金価格が上昇すると、金を保有している人の資産価値が上がります。
しかし、金鉱山の世界ではもう一つ興味深いことが起こります。
金価格の上昇によって、経済的に採掘できる金の量が増える可能性があるのです。
地下に突然、新しい金が生まれるわけではありません。
それでも、これまで採算が合わなかった鉱石が採掘対象に変わることで、経済的に利用できる金の範囲が広がります。
この仕組みを理解するには、「地下に存在する金」と「採算を取って採れる金」を分けて考える必要があります。
地下にある金がすべて資源になるわけではない
地下にはさまざまな場所に金が存在しています。
しかし、金が存在するだけでは鉱山にはなりません。
極端な例を考えてみます。
地下深くに1トンの金が存在していたとしても、それを取り出すために金1トンの価値を上回る費用が必要なら、事業として採掘する意味はありません。
反対に金の量が少なくても、地表に近く、金品位が高く、低コストで採掘できれば有望な鉱山になる可能性があります。
つまり重要なのは、
どれだけ金があるか
だけではなく、
いくらで金を取り出せるか
ということです。
資源量と埋蔵量は同じではない
鉱山を理解するときに重要になるのが、資源量と埋蔵量という考え方です。
大まかにいえば、資源量は地質調査などによって地下に存在すると推定される鉱物資源を示します。
一方、埋蔵量は、その中から採掘技術や経済性などを考慮して、実際に採掘できると判断される部分です。
したがって、
地下に存在する金
経済的に利用できる金
には差があります。
地下に存在する金の量そのものが変わらなくても、経済条件が変化すれば、利用できる金の量は変わる可能性があります。
採算ラインという考え方
金鉱山では、どの程度の金品位まで採掘対象にするかという判断が重要になります。
例えば、ある鉱山で鉱石1トンを採掘して処理するために一定の費用が必要だとします。
鉱石1トンから回収できる金の価値が、その費用を下回るのであれば採掘するほど損失が増えてしまいます。
そこで一定以上の金品位を持つ鉱石を採掘対象とします。
この境界となる考え方が採算ラインです。
専門的にはカットオフ品位という考え方があります。
一定の品位を上回れば鉱石として扱い、それを下回れば採掘対象から外すという判断に使われます。
金価格が上がると境界線が動く
ここで金価格が上昇した場合を考えてみます。
仮に金価格が1グラム8,000円のとき、鉱石1トンから2グラムの金を回収できれば、単純な金の価値は1万6,000円です。
同じ条件で金価格が1グラム2万円になれば、2グラムの金は4万円になります。
鉱石そのものは何も変わっていません。
含まれている金も同じ2グラムです。
それでも金価格が上昇したことで、その鉱石から得られる売上は大きくなります。
以前は採掘コストに見合わなかった低品位の鉱石でも、採算が取れる可能性が出てきます。
これが、金価格の上昇によって経済的に採れる金が増える基本的な仕組みです。
金価格が上がると埋蔵量が増えることがある
ここが金鉱山を見るうえで面白いところです。
金価格が上昇すると、これまで採掘対象外だった低品位の部分まで採掘対象に含められる場合があります。
すると地下に存在する金の総量が変わっていなくても、経済的に採掘可能と評価される範囲が広がります。
その結果、条件次第では埋蔵量として評価される金が増えることがあります。
反対に金価格が大幅に下落すれば、これまで採掘できると考えていた低品位鉱石が採算ラインを下回ることがあります。
この場合には、経済的に採掘可能な範囲が狭くなる可能性があります。
埋蔵量は地下に固定された数字ではなく、経済条件とも関係しているのです。
技術革新でも同じことが起きる
採算ラインを動かすのは金価格だけではありません。
採掘コストが下がった場合にも同じようなことが起こります。
例えば、鉱山DXによって採掘効率が上がったとします。
ドローンを使って鉱脈を正確に把握できれば、不要な岩石を掘る量を減らせる可能性があります。
採掘設備の自動化によって人件費を抑えられることも考えられます。
鉱石処理技術が進歩し、これまで回収できなかった金を効率的に回収できるようになることもあります。
すると同じ金価格でも採算ラインを引き下げられる可能性があります。
これまで価値がなかった鉱石が資源に変わるわけです。
円安も日本では重要になる
日本の金鉱山では為替も重要です。
国際的な金価格はドル建てで取引されます。
そのためドル建て金価格が変わらなくても、円安になれば円換算した金価格は上昇します。
一方、国内鉱山の人件費などの一部は円で発生します。
もちろんエネルギーや輸入設備など円安によってコストが上昇するものもあるため、単純に円安なら必ず利益が増えるわけではありません。
それでも日本の金資源を考えるときには、ドル建て金価格と為替の両方を見る必要があります。
日本で金探鉱が下火になった1990年代末ごろと比べると、現在の円ベースの金価格は10倍以上になったとされています。
過去と同じ鉱石でも、経済的な評価が大きく変わる理由です。
過去に見捨てられた鉱石が宝になることもある
この考え方は、新しい金鉱脈だけに当てはまるものではありません。
過去の鉱山では、当時の金価格や技術では採算が取れなかった低品位鉱石が採掘対象から外されていることがあります。
しかし金価格が大幅に上昇したり、回収技術が進歩したりすれば、そうした資源を改めて評価する意味が生まれます。
閉山した鉱山の周辺が再び探鉱対象になる理由の一つでもあります。
「昔採れなかった」ということと「現在も採れない」ということは同じではありません。
経済条件と技術条件が変化しているからです。
都市鉱山にも同じ考え方が当てはまる
この仕組みは天然鉱山だけではありません。
都市鉱山にも当てはまります。
使用済み家電や電子基板、焼却灰などに金が含まれていることは以前から知られています。
問題は、それを回収する費用です。
回収コストの方が金の価値より高ければ、資源として利用するのは難しくなります。
ところが金価格が上昇したり、回収技術が進歩したりすると採算ラインが変化します。
以前なら廃棄物だったものが、資源として利用できる可能性が出てきます。
天然鉱山と都市鉱山はまったく違うように見えますが、経済的な考え方には共通点があります。
金価格上昇が探鉱投資を呼び込む
金価格上昇には、もう一つの効果があります。
将来の収益性が高まると判断されれば、探鉱に資金を投入しやすくなります。
探鉱が増えれば、これまで知られていなかった鉱床が発見される可能性も高まります。
つまり金価格上昇には、
既存鉱山の採算改善
低品位鉱石の資源化
探鉱投資の増加
新しい鉱床の発見
という複数の経路があります。
価格上昇によって供給側の行動そのものが変わるのです。
結論
金の埋蔵量という数字を見ると、地下に存在する金の量をそのまま数えたもののように感じるかもしれません。
しかし、経済的に採掘できる金の範囲は、金価格や採掘コスト、技術などによって変化します。
金価格が上昇すれば、これまで採算が取れなかった低品位鉱石まで採掘対象になる可能性があります。
採掘技術や回収技術が進歩してコストが下がった場合も同じです。
つまり地下の金そのものが増えなくても、人間が「資源」として利用できる金は増える可能性があります。
金価格の上昇を考えるときは、投資家が保有する金の値上がりだけを見るのでは不十分です。
価格上昇は、鉱山会社がどこまで掘るのか、どこを探すのか、何を資源として扱うのかまで変えます。
「資源とは地下に存在するもの」ではなく、「技術と価格によって経済的に利用できるもの」と考えると、金価格高騰が日本の金探鉱を再び活発にしている理由も見えてきます。
参考
日本経済新聞 2026年9月21日 朝刊 「黄金の国ジパング」再興へ