
原料量
回収率
処理コスト
金価格
を組み合わせて考える必要があります。
金以外の金属も採算を支える
都市鉱山には、金だけではなく銀や銅など複数の有価金属が含まれています。
これは事業性を考えるうえで重要です。
例えば金だけを回収すると赤字でも、同じ処理工程から銅や銀なども回収できれば、事業全体では採算が成立する可能性があります。
天然鉱山でも複数の金属を同時に生産することがあります。
都市鉱山でも「金が何グラム入っているか」だけでなく、原料全体からどれだけの価値を回収できるのかを見る必要があります。
金価格上昇で都市鉱山の価値も上がる
金価格が上昇すると、天然鉱山だけでなく都市鉱山の採算性も変わります。
廃電子機器に含まれる金の量そのものは変化しません。
しかし、回収した金を高い価格で販売できれば、回収コストを負担できる範囲が広がります。
これまで経済的に回収する意味が小さかった廃棄物でも、資源として利用できる可能性が出てきます。
さらに回収技術や製錬技術が進歩してコストが下がれば、その範囲はさらに広がります。
都市鉱山でも、価格と技術が資源の境界線を動かしているのです。
天然鉱山と都市鉱山は補完関係にある
では、将来は都市鉱山が天然鉱山を不要にするのでしょうか。
そう単純ではありません。
社会全体で金属需要が増え続ける場合、リサイクルだけですべてを賄うことは難しくなります。
製品として使用されている間は回収できない資源もあります。
回収時にすべての金属を100%取り戻せるわけでもありません。
そのため、
天然鉱山から新しい資源を供給する
都市鉱山から使用済み資源を回収する
という両方の仕組みが必要になります。
都市鉱山と天然鉱山は競争相手というより、資源供給を支える補完関係にあります。
結論
都市鉱山には、天然の金鉱石より高い濃度で金が含まれる材料があります。
新日本電工が一般ゴミの焼却灰から取り出した金属には、一般的な金鉱石の含有量の10倍程度に相当する金が含まれているとされています。
しかし、品位が高いからといって都市鉱山の方が必ず有利とは限りません。
都市鉱山では、全国に分散した使用済み製品を集め、分別し、処理しなければならないからです。
天然鉱山では採掘コストが重要になり、都市鉱山では回収コストが重要になります。
最終的に見るべきなのは「どちらの品位が高いか」だけではありません。
金1グラムをどれだけ効率的に回収できるのかです。
金品位、回収率、処理量、コスト、金価格まで含めて初めて、本当の資源価値が見えてきます。
「黄金の国ジパング」の再興を考えるなら、地下に眠る金だけでなく、すでに都市の中に蓄積されている金も一つの鉱床として見る必要があるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月21日 朝刊 「黄金の国ジパング」再興へ